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シカゴ14を再評価してみる

Facebook のシカゴを語るスレッドで、意外にシカゴ14はいいぞという声がありました。そういえばかつてシカゴ14のアルバムをカセットテープにダビングしてたまに聞いていたなと思いだしました。Where Did the Lovin' Go や Hold On といった力強い曲が印象的で、ほかの曲もそんなに悪くなかったように覚えていました。

今は便利になったもので、Spotify 等のストリーミングサービスを使えばこういったアルバムをすぐに「復習」することができます。早速通して聴いてみると、全体としてテリー・キャスとロバート・ラムがホーンセクションを率いた1970年代から、デビッド・フォスターをプロデューサーに迎え、かつビル・チャンプリンが加入して、AOR およびバラードへの路線に変更する80年代への一つの通過点として悪くない作品だと思いました。1980年リリースの本作が、その後の80年代のヒットアルバム、シカゴ16や17へのまさに橋渡しのアルバムとしてよくまとまっています。

本アルバム一曲目の Manipulation (マニピュレイション) はロバート・ラムがリード・ボーカルを務めるリズミカルな曲です。テリー・キャスが亡くなった後、ロバート・ラムの各作品がどうもパッとしないのはやはりテリー・キャスの抜けた穴が大きいと思わせるものばかりでしたが、本作はそんな喪失感もなく、力強いロバート・ラムの歌声がホーンセクションをリードしています。ギターの調子もよく、これがテリー・キャスのギターだったら完璧なのにと思わせるような仕上がりぶりです。

Upon Arrival (アポン・アライヴァル) はピーター・セテラの持つハイトーンの声が、牧歌的でノスタルジックな雰囲気を醸し出す曲調とよくあっています。ピーター・セテラはこのような牧歌的な曲を以前にも歌っており、シカゴ6にてハーモニカの印象的なイントロダクションで始まる IN TERMS OF TWO (明日への願い)という曲をほうふつとさせます。

Song for You (ソング・フォー・ユー) もこれまた牧歌的な曲調を受け継ぎ、ピーター・セテラならではの歌いっぷりが印象的です。ちょっと物悲しい曲調は、その後のシカゴ及びピーター・セテラの得意とするバラード路線へのいわば助走的な位置づけとしてもいいのでしょうか。このちょっと悲しい雰囲気を持った曲にピーター・セテラの歌声が実によくはまっています。

新加入となったクリス・ピニックの力強いギターで始まり、ピーター・セテラが歌い上げる Where Did the Lovin' Go (愛は何処へ) はまさに80年代のバラード路線を先駆けるような曲です。

Birthday Boy (バースデイ・ボーイ) もこれまたどことなく田舎臭い雰囲気がただよう曲です。本当にこのような曲調のボーカルには、ピーター・セテラの歌声がよく似合います。

Hold On (ホールド・オン) はリズミカルでその後の AOR 路線を先取りしたような曲です。シカゴ 17 で、Along Comes a Woman (いかした彼女) という曲が出てきますが、その曲とも通じるリズム感を与えます。ギターとホーンセクションもそのリズム感にうまく味わいを添えており、全体として力強くまとまっています。

Overnight Cafe (オーヴァーナイト・カフェ) もピーター・セテラがリードボーカルを務めます。1980年代の AOR 路線はすでにこうした曲に表れていると今なら感じさせます。

Thunder and Lightning (サンダー・アンド・ライトニング) も前曲と同様な AOR っぽい曲をピーター・セテラが歌っています。

ロバート・ラムがリード・ボーカルを務める I'd Rather Be Rich (憧れのリッチ・マン) は1970年代のシカゴにありそうな曲で、ホーンセクションが全面的に出てきて力強くはあるのですが、なんとなしに物足りなさを感じてしまうのはやはりテリー・キャスがいないことによるのでしょうか。なんとなくの暗さを感じてしまいます。

一方その直後に現れる The American Dream (アメリカン・ドリーム) は、ピーター・セテラが気持ちよくあたかも青空の下で歌い上げるような、明るい曲調で、なんとも気分が高揚してくる曲です。ダニー・セラフィンのドラムも力強く、ホーンセクションも明るい曲調をさらに盛り上げています。

こうして全体を振り返ると、ピーター・セテラのリードボーカルと、1980年前後に流行った AOR の曲調が、デビッド・フォスターのかかわりなしにすでに実現されていることがわかり、いずれにせよシカゴは今後これで行くという方向付けを決めたアルバムだと感じました。商業的には成功を収めたとはとても言えない本作ですが、中にはこの時にすでにシカゴ16や17でも入っていそうな曲が見受けられ、注目に値するアルバムといえるでしょう。

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