『デカローグ』

監督:クシシュトフ・キエシロフスキ

10.26
ある運命に関する物語
神を信じようが信じまいが、あるいは知らなかろうが、それは等しく訪れる。どうすることもできない。愛が神なのだろうか。人それぞれかな。個人的には万物を測ることはできないと思うけど。

10.27
ある選択に関する物語
未来のことは誰にも分からない。その上でタイムリミットというのは必ずあって、人は選択しなければならない。堕ろそうが産もうが夫は生き返る。どうすればいいのか、よかったのかは分からず、運命に従うしかないのかな。滴る水と、葉をちぎるシーンがこびりつく。
2本観たけど、どちらも見応えあるなあ。早く6話に辿り着きたい。

10.27
あるクリスマス・イヴに関する物語
人物の行動の意図が掴めず、落ち着かないまま終盤まで観た。二人の過去は何回か言及されていたけどさっぱり分からなかった。細かい描写(妻に通報しておいてとお願い→捕まるところとか)も後から気づくことが多かった。結局彼女はクリスマスイヴを一人で過ごしたくなかったということなのか。メンヘラにも見えるが気持ちは分からなくもないかなあ。前二話には劣るが、悪くはなかった。ライティングいいよなデカローグ。スケボー駅員が好き。

10.28
ある父と娘に関する物語
被写体もライティングも美しい。アンカ役の人が今まで見た女優の中で一番綺麗だった。話も二転三転する。隠し続けてきた思いに負けて作り話をしたり、燃やしてしまったり。燃やした後に頑張って読もうとするのも面白い。正しいことなんて分からないし、起こるべきことは必ず起こる。父親がはだけた娘の背中に洋服をかけるシーンはどちらも優しい。窓から見る父親の姿、切り返しもなんて情熱的なのだろう。エレベーターや室内から終盤の中庭に場面転換したときの開放感いいな。2話と同じかそれ以上に好き。

10.29
ある殺人に関する物語
そんな好きな話ではないけどラストは怖い。執行人が狂ったように紐を巻き上げる迫力が恐ろしい。石を落とすように、死骸が目の前に落ちてくるように、死は前触れもなくやってくる。殺人を犯したものは捕まれば殺人される側になる。この二つに違いがあるのだろうか。被害者も嫌な人に見えるが、犬に餌をあげたり、道を譲ったり‥殺されていい人など誰もいない。残されたものと旅だったもの、星型の光と扉の感触。映画版では弁護士をもう少し掘り下げていた気がする。

10.30
ある愛に関する物語
編集はこっちの方が好きかな。映画版はもたついてる印象もある。屋上に出ずにそのままアイスクリームに誘うのか。いくら感傷的であったとしても、映画版のラストがやはり圧倒的すぎる。こちらもいいが。60分だからか、立場が逆転した後のマグダのショットがもれなく美しい。コマとトランプ、ミルクはただそこに存在している。最後のトメクのセリフの後、マグダの顔が少し曇った気がしたが気のせいか。むしろマグダは常に不完全の状態の愛を求めていたのではないか。自殺を乗り越えて相互的な愛が成立したのかと思えば、マグダはむしろそうならないことを望んでいたのではないかとも思うのです。愛は手に入らないからこそ美しくて鋭い。あくまで一方的な愛であるのに美しい映画版のラストはやはりいいなと思った。でもどちらも好きな話。主人公が自分に似過ぎているというのもあるけど。

11.1
ある告白に関する物語
今年の春も観たけど好きではないかな。昨日のテロ事件もそうだけど、電車は暴力的な装置として機能する。ヴォイテクと娘が楽しそうなのに、そこに割り込んで「ママって呼んで」と言うのはおいおい、という感じ。ヤングマンが出てこなかった。

11.1
ある過去に関する物語
これまたピンとこない。冒頭の講義を話半分で聞いていたんで二人の関係がよく分からず。2話の物語があったり、「いろんなことが起こるものよ」というセリフがあったり、割とメタ的な感じもする。二人の会話劇よりも、個人的には軟体お兄さんとのやり取りが好き。

11.2
ある孤独に関する物語
物語に『弁当屋の人妻』を感じた。電話で意思疎通が取れることはなく、呼び鈴はひどく暴力的に響く。ラスト、ようやく男は自らの意志で電話をかけ、女はそれを受け取り、意思疎通が図れたのだろうか。覗き見ショットの不安定さや疾走シーンの解放感が心に残る。もちろん車輪が完全に止まるショットは雄弁だ。かなり好き。

11.2
ある希望に関する物語
一番面白い。腎臓摘出の葛藤が描かれてないのは気になったけど、むしろあえてなのかもしれない。冒頭、歌う弟(好きなザマホフスキ)に兄(表情が好きなスチュエル)が話しかけるも、弟には聞こえていない演出がファルハディの『ある過去の行方』と全く同じ。案の定、強盗事件を受けて二人の信頼関係は崩れてゆく。が、オラフ君がナチュラルに登場からの連作オチは爽快。ディスコミュニケーションを踏まえてのコミュニケーションへの希望。トリに相応しい話だった。

4≧6>10≧9>2>1>3≧5>8>7の順に好き。

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