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【演劇用台本】蜘蛛の糸~現代版~

この作品は、演劇用に執筆したものです。
使用される場合は、以下の利用規約を必ずご覧ください。

ある会社員の男が夏の暑さに倒れると、気づいたときには地獄にいた。
そこで出会ったのは、女子高生と舞台女優。
そこへ謎の男が現れ、「蜘蛛の糸」を垂らす。
その糸を掴めばなんでも手に入れられると聞き、女子高生と舞台女優は争って蜘蛛の糸を手に入れようとするが……

【上演時間】
約15分

【配役】
・男:会社員の男。仕事に疲れた。

・女:女子高生。カンニングをした。

・麻:人気俳優。麻薬中毒で捕まった。

・芥川:芥川。蜘蛛の糸を操る。

・蜘蛛の糸:「蜘蛛の糸」と書かれた紙を貼って立つ。


♪セミの声

男、電話をしながら歩いて登場。

男「はい、申し訳ございません。次は必ず契約をとってきます。はい。…はい。失礼します」

男、電話を切ると、よろよろと歩き、溜息をつく。

男「……もう嫌だ」

男、膝から崩れ落ちて、そのまま倒れる。

♪セミの音、ピタリと止む


女子高生、麻薬、客席から登場。

麻薬、女子高生にまとわりつく。

女「ちょっと、こっち来ないで!気持ち悪いんだけど!!」

麻「あghるpqhぎお;rqjkl」

女「いや、何言ってるか全然わかんないし!」


男、二人の騒ぎに目を覚ます。二人と目が合う。

女「あ、やっと起きた。こんにちわー」

男、少しだけ体を起こして、周囲を見回す。

男「ここは…?」

麻「う、ううう…」

麻薬、狂ったように首を横に振る。

女「私達にもよく分かんないんだよね。気がついたらここにいたってカンジ?これは話通じないし、あんたなら何か知っているかと思ったんだけど…どうもその様子じゃ何も知らないみたいだし、ほんっと絶望的だわ…。早く家に帰らないと親からグチグチ言われるし、面倒なんだけどなー」

男「ところであなたたちは…失礼ですが、最近ニュースで話題になっている…」

女「あ、やっぱ分かっちゃうカンジ?そそ、入試でカンニングしたって報道されている、噂の女子高生でーっす」

男「やっぱりそうでしたか…じゃあ、そちらの方は…」

女「あー、こっちはたぶん、最近麻薬で捕まっちゃった、あの人気俳優のまーちゃんだよ」

麻「てゃぬぽhの@ghかp「fjgp「s」

男「まーちゃん?」

女「麻薬やってたからまーちゃん。名前だけはかわいいでしょ?」

男「は、はあ…」


♪入場のBGM

曲とともに、芥川が階段から登場。

芥「これはこれは。皆さんお揃いですね」

女「気安く話しかけないでよねー。あんた誰?」

芥「私のことなどどうでも良いではありませんか。名乗るほどの者ではありませんよ。せっかくこんなところにお集まり頂いたんです。楽しみましょう」

男「あいにく楽しめる状況ではありませんね。…ここはどこなんです?」

芥「ここですか?ここは、地獄ですよ」

男「地獄?地獄だって!?」

男、飛び起きる。

芥川、男を嘲笑し、話を続ける。

芥「そうです。地獄ですよ。ほら、あそこに針山や血の池が見えるでしょう?苦しんでもがいている亡者たちの姿は滑稽なものですねえ」

女「マジで…マジで地獄なカンジ?それってヤバくない?」

芥「ええ、マジに地獄ですよ」

男「信じられない…なんてことだ」

芥「驚くことはないじゃあありませんか。そんなに悲観することもありません。あなたが生きている世界は、まさに地獄のようなものなんですから。そんなに変わりませんよ」

男「それはどういうことですか?」

芥「思い返してみてください。はびこる麻薬、家庭内暴力、いじめ、受験戦争から始まる実力主義、企業の不祥事と倒産、うつ病の蔓延、孤独死…。幸せな未来なんて望めない社会じゃないですか」

♪ニュースの音声

女「うあああ、何なの、これ!」

麻「うああああ、やめてくれ!」

女、麻薬、現実から目をそむけるように、目をつぶり、手で耳を塞ぐ。

芥川、二人の手を耳から引き剥がす。それぞれの耳元でささやく。

芥「期待に応えるために、自分を偽って強く見せて、自滅する…。素晴らしいですね」

芥「現実から目を背けるために、クスリで現実逃避を図る。ご立派ですね」

芥川、最後に男を見る。

芥「何の希望もない社会で、自分だけ取り残されて負け組になって、それでも働かなければならない。そして生きなければならない。そんな人生は、地獄よりも地獄的だとは思いませんか?」

芥川が手を離すと、女と麻薬は力なく倒れる。

芥「あなた方は、この社会からのけ者にされたんですよ。極楽浄土に行く資格などないと判断されたのです。最も、私とて同じですがね」

芥川、全員を見渡す。

芥「安心してください。ちゃんとあなた方が救われる道を用意しています。」

女「救われる道ぃ?あるならあるって早く言って欲しかったんですけどー。脅かさないでよ。ねえ、まーちゃん」

芥「皆さんは、『蜘蛛の糸』を知っていますか?」

女「くものいと?えーっと、たしか、そうめんの…」

芥「それは揖保の糸ですね」

男「確か、芥川龍之介が書いた話ですよ」

芥「そう、地獄から出ようとして、結局地獄から出られなかった因果応報の話。」

芥「…もし、本当に蜘蛛の糸があったら、どうします?」

男「『蜘蛛の糸』の話が事実だったら、ということですか?それはどういう…」

芥川、手を叩く。

すると、階段から「蜘蛛」と「の糸」が出てくる。そして、ワチャワチャしながら定位置に立つ。

男、女、麻「えーー!」

芥「さあ、皆さん。これにすがって登れば欲しいもの、何でも手に入りますよ。恋人も、金も、富や名声も、何だって!」

男、女子高生、麻薬、固まる。

芥川、女子高生に話しかける。

芥「さあ、この糸をたどれば、何者にも負けない学力を手入れられます。頑張らなくても、罪を犯さなくても、きっとご両親から認めていただけますよ」

  芥川、麻薬に言う。

芥「俳優としての眠った才能に目覚めることができれば、将来は保証されたも同然。クスリなどなくとも、永遠の安心を手に入れることが出来るでしょうね」

女子高生と麻薬、同時に蜘蛛の糸を掴み、奪いあう。

女「離せ!あたしだけのもんだ!」

芥「あなたは参加しないのですか?」

男「ええ。僕は、遠慮しておきます」

芥「なぜです?」

男「理由というほどのものではないのですが…。そういうものにすがって何かを手に入れても、精神的な救いにはならないと、そう思ったんです」

芥「なるほど…」

糸はちぎれ、「蜘蛛」と「の糸」に突飛ばされて、女と麻薬は倒れる。

芥川、手を叩いて笑う。

芥「あっははは。何でも手に入るなどと、そんな甘いことがあるわけないじゃないか。釈迦はカンダタを助ける気など最初からなかった。最初っから救いなどありはしなかったんだよ。それを信じて糸にすがって、さらに深く地獄に堕ちて、絶望するしかないんだ。僕はそれをちゃんと書いたはずなんだけどねえ」

男「そんな…あんまりだ」

芥「君はまだ他の連中よりはマシなようだ。さあ、元の世界に返してあげよう」

男「はあ、…ありがとうございます。できれば、彼らも一緒に…」

芥「分かったよ。君は変わったやつだな。…ひょっとすると、君とは気が合うのかもしれないな」

芥川、男に詰め寄って、まじまじと男を見つめる。男、それを手でそっと離す。

男「いいえ。そんなことは万が一にもあり得ませんよ。あなたと僕は何かが決定的に違う。分かり合うことなどできはしないでしょう」

芥「ふっ、確かにそうかもしれないな」

男「はい。じゃあ、またどこかで」

芥「ああ、地獄で待ってるよ。」

芥川、男の目を閉じさせると、男を寝かせるようにする。


芥「彼はカンダタに似ていたが、カンダタと同じ結末を選ばなかった」

 「私は、文学によってカンダタを作ったが、結局カンダタと同じ地獄に落ちた」

 「仏の救いは、一体どこにあったというのだろうか…」

 


♪セミの音+救急車の音

看護師(芥川)、男を起こす。

 男「ここは…」

 芥「大丈夫ですか?近頃熱中症が多いですから。ほら、彼らも」



♪BGM(エンディング)

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