新夜 3

両親が眠った午後十一時頃、昨日と同じ様にチャットに入る。
朧さん以外は来ていた。
「こんばんは」と書けば文字と言葉でこんばんはと返ってきた。
「あ、名前変えたんだね」
浅さんがすぐに気付いた。
ニックネームを匿名から月野夜未《つきのよみ》に変えた。
なんとなく思いついて変えたけど結構気に入ってる。
「改めて、月野夜未です。よろしくお願いします」
よろしくと返ってきた。
「朧さんはどうされたんですか?」
と聞くと、浅さんが「今日から暫くいないよ。たまに一、二週間来れなくなることがあるんだ」と答えてくれた。
それからまた、なんでもない雑談が始まった。

「Atarayo」では気楽にいられた。
いつも気を張っていた自分が嘘みたいだった。
いろんな話をした。
挨拶をすれば返ってきた。
質問をすれば答えてくれた。
楽しかった。
人と話すのって、こんなに楽しかったんだ。
あんなに不安だった夜が、苦しかった夜が、楽しくなった。
同じ不安を、同じ苦しさを分かち合える人がいるって、こんなに幸せだったんだ。
長い夜の苦しさも、不安も、消えなくても和らげてくれる。
昼間よりずっと楽しい。
昼間は不安も苦しさもなくて楽なはずなのに、なんでだろう。
薬みたいだな。
毒があるから、楽になれる手段がある。
……やめておこう。
これ以上考えない方がいい気がする。

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