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共通戦術装輪車の試作車に詳しくなれるnote

Twitterでの目撃報告が増え、2022年12月に決定した次期装輪装甲車(パトリア AMV)と合わせて話題となることが多い共通戦術装輪車。この共通戦術装輪車について「少し詳しくなれそうな」noteです。

本当は「完全解説!」とかやりたいのですが、とても出来ません。あくまでも興味の入り口にして頂ければと思います。


共通戦術装輪車って何?

簡単に共通戦術装輪車とは何か見ていこうと思います。
まず、1つおすすめの記事があります。

肝心な部分は有料なのですが、100円で直接購入できるのでぜひ。
簡単に言うと共通戦術装輪車は「16式機動戦闘車(MCV)と連携して敵の撃破や敵情の解明をする」ことが役割となっています。

また、岩本三太郎氏が公開されている軍事情報アーカイブ(通称大火力リークス)の中で見られる平成28年度装備開発(改善)要求書(63ページ)には


戦闘部隊、戦闘支援部隊等に装備し、機動戦闘車等と連携した火力発揮による掩護、情報収集及び敵人員、軽装甲車等の制圧及び撃破のために使用する共通戦術装輪車を開発する。


という開発目標の記述があります。共通戦術装輪車にはMCV等と協力した戦闘・偵察といった役割が求められていることが分かります。

実は小松案も

目撃されている車両はこのように三菱重工製の16式機動戦闘車をベースにしたような車両となっています。

しかし、当初共通戦術装輪車は「MCVを基にした車両」以外も提案されていました。共通戦術装輪車はMCVと連携することが目的の装備であり、MCVと共通化することが目的ではないということです。
共通戦術装輪車には「システム設計A」と「システム設計B」の2つの案が存在し、前者は三菱重工がMCVを基にした車両を、後者は小松製作所が装輪装甲車(改)を基にした車両を提案しています。なお、装輪装甲車(改)の事業中止に伴って「システム設計B」は消え、その後は三菱が共通戦術装輪車に関わり続けています。
それぞれの仕様書や開発調整会議での各社の説明資料軍事情報アーカイブに公開されています。 

小松が「システム設計B」で提案した車両の外観は分かりませんが、ここ数年の総火演で狙撃用の標的になっている車両の絵がそれなのではないかと噂されています。

令和5年度富士総合火力演習より

さて、ここからは共通戦術装輪車の3車種についてそれぞれ見ていきます。

歩兵戦闘型(ICV)

平成28年度装備開発(改善)要求書には、「MCV等と連携した火力発揮によりその行動を掩護するとともに、乗車戦闘を主体とした敵部隊の撃破に使用する」とあります。

仕様書等によると
・車長、操縦手、砲手が各1人、後部乗員が8人
・武装はMk.44 30㎜機関砲とMk.52 7.62㎜チェーンガンを無人砲塔に搭載

となっています。

共通戦術装輪車にはMK44とMK52が搭載される事がわかる

Mk.52 7.62㎜のチェーンガンというと聞きなじみが無い方も多いかもしれません。

MK.52チェーンガン(NavWeapsより引用)


チェーンガンということで、MCV等に搭載されている74式車載機関銃等の一般の機関銃と異なり、燃焼ガスや反動を利用せず機械の力で装填と排莢を行います。無人砲塔での安定した射撃のために採用されたのかもしれません。

配備先は?

機動戦闘車との連携、乗車戦闘というキーワードから即応機動連隊の普通科中隊への配備が考えられます。ただし、全ての普通科中隊(小銃小隊)へ配当されるのか、或いは第1普通科中隊のみに配備されるのかなどの詳細は現時点(2023年9月)で不明です。
全ての普通科中隊に配備されれば強力ですが、予算・運用人員の制約などから第11普通科連隊のように歩兵戦闘車(共通戦術装輪車)と装甲車(パトリアAMV)が混ざった編成も十分に考えられます。

仕様書より引用

偵察戦闘型(RCV)

平成28年度装備開発(改善)要求書には、「機動的な運用により情報収集を行うとともに、MCV等の戦闘に際しては、即時に利用可能な情報の共有、搭載火力の発揮等により密接に連携する。」とあります。

仕様書等によると
・操縦手、監視員、斥候員、車長、砲手が各1人
・武装はICVと同じものを有人砲塔に搭載
・2種類のカメラ及びレーザー測遠機が搭載された監視装置と衛星通信アンテナの搭載
となっています。

またTwitterに投稿されている画像を見ると、後部の扉には73式装甲車に見られるT字型の銃眼らしきものが確認できます。

配備先は?

機動戦闘車との連携、情報収集というキーワードから主に偵察戦闘大隊への配備が考えられます。また、現有の87式偵察警戒車を代替するのであれば、全国の偵察隊への配備も考えられます。そうなれば機動戦闘車の配備されていない第7師団第15旅団への配備も考えられます。
即応機動連隊内の情報小隊への配備という可能性もありますが、情報小隊の部隊規模からして、その可能性は低いのではないかと筆者は考えています。

仕様書より引用

2024年5月追記
RCV型に搭載される衛星アンテナが変更される可能性が出てきました。

富士学校 公募より

上記の画像のにある通り、「共通戦術装輪車」第11次試験(その2)において新たな衛星通信機材の検討が行われることが判明しました。

詳しく見ていくと、検討されている新たな衛星通信機材はいずれも「Kymeta」社製の
Hawk u8
Osprey u8
であると分かります。
(正確には上記アンテナ「相当」ですが)

Kymeta Osprey u8(Kymeta HP)

二つの製品はほぼ同等の性能ですが、Osprey u8の方が軍事用途に向けた製品となっています。

陸上自衛隊富士学校公式Xより

なお、Hawk u8については2023年9月に富士学校公式SNSから投稿された画像に映っており、以前から防衛省として検討、もしくは企業からのアプローチのあった装備品であることが分かります。

令和6年度防衛省予算において共通戦術装輪車の中で唯一予算化されなかったRCV型ですが、今後も検討作業が続いていくものと考えられます。


機動迫撃砲型(MMCV)

平成28年度装備開発(改善)要求書には、「各種事態に際して、MCV等の広域及び迅速な機動に連携し、敵人員、軽装甲車等を制圧及び撃破するために使用する。」とあります。

仕様書等によると、乗員は車長、照準手、操縦手、砲手、弾薬手の5名で構成されるようです。搭載する迫撃砲はフランス製の2R2Mです

仕様書より。現在陸自が使用する120㎜迫撃砲弾を使用できる。

こちらは半自動装てん式の迫撃砲で、ターンテーブル等によって砲の向きを自動で調整することも可能です。自走迫撃砲といえば自衛隊で96式自走迫撃砲を運用していますが、MMCVはこれよりも高度なものと言えそうです。

配備先は?

MCVの機動に連携して、という点から即応機動連隊の火力支援中隊への配備が予想されます。自走迫撃砲と言えば第7師団の第11普通科連隊に96式自走120㎜迫撃砲が配備されていますが、こちらの代替装備とはならない可能性が高いと考えられます。

仕様書より引用

各車種の三面図を引用していますが、Twitterでは多くの高画質の試験車両の画像が投稿されています。仕様書から外観が変更されている部分もあるので、外観の特徴はTwitterの画像を見ると分かりやすいと思います。

共通戦術装輪車の先祖?

改めておさらいすると、現在試験中の3車種はいずれも機動戦闘車(MCV)と共通性のある車両でした。
この「異なる車種を同一の車両から派生させ、共通化した装甲車を開発する」という考え方は共通戦術装輪車の開発前から防衛省内にありました。

将来の装輪戦闘車両

これは「総合取得改革推進プロジェクトチーム」「統合運用の視点に立った装備品取得について」と言う資料で掲載されたものです。8種類のハッチ型の装甲車からキャブ型のトラックまで、駆動装置等の共通化を行おうという野心的な構想です。こういった構想のみならず
・将来装輪戦闘車両の研究
・近接戦闘車用機関砲システムの研究
等が実際に行われました。これらは政策評価のページ等から確認できます。

将来装輪戦闘車両の研究で試作された車両

しかし、16式機動戦闘車や19式155㎜装輪自走りゅう弾砲の採用を見てわかるように、この構想は実現しませんでした。
しかし、これら一連の研究や検討を通し「共通化のメリット・デメリット」や「どの車種を共通化すると効率的か」という一定の結論が得られたのかもしれません。それが装輪装甲車(改)やその後の次期装輪装甲車選定、そして共通戦術装輪車に開発へとつながったのだと思います。

装輪装甲車(改)

先ほどから名前が上がっている装輪装甲車(改)ですが、こちらにも触れておこうと思います。
装輪装甲車(改)は平成26年に試作を開始し、平成30年に終了する予定でした。しかし、平成29年に延期が発表され、平成30年に事業は中止となりました。

防衛装備庁Webアーカイブより

小松製作所によって製造された本車両ですが、ファミリー化を念頭に置いた車両となっています。
・標準型(人員輸送ユニット)
・指揮通信型(通信ユニット)
・施設支援型(施設ユニット)

が用意されました。

防衛装備庁Webアーカイブより

特徴として後部がモジュールとなっており、ユニットを載せ替え可能な構造となっています。ドイツのボクサー装甲車と同じような考え方で、より各車種の互換性が考慮された形になります。

共通戦術装輪車やパトリアamvはベース車両を共通としつつ、各タイプの車両はそれぞれ独自のものとなっており、その点で異なっています。

実は三菱案も

この装輪装甲車(改)ですが、三菱も調査書を提出しています。そこには機動戦闘車を元にしたと思われる幅2.98mのO-1案と2.7mのO-2案が記載されています。
また、小松も同様に調査書では車幅が異なる3つの案を出しています。それらの中から1番車体幅の狭い小松の2.5m案が選ばれたようです。

装輪装甲車(改)の調査書(三菱)より

次期装輪装甲車

次期装輪装甲車(人員輸送型)の車種決定についてより

装輪装甲車(改)が中止され、その後改めて装輪装甲車の調達に関する選定事業として開始されたのが「次期装輪装甲車」となります。
選定の結果、2022年12月に次期装輪装甲車としてパトリアAMVが選ばれたと発表されました。次期装輪装甲車も装輪装甲車(改)同様にファミリー化が予定されています。次期装輪装甲車(対爆技術)の研究試作という仕様書によると、次期装輪装甲車では人員輸送型/患者輸送型/指揮通信型/施設支援型/兵站支援型のバリエーションを検討していることが分かります。
この内、指揮通信型については参考品の輸入予算が計上(令和5年度調達予定品目 輸入調達官(2ページ目))されています。

機動装甲車

次期装輪装甲車の参考品として、共通戦術装輪車と同じくMCVと共通化された「機動装甲車」が調達されています。防衛省の資料によると「MAV」(Mobile Armored Vehicle)となっていますが、過去のDSEI等で登場した「MAV」(Mitsubishi Armored Vehicle)とは前照灯の形状や排気口の位置など一部仕様が異なっていることに注意が必要です。

機動装甲車(令和5年度概算要求の概要より)

この "共通戦術装輪車と同様に" MCVと共通化されている機動装甲車が落選したことを受け、「共通戦術装輪車の採用の可能性が無くなったのではないか?」という声も聞かれました。しかし、装備開発(改善)要求書に共通戦術装輪車が登場した平成28年はまさに装輪装甲車(改)の事業(平成26年試作開始)が進行中の時期でした。

令和6年度概算要求に共通戦術装輪車が掲載されたことからも分かる通り、装輪装甲車(改)と共通戦術装輪車の2本立てという構造は、今でも形を変えて引き継がれていることが分かります。

複雑怪奇な装輪装甲車事業

そもそも、試験中の装備や装備化に至らなかった装備・構想などを詳しく知る機会は中々ありません。またメディア関係者でなければ情報を得られる機会はかなり限られます。

共通戦術装輪車は
「なぜ装輪装甲車の調達が2つに分かれているのか」
「近接戦闘車や将来装輪戦闘車両との関係は?」
「MCVや三菱が開発したMAV等との関係は?」
等々、疑問が絶えない装備品かもしれません。

これからも出来るだけ追って行きたいですし、皆さんで注目していきたい装備の一つです。


2024年5月追記
令和6年度予算において歩兵戦闘型と機動迫撃砲が、それぞれ24両、8両計上されました。
RCV型は予算化されませんでしたが、正式に共通戦術装輪車が装備化される運びとなりました。

令和6年度防衛省予算の概要より

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