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[002]みさきとワヤン

「おじいちゃん、ここが新しいおうち?」
みさきは大きな声で祖父に尋ねた。新しい家は、伝統的なバリニーズスタイルで、天然素材の屋根や、木製の彫刻が誇らしげに飾ってあった。少し古くなっているが、手入れがしっかりとされている様子だ。庭からは青い海と白い砂浜まで数歩の距離だった。

「そうだよ、みさき。ここで新しい生活が始まるんだ」
と祖父が優しく答えた。

数日後、すっかり片付けも済んだ新しい家の庭で、みさきは一人で遊んでいた。そこへ、近所の少年が近づいてきた。青いTシャツにオレンジ色のショートパンツの彼は、とても健康的に見える。彼はみさきに向かってニコッと笑い、バリ語で何かを話しかけた。

「こんにちは!ワヤンだよ。きみは?」
ワヤンは楽しそうに言った。

みさきは言葉がわからなくて首を傾げた。かろうじて、「ワヤン」という言葉だけが聞き取れたので
「わたし、みさき。ワヤンって、なに?」
と、日本語で聞き返してみた。

ワヤンは言葉が通じないことに気づいて、砂で遊ぶジェスチャーをした。
「ここで一緒に遊ぼうよ!」という意味だった。

「うん、いいよ!」
みさきは笑顔で応え、二人は砂で城を作り始めた。ワヤンは砂の城を作り、みさきは貝殻を集めて飾った。
「みてみて、きれいな貝殻見つけたよ!」
みさきは興奮して目をくるくるさせながら、ワヤンに見せた。
「わぁ、すごいね!」
ワヤンは言葉がわからなくても彼女の喜びを感じ取っていた。

日が暮れるころ、みさきの祖父が庭にやってきた。
「みさき、新しいお友達できたのかい?」
「うん、でも言葉が分からないから・・・なんかワヤンって言ってたのは分かったよ」
祖父は微笑んで言った。
「きっと名前がワヤンくんなんだね。バリでは、ワヤンはよくある名前なんだよ。」
「そうなんだ!」
祖父の海斗は、バリ語でワヤンに説明をしてあげた。
「ワヤンくんだね?こんにちは。この子の名前はみさき、って言うんだ。これから仲良くしてね」
ワヤンは優しく微笑んで、バリ語でみさきに話しかけた。
「みさき、明日も遊ぼうね!」

穏やかに流れる時間、遠くで聞こえる波の音。まだ小さい彼らにとって、新たな出会いはとても大きく刺激的だったが、楽しい未来を予感させるに十分な瞬間だった。

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