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一世一代の覚悟

歌舞伎座の第3部に片岡仁左衛門さんの一世一代がかかっていたので、3日ほど前に思い立って観に行く。一世一代とは、その演目のその役を演じおさめですよ、という意味。
ここ数年、仁左衛門さんは一世一代で役を閉じていくことが多く、さびしいのと同時に一緒に舞台を生きられることの尊さ、はかない喜びを感じてしまう。
特に昨年演じた演目では「さらば」と言いながら血みどろで死んでいく様子に、まるで舞台に別れを告げるような凄みを感じて涙が止まらなかった。
それだけにまた違う一世一代を見られるのはうれしいし、いつも大事に時間を重ねていこうと思う。
今回は1人二役、どちらもかなりの悪で色気もすごい。声量だけはさすがに少し年齢を感じたけれど、立ち姿、振る舞いの美しさ。型が歳月の重みを支えて役者としてのその人を助けている。演目としてはかなりドラマチックだし、なんと言っても1人二役の驚きが楽しい。
1時間以上演じ続けて、見る側でも体力がいるのに、そのパワー。
一回一回、大事に。一度きりだから、その日その場かぎりというお芝居の特性を改めて感じた。この舞台で過ごした時間ほど、私は毎日、その場を生きていないのかもしれない。そう改めて思って、これからもっと一日を大事に生きよう、と真面目に思って歌舞伎座をあとにした。

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