谺 【KODAMA】
谺
谷川俊太郎
谺 【KODAMA】
季節は私の知らぬところを走っていて
私はただ風の音だけを聞いた
失ったものは私の中で谺し
たえず遠さを告げ続けた
ありあまる私の情念を通ると
世界は青空のような一枚の地図だ
ひとは棲まず
遂に私までも流人になった
・・・誰の留守を私は預かっているのか
窓の外の蔦の影が私の額におち
それが私の贋の捲毛になる
陽は私を若い神のように化粧させた
私は誰の帰りも予期しない
今は丹念に風の音に耳をすまし
季節の走り去るところを知ろうとする
谺を世界のなかへ
帰してやり
世界が、
山や谷をとりもどすのを
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