R6 刑事訴訟法

ようやく最後の科目となりました。途中答案ゼロで終えることができたことに感謝です。

第1         設問1 

1 〈鑑定書〉は捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略す)218条1項)及び現行犯逮捕(212条1項)に伴う差押え(220条1項2号)に基づき差押えられた覚醒剤の鑑定書であり、適法な手続きの結果であり証拠能力が認められるとも思える。

 もっとも、先行手続に違法があれば違法収集証拠として証拠能力が否定され得るので、先行手続について検討する。

2  Pが逃げ出した甲を追いかけ回り込んで止まらせた行為

Pは、本件アパートを拠点として覚醒剤の密売が行われているとの情報を基に本件アパートに赴いたところ、201号室から出てくる甲が覚醒剤事件に関りがあるとの疑いを持ち声掛けをした。Pは逃げ出した甲を追いかけ回り込んで止まらせているが、甲に覚醒事件の前科があることが判明しており、「相当な理由」があるといえるので、職務質問(警職法2条1項)として適法である。

3 Pが本件カバンのチャックを開けて中に手を差入、なかをのぞきながら手で探って注射器を取り出した行為

(1)      所持品検査は口頭の質問と相まって職務質問の実効性を高めるので、職務質問の付随的行為として認められる。

 実効性確保のため有形力の行使は認められ得るが、強制処分に該当すれば強制処分法定主義(197条1項)および令状主義(憲法35条)に反し違法となる。

 強制処分に該当すると強制処分法定主義及び令状主義による強力な制約に服すので、捜査の実効性確保の観点から、かかる制約に服せしめるに値する行為に限り強制処分に該当すると解する。

 具体的には、強制処分とは、相手方の明示・黙示の意思に反し、その重要な権利に対する実質的制約を伴う行為をいう。

(2)      カバンの中は一般的に個人の私物が入った私的空間であり、カバンの中身を見られることはプライバシー権の中核である私的空間への侵入を伴う。したがって、Pが本件カバンのチャックを開けて手で探った行為は一般人及び甲の意思に反するといえるし、プライバシー権の中核という憲法上の重要な権利に対する実質的制約が伴う行為といえる。

(3)       したがって、甲がカバンを手で探った行為は強制処分に該当し、無令状でこれを行っているので重大な違法であり、これによって獲得した注射器も違法である。

4 捜査報告書①には特に違法な点は存しないが、捜査報告書②に注射器発見に関わる上記違法を基礎付ける事実を記載しなかったことが問題となる。

 確かに記載しなかった事自体で直ちに違法とは言えない。もっとも、仮に無令状での強制処分に該当する事実が記載されていれば、裁判官は本件許可状を発布しなかったと考えられる。そうすると、Pが上記事実を記載しなかった行為は令状主義の潜脱を意図する行為といえる。

5 本件現行犯逮捕および本件許可状に基づく覚醒剤の差押えは、違法な差押からの一連の行為の結果であり、覚せい剤は違法と密接な関連を有す。

 違法に収集された証拠の証拠能力が否定されるのは、司法の廉潔性・適正手続の保障・将来にわたる違法捜査抑止の観点から問題となり、これを認めると国民の司法への信頼を害すからである。もっとも、軽微な違法で証拠能力を否定すると捜査の実効性を害し真実追及を妨げるためかえって司法への信頼を害する。

 そこで、違法収集証拠として証拠能力が否定されるのは、証拠獲得に至る手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法が存し、将来にわたる違法捜査抑止の観点から証拠能力を否定するのが相当といえる場合に限られると解する。違法捜査と密接に関連する証拠にもこの理は妥当するので、①先行手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法が存し、②かかる違法と証拠が密接に関連し、将来にわたる違法捜査抑止の観点から証拠能力を否定するのが相当と認められる場合には、当該証拠の証拠能力は否定されると解する。

 本件では前記の通り注射器獲得に重大な違法が存するとともに令状発付の際に令状主義の潜脱する行為が存し、令状主義の精神に反する重大な違法が存するといえる(①)。そして、〈鑑定書〉はかかる違法と密接に関連する覚醒剤の鑑定書であるから、再発防止のため、将来にわたる違法捜査抑止の観点から証拠能力を否定することが相当といえる。

6 よって、〈鑑定書〉の証拠能力は否定される。

第2         設問2

1        捜査①について

(1)      ビデオカメラでの撮影は五官により物の性状を感得する検証の性質を有するので、強制処分に該当すれば、無令状でこれを行うと違法となる。

(2)      強制処分該当性

ア 人はその容ぼうをみだりに撮影されない権利を有しており、一般的に、許可なく撮影することは相手が他の意に反するといえる。本件では許可なく乙を撮影しており、甲の黙示の意思に反していたといえる。

イ もっとも、撮影場所は喫茶店内という公共のスペースに準ずる場所であり、人から見られることを受忍すべき場所なのでプライバシーへの期待は下がる。したがって、本件撮影は重要な権利を実質的に制約しているとは言えず、強制処分には該当しない。

(3)      任意処分であっても権利侵害を伴うので、警察比例の原則により、当該処分の必要性と緊急性を考慮し、具体的状況の下相当といえる範囲でのみ許容されると解する。

ア 本件被疑事実は覚せい剤取締法違反という1年以上の有期刑等(覚醒剤取締法41条2項)に該当する社会的に重大な犯罪である。覚醒剤事件は密航性が高く、覚醒剤の密売場所と疑われる本件アパート201号室から出てきた男は覚せい剤犯罪の前科を有する乙と酷似しており、立ち去る前に首のタトゥーにより乙と確認する必要性及び緊急性が認められる。

イ Pの撮影は店の管理者である店長の承諾を得ているので管理権侵害は無く、店長の監視により適正が担保されていたといえる。撮影時間も20秒に止まり、後方の客の様子が映り込むのはやむを得ない状況であったといえる。

ウ 以上より、本件撮影は必要性・緊急性を考慮して具体的状況の下相当な範囲に止まっているといえるので、任意捜査として適法である。

(4)      よって、捜査①は適法である。

2        捜査②について

(1)      捜査②も捜査①と同じビデオ撮影なので、同様の基準で判断する。

(2)      強制処分該当性

ア 捜査①と同様にアパート住人の意思に反していたといえる。

イ 本件撮影は毎日24時間201号室の玄関付近を撮影しており、玄関ドアが開けられるたびに玄関内側や奥に通じる廊下という住民のプライベートな空間が映り込んでいた。撮影は10月3日から12月3日までの2か月間、毎日24時間撮影していたのであるから、プライバシーの侵害の程度は大きく、憲法上の重要な権利にたいする実質的制約が伴っていたといえる。

ウ よって、捜査②は強制処分に該当し、Pは無令状でこれを行ったので令状主義違反の違法である。

以上

(5.7ページくらいでした。10秒前に書き終えました。途中答案にならなかったので良かったです。)

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