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12式「短距離」地対艦ミサイル[月末雑語り]

12式短距離対艦ミサイル?


先日、このような記事を見かけました。
US army commander highlights Japan's preparations for Taiwan Strait conflict | Taiwan News | 2023-04-21 15:11:00

この記事は台湾情勢における日本の役割をウクライナでの戦争と比較して論じているのですが、この中で面白い記述を見かけました。

” Type 12 short-range, anti-ship missiles are reportedly on Miyako Island”

直訳すれば「12式短距離対艦ミサイルは宮古島にあると伝えられている」となります。
12式地対艦誘導弾の英語名は“Type-12 Surface-to-ship Missile”ですので、これはあくまでも12式SSMを簡潔に説明した文章なのだと思います。

しかし簡潔に説明した結果、12式の射程が「短距離」判定になっているのは興味深い気がします。

「短距離対艦ミサイル」って…なに?

違和感の原因は、そもそも対艦ミサイルを射程ごとにカテゴライズすることが一般的ではない事にあると思います。

対艦ミサイルの射程は?

対艦ミサイルには様々な射程のものがあります。例えば

12式地対艦誘導弾 射程150〜200km
YJ-12B  射程400〜500km?

YJ-12B(http://www.military-today.com/missiles/yj_12b.htm)

※射程は飛翔高度によって大きく変わり、そもそも正確に公表される物でもないので実際の所は分からない物です。

中国のDF-21DやDF-17など、所謂「対艦弾道ミサイル」と呼ばれるものは射程が数千キロにもなります。逆に対戦車ミサイルの派生型など、所謂「対舟艇ミサイル」と呼ばれるものは射程数キロ〜数十キロの物もあるなど、対艦ミサイルの射程は様々あります。

対空ミサイルだと・・・

対艦ミサイルを射程ごとに分類する方法はあまり聞きませんが、地対空ミサイルだと射程ごとの分類方法をよく耳にします。

・高・中高度防空用システム(HIMAD)ー射程30km前後~
 例)03式中距離地対空誘導弾、パトリオットミサイル
・短距離防空用システム(SHORAD)ー射程10km程度
 例)11式短距離地対空誘導弾、9K330トール
・近距離防空用システム(VSHORAD)ー射程数km程度
 例)93式近距離地対空誘導弾、AN/TWQ-1 アベンジャー防空システム

11式短距離地対空誘導弾(Wikimedia commons)

無理やりこういった基準に対艦ミサイルを当てはめると、
・長距離対艦ミサイル ー射程1000km以上
 例)トマホークblock5A
・中距離対艦ミサイル ー射程500km前後
 例)JSM
・短距離対艦ミサイル ー射程200km前後
 例)12式地対艦誘導弾
・近距離対艦ミサイル(対舟艇ミサイル)
 例)96式多目的誘導弾システム

と分けられるかもしれませんが、なかなか見慣れない違和感のある分類のように感じます。

なぜ射程ごとの分類がされないのか

実際には語訳として「短距離対艦ミサイル」という言葉が登場することもありますが、やはり「分類」として定義がある訳ではなさそうです。一方、地対空ミサイルには大まかではありますが定義が存在し、分類がなされます。この違いが生じる理由を考えてみます。

地対空ミサイルシステムの整備には「防空コンプレックス」という概念が存在します。様々な射程の対空火器を重層的に配備し多層的な防空システムを構築することで、強固な防空網を構築することが出来るという考え方です。つまり、「大は小を兼ねる」とは言い切れず、「短い射程そのものに価値がある」と言えます。
対空戦闘の速度、地形、レーダー覆域、ミサイルの最短射程・機動性など、様々な要素からこういったシステムとなっています。

一方で、対艦戦闘ではどうでしょうか。基本的に戦場は何もない大海原で、水平線までレーダーで見渡すことが出来、大抵の対艦ミサイルは水平線より遠くまで飛んでいきます。そういった戦場を考えたとき、対艦ミサイルの射程はミサイル本体・発射機の大きさとのトレードオフ要素の面が大きくなり、「短い射程そのもの」に価値を付けづらいのだと思います。

もちろん、沿岸域での戦闘場面など「大きく高価格で長射程のミサイルを使っていられない状況」は容易に発生し、それが対舟艇ミサイルの需要を生み出しています。しかし「防空コンプレックス」かのように、多種多様な射程の対艦ミサイルをそろえておく必要性は、地対空ミサイルのそれと比較すると小さいでしょう。

96式多目的誘導弾システム(Wikimedia Commons)

こういった理由から、対艦ミサイルには兵器の分類として細かく射程で区切る方法が採用されないのではないでしょうか。

対艦ミサイルの「多様性」

対艦ミサイルは発射プラットフォームの違いだけでなく、用途・飛翔の様子の違い等さまざまな違いがあります。亜音速か超音速か。ステルス性があるか。対舟艇か対艦か。弾道飛行をするか。

もちろん、条約や今日本で起きている議論などにおいて「射程」も重要な要素です。一方で「兵器としての特徴を捉える」という作業において、「射程」という要素の比重はあまり重くないのかもしれません。

兵器に紐づけられる言葉からその兵器がどのような性質を持つものなのか、考えてみるのも面白いかもしれませんね。(無理やりなまとめ)


ヘッダー画像(File:Type 12 (AShM) firing, Japan GSDF.jpg - Wikimedia Commons


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