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遠野物語 柳田國男 文語体の好もしさ

遠野物語はそのうち読もうと考えながら結局Audibleで聴くまで手につけられなかった。

理由は文化人類学上決まったパターンの系譜が繰り返されていることによって、ストーリーテリングが好きな自分は飽きてしまう気がしたから、と言うことなのだが
これがAudibleだと心地よい文語体の連続になる。正確には文語体の話し言葉と言うべきか。

私が1番面白かったのは、とにかく山の上には異形のものが住むと言う伝承の数々だ。また、それらを彷彿とさせながら気配しかないマヨイガ(迷ひ家と書くのか?)
の話と物語の最後を飾るめでたい歌の数々だ。

ことマヨイガは、立派なお屋敷だったり見たことがないお道具があったり、明らかに誰かが先ほどまでいたような気配があったり、けれど次にそこを目指すときにはもう見つからなかったりと。

何らかの理由で山奥で暮らさなければいけなかった種族の家なのか、こっそり財産を隠していたのかと想像を巡らす。

ポイントはマヨイガに行った人間は道具を1つ持ってきていいと言うのだ。その道具で何らかのラッキーが起こるのだが、持ってきた方は嬉しいが持ち帰られる方が困っただろう。なんとも都合が良い話なのだ。

最後の歌は、これだけ遠野物語の様々なエピソードを聞いた挙句に徹底して村の相手の家を褒め倒す内容だ。

結局狭い地域の中で教訓をどのような形で伝えても、最後は相手の持ち物も家も誉めそやし、寿ぐ気持ちが大事なのであると締めくくられているようだ。お互いを尊重すると言うことか。

豊かな自然と口伝の入り混じった未開の時代に、それでも確かに人の集落はあって、人は人以上の存在を認めている。

口伝が少なくなった今は幸せだろうか?果たして私たちは自分たちと違う存在を山の上に追いやったり、囲ったりしていないだろうか?残念ながら根本はあまり変わっていない気がして、今は山も謎もロマンも手に入らない分、どこかぶつかり合ったり、変に距離を取ったりしながら日々暮らしている気がしたのだった。

ちなみに青空文庫から全文が読めます!
語感も独特なのでぜひ楽しんでみてください!
https://www.aozora.gr.jp/cards/001566/files/52504_49667.html

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