エイリアンズ

深夜4:03
僕らは小さなベランダで二人体育座りをしながら
特に会話することもなく、口からため息のように吐き出した独り言にそれとない返答をしていた。
というのも、今の今まで喧嘩をしていたからだ。

「アイス、食べたいかも…」

気まずさを打破するためか、彼女はそれとなくつぶやき
ちらりとこちらを見た

いこっか

僕はまだ一口しか吸っていない煙草の火を消しその一瞥と期待に応えるように支度をする。



僕ら二人はコンビニまでの道をぽたぽたと歩く
彼女が少し先を、僕はぼんやりと惚けながら


「私たちは本当に月の裏を見れないのかな」

え?

「ほら、だってこんなに科学が進歩しているんだよ?
いつかそう遠くない未来、月の旅行とか普通になってさー、みんなが月の裏を見れるようになるんじゃないかなって」

たしかにね、君は月の裏を見たい?

「うーん、別にいいかも。知らないままでもいいことってあるし。」

やっぱりか

「 うん」

彼女の歩幅が何となく早くなった気がした

そんなに気まずくなってしまったのかな



僕たちはアイスをかじりながら、手をつなぐこともせず、ただただ歩いた


「みてみて、この車。かっこいい。海外の車だ。」
赤いスポーツカーを指さしながら彼女はからからと笑った


「ねぇねぇ、野良猫がいるよ。かわいいね」

「明日は何時に起きようか」

「映画も途中までしか見てないね」

彼女は僕が返答しないのも気にせず言葉を落とす

僕はまだ思案していたのだ。あのことを。

ねぇ、さっきのさ

「おうちついた~鍵貸して」

彼女は僕のことを無視した。
鍵をさっさと開けて僕のことなんか気にしないで一人でそそくさと部屋に入っていった

僕を待たないで閉まるドアに僕は意味もなくため息を出す
ドアを開け、部屋に戻ってもう一度話をしよう。
彼女もわかってくれるはずだ。

硝子戸をあけ彼女がベランダで呆然と立ち尽くしているのを目にする
彼女は僕が戻ってきたのを見ると小走りで駆け寄り両手をとり

「こっち、きて」
そういってくるくるとまわりだした

彼女は髪を振り乱し、笑いながら手をぶんぶんと降った。

「君が好きだよ。」

そうひとこと言って彼女は踊るのをやめた

ぼくもすきだよ

「だけどダメなんだね」

うん


彼女は泣いてしまった

日が昇る前に彼女は消えてしまった

跡形もなく


どうやら彼女は行ってしまったらしい

僕を置いて

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