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ウマドル「ファル子」とファン第1号に関する考察

ファル子の温泉イベントを見て気が狂ったあの日から一年が経ちました。いつか作品にしたいなぁと思いつつまとめられないままだったのと、最近ふと「正解」が降りてきたのでこれを機に考察長文を書きました。よろしくお願いします。


ウマドルとそのファンとしての出会い

"ウマドル"というアイドルの新定義を名乗り、それを世界に広めたい、そんな世界で輝きたいと願うウマ娘スマートファルコン。誰の拍手が無くても、誰も振り向かなくても歌って踊る姿を見て元気を貰ったトレーナー。アイドルとファンのような出会い方をしたふたりはタッグを組んで「ダート"で"トップウマドル」という夢を追いかけることになります。

ファル子は度々「私のファン第1号」とトレーナーを呼びます。それは彼女たちの出会いや、一番近くでステージを見ている役割など様々な理由があります。そして、「トレーナーは担当ウマ娘の最初のファンである」というのは他キャラの育成シナリオでも見ることができる表現です。

トレーナーはもちろんファル子のファンなのでしょう。しかし理想を目指してひた走る彼女を冷静に諭すシーン等を見ていると、ファンよりもトレーナーとしての姿勢が強く出ているように思えます。それは当たり前のことかもしれませんが、ことファル子のシナリオにおいては重要な意味を持っていました。

私は「ファン」とは推しに対して盲目的な側面をはらんでいるものと考えています。理想像を自分の中に作り出し、自分勝手に夢を見る。ファル子はそれにしっかりと目を向けて「ファンの中にいるファル子」を受け止めています。アイドルとは、ウマドルとはどんな風にあるべきかを真に理解しているからこそ、彼女は一切欠点のない(ように見える)存在へと成長することができたのです。

そしてファル子と同じくトレーナーも「ファン」というものを理解しています。だからこそ自分からはファル子のファンを名乗ることができません。担当を冷静な視点で見守って支えるために、トレーナーは盲目になってはいけないのですから。

この考察で一番重要なポイントは「トレーナーが「ファル子のファン第1号」を自称する描写は、たった2回しかない」ということです。一度は出会って間もない頃、「ダート”で”トップウマドル」を目指すことへの不安をこぼすファル子に「きっとなれる、ファン第1号がここいるから」と伝えたシーン。今まで誰の応援が無くとも走って歌ってきた彼女にとって、この言葉は夢に向かう後押しになります。

そしてもう一度は、ウマドルとして頂点にたどり着こうとするファル子に向けたものでした。

トレーナーの決断と誤算

ダート界を盛り上げるためにシニア級での無敗宣言をしたファル子。目標を順調に…順調すぎるほどに達成する中で、彼女は自分の心だけが置き去りにされているような感覚に陥ります。自分はウマドルとして本当に輝けてる?自分の本当の夢はなんだったっけ?がむしゃらに頑張ることもできず立ち止まってしまったファル子にトレーナーは「自分の前でライブをしてほしい」と頼みました。

誰もいない高架下、初めてふたりが出会った場所でふたりだけのライブが始まります。

ウマドル「ファル子」を誰よりも近くで見てきたトレーナーは、彼女を「輝いていた」と言います。どれだけ悩んでいても、道に迷っていても、ファル子はステージの上でそれを見せることはありませんでした。そうして演じ続けた姿は、ファンの心に確かに輝きを届けていたのです。しかしファル子はまだ納得できません、自分が輝いていることの証明なんてファンにしかできない、と。

ここで、トレーナーはあの時の言葉をもう一度送りました。初めて出会ったあの日から変わらず自分は「ファル子」のファンなのだと。自分にはこれまでずっと貴方の輝きが見えていたのだと。ファル子はまたしても、ファン第1号の言葉に救われたのです。

…しかしそれと同時に、トレーナーとファル子の間には重大な認識のズレが生まれてしまいました。それは「この人はトレーナーである以前にファル子のファンなのだ」と、ファル子が誤解してしまったことです。

縦読みに隠れた真意

さて、ここで一時期界隈を揺るがした「ファル子縦読み事件」についての考察をしましょう。Twitterに生息するトレーナーの皆様の大半はあの騒動を目撃したと思います。事の起こりはバレンタイン、ウマ娘から特別なメッセージカードとチョコレートが貰えるというあのイベントで、我々は衝撃的な文章を目にしました。

表向きはファンに向けられたメッセージ、しかしそこに隠された「だいすき」の文字列。ここから生まれた解釈のほとんどが「ファル子はトレーナーに直接好意を伝える勇気を持たず、縦読みに頼った」というもの。しかし私は全く逆の結論にたどり着いていました。

それは「ファル子はトレーナーに好意を伝えたいが、自分がウマドルとして活動する限りそれは許されない。だから”そう読むことは容易だが言い逃れもできる”方法で伝えることを選んだ」という解釈です。

※ちなみに、私はこのバレンタインは育成シナリオ3年目のイベントとして考えています。時系列をまとめると先程の育成イベント→シナリオ最終目標→バレンタイン→(温泉旅行)→育成シナリオエンディング という流れです。

育成シナリオ2年目のバレンタインで語っている通り、彼女はこの日をファンのために過ごすことを決意しています。ウマドルとして活動を続ける限り、ファル子は本命チョコを誰にも渡すことができません。そんな中あのようなメッセージを込めたのは、抜け道を探してでもトレーナーに気持ちを知って欲しかった、という想いのあらわれだと考えます。しかし何故、そのような焦りがファル子の中に生まれてしまったのでしょうか?

トレーナーの居場所とファル子の答え

その理由は温泉旅行イベントにて明かされることとなります。

全ての目標を達成し、ご褒美旅行にやってきたふたり。そこで出会った慰安旅行の一行にステージを披露するなど、いつでもどこでもウマドルとして輝き続けるファル子でしたが、何か抱えているものがある様子です。

温泉を楽しむのもそこそこに今までの思い出を振り返るファル子。外から見れば輝かしい道であっても、ふたりにしかわからない苦しみや悩みはたくさんありました。

がむしゃらに進み続ける自分と一緒にいたトレーナーはどう感じているのか?と問うファル子に「楽しかった」と即答するトレーナー。ファン第1号であるトレーナーが、彼女のことを支え続けることに喜びを感じていたであろうことは言うまでもありません。

ふたりの絆が強固であることが証明され…しかし話はそこで終わりませんでした。

なんとファル子はトレーナーへ「私のファンじゃなくなってもいいよ」と驚くべき提案をします。夢を叶えることができた自分の隣ではなく、これからたくさんのウマ娘が輝き続けていく未来にトレーナーを送り出そうとしていました。

「ファンはいつか推しから離れていくものである」ということをファル子は理解しています。だからこそトレーナーがそうなってしまう未来を想像し、その日がいつ来てもいいように背中を押しているのです。

これが、バレンタインの縦読みメッセージの真意を読み解く鍵になります。ファル子が想像した未来は①トレーナーがファル子のファンではなくなってしまう ②ステージを降りたスマートファルコンをトレーナーは見てくれない という二択だったのではないでしょうか?

①はウマドル活動を続けた先にある、ファル子のファンではなくなってしまったトレーナーに他の推しができてしまう未来。これはどんなファンにも起こり得ることなので避けられません。②はいつかウマドルを引退してステージを降りた時、トレーナーは「ファル子」ではない自分に興味を持ってくれるのか、という不安のある未来です。①②どちらが実現しても、ファル子の恋が成就することはありません。それどころか、トレーナーが隣にいてくれるのかどうかも怪しいものです。

だからこそ、ウマドルとして活動している自分をトレーナーが推してくれている今、気持ちを伝える必要があったのです。そこにあるのは「好きな人にずっとそばにいて欲しい」という、年相応な少女の切実な願いでした。

しかし、ファル子の不安が的中することはありません。

トレーナーは「輝いているファル子が見たい」のではなく「輝きたいと願うスマートファルコンを支えたい」のだと語ります。ファル子がウマドルを続けたとしても、いつかステージを降りる日が来たとしても、自分は隣に並び続けるつもりだと。

今回のような誤解をさせてしまったトレーナーでしたが、実は以前からこの決意をファル子に伝え続けていました。

前述のファン第1号を名乗るシーン。ここでトレーナーは一度だけ「頑張れ、ファルコン」と呼びかけるのです。育成シナリオ冒頭でファル子と呼んでほしいと頼まれ、それを徹底してきたトレーナーが3年目にしてそれを破るのは「自分が応援しているのはスマートファルコン自身である」という主張をしたかったのだと考えられます。そしてその気持ちは、数ヶ月越しに本人へと伝わりました。

ファル子はやっと気付けたのです。トレーナーは観客席ではなくステージ裏で見守ってくれていたことを。エンディングでそう語る彼女に、もう迷いはありません。

スマートファルコンが、いつか真正面からトレーナーに想いを伝える日は来るのでしょうか?来るとすれば、いつになるのでしょうか?

きっとそれはずっと先の未来のことになるのでしょう。ウマドル「ファル子」とそのファン第1号は、世界のセンターに立つその日まで前だけを見て走り続けるのですから。