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君との後夜祭 1579文字 #シロクマ文芸部

文化祭は、それなりに楽しんだ。
でも、この学校の伝統の後夜祭まで出る体力はもう残ってない。文化祭の間は、ほとんど動き回っていてもうキャンプファイヤーに参加出来る元気もなかった。

「…綺麗だな、炎…、」
私は窓際の席に座り、生徒や先生達が楽しそうにキャンプファイヤーをしている姿を眺めいた。

「あれ。キャンプファイヤー参加しないの?」
声をかけられた方を振り向くと、同じクラスの久住風雅(くすみ ふうが)が教室の出入り口に立っていた。

「もう、疲れちゃったから。ここで見学してるの」
「ふーん。仲町、そう言えば色々走り回ってたな。実行委員ってわけじゃないのにっ、」
「そうなの。皆、私に頼み事してくるの」私こと、仲町桜(なかまち さくら)はよく人にモノを頼まれる。何でかわからないけど。それが、ちょっと…、いや、大分面倒くさくもある。
そして私と、久住風雅は、クラスの間では密かにこう言われている。(大人な二人)と。何で私が大人なの?と思うが、反論もしない。流されるまま、受け入れることにした。
教室の出入り口にいた久住は、歩いて私の座っている窓際の席の一つ前の席に腰を降ろした。

「そういう久住は?オモテになる久住さんなら、キャンプファイヤーで一緒に踊ってくれませんか?って誘いが、引く手あまただったんじゃないの?」
「断ったよ、全部。俺も疲れたし、それに…、本当に誘って欲しかった人には、誘ってもらえなかったからなー」
少し意味深に、久住は言う。
「何それ、久住、好きな人居るんだー、へぇー初耳!」
私は久住の弱点を知ったような、そんな気分だった。

「今、目の前にいるんですけどね」

「…………………は?」

「だから、目の前にいるんですよねー。誘って欲しかった人が」
そういうと久住は私の座っている机の上に肘をついてきた。
「なに?もしかして、全然気付いてなかった?俺の好意。こう言っちゃなんだけど、俺、結構アピールしてたと思うんだけどなー。」

アピール?されてた……?私。
えっ、てか、久住、好き?えっ、私を?

「ははははっ!何かボーッとしてるけど、そんなに分かんなかったかー、俺、思ったよりアピールしてなかったんだなっ」

「だ、だ、だって、いつもと一緒だったじゃんっ!アピールなんて思わないっ!」
私は驚きと恥ずかしさで感情がユラユラ動いている。えっ、本当に?本当に久住、私が好きなの?

「もし、もし、仲町の中で、少しでも、気持ち、変わる可能性があるなら…、俺の事、そういう目で見てくれない?」
「……えっ?」
「意識、してくれない?」

確かに久住はかっこいい。それに性格も落ち着いてて、何処か寂しさも感じるけれど、何だが温かい雰囲気を纏っている。周りの女の子達からも人気で、引く手あまたの彼。そして、同性にも人気がある。そんな彼と私は自然と喋る様になり、交流が出来たものの、久住の目に、私が映ることは正直、ないと思っていた。だから、そんな気持ちになりそうな自分の心に、静かに、そして、強く、鍵をしてきたのだ。
そんな久住からのまさかの告白。
驚かないわけがない。アピールをしてたと久住はいうけれど、全くアピールにはなっていない。だって、周りの女の子達と同じ様に接してるようにしか見えなかった。


「い、意識は………、してる。」
「えっ!マジっ!本当っ!」
「だ.け.ど!まだ待って、待ってて!」
「………うん。待つよ。」
真っ赤になってるであろう私の頬を、久住が優しく、ふんわり触る。

「やっと振り向いてもらえるかもしれないんだから、いくらだって待つよ」
「………じ、時間かかるよ、きっと……」
「あはは、良いよ。その間だって、俺、アピールするから!」

「もう、やめて!恥ずしいからっ!」

キャンプファイヤーの火が日暮れの校庭を照らしている。
真っ赤に燃える炎の色は、私と久住の顔も、赤く照らしている。

綺麗に、優しく、赤く綺麗な花の様に。

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