『ビッグヒート/復讐は俺に任せろ』

監督:フリッツ・ラング

これは面白かった!中盤は物語の終着点が見えなくなってきて、どうなるのだろうと思っていたのだけど、ラストの独白が素晴らしい。中盤とのデビーとの対話では言うことができなかった、亡き妻への想いを訥々と語る主人公の姿を見て、彼の物語は終わったのだな、と感じた。それを受け止めるデビーの顔も、火傷していない横顔ショットで捉えられていて、美しかった。今であれば、妻を亡くした男の心理描写に多くの時間が割かれるのだろうけど、この映画の主人公はまるで悲しむ素振りを見せない。ただ復讐のためだけに動く。それがカッコいいし、この時代のノワールというジャンルの人物描写の象徴ともいえる。
ダンカン夫人を殺した後の銃を投げ捨てるショット、急に画面外から飛び出してきて、その勢いで銃弾を避ける主人公等々、アクションとショット共々カッコいい。配役も完璧。
ハードボイルドを地で行くような映画だった。コーヒーはぶっかけられたくない。

21.11.15
何かを半分失った者たちによる復讐譚。的確でキレのある暴力で目が覚める。バニオンは私生活の喪失のために復讐するが、もはや人に対する興味など無くなっている。そんな失われた「私」の部分を再生をグレアムが手伝う構図がいい。コーヒー怪我の時は復讐のための電話をかけて怒られるが、最後の怪我の時は真っ先に電話をかけたバニオンの成長というか再生というか。他にも二項対立の間で揺れ動く人たちがよく描かれているし、義弟や警部補との共闘も泣ける。冷淡な中に存在するパッションがこの映画の最大の魅力。大胆な省略も主人公のハードボイルドさに拍車をかける。ラングで一番好き。
包帯で隠された顔半分をクライマックスで剥ぎ取るグレアムと、失われた家族への想いを口にできるようになったフォードがダブっているという解釈を思いついた。喪失からの再生の物語としてうまい。

21.12.16
塩田明彦の講義の本読んで理解が深まった気がする。物語でどこを伏せるか、何を見せるか、この場合は、古典的ハリウッド映画は、感情を伏せ、行動を示す。グレアムの顔が半分消えたことでフォードはそこに妻の姿を重ねる。グレアムもフォードへの愛を証明するために復讐を果たす。グレアムの死の時にフォードは妻のことを語るが、グレアムの顔半分に重ねている。グレアムは実現しなかった別の人生に想いを馳せ、息を引き取る。泣けるラストでもあり、残酷なラストでもある、ここでもやはり二面性なのである。

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