2023年の小説と音楽
食べて寝てを繰り返していただけなのに、気付けば今年もおしまいらしい。忘年会を3回やったら3年前のことまで忘れてしまうんじゃないかとか、煩悩の数を128個にしたらトーナメント戦ができるんじゃないかとか、どうでもいいことを考えているうちに紅白歌合戦が始まろうとしている。
せっかくnoteのアカウントがあるのだから1年間を振り返ろうと思うのだが、実生活について考えるのは気が滅入るので、趣味について書いてみることにする。といっても、小説についても音楽についても基本的にミーハーな人間なのであまり期待しないように。たぶん誰でも知っている有名なものしか紹介できない。
さて、予防線をしっかり張ったところで、始めてみる。そこそこ長くなってしまったが、写真だけでもある程度わかるようになっているはず。
【小説】
・伊坂幸太郎『777』
まずは伊坂幸太郎を紹介しないと始まらない。この作品は伊坂作品の中でもエンタメ色が強く、頭をからっぽにして楽しめる。『マリアビートル』の登場人物と雰囲気をそのまま引き継いでいるので新鮮味はあまりないが、逆に言うと「定番の味」の安心感があった。普段は文庫本しか買わない貧乏学生の僕が旅行先で見つけたサイン入り単行本であり、思い出という意味でも今年を代表する一冊。
・伊坂幸太郎『3652 伊坂幸太郎エッセイ集』
小説ではなくて恐縮なのだが、せっかくなのでついでに紹介。自分の書く小説について話すエッセイの、「漠然とした隕石のようなものが読者に落ちてほしい、といつだって願っている。」という一文が強く印象に残っている。彼の小説が僕の頭に落としてきた隕石の数はもはや数えきれない。
・上橋菜穂子『香君』
『獣の奏者』に似ているが、断じて焼き直しではない。『香君』はファンタジー小説ではあるが、登場する架空の植物や昆虫は現実の延長線上にありそうなものばかりなので、それらを基礎として成立している社会の姿もこれまでの作品以上にリアルである。上橋作品の全てに通底する「人と自然の関係」というテーマをしっかり掘り下げつつ、現実の社会問題(たとえば農業を通じた植民地支配の体制であるとか、モノカルチャー経済の危険性であるとか)についての示唆も与えてくれる。なんだかあまり話題になっていないような気がするが、まぎれもなく傑作。
・森博嗣『四季 冬』
『すべてがFになる』で初登場した科学者・真賀田四季は、全人類が束になってもかからない、超越的な天才である。僕は、真賀田四季とは、森博嗣が「知的生命体」の最高到達点をシミュレーションした結果生まれたキャラクターなのではないかと考えている。いずれ朽ちる肉体を持つ生命がたどり着くかもしれない境地の可能性を覗き見ることができる小説だった。
・朝井リョウ『正欲』
語るのが非常に難しい小説であり、語らなければいけない小説でもあると思う。想像力の限界を思い知らされたとしても、誰かの孤独と虚しさを想像しようとすることは間違いではないのだと信じたい。
・米澤穂信『秋季限定栗きんとん事件』
『氷菓』をはじめとする〈古典部〉シリーズも大変面白かった(特に『クドリャフカの順番』が気に入った)が、ここではあえてこちらの〈小市民〉シリーズを推したい。日常の謎ミステリとしての完成度が高いのはもちろんのこと、小鳩と小佐内のキャラクター像と関係性の変遷が本当に絶妙。あとお菓子が美味しそう。とにかく米澤穂信の大ファンになった2023年であった。
・須賀しのぶ『革命前夜』
「体験」としてのインパクトが強かった一冊。描写が極めて鮮明で、本当に1989年の東ドイツにタイムスリップしたかのような感覚に陥る。命を賭して音楽に向き合った人々の激情が流れ込んでくるような読書体験だった。特にピアノ経験者やクラシック好きにはオススメ。
・アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』
まずタイトルがかっこよすぎる。タイトル回収のためだけに読んでいい小説。今年はSFに手を出してみようと思い立ち、名作として名高い『幼年期の終り』『星を継ぐもの』『夏への扉』などを読んだ。どれも本当に読みごたえがあって面白く、SFというジャンルへの興味がどんどん膨らんできている。次は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』あたりを攻めてみたい。オススメがあれば教えてください。
・日本SF作家クラブ編『AIとSF』
アンソロジー。2023年は世間的に見ても「AIの年」であったと思う。ChatGPTをはじめとする生成AIが驚異的な速度で発達してきているこの時代は、近未来のことばっかり考えてきたSF作家がいちばん輝けるときだと言っても過言ではないのかもしれない。個人的に好きな品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山という名義の方が有名だ)の作品が収録されていたのも嬉しかった。
・ジョージ・オーウェル『1984年』
「ザ・教養!」みたいな扱いをされている超有名小説だが、挑戦してみると案外読みやすく、説教臭さを感じることもなく楽しめた。共産主義の脅威が西側社会を脅かしていたころに書かれた作品だが、今読んでも示唆に富んでいて古びた感じはしない。附録として添えられていた『ニュースピークの諸原理』(ニュースピーク=作中の監視社会で用いられる言語で、語彙が極限まで削減されているのが特徴)も興味深かった。
以上。僕が言うまでもないような有名小説ばかりで気が引けるが、何かの参考になれば幸いである。来年はもっと読書の幅を広げつつ、有名作品以外にもチャレンジしていきたい。そもそも絶対量を増やすことから始めよう。めざせ100冊!
【音楽】
よく聴いたアーティストを列挙しておく。ミーハーな若者だな~というチョイス。音楽的な知識は皆無なので、悪しからず。
・ヨルシカ
……なんだかんだで年中聴いている。特に『ブレーメン』が大好きで、ちょっと疲れたらすぐに再生してしまう。激烈にしんどいときは『ノーチラス』。車を運転するときに毎回かけていたので再生時間がずば抜けている。
・サカナクション
……幼少期から家で流れ続けていたので、本当に好きなのか洗脳なのか分からないが、耳にするとテンションが上がるから多分好きなんだと思う。今の季節は『ネイティブダンサー』。歌詞は『エンドレス』がわかりやすく好き。
・Vaundy
……聴いていて気持ちいいアーティストNo.1。ベタ中のベタだけど『花占い』『Tokimeki』『踊り子』あたりが大好き。チェンソーマンの主題歌としては『CHAINSAW BLOOD』を超える曲は出ないと思っている。
・東京事変
……メンタルによって好きになったりそうでもなくなったりする不思議なバンド。『今夜はから騒ぎ』が個人的ベストソング。
・ASIAN KANG-FU GENERATION
……某アニメの影響で今年から聴き始めた。政治的思想には触れないでおく。なぜだかわからないが『ソラニン』で毎回少し泣きそうになる。
・結束バンド
……某アニメそのもの。『あのバンド』が好きすぎてこればっかり聴いていた。
・くるり
……これも幼少期から刷り込まれている好み。特に『ワールズエンド・スーパーノヴァ』『Baby I Love You』とか。いや、結局『ばらの花』に帰ってくるのかな。
・羊文学
……秋から冬にかけて無限に聴いていたバンド。兄に話したら「俺は数年前から注目していた」と言われた。同じ系統の音楽が好きなのは悔しいが、よく考えたらサカナクションとくるりを聴いて育った人間が羊文学やきのこ帝国に惹かれるのは当たり前で、これはやっぱり洗脳ではないだろうか。ベタベタだが『OOPARTS』最高。
・BUMP OF CHICKEN
……大学に入ってから聴くようになった。『Butterflies』というアルバムの良さが異常。
・米津玄師
……そんなに聴いている印象は無かったのだが、車を運転するときの無難なBGMとして便利に使っていた気もする。『KICK BACK』がこの世に生まれただけでチェンソーマンがアニメ化された意味があった。
・Aimer
……声がいい。とにかくいい。『Brave Shine』をよく聴いていた気がする。
・ピノキオピー
……ボーカロイド。歌詞で毎回ボロボロ泣きそうになる。マイベストは『すろぉもぉしょん』だけど、今年の曲としては『ポケットのモンスター』かな。
・n-buna
……ボーカロイド。みなさんご存じ、ヨルシカのコンポーザー&ギター。ヨルシカより若い印象の歌詞。曲は『歌う睡蓮』が好き。『それでもいいよ』の歌詞もいい。
ほかにもある気がするけど、とりあえず2023年はこんな感じ。
というわけで、趣味については大変充実した年になった。
来年はもっと広く、もっと深く、いろいろな物に手を出していきたい。特に映画に詳しくないのがコンプレックスなので、たくさん観たいと思っている。
それでは、良いお年をお迎えください。