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【詩と心と声】シリーズ集

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女優・望木心の心の中を現代詩で綴っております。Twitter、Instagramで公開した内容をアップしてゆきます。新しい詩も掲載予定。心が寄り掛かりたい時、癒されたい時、優しく…
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別離

ぬけがらが積み重なっている 何度も一体になった後はいつもクシャクシャにされ 乱雑に放り込まれた ぬけがらになってから待ち遠しいのは 偽物の花の香りに包まれ 頭を冷やす事だった いいえ 私は嘘をついていた 偽の花の香りも冷たく痛い水も一体になることも 全部キライだった ただ、ただ、自分を愛したかった 唯一、真実なのは 自分がどこにも逃げないこと 裏切らないことだった 裏切る時が来るのはそれはロマンチックな心中 ぬけがらではない自分なら愛せると思った やり直しはいつで

飛翔

想像した 隣の席にいることを 想像した 夏の夕日に感動していることを 想像した 機嫌がこの上なく悪い様子を 想像した 何年か 何ヶ月か 何日か経って 想像するのをやめた こんなにも 二月の冬の夕日が溶け込む美しさを 私は知らなかった 影が大きく伸び 微かにジャンプした どこまでも飛べそうだ

忘れない

台風が近づいている 最後の晴れた日 身体が浮かんでいるような感覚で もう二度と行くことはないだろうと そう思っていた場所へ向かう 河を渡る橋の上から いくつもの時がリズムのように やって来ては消える 掴めない記憶が 伸ばそうとする手のやり場を無くす 積乱雲が昔見た夢の世界へと誘う 浮かび上がる体 雲の方角へ跳ぶ 家路へ かつて家とした所とは 真反対の方向へ かつてそこにいた 存在と 想いと 幸せであった私とあなた あの時 私は幸せでした 只、ただ、あの日の今日

右手小指を紙で切った 何かのサインのように はっきりと現れる赤い血 痛みや色や中にある汚らしい物を目にしないと人は分からない生き物なんだろう 小さく深い切り傷は アクセサリーの様に控えめに赤い かつてこの指先を握ってくれた人がいた そう思っていたけれど どうやら全然違う別の人だった 気付いた頃にはその人はいなくて 屋上で狭い空を見上げて 言葉にならない言葉で あの人の名を呟いた 幸福だと思える時に あなたの指を握り返して 守っていたら 痛みが鈍くなる

明日と10年

10年前 ここを通りすぎて 掴めそうな夢を 追っていた 5年前 ここに立って 会うべき人に 会いに行っていた 1年前 何も無くなった後の 自由を持て余し 路地裏に踏み込んだ 今日 同じ自分が何人もいるけれど 誰一人としてお互いを知らない 明日 ここじゃないどこかで 「死んでいる場合じゃない」 そう思っている

望み

瞳が物語る いつも うったえている でも なぜ 体は木のように 動かないのか 心臓に花を咲かせ 冷たい青空の下 あなたの瞳の中に 入ろうとしている 輝く世界に 根を下ろせたら 何年も何年も 生きてゆけるでしょう

かりそめ

自分への手紙 あなたが居るから 私が存在している 私が居るから あなたがそこに居る あなたを 信じ愛するように 自分自身も できたら 信じきって 信じきって 信じつづけたまま あなたと生きたい たとえ かりそめだとしても あなたと

踊りつづけて

アドレナリンに ふりまわされ 朝がきて 足の皮が剥がれて 血が流れでて 叫び続けながら踊ったよ こんなに気分の良いいことは ない なにせ アドレナリンの燃料が 蝶にも 鳥にも 風にも 誰にも言えないことだから とりあえず 君には 死んでも言わない なんでって 自分にさえ 隠し通していたいんだって 分かってよ

小さな子供

子供の頃 夕闇が嫌いだった 孤独で 疲れていて 何のために 毎日この時間を過ごすのか 分からなかった 時が経ち 私は夕闇の中で 炎を見つけた 火の粉が夜空へ跳ねる 静かにそれを見つめていた 無意識の内に 小さな子供がやってきた そっと胸に抱き寄せ 二人きりで炎を見つめる この子も知っている あの頃の物語を もう一度だけ語ろう

おなおし

穴のあいた洋服 サイズの合わなくなったパンツ お直しが必要だと分かっていて 目の前のラックに掛けてあるのに 気にしながら 手をつけず 夏 秋 冬  そして年が明けた 夏の初めに友達と疎遠になった 原因は分からない 気にしながら 見て見ぬ振りを続け ぽっかりとあいた 雲の隙間の青空に その人のことを思った 自分の愚かさと その人の哀しさに後悔する 穴を縫いつけた 再生させるために 私の体をあたため楽しませてくれた その洋服に丁寧に針を通す そしてクローゼットへ戻した

四季

春の嵐に 光が大気圏に跳ねて 眼の中に飛び込んでくる 夏の夜の穏やかさに 跳ね回りすぎた 身体を横たえ 秋の懐かしさに涙を落とし 染まった葉が濡れ 心を誘う 冬に何もかもの 答えが出たときに この世の美しさとは思えない 月の輝きが 全ての事象の意味を 語り出す さらさらさらと 聴こえない音が 全てを許してくれた

身体

私は頭痛を起こしていた 人の心を知ろうとした 神様からの罰なのだ でも生き急ぐのは 悪いことでしょうか いつ死ぬか分からない この心臓、内臓 私の全てがなくなる前に 知りたい人を知ろうと思うのは おこがましいでしょうか なぜこんなにも 知らないことだらけに したのですか? 答え合わせを誰か一緒に

理由

心の激しさに 置いていかれて ビー玉は強く弾いて 大きな感情が 割れ狂った 隠して  息ができない そのことも 目を伏せて ようやく全てを 手放せる時に 私自身の存在の頬に触れる 「彼を心の底から愛している」 ビー玉のような大きな涙

3人目の女

雨音が 子守唄を 理想の母親のように ぽんたぽたん 唄って すでに大きな大人になった いいおんなが 安堵して チョコレートをかじりながら ◯◯ ◯の ミュージックに寄りかかり ひきちぎれたニセモノのパールと ニセモノのゴールドとダイヤモンドを 楽しげに 拾っている 哀しみは ぶっち切って 大きな コメディドラマになって まるで 輪廻転生しているよう 少女になった 大人のいいおんなは 雨でさえも ダイヤモンドだと 思っている 彼女は安堵して 夢