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陸自とEABO

※以下、筆者の雑感であり正確性は担保されていません。


前提 島嶼とは要所

 前提として、海上における戦闘を有利に進めるためにはその付近の地上(沿岸や島嶼部)を確保しておく必要があります。平原にある小高い山と近いでしょうか。
 反斜面陣地を作って敵に砲弾を浴びせるもよし、頂上にレーダーや観測所を置いて戦場を見渡すもよし。同様に沿岸や島を確保しておけば、そこから火力の投射や監視を行うことが出来ます。

 一方で、島嶼部を守るためには周辺海域の優勢は不可欠。補給がなくなればジリ貧まっしぐら。地上と海上はそれぞれ相補的な関係になっているわけです

 島を守るためには海を守り、海を守るには島を確保して、その島を...面倒くさいですね。

EABO

 海兵隊の最新の作戦術であるEABOですが、これに関連した訓練を日本でも頻繁に行っており、陸自との合同演習も盛んです。地上戦力の運用という観点からEABOを大雑把に把握していきます。

EABOとは何ぞや

 何ぞやといわれても困るんですけど。EABOが必要となった一つの大きな理由は「野心的な地域大国(中国とか)の台頭と長射程兵器の拡散によって、従来の基地や大型装備に依存した戦力投射が難しくなったこと」にあります。遠征作戦、遠地への戦力投射能力はアメリカという国にとって重要であり、それが不可能となるとアメリカのプレゼンスは一気に低下してしまいます。
 これを解決するために海兵隊が行うのがEABOとなります。平時ではないが「紛争が始まる前」(Pre-Conflict)に海峡などの重要な海域の近くに展開し、前進基地(EAB)を開設してその地域を敵が利用することを拒否する、というのが基本的な立て付けとなります。重要なのは「紛争が開始する前」と言う点。敵が先んじて島嶼などを抑えてしまえば、そこにISRアセットやSSMなどを配置され、以降その周辺に艦隊が接近することが難しくなります。

EABOの目的

 端的に言えば、EABOとは「海軍のための作戦術」になります。海軍が目的の海域でその力を発揮するには、事前にその周辺の地上を押さえておかなければならないのです。相補的な関係ですね。
 しかし、EABを開設した海兵隊が単独で敵艦隊を海底に沈めるような必要はないのです。それは海兵隊が開けておいたドアを通ってきた海軍の仕事です。このように、地上部隊自身が攻撃しなくとも地上部隊が所定地域を占領することで間接的に海軍を支援することを「間接的支援」とでもしておきましょう。逆に、地上部隊が対水上作戦で積極的に攻撃することを「直接的支援」とします。

 海兵隊が実施できるHIMARSによる対艦攻撃はその範囲が非常に限られます。NEMESISや地上配備トマホークの計画等ありますが、現状海兵隊が実施できるのは「間接的支援」にとどまるでしょう。しかし、その「間接的支援」こそEABOの最大の目的といえるでしょう。

EABOの手段

 手段に関しては、現在もまだ定まっていないようなので大雑把な話になります。基本的にはF-35B等の運用や物資集積の為の前方基地の開設や対艦攻撃を行う小部隊を複数編成し、C-130や計画中の小型輸送艦で頻繁に移動しながら領域を確保することになります。海兵隊が戦車を全廃するという報道は記憶に新しいですが、前述したように「紛争が開始する前」に行動することが前提であるため、重戦力による突破よりも身軽さのほうが重要視されているわけです。
 小規模な部隊を機動させて敵の長射程兵器から防護しつつも、全体としてはその役割を果たす。これがEABOの目指すところなのではないかと思います。

陸自と島嶼防衛

 陸自というか自衛隊が直面している南西諸島の島嶼防衛。詳しいことは防衛白書(防衛省・自衛隊|令和4年版防衛白書|1 島嶼部に対する攻撃への対応  (mod.go.jp))等読んでいただければと(投げやり)。ここでは前述したEABOと絡めながら簡単に比較したいと思います。

島嶼防衛の目的

 本質的には「国民の生命及び財産を守ること」ですが、ここでは一旦おいておきます。EABOと同様に陸自が島嶼部を確保し続けることで海自の活動が容易になり、日本の生命線であるシーレーンを確保しやすくなります。地上と海上の相補的な関係は南西諸島でも同様で、陸自は海自を間接的に支援しているといえます。12SSMの射程では間接的支援にとどまりますが、今後さらに射程の長い誘導弾が採用されれば直接的支援も可能になりますし、対艦打撃力の主力となりうる可能性もあります。

 少し話がそれましたが、中国がどこかの島を占拠してしまえば、日本のシーレーンの安全は脅かされ、周辺海域や占拠されていない他の島での自由な活動さえ阻害される恐れがあるわけですね。

 海兵隊、陸自は共に対中で重要になる海洋での戦闘を有利に進めるため、中国の長射程兵器の射程圏内であっても活動することが求められています。この「敵勢力圏内で生存し、持久する部隊」はStando In Forceとよばれ、EABOを担う海兵隊部隊と島嶼防衛を担う陸自で共通した概念となっています。

島嶼防衛の手段

 EABOでは「紛争が開始する前」に行動を開始することがうたわれていますが、陸自も同じ戦術をとることが明示されています。海兵隊と異なるのは、「緊張が高まっているが衝突が発生していない状況」になって展開する部隊は地上戦闘を担う「近接戦闘部隊」だという点です。即応機動連隊を優先して展開しつつ、時間的に可能であれば機動師団が丸ごと展開する可能性もあります。お世辞にも「コンパクトで軽快な部隊」とは言えないでしょう。
 対艦戦闘を行うSSM部隊やそれを防護する高射部隊は既に島嶼部に配置されています。奄美大島、沖縄本島、宮古島に駐屯地が開設され、石垣島にもまもなく駐屯地が完成します。防衛省が示す運用図から、SSM部隊を近隣島嶼に分散する意図をくみ取ることは出来ます。

発射機、レーダーなどが複数の島嶼に展開している様子がわかる(防衛装備庁HPより)


一方で、島嶼間機動に適さない近接戦闘部隊の展開や主要な島嶼にはSSM中隊をまとめて配置する戦略は、海兵隊が目指すそれとは少し異なっています。

 島嶼(=海洋戦闘における要所)を地上部隊で占拠(=敵が利用できなく)することで海上戦闘を有利にし、全体を有利に進めるという目的は同じだが、そのための手段が日米間でやや異なるという認識をしています。

 なぜ日米間でこのような差異が生じたのか?様々な要因が考えられますし、完全な予想にはなるのですが...

なぜ事前にSSMやSAMを島嶼部においているのか?
→緊張が高まってからSSM・長射程SAMが必要なる状況になるまでの時間が短い。その短い期間で奄美~石垣までの広大な領域に1個地対艦ミサイル連隊+1個高射特科群規模を展開するのは難しい。しかし、自国領域内なので平時から展開が可能だから。

なぜ近接戦闘部隊は事前配備しないのか?
→必要とされる1個師団級の戦力を配置すると、狭い島嶼内では部隊の練度維持に支障が出るほか、陸自全体の量的に他地域の防衛・災害派遣対応等が難しくなるから。

なぜ大規模な近接戦闘部隊を島嶼に展開するのか?
→敵がその島嶼の領有自体を意図していた場合、大規模な再奪還作戦が必要となる。そのため仮に敵の上陸作戦の開始を許したとしても防衛戦闘を行う必要がある。また、敵戦闘機や潜水艦が活動する中、自由に島嶼間機動を実施できるか不明であるため。

・・・といった感じでしょうか。

最後に


 日米間で目的達成のための手段・方法は少し異なりますが、その目的は一致しているといって良いでしょう。地上戦力と海上戦力がそれぞれ相補的な関係になっているのと同じく、陸上自衛隊と海兵隊も互いを補いつつ、同じ目的のために戦える能力の獲得を目指しているのでしょう。

おまけ

 戦力の分散と集中の話が出ていたのでいろいろと書いたわけですが、南西諸島の地理条件を見ると分散自体が意外と難しいんですよね。

宮古島沖100kmのある地点を中心とした半径150kmの円

 例で示した宮古島沖100kmにいる敵艦隊を射程150kmのSSMで叩きたいとき、その地点を射程に収められる島というのが宮古島・多良間島・石垣島くらいなんですよね。そして、石垣島・宮古島にはそれぞれ1個地対艦ミサイル中隊が配置されている(予定)。分散させ切っているともいえるし、配置できる分は配置しきっている、集中させているとも言えるのではないでしょうか。機動・分散というよりは「置けるところには予め置いておく」という思想が見え隠れしている気がします。脳筋じゃん



見出し画像 陸上自衛隊公式Twitterより(https://twitter.com/jgsdf_pr/status/1576861630255624193?s=46&t=9r9Mhpf7b5-MvWo0YF1Plw)


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