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「ふんっ!……に、人間の作る料理のこと、もっとアタシに教えなさいよ!」




「…きよ…」

   あ?ん〜…


「起きよ、人間!!」


   え!?あっ、えっ!?!何だ!?


 部屋に電気がついてる?眩しい。おれは最初、そのことだけに気を取られてしまった。そして、徐々に脳は、視界になにが映っているのかを描写し始めた。



「驚き散らしよってからに」

   うわ!

ゴン!
おれは驚きのあまり反射的にのけぞり、後ろの壁に頭を軽くぶつけてしまった。

いてえ!!


「こんな貧弱そうな個体のもとに来てしまい、先が思いやられるな。…やれやれ」


   だ、誰だお前は!?

   お前、だと…?キサマ、我のことを「お前」呼ばわりするほど偉いのか? 愚か者め……無礼!恥よ!……我は魔界の皇帝の一人娘サマー・ピュアドーンたるぞ。せっかく暇つぶしに、初めて地上などという場所に来たのに、最初に我と出会った者がこんな貧弱でアホアホそうなJDだとはな。我の転送魔法もまだ未熟ということか

   ……え!!!!!!????

   ふ、ようやっと己の立場をわきまえたか。キサマの矮小さ、そして我がどれほどの大いなる…

   え? いや、そう言うておるが……にしてもキサマ、ちと驚きすぎではないか?

   …………は?

   ついに私のもとにも来たんだ!「退屈な日常の中に緩やかに死んでゆく私を “ここではないどこか” につれていってくれる美少女」が!!!!アニメだけの話じゃなかったんだ!!!現実にも存在したんだ!!!やったーーー!!!!!

   な、なんだキサマ、キモッ

   うっ、サド系美少女か♡
――アリよりのアリだ♡

   ……人間とは、魔族に等しい知性を持ち合わせた生命体だと聞いておった。
……
……だがそれは間違いだったようだな。くそ、不快だ。

   え?

   キサマがあまりにも不快だったために、人類を滅ぼすと言っておるのだ。可哀想に、人類は悉くキサマを憎むことになるぞ。キサマの愚かさのせいによって、人類のふみはここで途絶えるのだからな。我が、人間は存在してはならぬと判断したということだ。魔帝が「いらぬ」と言ったら、それはもう存在してはならぬ。醜悪で下劣な痴れ者を産んだ種族、そして世界よ……滅びよ。我は魔界の皇帝の一人娘、サマー・ピュアドーン。その名の下、断罪をくだ…

ぐっ、ぐううう〜
 その時、彼女の腹が鳴った。そして数秒遅れて、彼女……“魔界の皇帝の一人娘” サマー・ピュアドーンは、顔を恥ずかしそうに紅潮させた。


   ええ…ポンコツ系美少女だったんかい…。テンプレだなあ。……外暗ぇー。う~ん、まだかなり早いけど、とりあえず朝ごはんにします?


シャッ。
 水色水玉のカーテンをスライドさせ、外の景色を全開で写す。まだ夜明けさえ迎えていない。瑠璃色の空が静かに広がっていた。この空と瑠璃の違いはただ一つだけ、星の有無だけである。都会の空に星は浮かない。

……

 ぱさ。個包装されたパンを机の上に置く。


この美味そうなパンは……??


   ……これはなんなのだ?

   それは「サラダパン」。サラダパンとは、マヨネーズで和えた刻みたくあんのペーストをコッペパンに挟んだ調理パン。
 滋賀県長浜市木之本町木之本(旧木之本町)にある1951年創業のパン屋「つるやパン」の名物パンである。店頭販売のほか、ネット通販、滋賀県のスーパーマーケットチェーン平和堂の一部店舗、近隣の滋賀県立伊香高等学校の購買、日本電気硝子高月工場の購買部や自販機でも販売されている。
 滋賀県のごく一部の地域のローカルフードであったが、2000年代のご当地グルメブームによってマスコミに取り上げられるようになり[1]、滋賀県発の変わり種パンとして全国的にも知られるようになった[2][3]。
 2015年5月頃より一時期、滋賀県内のセブンイレブンで「近江の味!サラダパン」と題してエフベーカリーコーポレーション滋賀事業所製によるものが販売された。
……ですね。

   場にそぐわないほど冗長な上に、まるでどこからかコピーアンドペーストしたような説明だな…。が、よく分かったぞ。ようは、卵黄型調味料と漬物を和えたものをパンで挟んだ食べ物か。人間の食べるものは奇妙だな。どれ…

   ドッキドッキ…

   …ム。

   どう?

   そう?よかったあ。

 ふと、不自然に、ピュアドーンちゃんが黙った。さっきまでの紅潮は頬から引いていたが、今はまた別の表情を孕んでいた。しばらくの沈黙。といっても数秒だったが、彼女は長いこと悩んでいたように見えた。
 ツパ…。サラダパンの油で艶の増した唇がゆっくり開かれる。彼女は恥ずかしそうに、しかし躊躇うことはなく気品は落とさず、こう言った。

   ふふ、気張ってないときは、一人称が「アタシ」なんだね。かわいい。

   うるさいうるさいうるさーい!

   いてっ!いたたたた!!
(ったく!w こんなじゃじゃ馬娘好きになっていいの、オレだけだってーのw)
やれやれ、まったくやれやれだぜ。やれやれ…w


……



セブンイレブン

 そして、おれたちはコンビニにやって来たんだ。

   この時間帯から開いている、食べ物売ってるとこといえばコンビニ。にしても、う~、早朝は特に寒いな。まだ太陽が昇っていない。さすがにこの時間帯に人は少ないわけか。

   おお!食べ物がいっぱいだ!他にも……本、文房具、化粧品……おい、ここは何屋なんだ結局

   さあなんて言うのか。う~ん、便利屋?いや、割高で商品売りつけてくるからそこまで便利じゃないな。何屋なんだろ。

   なんだ人間、キサマもまともに把握しておらんのではないか。まあ、よい。早速食料のコーナーへゆくぞ!

   じゃあ有名どころから?紹介していけば?いいのかな?

 えと、まずこれはハンバーグ。ひき肉に野菜やパンくずを混ぜて、こねて、いい感じに焼いたって料理。しょっぱくておいしい
 …
 これはカレーライス。様々なスパイスを混ぜたカレー粉を、ニンジン、ジャガイモやタマネギとかと一緒に煮込んでトロトロにしたら、ごはんに乗っける。辛くてしょっぱくておいしい
 …
 これはオムライス。ケチャップ…トマトのソースと一緒に白米を炒めて、鶏の卵でつつむんだもの。これはケチャップが更に卵の上からかけられてるけど、デミグラスソースってのがかけられてるのもある。どっちもしょっぱくておいしい
 …
 これは唐揚げ。鶏肉をひと口サイズに切って、味付けて、小麦粉とかをまぶして揚げた料理。出来立ては肉汁とか油がジューシーで最高なんだよな。しょっぱくておいしいし。
……どうしました?さっきからやけに無口だけど……。そんなにおいしそうじゃなかった?

   あああ!いや!うまそうだぞ!?ただ、その……

   はい

   …………魔界にもあるわ

   え?

   魔界にも、そのあたりの料理ならあるわ。ハンバーグ カレーライス オムライス 唐揚げ。…餃子 寿司 コロッケ スパゲッティ トンカツ チャーハン ハンバーガー ラーメン ドーナツ フライドチキン りんごジュース 白いたい焼き タピオカ バナナスムージー フルーツ大福 高級食パン マリトッツォ 飲むわらび餅 カヌレ…………

   ……………………魔界って意外と、人間の料理と同じのあるんだ。

   そんでフランチャイズのカモになってるものも人間界と一緒っぽいな


……

 「しかたない……」
 とりあえず家に帰る。2,3時間テキトーに過ごそう。そうすれば午前9時。多くの店が開き始める。


 結局、人間は太陽が昇るのに合わせて生きてゆくしかないのだ。たまに、その不便こそ美しいと思うことがある。太陽が顔を出し切った午前9時、多くの人間がそれぞれの営みを始めていた。「よし、じゃあ行きますか」と言うと、ピュアドーンちゃんは「おお?」と首をかしげながらも自分の後ろをのそのそとついて歩く。
……
 向かったのは、自転車置き場だ。アパートの一階にぎゅうぎゅうガチャガチャに置かれた自転車群の中で、落ち着いた水色のものを探し出す。これがおれのだ。……さて、魔界に「自転車ニケツ」は存在するのだろうか?


   しかし魔界と人間界で食べるもの一緒だったの意外だな…。ドラゴンの肉とか食わないの?

   いきなり差別か?人間らしいな。……ドラゴン族は魔族や人間と同様に高い知能、そして道徳を有している。偉大な同胞・ドラゴンを食すなど、カニバリズム、大罪だぞ。

   そうなんだ

   ところでどこに向かっているのだ?もうこの、チャリ?とかいう乗り物をこきこきすること20分を超えておるぞ!尻が痛い!

   私も誰かをチャリの後ろに二人乗りさせるの久しぶりだから、体の節々が痛いよ。……向かう先は業務スーパーだよ。ここは、たまに人間である私でさえ知らない食べ物が置いてあるからね。それなら絶対、きみも知らないはずだ。

   キサマも知らないのなら、結局、人間の作る料理のことを我に教えてくれるという願いは叶わぬではないか!

   ググればなんとかなるだろ…

   多分。

……

到着!!
業務スーパー

   ぬうおーーーっ!!「こんびに」に比べて猛烈に寒いぞ!どうなっておるのだ!

   まあ生の野菜とか魚とか置いてるからなあ……。というか、これまでの感じだと多分魔界にもスーパーは存在してそうだし、魔界のスーパーもこれくらいの温度設定では?

   スーパーだ?行かぬわ!食料に限らず生活必需品など、インターネットで注文して届けてもらっておるのだから!

   もう魔界がどういうところか大体わかったわ

   して、人間すら知らぬ人間の食べ物とは何なのだ?

   ああ、丁度昨日、「業務スーパーに自分の知らない食べ物あるのかなー」って思って、知らなかった食品をメモしてリスト化してたんだよな、暇つぶしに。

   なぜそんな無意味なことを?この人間、キモすぎる。


……


 とにかく、二人はまず、鮮魚売り場に赴くのであった。
 海は未だ85パーセントが未解明だと言われている。謎の多い海、そこからとれた幸。つまり人間はよく分かっていないまま食べているのだ。そして人間側もよく分からない食べ方をする。鮮魚売り場は未知と狂気のワンダーランドだ。


①子持ちこんにゃく

   まずはこの、子持ちこんにゃく、ですねえ。簡単に言うと魚卵が練りこまれたこんにゃく。鮮魚売り場に鎮座しているこいつは見た目のインパクトさることながら、「なぜこれを作ろうとした?」感のパない逸品となっている。

   なぜこれを作ろうとしたのだ!??!?

   でも、おいしくはあるみたい。練りこまれた魚卵の正体はししゃもの卵。味の染みたこんにゃくとししゃも卵のプチプチ感のシンフォニーが絶品!とのこと。

   ごく…そう言われたら美味そうだ。それにこんにゃくそのものの質もいい。魔界でもこれほどプルクニッとしたこんにゃくはあまりお目にかかれないぞ。

   魔界にもこんにゃくが存在する…?

   おお、そうだが、どうした?

   いや、こんにゃくは、誕生した時代の文明に対して、製造過程が複雑すぎることで有名なんだ。確か……こんにゃく芋を乾燥させた後すり潰して粉にし、水と混ぜて捏ねた後、石灰水と炭酸水を加えて、丸めた物を煮て固め、煮物にして、やっと完成。

   めんどくさ!

   「最初にこんにゃく作ったやつはどうやって思いついたんだよ」って言われるくらいに複雑な製造過程をしているこの食べ物が、地球では西暦300年にはもう作られていた。
 そんなものが魔界にも存在するとなると、こんにゃくの技法に関する情報が人間界と魔界の間を移動した可能性が高くないか、って思う。

   なるほどな。興味深い。一部の上級魔族がたまに人間界に行くことがあるくらいで、魔界と人間界の文明的交流は謎が多い。来訪魔族の少なさからか、人間界に魔族が来た痕跡は残りづらいようだしな。こんにゃくを調べることでここらへんの謎の一端が掴めるかもしれんな。

   こんにゃくが世界の真理に迫る手がかりになることってあるんだ


②さらしくじら

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(北海道あじわい旬鮮便)

   おお!今度はくじらか!これは!……いや、これは?こんなだったか?鯨って。

   もう魔界にも鯨がいるのには驚かないけど、ピュアドーンちゃんも鯨って食べたことあるんだ?

   ああ、鯨の竜田揚げは小学校時代の給食に出たことがある。母上が鯨の刺身を買ってきたこともあったなあ。いずれにせよ、鯨と言えば美しい赤身のイメージだ。

   鯨の刺身は食べたことないなあ、私は。でも赤身のイメージは同感。鯨の肉ってこんなに白かったっけ。まあ部位によるのか?

   この黒い部分は、鯨のあの皮膚なのだろうか?とすれば、さらしくじらとは名の通り、鯨の体において最も外側の部分を指すのではないか?だから、晒し鯨……さらしくじら!どうだ!ってちょっと、キサマ、聞いて…

   えーと、『さらしくじらは鯨の尾びれの薄切りをゆでてさらしたもの』。ああ、湯に身をくぐらせて晒すから、さらしくじら、か。

   へえ、シャキシャキした食感、さっぱりした風味、おいしそう。ちょっと高いけどね……って、え!?ピュアドーンちゃんめちゃくちゃ顔火照ってない!?大丈夫!?


 なんでこのときピュアドーンちゃんの機嫌が悪くなったのか、それを冬不純黄昏は生涯知ることはなかった。ただ、二人が次に精肉のコーナーに向かったのは事実である。そう、精肉コーナーに置かれているトンチキな食べ物を見るためである。


③脂かす

   なんだったの?よくわからんなあ、魔族の心は。まあいいや次、鮮魚から移って精肉のコーナー!高級和牛のトレー、扇状がち!

   やめい、変なあるあるで変に盛り上げようとするな、気を遣われている我が一層みじめだ……。

   はあ、……よし!我はもう大丈夫!さあ、目の前にあるこれを紹介してくれ!

   ほいきた!というわけで、脂かす、ですね!これは!

   うむ!なんと奇妙な見た目をしているのだ。そして健康に悪そうでもある。悪名高い魔界の食肉植物の茎を、腐った油に漬けてから腐らせたものか?

   真顔でなんてこと言うのピュアドーンちゃん。……えと、これは、『牛の腸を油でじっくりと時間をかけて揚げ、余分な油分が抜けて肉の旨味が凝縮された、美味でしかも栄養価も高い食材』とのことらしい。まわりはカリカリと香ばしく、中はぷるぷるとした独特の歯ざわりをしており、おいしい!とのこと!

   おおおお!うまそうだ!商品名の隣に『お好み焼き、焼きそば、うどんなどに』と書いてあるが、これらの料理と合わさることでさらにうまくなるのであろう!

   ただ、めちゃくちゃジャンクな料理になるだろうな……

   (よかった、ピュアドーンちゃんの機嫌も直ったみたいだ)


④玉ひも

   さて、キサマのメモにあるのはこれで最後か。確かに、これも見たことのないものだ。おそらく「玉」に該当する箇所と、おそらく「ひも」に該当する箇所、この両方から生命の残滓のようなものを感じて、実にグロテスクな気分になるぞ。こんなものは見たことがない……いや、「玉」の部分は色は濃いが卵黄に似ているか?

   うん、正解ですね。やっぱり卵とは関係ある。調べたところ、鶏の卵管と排卵前の卵のことらしい。前者が「ひも」、後者が「玉」ってことなのかな。ふつうの卵とは全然違う食感に、 一度食べたらやみつきになる!って声もあったけど、どう?

   そう言われると気になるではないか……。だが、あくまでそれは「玉」の評価だ!「ひも」はどうなのだ!卵管の味など、もはや想像がつかないではなく、なんとなく嫌な想像がついておるくらいだ!粗悪な肝のような味がしそうだ。

   そうかな。柔らかくて味が染みやすいらしいから、濃い味付けでしみしみにしたらおいしそうだけど。

   確かにそう聞くとおいしそうではないか!

   きみホントはなんでもおいしく食べるタイプだろ


……


 それから、「もう少し見ていこう」とピュアドーンちゃんが言うものだから、特に何も買うことなく業務スーパーに長居してしまった。「なんか買う?」と聞いてみたが、それには首を横に振るばかりであった。
 もしかしたら、ピュアドーンちゃんの人間界滞在はそこまで長期のものではないのかもしれない。今日の午後には帰るのかも知れない。だとしたら、なおさら、地球の…人間界のおいしいものを食べさせてあげたい。そう思った。……大半のものが魔界にも存在する、というのはこの際おいといて。


   っと!もうこんな時間か。11時。なんやかんや、メモ以外のもの見て回ったもんなあ。

   随分素直になったもんだ……

   いてえ!無言で殴らないで!

   フン!

   実際、私もお腹が空いてきたな。でも昼ご飯のお腹じゃないよなあまだ。

   よし!ピュアドーンちゃん!これから二回目の朝食にしよう!丁度、朝食として食べてみたいものがあったんだよね。ちょっと買ってくるから、レジの向こうで待っててっ!

   !………あ、ちゃんとアタシを満足させるもの買ってきなさいよ!


……


 11月といえど、午前11時にもなるとそれなりに暖かかった。それでも自転車を斬りつける向かい風は寒かったが、背中からは確かな温もりを感じた。


   ふう、やっと家に着いた?チャリという乗り物はやはり不便だわ。お尻痛あ~~

   じゃあ、早速朝ごはん作っていきましょ。外から帰ってきたらまずは手を洗ってっと。……よし。はい、食パン、クラッカー、そして……ドーン!



パカっ

巣 ご と 食 べ れ る や つ !!!!

   ん?また見たことない食べ物だ。キサマ、さっき何て言ったの?

   あ、だから、巣ごと食べれるハチミツ。くっそ高えけど、これ一回は食べてみたかったんだよな~。ほら、私ってお嬢様で通ってるし。

   それは知らないわよ……いやそんなことより、え!?人間って蜂蜜を巣ごと食うの!?何の意味があって!??バカじゃない!??!!??!?

   それはそうだけど、そんなこと言ってもなあ。それに、そんなこと言ってたらまず虫の唾液を蜜としてありがたく食べてることから疑問視しなきゃならないし。ようは、人間は食べられるなら何でも食べてきたというだけに過ぎない。それが虫の唾液だろうが虫の家だろうが関係ない。

   なんて野蛮なの…………

   だが……(チラッ)

   ……ごくっ

   ……ほら、この所狭しと詰まった黄金を見てみなさいよ。バターナイフでこの宝石箱をざく、ざく、と心地よく切り取って、カリッカリに焼いたトースト、サックサクのクラッカーに乗っけると、それはもはや“奇跡”でしかない。口に放り込む、貪り嚙む、すると途端に蜜蝋の枷からあふれ出した甘美で官能的な蜂蜜が全ての味蕾を喜ばせ、そしたらもう……

――チン

   ああ、トーストが焼けたらしい

   は、はやくアタシにも食べさせなさいっっ!!!!


ナイフ、挿入!!!!

   見事な輝きだわ。魔族とドラゴン族が完全な和平を結んだ証に作られた “魔界に2つしか存在しない金印”、それを彷彿とさせる……。

   その金印は見たことないが、それは言い過ぎだろ。……私はまず、クラッカーから行こうかな。

   アタシにはカリッカリのトーストを寄越すのよ!


これは黄金であることを認めざるを得ないわ…
破壊と創造がこの小さな世界の上で繰り広げられているわ!
この神秘的な営みに早く私を関与させなさい!!
クラッカーには少量乗せればいいよね
…それでも強力な存在感を感じるぜ
ものすごい粘度だ。
これほどエネルギーの高いものをおれは理解してやれるだろうか?



「「いただきます!!!!」」
 二つの声が重なった、次の瞬間…二人は“それ”を堪能した。











 この後、ピュアドーンちゃんは67年ほど人間界に滞在した。