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【詩と心と声】シリーズ集

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女優・望木心の心の中を現代詩で綴っております。Twitter、Instagramで公開した内容をアップしてゆきます。新しい詩も掲載予定。心が寄り掛かりたい時、癒されたい時、優しく…
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#詩のようなもの

アスファルト

昨晩 雨が降った 何かの懺悔のような雨音は 頭上の屋根に打ち付けられている 深夜 突然目が覚めた 飛び起きた途端に 忘れていた人の顔を思い出す 夢は何を見たのかは分からない 私は仄暗い水の中を泳いでるような気分のまま 朝日に射された 眩しさに辟易した 理由もわからず 答えを探しに外へ出る 昨晩の雨が蒸発している匂いがする 照り返す濡れたアスファルトの傲慢な光が 足元で道を作っていてくれた あの人も きっと どこかで今日 歩いているに違いない

人生

サクラの花が ポロリと 潔く落ちた 幾重にもヒラヒラとした花びらは ひとつひとつがイビツな形で 透き通っていて  繊細な血管を巡らせている 花は美しかった それぞれの自分を集めて 花は美しい人生だった イビツな集まりの花達は イビツなままで 同じ場所で 咲き 同じ土の上に 辿りついた イビツなまま ただ そこに居た 私もただ そこに眠った

つめあと

手を繋いだ あたたかくて 柔らかくて 守られているような 強くなったような そんな気がした 私の長くて赤い爪が 彼の手を引っ掻いた 彼の手にキズがついた 紅い線が伸びている 「痛い方が忘れないから 大丈夫」 そう言われてから 私たちは分かれた 赤い爪をシンナーの香りの中で 肌色に戻した コーティングを剥がしたつめは 柔らかくて弱々しい 爪切りでつめをパチパチと切る まるで拍手のように聴こえる