『AMIDA』までとこれから。独自の道を進み続けるCyclamenインタヴュー

今年1月、4年半ぶりのアルバム『AMIDA』をリリースしたCyclamen。元々Hayato Imanishi(vo)のソロプロジェクトとしてスタートしてからおよそ10年が経つが、今では強い絆で結ばれたメンバーとともに、さらに次のステップに足をかけようとしている。ここ数年の間にスタートした海外アーティスト招聘、海外ツアーもますます活発だ。バンドのリーダーとして、自分だけの道をDIYで切り拓き続けるHayato Imanishi本人から、じっくりと話を聞かせてもらった。

——間にEPのリリースや本格的な海外アーティスト招聘で忙しくしていたとはいえ、『AMIDA』は前作『ASHURA』から4年半ぶりですね。振り返ってみてどうでしょうか?
「バンドを育てることが忙しすぎて、新曲を作っている暇がなかった感じはありますね。Cyclamenに入るまでちゃんとしたバンド活動の経験がなかったKatsunori(g)くんと高尾(g)を成長させることが最優先だったし、そこに時間を費やしたらこんなに経っちゃいました」
——でも、そのバンドを育てるとともに多くの海外アーティストの招聘を始めたことで、『AMIDA』をリリースしたときの反響の大きさは以前よりもかなり大きかったのでは?
「そうだと思います。『AMIDA』は、それまでとは音楽的にスタイルがまったく違うものなので、比べにくいかもしれないけど…。外タレ招聘のおかげで、好きか嫌いかはともかくCyclamenの名前を知っている人は増えましたね。今は、数はともかく、自分たちをサポートしてくれる人を集める方向になっています。なんとなく1曲知っている人を1万人増やすよりは、アルバムをちゃんと聴いてくれるファンを1,000人増やす、みたいな」
——外タレ招聘で自分たちの名前を広めたうえで、よりファンの純度を高めていくということでしょうか?
「自分たちの音楽はそこまでメインストリームではないし、理にかなったやり方だと思いますね。招聘とバンド活動って、まったく違うことではありますけど、それをわざわざ別々にするのももったいないじゃないですか。Cyclamenを通して自分が外タレ招聘をやっていることを知ったり、逆に招聘を通してこのCyclamenを知ってもらえたり、相乗効果があるといいと思います。ほかの人が組んだ企画だけでなく、自分のイベントで見てもらうほうが、やりたいことは伝わりやすいだろうし。このやり方は自分にしかできないっていう自信や手ごたえはあります。ミュージシャンとしてというよりは、人生の使い方として自分にしかできないことができているのは楽しいですね」
——『ASHURA』リリース後、高尾と星野仁(ds)が正式に加入しましたよね。それなりに長く在籍していますけど、改めて、それぞれの加入経緯を教えてください。
「まず高尾は、たまたまKatsunoriくんがtwitterで“久しぶりに高尾とギター弾いたけど、やっぱ上手いな~”って言っているのを見たんですね。で、彼がそう言うんなら相当上手いんだろうと(笑)、ちょっとギタリストもいないんだし連れてきたらって言ったんです。高尾はもともとCHILDREN OF BODOMとかが好きな、典型的なメタラーだったので、上手いもののスタイルが違うし、バンド活動をしたことがほとんどないしで少し大変でした。でもここ5年で随分成長したし、コミュニケーション力も上がったと思います(笑)。
仁さんは、もともとHiroshi(前b/元Arise in Stability)さんと飲み仲間だったそうなんです。二人ともすごく気が合ったから、当時仁さんがやっていたDEADLY PILESを一度も見たことがないのに、いっしょに北海道に行くことになって。それで仁さんのドラムを見たとき、すごく熱い演奏をするなと思ったんですね。その後Hiroshiさんがいっしょにスタジオ入ろうって誘ってくれて、いざやってみたらけっこうしっかり形になったので、これならいけると感じました。
結果的に、後から知り合った仁さんが先に加入して、高尾が正式メンバーになるまで時間がかかりましたけど、それはバンドをやったこともなければ、海外にも行ったことがない彼が、長い海外ツアーでどうなるかわからなかったからなんですね。仁さんは海外はともかく、きついツアーの経験があるので大丈夫だと思ったんです。高尾は少しかわいそうだったけど、ちゃんとお互いに考えて入れたかったので」
——いろいろな面で、メンバー間の意識や技術をすり合わせる時間が必要だったと。
「なにせ金にならないし、きついことも多いし、曲を覚えるのも大変ですからね(笑)。まず各メンバーの生活の基盤を固めて、次に練習がちゃんと実を結ぶ状況を作ることを優先しました。新しい曲を作るよりも、初めて見てくれた人に“こいつらはやばいな”って思ってもらえるようにした感じですね。でも2年経ったあたりから、なかなかクオリティが上がらなくなっちゃって。このままではダメだと考えてライヴを減らして、練習を重ねました。やっぱり、お客さんにとって見る価値のあるものじゃなければ、宣伝しても意味がないんですよ。全然スムーズじゃなかったし、時間はすごく食っちゃった。今年は先日のDANCE GAVIN DANCEに始まって、すごく濃い年になることが決まっているので、早急にさらにクオリティをあげていかなきゃなっていうところです」
——メンバーがしっかり固まったことで、曲を作るにあたってなにか変化はありました?
「バンドを意識するようになりました。当初は自分が三部作として始めたものだけど、ようやくバンドとして形になってきたことだし、ちゃんと彼らをレコーディングに参加させないと、責任も生まれないと思って。今回あんびるはるかさんが参加してくれた“If There Ever Was Anything That I Meant as Love, It Was for You”は、Katsunoriくん主体の曲なんですよ。自分が納得できるアイデアが揃うまで、ひたすらリフを書かせました。あくまでアイデアはKatsunoriくんだけど、どれを採用するかは自分が判断しているという。それと、今回のテーマが“親に聴かせても大丈夫なアルバム”だったんですね(笑)。サラリと聴きやすく、でもそのなかに自分のクリエイティヴィティを妥協せずに入れることを突き詰めた結果が、『AMIDA』です。自分のヴォーカルも、どうにかここまで持ってくることができました。歌ものをやるんだったら、歌がうまくならないといけないし、追い込まないとうまくならないなら、追い込むしかない(笑)。今回歌ものになったのは、それも大きいです。曲作りは新しい課題を与えるというか、一番足りないことに挑戦することで、成長させるものなんですよ。RPGのレベル上げみたいに、素早さを上げたいなら、そのためのアイテムがたくさん集まるところにクエストに行こう、みたいな(笑)」

——以前はHayatoさんが演奏やプログラミング含めてすべてレコーディングしていましたけど、今回はどうやって?
「ギターはKatsunoriくんと高尾が録った元となる音のファイルを送ってもらって、自分がプラグインで音色をつけていきましたね。ドラムは打ち込みと生演奏を使い分けています。生演奏も、シンバル類と太鼓を別々に録っているんです。そうすると、お互いの音が干渉しないからミックスがやりやすくなるし、腕と脚のコンビネーションで悩まないから、録りやすくなるので。『AMIDA』は、今のメンバーをちゃんと生かす、現時点でできる最もよい方法でレコーディングしました」
——今回はいつになくゲストが多いですよね。まずあんびるさんから、どんなつながりで参加に至ったのか教えてください。
「今回は女性ヴォーカルが欲しかったので、募集したんですよ。そうしたらANTIKNOCK界隈の知り合いからおすすめされたのがあんびるさんでした。仁さんとあんびるさんも元々知り合いだったそうで。彼女の元々のスタイルはもっと前衛的なんですけど、もう少し型を持った音楽をやってみたいとのことで、紹介してもらいました。でも実は、あんびるさんとはレコーディングの日に初めて会ったんですよ。当日いっしょにお昼を食べて、どんな人なのか知ったうえで、そのままスタジオで歌詞を渡して、メロディを考えるっていう」
——その方法で、問題なくできました?
「むしろ、びっくりするくらい合いましたね。彼女自身、ギャラリーのキュレーションとかもやっていて、人のアイディアを汲み取ることが得意なんですよ。それに、自分が求めているものを、彼女が自分なり表現するっていう関係が説明しなくてもわかっていたので。あれが1日で終わったのは、完全に相性がよかったおかげですね。今度はライヴでやってみようって話しています」
——では、“Choices”に参加した佐々木恵梨さんは?
「恵梨さんは、京都のBlind Colored SchemeのWakitaさんつながりで、以前話をしたことはあったんです。今でこそ『シュタインズゲート』とか『ゆるキャン』の曲でブレイクしているけど、以前からLatticeっていうバンドをやっているし、もっとミュージシャンとしての活動もしたいと思っていたらしくて、そこで需要と共有が一致したと。この曲は、自分と恵梨さんの声の音域が違うこともあって、“人の声に合わせてメロディを作る”っていう、初めてのアプローチができました。ゲストを迎えることで今まで自分にはなかった制約がついたので、それは新しいエリアに手が出たかなって思いますね」

——ショーン・マローン(b)は、2015年にCynicの日本ツアーを仕切ってからの仲ですよね。
「そうですね。“もしベースが必要なら弾くよ”と言ってくれていたので、じゃあスタイルは全然違うんだけど…とアルバム全曲を送ったら、“A Line Between Us”と“What A Night!”の2曲をやってくれました。ほかにも“Perfect Answer”の別ヴァージョンでは、SITHU AYE(g)と元forgivsのSaki(vo)ちゃんが参加してくれています。forgivsには福岡でいつもお世話になっていたし、今度、PROTEST THE HEROの日本ツアーの福岡は、同じくforgivsで活動していたRyujinさんがブッキングしてくれてるんですよ」

——Hayatoさん以外のメンバーが曲を書いたり、多数のゲスト参加があるとはいえ、全体を通してCyclamenとしての空気は保っていますよね。
「自分は作曲も演奏もするけど、特に長けているのがアレンジなんでしょうね。その人が持っているものを、曲のなかで生かすという。今、FGO(Fate/Grand Order)にめちゃめちゃハマってるんですけど(笑)、レアキャラがガチャで引ける確率が低すぎるんですよ。だから逆に言えば、手元にあるものだけでどうにかしなきゃならない。今のバンドの状況と似ていますよね。それが今回一番新しいことだったかもしれないです。例えばCONVERGEの『AXE TO FALL』なんかも、ゲストがたくさん参加していますよね。あれと同じで、バンドがちゃんと中心にいることで、いろんな人が参加しても持ち味は出せると思っていたし。それと、ゲストで雰囲気を変えることで、聴いてくれる人を飽きさせたくなかった意図もあります」
——『SENJYU』『ASHURA』と描いてきたコンセプトというかストーリーは、『AMIDA』ではどうなっているんでしょう?
「実は『AMIDA』は全体のストーリーというよりも、曲ごとの話の集まりみたいになっています。元のアイデアでは、『ASHURA』『SENJYU』ときて『AMIDA』で完結だったんですけど、自分の描いたストーリーのなかのサブストーリーのほうが鮮明に浮かんだんです。メインもなんとなくは見えていたんですけど、アルバム1枚分にするほど濃いものにならなくて。もちろんコンセプトは大切なんですけど、そこにこだわるあまり縛られてしまっては元も子もないですし。だから今回は曲ごとに独立している感じで、だからこそゲスト参加がうまくはまったんじゃないかな。全体を通してひとつのストーリーである必要がなかったんで、自由にできたかなって思います」
——今回、スタイルをガラリと変えたとはいえ、以前からマス/ポストロック的な曲は散りばめていたし、ひとつの集大成で、かつ次の段階にすすむタイミングを迎えているのかなと思いました。
「とりあえず、メタル以外のジャンルに手を出すっていう目標は達成できましたからね。ファンとしては追いずらいだろうけど、元々バンドがひとつのスタイルにこだわる必要はないし、やりたいことをやるべきだと思いますから。それはちゃんと伝わってる人には伝わってるだろうし、全体的にはポジティブな反応を得られていますね。外タレ招聘でもなんでも、リスナーの耳を育てるというか、自分のやっていることに慣れてもらうことを意識します。だから自分の企画では、いっしょに出てもらうバンドにもこだわりますね。目当てとは違うスタイルでも、いいバンドであればちゃんととした反応があるはずなので。それを限界まで出しているのが、6月2日、3日に開催する12 Devils Tourです。こういう音楽がしっかり人を集められるようになったら、このシーンももっと楽しくなるだろうなと思う組み合わせでブッキングしました」

——この12 Devils Tourは、DEVIL SOLD HIS SOULをHayatoさんが、The Number Twelve Looks Like YouをArbusのメンバーが呼ぶ、という共同企画という形ですよね。
「前にArbusのほうのHayato(b)さんがThe Number Twelve Looks Like Youを持ちかけてきたんです。さすがにそれだけだと…と思ったんですけど、自分が呼びたいDEVIL SOLD HIS SOULも同じような状態なので、この2つを合わせれば形になるだろうという感じですね。2バンドともギャラはサービスしてくれたので、そのぶんで普段はなかなか呼べない日本のバンドを呼んでみました」
——その後はヨーロッパツアーですね。
「イタリアのDissonance Fest、UKでのTECH-FESTの後、PROTEST THE HERO、NORMA JEANといっしょに廻ります。PROTEST THE HEROとはTECH-FESTでもいっしょだし、どうせならヨーロッパでサポートしないかと持ちかけてくれました。それから2週間くらい後、日本に来てもらいます。まさか4回もいっしょにツアーするなんて思わなかったです(笑)」

——その後、今年いっぱいはどんな予定ですか?
「まだどうなるかなって感じですね。お金もかかるし(笑)。PROTEST THE HEROとのツアーが終わったら自分も別の仕事があるし、ツアー後の3ヶ月くらいは、それまでの見直しと今後どうやっていくかを考えてから計画するんじゃないかな。楽しく続けるっていうのが第一目標なので、楽しくなくなったり、楽しくても続けられない状況に自分たちを追い込むのはよくないですからね。とはいえ8月で全部終了もさみしいし、なにか企画はやるかもしれないです」

Cyclamen:Official Twitter

Cyclamen:Official facebook

Realising Media:Official Bandcamp ※全作品投げ銭ダウンロード可能

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?