R6 司法試験 国際私法 問題1

国際私法 第1問

第1         設問1
1        小問1(1)について
(1)      日本の裁判所に管轄権が認められるか否かは、手続は法定地法によるの原則により、日本の民事訴訟法(以下、「民訴法」と略す)3条の2以下で判断する。
(2)      被告であるYの本店は甲国であり、主たる営業所が日本国内にないので民訴法3条の2第3項による普通管轄は認められない。
民訴法3条の3について
ア 1号
 本件訴えはXY間の売買契約である本件契約に基づく代金支払い請求であるところ、本件契約の際に「代金の支払いは甲国とする旨」の条項により当事者の合意がされているので、Yの代金支払い債務履行地は甲国である。
「契約において定められた債務履行地」は日本国内にないため同号による管轄は認められない。
イ 3号
 本件訴えは代金支払なので「金銭の支払いを請求するもの」である。
 「その財産が著しく低いとき(同号カッコ書き)」とは、請求額と比べて著しく低く、執行を認める意味をなさない場合をいう。
 本件では、請求額は3000万円で、本国内にあるYの財産の価格はごく尚学であるのだから、請求額に比べて著しく低いといえる。
 したがって、同号により管轄は認められない。
ウ 4号
 「事務所または営業所における業務」とは、当該契約に関する業務をいうと解する。この場合には証拠等の存在の蓋然性があり、管轄を認める合理性があるからである。
 本件では契約は全て甲国のYの本店で行われており、同号に該当しない。
エ その他同条各号に該当する事由は無い。
(3)      XY間に管轄の合意は無いので、民訴法3条の7による管轄も認められない。
(4)      仮にYが応訴すれば民訴法3条の8による管轄は認められるが、Yが応訴した事実はない。
(5)      よって、訴え1について日本の国際裁判管轄権は認められない。
2        小問1(2)について
(1)      訴え1は売買契約に基づく債務履行請求なので法律行為の成立及び効力の問題であり、通則法7条以下で判断する。
(2)      通則法7条により当事者の合意による準拠法選択が認められるところ、契約の際にXY間に合意は調っておらず、同条の適用は無い。
(3)      ア 通則法8条1項は当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地(以下、「再密接関係地」と略す)の方が準拠法となる。
イ 同2項により、特徴的な給付者の事業所の所在地の法(同項カッコ書き)は最密接関係地の法と推定される。
 特徴的な給付とは当該契約を特徴づける給付であり、売買契約においては金銭の反対給付がこれに該当する。本件では商品供給者Xがこれに該当するので、Xの事業所所在地である日本が最密接関係地との推定を受ける。
ウ もっとも、本件契約はXの担当者が何度も甲国を訪れて契約に向けて交渉した結果であり、双方の債務履行地は全て甲国と合意されているので、推定は破られ、甲国が最密接関係地と解するべきである。
エ よって、甲国法が準拠法となる。
3        小問2
(1)      Yの主張は甲国民事訴訟法に基づく時効の主張と考えられる。時効の適用は契約は訴訟法上の手続きの問題として法定地法によるとも考えられるが、時効で権利行使認められなくなるか否かは契約の効力の問題と言えるので、契約の準拠法が準拠法となると解すべきである。
(2)      本件では、XYは契約の際に「甲国法を準拠法とする」という条項による合意を行っているので、通則法7条により契約の準拠法は甲国法となる。
(3)      よって、Yの主張は認められる。
第2         設問2
1        契約2は不法行為に基づく損害賠償請求であり本件契約の条項の「全ての紛争」に該当し、「一定の法律関係」(仲裁法2条1項のカッコ書きに該当する)に該当する。XYは同条項により「乙国を仲裁地とする仲裁により最終的に解決することに合意」しており、「仲裁判断に服する旨の合意(仲裁法2条1項)」に該当するので、XY間に「仲裁合意」が認められるので、本件では仲裁法が適用される。
2        仲裁は乙国であり「日本国外にある場合」として同法14条1項が適用される(同3条2項)。
3        同法14条1項該当性
本件ではXにより仲裁合意の対象となる民事上の訴え2が提起されており、同項各号に該当する事由は存しないので、裁判所は被告の申立てにより訴えを却下しなければならない(同柱書)。
4        仲裁の合意はXY間であるところ、本件被告がY代表者Aであることから合意の効力がAに及ぶかが問題となる。
 本件契約の際にXY間で「甲国法を準拠法とする」とする条項による準拠法合意があるので、通則法7条により甲国法が契約準拠法となる。そして、甲国法は法人の締結した契約の効力は代表者に及ぶので、本件仲裁合意の効力はAに及ぶ。
5        上記のように判断し、裁判所はAの主張を認めて訴え2を却下した。
                              以上
(当日は4ページ最後の行まで書きました)

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