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拝啓 ~大切なあなたへ~⑥



その日は、桜が満開だった。

どの桜並木も、綺麗だったのを覚えてる。



病院に戻って、




あなたの口の中には、

ぶっとい管が入れられてて、

よくわかんないけど、

みんな一生懸命だった。




院長からいろいろ説明されたけど、

覚えてないよ。



あなたが助かることしか考えてない。



原因とか、

今の状況とか、

そんなんどうでもいいのよ。



あなたが生きてくれればそれでいいのよ。



産婦人科の判断で、


救急車で大きな病院に運ばれることになったね。

そこで安心したんだ。




大きな病院なら
助かるって。




お父さんとお母さんも、

車で大きな病院に向かったよ。

移動中のお父さんとお母さんは、

けっこう冷静だったよ。

大丈夫。大丈夫。





でも、






現実は、本当に最悪だったね。






移動中の救急車の中で、






あなたは心臓が止まりました。





運ばれた病院で、


心臓の止まってるあなたの口に中に、




太すぎる管を突っ込んで、




ガンガンガンガン動かして、






痛かったよね。



本当にごめんね。




お父さんとお母さんは、

もう耐えきれなくなって、



「もういいです」




と告げました。





午後9時くらい



生後11時間




あなたは


お父さんとお母さんの腕の中で、


空へ還っていきました。




言いたいことはたくさんあるよ。




伝えたいことはたくさんある。




とにかく、




産まれてきてくれてありがとう。


お父さんお母さんを選んでくれてありがとう。




桜が満開に咲く日

お父さんの名前の一文字を取って


あなたの名前は

「桜河」

と名付けました。




そのあとのことは詳しく覚えてないんだ。

断片的な記憶しかなくてごめんね。



これが、


産まれて空へ還るまでの、

桜河の人生です。



毎年、桜が満開になる時期に、


全ての人の心に、

元気を、

癒しを、

そして、あなたが生きたという軌跡を。





桜河

生まれてきてくれてありがとう。

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