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美術館の楽しみ方が、やっと少しわかった気がする

休日の昼過ぎ、美術関係の職につく知人からもらったチケットを片手に、私と恋人は東京富士美術館に来ていた。

お目当ては「フランス絵画の精華 ー大様式の形成と変容」という企画展。

美大出身の両親のもと、美術品に囲まれて育ち、”印象派”が好きな私の恋人と、美術館に行くことは好きだけれど、美術の知識は皆目ない私。(印象派って、なんだ)
初めて一緒に美術館へ行った時、恋人が近寄ったり遠のいたり、メガネをかけたりはずしたりしながら、あまりにじっくりと絵を見るので、驚いた。挙句に、彼はカバンから鉛筆とノートを取り出し、熱心に何か書きはじめ、私は「お前は美大生か」と心の中でツッコミを入れていた。(彼は美術とは全く別分野の大学院生だ)

完全に余談だけれど、彼は動物も大好きだ。一人で動物園に行った際、動物を見ながら熱心にメモをとっていたところ、動物学を研究している見知らぬ大学院生に同業者だと思われて声をかけられ、仲良くなって一緒に園内を回ったという逸話がある。(もちろん彼は動物学とも全く別の分野の大学院生だ)


そんな彼は、今回も行く前に、展示会で焦点となっている「バロック美術」「ロココ美術」について熱心にネットで調べていた。

「バロックのあとにでてきたのがロココなんだってー」「ロココはバロックよりも明るくて、”優雅で美しい”んだって」「バロックは厳格な感じがするんだよなあ」「あ、でもロココは、その次の時代になると評価されなくなったんだって」

などと話してくれるので、私も髪の毛を整えながら答える。

「私らが、”昭和とかださーい”って言う感じなのかもね」
「かなあ。前の時代とか古臭くて嫌だって感じなのかも」
「でもまたちょっとすると、それはそれでいいってなるんだよね」

***

こうやって話していたことで、私の方もほんの少し事前知識が備わったようだ。
自然と、「これはバロックっぽいな」「これはロココかなあ」などと(適当な)推測をしては、解説文で確かめたりして、いつもとは違う楽しさを感じていた。
「バロックっぽい」と思うものと、「ロココっぽい」と思うものの年代が入り混じっていることに気付き、恋人が言っていた

「バロックとロココの境界は明確じゃないんだって」

ということを「本当にそうなんだなあ」としっかり認識できたりもした。

なるほど、こうやって絵と絵を比較したり、描かれた年代に注意したり、事前知識を照らし合わせて見るとまた違って見えるのだな、と、美術好きの人から「当たり前だろう!」と言われそうな絵画の楽しみ方を、身を持って体験することができた。

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絵画を見始めて、程なくして、一枚の絵に出会った。

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クロード・ロラン『ペルセウスと珊瑚の起源』
(絵画の写真は上記リンク先・東京富士美術館作品リストより)

一瞬で好きになった。空と海の色合いと、青々とした緑が綺麗だと思った。ペガサスのような馬の白さにも目を引かれた。でもこの絵を好きになった一番の理由は、この絵を見たときに、すっと、視界がひらけていく心地がしたからだ

メンドゥーサの首を掲げたら海藻が珊瑚になっていった、という絵らしい。空は青く高く、静かに波の音が聞こえ、木々は澄んだ緑をしている。開けた地平線のあたりから開放感を感じて、それがとても好きだ。

この絵よりも前にあった、『小川のある森の風景』や『笛を吹く男のいる風景』の時点でクロード・ロランを知り、「ああ、好きだなあ」と思っていた。どうやらその時点ですでに私は「クロード・ロラン」の虜になっていたらしく、この『ペルセウスと珊瑚の起源』をみたとき、直感的に「クロード・ロランだ!」とわかった。そしてその後の、クロード=ジョセフ・ヴェルネ『海、日没』をみたときも、「クロード・ロランに似ている」と感じた(クロード=ジョセフ・ヴェルネはクロード・ロランから影響を受けていたらしい )。

こういう、「あ、この作品、これと似ている!」や「やっぱり同じ作者だ!」と思った経験は、初めてだった。楽しかった。美術や美術館の楽しみ方がまたひとつわかって、そして身をもって感じられて、本当によかった。ついでに、自分がどういうものが好きかも新たにわかって、これも非常によかった。

***

帰り道。これこれがあーでこーで、楽しかった!!と感想を言うと、恋人はうんうんとうなずいたあと、なんと、「俺はロココあんまりかな……」と言った。やはり”印象派”が好きなようで、それと比べると、今回のはどれも同じに見えてなんだか疲れたらしい。

驚いた。あんなにどれも違ってたのに、と思った。と同時に、”印象派”というものがよくわからなくて、逆に”印象派”との違いもわからない自分に気づいた。(印象派って、なんだ)

恋人がこれまで幾度となく、「印象派とは」について教えてくれたけれど、いまいちぴんとこない。やっぱり人に言われただけじゃわからなくて、今回のように、自分で身を持って感じてこそわかるものがあるのだと思う。

Wikipediaの”印象派”の記事を見て、「あれ、なんか今回見たやつとはちょっと違う気がする」と思った。でもまだよくわからない。だから、次は印象派の絵画をきちんと見に行こう。今度は見る前に、恋人と一緒に”印象派”について調べていこう、と思った。

***

タイトル画像:ジャン・アントワーヌ・ヴァトー『ヴェネツィアの宴』
(東京富士美術館HPより)
追記 「東京富士美術館」は、某宗教団体がつくった美術館ということで、「勧誘されたらどうしよう」など、行く前はちょっとおっかなびっくりな気持ちだった。(たぶんタダ券もらってなかったら行ってない……)
でも行ってみたら勧誘などはなく、普通の美術館と変わりなかった(ただ、いままで行ったことのあるどの美術館よりも綺麗で広くて、お金持っているんだなーと思った。ラウンジでは無料でお茶やコーヒーが飲めた。すごい)。



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