年金生活#36(Downstairs at Fitzferald's)

アイルランド出身の作家William Trevorの短編「Downstairs at Fitzgerald's」を読む。彼の短編集を読み進めていて初めて泣いた。父親は離婚した母親と一緒に住む娘と、週に一度週末”Fitzgerald’s”というオイスターバーで会う。オイスターバーの二階は立派なレストランで娘は本当は二階に行きたいのだが、父親はいつも一階のバーカウンターで娘と会う。娘はステーキとソフトドリンク、父親は生ガキとビールだ。ビールのあと締めにウイスキーを頼むこともあるしデザートを頼むこともある。親子の関係を知っているバーテンダーとは気心がしれている。娘の母親は再婚し腹違いの兄弟がいる。義父は優しくなんら差別せず平等に子供全員を扱っている。娘も彼のことは嫌いではない。両親が離婚したのは娘が小さい時でその時の状況はよく分からない。ただ、親が離婚した生徒は学校内で彼女だけだということで何かと話題にはなっていた。ある日、母親が今の父親と知り合ったのは離婚前だとクラスメートに言われる。娘はそれがどういうことを意味し、本当か嘘かも分からない。ある時、校長から呼ばれる。授業料の支払いが遅れているので父親に会った時にそれとなく伝えてほしいと。自分の授業料を払ってくれたのは実の父親だったということに気付く。そういえば父親は最近車を売ったようだ。父親が”Fitzgerald's”で頑なに1階のバーに座るのもコストのせいか。父親は競馬賭けが強い。賭けるのも生活費捻出のため?少しでも生活費にプラスになっていればと娘は思う。娘はいつか学校から直接父親の家に行って、一人住まいの父親のために狭いキッチンで父親に料理を作ってあげたいと思う。そう思いながら週に一度”Fitzgerald's”で父親と会う。こういう自分達をバーテンダー以外いったい誰が知っているだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?