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私の本棚

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読書記録。伊坂幸太郎が好き。
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#読書感想文

誰かのためを思えるなら、「死にがい」なんていらない

「これは青春群像劇なんかじゃない。ホラー小説だわ……」 朝井リョウ著の「死にがいを求めて生きているの」を眺め、私はため息をついた。 本書は、とあるできごとがきっかけで植物状態になった智也と、彼を見守る雄介を中心に進む物語である。 彼らが生きた時代は「平成」。著者の朝井リョウさんも、これを書いている私も、同じ時代に青春を過ごした。 通信簿が相対評価から絶対評価へ、定期テストの順位の張り出しはなし、ナンバーワンよりオンリーワン…… 一見すると、順位を決めないことは優しい

「ツバキ文具店」を読めば、きっと何かを綴りたくなる

私が文具を文章で紹介するなかで、憧れている小説がある。小川糸さん著書の『ツバキ文具店』だ。 主人公の鳩子は、鎌倉の小さな文具店を開きながら代筆屋を営んでいる。鳩子の周りをとりまく優しい人々と、おだやかに流れていく日常。代筆屋として依頼者の人生の岐路に伴走し、時に悩みながら成長していくのだ。 ※この感想文は物語の本文を一部引用しています。物語の結末につながる直接的なネタバレはありませんが、まっさらな気持ちで『ツバキ文具店』を読んでみたい方は、ブラウザバックしてください。

「書く習慣」を読んだら、楽しいインターネットを思い出した

ありとあらゆる角度で『書くこと』のハードルを下げて、『書くこと』を好きになって欲しい! 私が、いしかわゆき(ゆぴ)さんの書籍『書く習慣』に受けた印象だ。そして、この本は私が大好きだった2000年代のインターネットを思い出させた。 noteやTwitterって、なんか有益なことを書かなくちゃいけないんでしょ?2010〜2020年代のインターネットビジネス界隈では、『有益な情報』がトレンドの一つであるように感じる。 「芸能人でもないのに、今日のランチについて書いても読まれま

高卒低収入ワーママが「ワーママはるのライフシフト習慣術」を読んだ

「ワーママはる」さんをご存知だろうか私がワーママはるさんを知ったのはTwitterである。 育休中、赤ちゃん主体に24時間動くのはわりと孤独なので、Twitterで育児アカウントを作った。その時に見つけたのである。 育休中にお子さんの知育、不動産の勉強などパワフルに活動されているように見える。職場復帰後にはVoicy(音声配信)のパーソナリティーに選出された。2020年4月、会社員を卒業してサバティカルタイムに入り、ヨガスタジオ経営や不動産業、発信業をしている。それなのに

ポストカードと死神

京都行きの移動の新幹線で、友達が何やら熱心に読んでいる。17歳、箸が転んでもおかしい年頃の私たち。修学旅行という一大イベントの時間に、熱心に単行本を読んでいるのは、何かおかしい気がする。 結局友達は行きの新幹線と1日目の夜をその本に費やした。そして、「〇〇(私)も好きそうだから」とその本を手渡した。 私の修学旅行の夜は、その本に溶けた。 帰りの新幹線で、もう1人の友達もその本に費やした。女子高生3人の修学旅行の時間を溶かした、罪深い本の名前は伊坂幸太郎の著書「死神の精度

クジラアタマの王様と2020年

「クジラアタマの王様」は2019年に出版したので、新型コロナウイルスとはまったく関係ない。 2020年に入るまでは実験的な表現方法を用いた、伊坂幸太郎著作のエンタメ小説だった。 主人公たちの夢の世界と現実世界がリンクする中で、 双方の世界で大きな問題に対峙する。胸糞の悪さを爽快な快進撃で回収する物語だ。 著者の鋭い洞察力と表現力で、大衆の恐怖が正義に、そして知らないうちに悪意にスライドされる有様をかなりリアルに描かれている。 それがこのご時世にとてもリンクしているよう