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僕らを動かすのは、残された心のほう。

2021年4月25日毎日新聞『村上春樹をめぐるメモらんだむ』で、
4月1日の早大の入学式で村上春樹が述べた祝辞が紹介されていた。

10月にオープンする国際文学館(村上春樹ライブラリー)のモットー「物語を拓こう、心を語ろう」を披露しつつ述べたという〝心を語る〟ことについてがとても印象に残った。

僕らが普段「これは自分の心だ」と思っているものは、心の全体のうちの、ほんの一部分にすぎない、(中略)残りの領域は手つかずで、未知の領域として残されています。でも、僕らを本当に動かしていくのは、その残されたほうの心です

これは本当にそうで。
私はいつの頃からか、自分の思っていることと行動が乖離することがけっこうあって、
そんな自分が嫌だったりもどかしかったりして、
だけど、何でそうなってしまうのかよくわからなくて長いこと悩んできた。
大人の絵日記講座に出逢って「心の三層構造」ということを学んで、
自分が自覚している以外の心の部分があるということを認められるようになってからは、かなり気持ちが楽になった。
まだまだ無意識の思い込みをたくさん持っていて、
時にそれが自分が望まないような(でも深層では望んでたりするからややこしい)結果をもたらすことがあって、
それ自体に苦しむことはあるのだけれど。

「無知の知=知らないことを知っている」と同様に、
無意識、村上春樹の言う〝手つかずのまま残された心〟があるということ、それが自分を動かしているということ
を知っている、意識できるだけで、
問題が起きた時の対処の仕様はだいぶ変わる、実際私は変わってきた。

それに、
学術研究において学者たちは未知の領域に向き合い、
探求を深めていく。
自分の中の、
手つかずで残された未知の心も、
自分自身が研究者となってで探求していけばいいのだから。

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彼の言葉の続きがこう紹介されていました。

未知の領域を探り当てる役割を果たすものの一つが「物語」であり、「言葉にならない心をフィクションという形に変えて、比喩的に浮かび上がらせていく」のが小説家のやろうとしていることだ、と村上さんは語った。「直接的には社会の役にはほとんど立たない」けれど「小説という働きを抜きにしては、社会は健やかに前に進んで行けない」と自らの信念を訴えた。

村上作品を読むといつも、
現実世界に通じる、そしてヒントになるような言葉に出逢うことが少なくないのだけれど、
この言葉からその理由が明確になった。
そしてそれは、
おそらく残された心が反応を起こした証であり、
それを見つめることがまさに自分の心を知る手掛かりになると思う。

そういう意味で小説は社会の役に立っていると思うし、
ビジネス本やノウハウ本しか読まないという人にも、ちょっと読んでみたらいいんじゃない?と言いたい。

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