俗説

題名を思いつかなかったやつ
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「性別違和の正体は前世の性別である。魂の性別と身体の性別が一致しないことから起こってしまう障害である」
そんな俗説が広まって、非難の目は同情の目に変わった。

「れーくん、次あれ食べよ」
「さっきお腹いっぱいって言ってなかった?」「デザートは別だもん。一緒に食べよ」
「……先に他のところ行かない?」
「いいよ。でも絶対後で来ようね」
俺は男になりたかっただけで、彼女が欲しいわけではなかった。
でも、あきだけは俺のことを理解してくれた。
だから、付き合った。
「ねえどっちがいいかな。どっちも可愛すぎない?」
ピンクと黄色のシュシュと赤いリボンのついた髪ゴムで悩んでる。
「リボンの方がいいんじゃない?これ長めに垂らしたらさ、ほら、可愛くない?」
「ちょー可愛い。こっちにしよ。買ってくるね」
あきは女装が好きだ。
女でも男でもない。
あきに性別はない。
でも、可愛いものが好きらしい。
そして自分が美人なことに自覚があって自信も持ってる。
正直羨ましい。
「お待たせ。これで今日見るとこ見終わったよね?そろそろさっきのクレープ屋さん行こ」
「うん。行こっか」
キッチンカー周りに三時間ほど前にできていた行列はなくなっていた。
「いちごミニクレープ一つください。あ、チョコスプレートッピングお願いします。あと、チョコバナナミニクレープ一つお願いします」
「はい、いちごミニのチョコスプレーと、チョコバナナミニ一つずつね。六百円です。少々お待ちくださいね」
三百円ずつトレーに置いてすぐクレープを渡された。
「これいちごクレープね。お嬢ちゃん、落とさないようにね」
「ありがとうございます」
「はい、バナナクレープね。お兄ちゃん落とさないようにね」
「ありがとうございます」
「そっちのベンチで食べるといいよ。ゴミはそこにかけてる袋に入れてね」
「はい」
ベンチに座ってクレープを食べる。
「おいしい。れーくん食べる?あーん」
「あ」
交互にお互いのクレープを食べる。
「すぐ食べ終わっちゃったね。今度来るときはもう一つ大きいサイズ頼も」
ゴミを捨てて、あきの家に向かう。
「もうお母さんもお父さんも帰ってると思うよ」
「大丈夫かな」
「大丈夫だよ。二人とも僕に甘いから」
電車で三十分と徒歩十分くらいであきの家に着いた。
あきの両親が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。外もう冷えてきてたでしょ。れいくんもお風呂入っておいで」
「どうする?一緒に入る?」
「いや、それはちょっと」
「順番に入りなさい。二人一気に入ると狭いでしょう」
先に入らせてもらうことになって、その後あきが入った。
「れーくん、髪乾かして」
部屋で待っていたら髪が濡れたままドライヤーを持ってきた。
「一回してほしかったんだよね」
あきの長い髪を梳かしながら乾かす。
途中であきが笑う。
「ふふ、れーくん下手だね」
「人の髪乾かしたことないからね」
「じゃあ、僕が初めてなんだ」
楽しそうに笑う。
「あきはなんで髪伸ばしてるの?」
「可愛いでしょ?可愛い服着て可愛い髪型したら可愛いから伸ばしてるの」
「可愛いもの、大好きだよね」
「うん」
「じゃあなんで、俺が好きなの?俺、可愛くないよ?」
「……れーくんは、僕のこと素直に褒めてくれるから。家族以外、誰も僕を褒めてくれなかったけど、れーくんだけが、可愛いねって、褒めてくれたの。だから、れーくんの彼女になりたいって思ったの。彼女、ではないかな。コイビト。……僕は、僕のことが一番好きだった。誰にも好きになってもらえないから、僕のことが可哀想になって、無理矢理好きでい続けた。でも、れーくんだけが僕を、ほんとの僕を好きになってくれたの。だから僕はれーくんが好き。……れーくんは?僕の、こと、好き?」
「うん。大好きだよ。俺を、れいでいさせてくれてありがとう。玲美じゃない俺を好きになってくれてありがとう」
誰も認めてくれなかった。
可哀想ってだけで何もしてくれなかった。
魂の性別とか前世とか知ったことじゃない。
周りの人間の価値観とか知ったことじゃない。
そんなことを気にかけるより、もっと愛希と話したい。
あの時死んでなくてよかった。
「俺を生かしてくれてありがとう」
「……見つけてくれて、ありがとう」

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