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失恋したので書かせてくれ

長きにわたる遠距離恋愛が終わった。
一緒に歩む方向ではなく、それぞれ別の道を歩むことになった。

うつ病になってどうしようもなくなった自分を支えてくれた人だった。
「月が綺麗ですね」も伝わらない相手だったけど、よく話を聞いてくれる人だった。
服の系統を変えれば、「いいじゃん!」と褒めてくれる人だった。


…ああ、ちょっとだめだ、泣きながら書いているもんだから、文章が支離滅裂なのは許してほしい。


ある日、帰りの新幹線を待っていた時のことだ。改札の前で相手が「元気でね」と言った。自分はそれを笑いながら「それはもう会えない相手に言うセリフだよ」と諭した。

「そうなの?」と腑に落ちない顔をしながら新幹線に乗り込む様子を見届けて、いつかこれを言う時が来るのだろうと何となく予感していた。

またある日、日課にしていた夜の電話中のことだ。「一緒に居ても笑えなくなっちゃったんだ」電話の向こうで、言葉を選びながら相手は言った。「つまらなくなった」と言わない優しさが沁みてどうしようもなかった。


笑わせてあげられなくてごめんね、とは言えなかった。
距離が近くても、心が遠くちゃ意味がない。
心が近くなくちゃ、何も乗り越えることはできない。

なあ、こんなに泣いてるなんて知らないだろ。平日のこんな時間だ、きっと今ごろ布団の中で幸せな夢でも見ているんだろう。

知らなくていい。自分でも驚いている。泣くほど好きだったんならもっと大事にしておけよとセルフツッコミを入れたくなるくらいには呆れて、同時に驚いているのだ。だから、こんなにみっともなく泣いているなんて知らなくていい。

誰だよ「失恋はチャンス」とか言ったの。
誰だよ「別れは出会いの始まり」とか言ったの。
失恋は機会損失であって、別れは単なる損失に変わりないじゃないか。
ふざけるんじゃないよまったく。


失恋ほやほやの涙でぐちゃぐちゃな状態でPCを開いて文章を書いているなんてどうかしてる。なにか、変なものに取り憑かれてるんじゃないかとすら思う。

でも感情はナマモノだ。
いま書き留めておかなくちゃこの感情は二度と帰ってこない。

帰ってこない感情を少しでも如実に、鮮烈なままで留めておくために文章を書く。処理しきれない感情をどうにかしたくて、文字に託すしかない。

この記事を書き終わりたくない。ずっとずっと書いていたい。
「投稿する」を押したら最後、自分はまた一人ぼっちになってしまう。それが怖い。だから書き終わりたくない。でもどこかで「投稿」を押さなければならない。

自分には物事をわかりやすく順序立てて文章を組み立てる才能なんかミジンコほどもないけど、それでも、こうするしかないから文章を書いている。

最後の電話になる、と悟った瞬間、縋りたくなる気持ちも生まれた。
まだ言っていない言葉が山ほどある。
伝えきれなかった気持ちが死ぬほど残っている。
まだ見ていない景色も、知らなかった表情もある。

でも、せっかく前に踏み出した背中を、掴むなんてことはしたくない。

別れが円満であってたまるか、別れは得てして、むごくてひどくて辛くて寂しくて苦しいものだ。そう思っていたけれど、心から幸せになってほしいと思える人だ、心に傷を与えあってまで別れたくない。

苦し紛れに紡いだ言葉も底をつき、辛うじて「ありがとう」と伝えたところで、沈黙が流れた。ついに来たかと覚悟を決めた。

相手に最後の言葉を伝えて電話を切った。


「元気でね」

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