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ファースト万年筆

万年筆。
ああ万年筆や万年筆。


世の中にたえて万年筆のなかりせば 私の心はのどけからまし


(訳:もしも世の中にまったく万年筆がなかったなら、私の心はどれだけのどかでしょうね)



ほんとにねーーー!!


万年筆は楽しい。
万年筆はステキ。

だけどこの万年筆という存在が、どれだけ私の心を騒がせ、身辺を忙しくさせていることか。ほんとにもう。


今回はそんな万年筆と私のなれそめを書いてみようと思います。


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かつて(そして今も?)


「文筆で身を立てる」


ことに憧れた私は、初任給でいきなり万年筆を買ったのだった。



万年筆のまの字も知らない、ていうか実物を見たことさえなかったけど、形はなんとなーく知っていた。


文豪と机の上の原稿、みたいなイケてる写真の中に、原稿用紙の上に転がっている万年筆がややピンボケで小さく写っていて


どうやらこれが万年筆というものらしい



と学習していたのね。




若かった私は文筆家=万年筆愛用という古風な刷り込みに突き動かされ
デパートの文具売り場に趣き

その場でお買い上げしちゃったのは無知ゆえに怖い物知らずだったなぁと今は思う。



記念すべき私のファースト万年筆はこれ。


ウォーターマン カレンデラックス〜



WaterMan カレンデラックス(f字)。

ラピスラズリ色の軸にシルバーのキャップの配色がとにかく美しい。

加えて流線型の滑らかなシルエット。
一目惚れでした。


だけど、いくら見つめても万年筆はガラスケースの中。
あのガラスケースの中の物を、どうやって購入すればよいのか?


ていうか、万年筆とはいきなりそれくださいといって購入するものなのか?


わからないぞ。

うーんどうするどうする。



じっとガラスケースの中の1点を見つめていると、私のもとに文具売り場の店員さんが舞い降りて

「何か気になるお品はございましたか?」

と優しい言葉をかけてくれたので



「ええ、これが見たいです!」



とお目当ての品をようやくガラスケースから取り出してもらえた。



持たせてもらうとずっしり重い。

か細い棒とは思えない。


「高級ですよ。大人ですよ。」と言わんばかりの重みにしびれた。




試し書きさせてもらうと…


おお〜〜ペン先が滑る滑るぅ〜〜〜!

なんだコレーーー!?


何ていうか、紙とペンの間の摩擦が可能な限り低減されている感じ。

ひっかかりが全然ない。

だから書く動作に煩わされることなく、思考するスピードを保ったまま文章に出来る。



すごい。




私が初の万年筆体験にフォオオ〜!となっているのを満足気に見ていた店員さんは、実に嬉しそうにこんな説明をしてくれた。



この万年筆のメーカーの創始者であるウォーターマンという人は元々保険外交員だったのだが、ある日ペンからインクが漏れて大事な書類が台無しになり契約をふいにしてしまいました。

そこでウォーターマンは世界で初めて!細い管が水を吸い上げる毛細管現象を利用した万年筆を!作り上げたのです!

いわばウォーターマンというメーカーは、万年筆界のパイオニアなのです!



と。



店員さんはウォーターマン推しだったのかもしれない。

今思えばずいぶん説明に熱量があったような気がする。



店員さんのウォーターマン熱は簡単に私に伝染した。さっき初めて万年筆に触ったばかりなのに。



なんと、万年筆のパイオニアとな!?

アツい!

ウォーターマンが熱い!


と、ウォーターマン推しがまたここに1人誕生したのでした。




そもそも私はパイオニアとか創始者とか世界初というものを大変尊敬してます。

ハハーーッと床にひれ伏したくなる。



だって、創始者ってゼロから1を作るってことじゃないですか。

何も無い所から自力で作るって、並大抵の閃きと努力じゃないです。

本当にかっこいいです。





店員さんの説明を聞き終わった私はもう


もうそれ以上何も言わなくていい

創始者とか世界初はすごい

ウォーターマン最高だよ……!!


とすっかりウォーターマンの虜。






そもそも一目見た時から「これがステキ!」

と思ってた上、店員さんの熱い話を聞いたとあっては、何を迷うことがありましょうか。







当時で4万円近かったと思うけど、なーんのためらいもなくお買い上げしました。

そういえば他の万年筆は試筆どころか、視界にさえはいっていませんでした。




まっすぐ文具売り場に入って

すぐさまウォーターマン カレンデラックスに目をつけてそれを買い

まっすぐ家に帰りました。






…関係ないけど、この話を書いていて
「自分がイイ!と思った物にはどんとお金を出すなぁ…」と痛感しました。

修学旅行中に6000円のイカした湯呑みを買ってみたり

いきなり高級万年筆を買ってみたり

今もアンティークリングを買ってますからね



私はやっぱり美しいもの

さらにそこに歴史やストーリーがあるものの合せ技が好きで、お金を出してしまいます。





話を戻しましょう。






こんないきさつで、この日から10年以上にわたり

 

万年筆はカレンデラックス!

インクは同メーカーのミステリアスブルー!



という硬派な時代が始まりました。



が、多様な色や機能を備えたのインクの流行によって私の中の万年筆=ウォーターマン一強時代は揺らぎ、


「SAILORとパイロットとペリカンが入り乱れてさぁ大変」という忙しい時代に突入するのですが、それはまた今度の記事で…。








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