まさこさんの憂鬱
僕の家では、両親をパパ、ママと呼んでいた。物心ついたときにはそう呼んでいて、成長したら呼び方を変えるみたいな教育方針は我が家にはなかった。
最初はなんの問題もなかったが、小学生にもなると、ママと呼ぶことが恥ずかしいことなのだとなんとなく気づき始める。
自分の一人称を僕から俺に変えることがあれだけビックイベントだった小学生時代。
親の呼び方を変えさせてほしいと切り出す勇気を僕は持ち合わせていなかった。
でも、ママと呼ぶのは恥ずかしい。
それで、何が起きるかと言うと、母のことを僕は呼ばなくなった。
ねえ。とか。あのさ。とか。
名前を呼ばなくても家族なんてコミュニケーションをとれるのである。
兄は僕が中学生の時にひとり暮らしを始めて、僕と母は2人暮らしになったので、呼ぶ必要はどんどんなくなり、母を呼ぶことなく何年も生活していた。
そんなこんなで僕が高校生だったか大学生にあがったくらいのころ。兄ちゃんが帰省していたある日、母は僕たち兄弟をリビングに呼んで家族会議を開いた。
「ママは自分が呼ばれないことが寂しすぎるので、家族会議を開きます。ママと呼ぶのが恥ずかしいのは分かるので、今後の呼び方を今決めて下さい。」
我が家で開かれた正式な家族会議はこれっきりである。
母は何年も寂しい思いをしていたようだった。
僕と兄はそこで呼び方を決めた。理由はわからないけど、「まさこさん」に決まった。
僕と兄は母をまさこさんと呼ぶことになった。
最近たくさんの先輩や友人たちにも、こどもが生まれている。
最初はパパママから始まると思うけど、小さいうちにどこかでお母さん、お父さんに親が呼び方を変えてあげた方がいい。
子供から、呼び方を変える申請を親に出すのはかなり難しいのである。
ちなみに、まさこさんは僕らの前では自分のことは未だに「ママ」と言っている。
ということで、今年もお盆の季節です。
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