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ピアニストの本領

何を隠そう、私の二次元の初恋!?は、ピアニストのエフゲニーキーシン。くるくる頭で透きとおるような肌と、ちょっと物憂げな横顔。ピアノに向かう姿が、子どもの頃の私の気持ちを捉えたのでした。
時は過ぎて、ちょうどほぼ一年前、50歳になったキーシンのリサイタル。長く活躍するのもなかなか難しいピアノの世界で、きっとたくさん努力して、傷ついて、幸せなこともたくさんの別れも経験してきたんだろうな、と思わせてくれる音を聴かせてもらいました。
かつて少女だった私にとっては、ある意味では片思いの成就。お互い頑張って生きてきたんだね…と、肩を叩いて抱き合って喜びたい気持ち。音の中に生きざまが溶け合って、すばらしい演奏でした。
と、振り返ってしまうのは、先日、マルティンガルシア=ガルシアくんのリサイタルに行ってきたから。ショパンコンクール3位入賞で脚光を浴びて、形はちょっと違うけれどデビュー当時のキーシンを思い出す人気ぶり。きっといい子なんだろうな、と思うような、まん丸な音がころころ転がり、連なって真珠になる。そんなイメージを抱かせる音楽で、聞いている私も洗われるようでした。なぜか途中で涙が流れてしまったりもして…サラサラ流れるきれいな小川のようなピアノ。
でも、ちょっと心配なぐらいアンコールの回数も多く、観客も浮き足立つような空気があり、コンサートの場の雰囲気としては、にぎやかな感じ。鮮やかにあらわれたスターとしての扱いの中で、音の世界を保つのもちょっと大変なのかな、と勝手に気になってしまった。
キーシンが、途中ピアニストとしては地味な時期(そうでもない?でも、超一線級と比べたら、そう感じてしまう)もあったりする中で、揺るぎなく耕してきたものを思うと、ガルガルくんもがんばれ!とエールをおくりたい気持ちに。
ピアニストは、自分の世界を見せるだけじゃなく、聞いている人を連れ出して、その音の中に旅をさせてくれるからこそ、憧れるし心惹かれるのだと感じる。キーシンが長い時間かけて、それを見せてくれたことを思うとなんともせつなく、あたたかい気持ちになる。
ガルシアガルシアさんもこの先、どんなふうに生きていくのか、また聞きたいな、と思います。

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