人工関節全置換術、その1

 「T字帯と術着に着替えてお待ちください」

T字帯 is 何

 入院前、手術の際に使うので買っておくようにと言われたT字帯。なんとなく下着の代わりをするものだとは知っていたが、その全貌は謎に包まれたままだった。言われるがままに病院の売店で購入し、その日まで簡易クロゼットの中に封印していた。
 着けるときは何かしら指示があるだろうーーそう思っていたのだが、手術当日になって看護師から放たれた言葉は簡潔に、

「T字帯と術着に着替えておいてくださいね」

 カーテンが閉じられると同時に、わたしは「T字帯 付け方」で検索した。

T字帯のつけ方

これがT字帯  ヒモと布でできている

なんとなくこうしたくなるが、実はこうじゃない

布地はお尻の側に垂らすのが正解だ

前を向いた図  脚の間から布地を前に渡す

前に渡した布地を、結んだヒモの内側に入れこむ

そのまま布地を前に垂らせばできあがり
なるほど、意外と下着っぽい

お尻側はきゅっと股に入っていればOK

T字帯はなぜ必要か

  人工関節全置換術は、全身麻酔のもとで行う。知人に何度か「部分麻酔か」と聞かれたが、部分麻酔で股関節を取って骨に金属を埋められるのなら是非やってみていただきたい。わたしは全身麻酔を選ぶ。
  ともあれ、全身麻酔というのは自発呼吸が止まる。もちろん鎮静確認後に呼吸は人工的に再開されるが、呼吸が止まるということは自律的な身体の働きもほぼ機能しなくなるということだ。つまり、下からも垂れ流しになるのである。

   そこで活躍するのがT字帯だ。

  手術に入る前に、術中術後の排尿管理のために導尿カテーテルが挿入される。その処置が簡単に心置きなくでき、かつ万が一何かあったときにはすぐ破棄できる、そして横たわる意識のない患者の最低限の尊厳を守ってくれるのだ。

  手術は全裸で行う。前と後ろに分かれる仕組みになっている術着を着て、手術台の上でシーツをかけられ全裸になる。死ぬか生きるかの手術ではないとはいえ、身ぐるみ剥いで意識さえもスタッフたちに全て委ねることになる。このまま目覚めないかも、なんて一瞬思ったりもする。大変大げさかもしれないが、そのふわっとした不安を、T字帯が心なしか緩和してくれるのだ。

  大丈夫、パンツ履いてる。

  こうしてわたしは麻酔によって眠らされた。

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