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9/11 『不死鬼 源平妖乱』を読んだ

面白かった。

初めて読む作家。
そもそもはこのシリーズの第2作目である『源平妖乱 信州妖血城』というのを見かけて、名前に信州って入ってるし面白そうだなと思ったら2作目だったので、じゃあ1作目から読むかと共に手に取った次第。

平家物語とか、源平時代に関しては人物もエピソードも有名どころしか知らないので、ちゃんと楽しめるか不安な思いもあったが、のっけから「今昔物語などの昔話には吸血鬼とおぼしき怪異が日本列島を跋扈していた……これは中世ヨーロッパに先んじて日本でも吸血鬼と人との戦いが繰り広げられていたのでは⁉」なんて言ってくるので、「これはきっと大丈夫だ」というある種の信頼が最初から築かれて、終始楽しんでいくことができた。
主人公が源義経という大メジャーどころであったことも有難かった。今巻で描かれるのはその少年期で、彼が歴史に名を挙げる以前、平家全盛の時代がどういうものであったかということも描かれているので、これは意外と本当に源平時代入門作品としてお手頃であったかもしれない。エンタメでありつつ程よく学ぶこともできる。
さらにもう一人の主人公、静という名の少女だが、明言はされないがおそらくやがて静御前となる人物だろう。これがまた僕にとって、名前は知ってるけど具体的な素性やら最終的にどうなったのかまでは知らないという絶妙な立ち位置のキャラクターで、いい緊張感をもって物語の道行きを追っていける素晴らしいナビゲーターとなってくれた。具体的な素性がわからないから、人と吸血鬼のハーフであるという設定ももしかしたら史実通りかもしれない。
その他出てくる登場人物も、ちょろっと調べてみると意外と史実に(あるいはモチーフとなった先行作品群に)出てくる名前が多く、吸血鬼という特大の伝奇要素と史実の要素をたいへん巧みに絡め、編み上げているだろうことがうかがえる。源平入門作として楽しめているが、もしこの時代に詳しかったらその喜びは更に跳ね上がっていたかもしれない。
たとえば、対吸血鬼の秘密組織の一員としてさらっと登場してくる静と同年代の少女、巴。これは僕でも知っているし、知っているからこそ「まさかここで、こういう登場の仕方を!?」と驚きとともに興奮するわけだ。こういう要素がふんだんに仕込まれているのだろう。
そんでこの巴がまた魅力的なキャラクターで良い。人間の身でありながら平然と吸血鬼と渡り合っているし、しかもそれに特に理由が無い。静は吸血鬼の血が入ってるから、義経だって山で鬼一法眼に鍛えられたから、など強さの由来があるのに、巴は特に無い。「原典がそうだから」つったらまあそうなんだが、何にせよ最高だ。信州が舞台となる次巻ではきっとバリバリに活躍してくれることだろう。その更に後は、ちょっと怖いが……。

また、木々や花々の描写、それと身に着けている着物の柄などの描写がやけに詳しく描かれているのが特徴的。吸血鬼に吹っ飛ばされて身体を打ちつけた樹の種類とかまで書かれたりする。それによって一種の時代感などを醸し出しているのだろうし、もしくは作者の頭の中で相当克明に情景のビジュアルが描き出されているのだろう。映像化を見越しているのかもしれない。

静の父・熊坂長範との決着と決別や、義経と平重盛との二世同士のやりとりなども良かった。当初の目的だった次巻『源平妖乱 信州妖血城』へも万全の期待をもって臨めることだろう。

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