星の砂を片手に 【前編】


あるところに、奈帆(なほ)という少女がいた。

奈帆は生まれつき、髪の毛の色が青かった。その青色というのもただ青いのではなくて、海のような色をした美しい髪なのだ。

頭のテッペンは深海のようなコンコンとした深い青、髪の真ん中は青と水色のグラデーションが綺麗で、毛先は南国の海のような、明るいターコイズブルー。

くせっ毛で元々ウェーブ髪なのも相まって、奈帆の髪の毛はまさしく「波」だったのだ。

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(いわさきみつるが挿絵描いてくれました。)


「なほちゃんは髪の毛が海みたいで綺麗だねえ」


小さな頃から、周りの大人たちにそう言われていて、奈帆は自分の髪を誇らしく思っていた。

しかしながら、奈帆はまだ一度もこの目で海をみたことがない。奈帆は生まれ育った町から出たことのない、ちょっとした箱入り娘だった。 奈帆の地元は内陸で、海に面していなかった。

唯一、奈帆の手元にあった海の手がかり。

それは遠くの島で仕事をしているお父さんからのお土産でもらった星の砂だった。

奈帆のお父さんは忙しく、たまにしか会えない。会えない時間のせめてものお詫びとして、仕事先のお土産で有名な星の砂を、帰省のたびに奈帆にプレゼントしてくれる。

お父さんの仕事場について行けば、海はすぐそこにあるのだけれど、北国の奈帆の地元と温暖なお父さんの仕事場は随分と遠い。仕事の邪魔になるのも良くないと子供ながらに遠慮して、奈帆はずっとお父さんに「海へ連れてって」とは言えなかった。

数年かけて、たからもの置き場に増えていく色とりどりの星の砂。 

海に行ったら砂があるのは知っている。もしかしたら、この星の砂のようなカラフルな光景が どこまでもどこまでも続いているのかしら…??

一度考え出したら、もう楽しくなってしまった。

星の砂がたっぷり敷きつめられて、私の髪の毛の色をした海があって、大好きなダンスをいつまでもいつまでも踊り続けることが出来たなら!!

さあ、善は急げ。

奈帆は一番最近にお父さんからもらった、黄色い星の砂の小瓶を握り締めた。

そして、海に逢いに行くための、エスケープの準備にとりかかることにしたのだ。

中編に続く

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