「はちどり」からA24的感覚を感じました。 ---WAVES、ムーンライト、スプリング・ブレイカーズ、などなど
韓国でまたしてもすごい映画監督が現れた。そんなウワサを聴いてワクワクしていた「はちどり」を見てきました。予告とか、スチールの雰囲気とかから、ナ・ホンジンとかパク・チャヌクというより、イ・チャンドンのような雰囲気なのかなと思ってたら、その誰でもない。強いていうと『ムーンライト』『ビール・ストリートの恋人たち』のバリー・ジェンキンスに非常に近い感覚なんじゃないかな、と。
中学2年生からみた90年代韓国、というだけでない名作
『はちどり』。90年代韓国の中学2年生の視点から"家庭"とか"成長"とか"学校内外(という人間関係)"を描いた名作でした。伏線のはりかたとか、シナリオの緻密さとかがしっかりしてて、2時間オーバーですが、ゆったりと話が進みながらも、まったく中だるみしないのは、すごいなーと感じたりも。
あと、韓国の社会状況とか当時(90年代初頭)の家庭環境とかも生々しく描かれていて、「こんなだったんだ!韓国の中学とか家とか!」みたいに歴史的な好奇心も満たしてくれます。私も中学校のとき、この映画でもあったような"コンクリの廊下に正座させられて手を頭の上にあげとく"の刑は何度か受けたな。。。
と、これだけでもかなりいい映画なのですが、いちばん惹きつけられたの美しい映像と音楽。
美しい映像というとチンケな表現ですが、その人の目をじっと覗き込むような執拗なクローズアップの連続がいいです。感情がはっきりと読み取れるような表情ではないのだけど、長い間、主人公のウニの表情をスクリーンに映されると、それだけで画面から意味が溢れてくる美しい映像になります。
最近見直してないんですが、『KIDS』という映画クロエ・セヴィニーのクローズアップの美しさがこんな感じだったかなと。ジャームッシュの「デッド・ドント・ダイ』のクロエも良かった。
とにかく「はちどり」の映像は、みずみずしいのです。この「KIDS」やハーモニー・コリンの「ガンモ」なんかはグロテスクな内容でもみずみずしい映像が好きなのですが、そんな"美しい映像"なのかなと思ったり。ウニが屋上でキスをする、病院のカーテンを締めて後輩と内緒話をする、団地が無機質に広がっているなどなど、とにかく痛くも美しい映像が続きますね。ガンモは少し暗いけど、はちどりの映像は白い美しさ。
そしてさらに輪をかけていいのが音楽。感情に沿うように静かな音楽が各シーンで、そっと流れるのですが、それらが目の前の映像を豊かにして行く感じで、映画における本当の音楽の効果ってのはこういうものかなと思ってしまいました。
"家父長制社会"、"女性差別"、"民主化運動のその後"、"経済格差"、"学歴社会"などなど、中学2年生の目を通して90年代の理不尽な韓国社会を描いた傑作なのですが、そういった映画の背景の重さを、映像と音楽で観客の心の真ん中に染み込ませる、稀有な映画なんじゃないかなと思います。ポン・ジュノやイ・チャンドン、パク・チャヌクとはまた違うアプローチの名作家。
映画全体の雰囲気は"バリー・ジェンキンス"の映画に似ている
音楽がすごくよかったので、このあとに公開を控えていた『WAVES』も、わりと似ているのかな?と思ったんですが、見た感じ『WAVES』はもっとミュージカルに近いかなと。
シーンごとに流れる、フランク・オーシャンのヒット曲やら、「what a difference a day makes」といった名曲やらは登場人物の心情や、シーンの意味を代弁している。なので、ちょっと「はちどり」の音楽の良さとはちがうのかなと。あ、もちろん、これはこれで名作でした。個人的には前半は完全にホラー映画でしたけど。すごい、ドキドキした。
ちなみに、家庭が崩壊しそうになったり再生したりという「家庭」にフォーカスしたプロットは割と似ていて、アメリカの高校生の視点から見た家庭、韓国の中学生の視点から見た家庭、という見比べ方は面白いかもしれません。とくに、どちらもお父さんが、、、ちょっと。。という感じです。自分はこのお父さんたちをみて、我がふりなおせ。。みたいな感じになった。けど、なんかシンパシーを覚えるんです、このお父さんたち。彼らがそうなった理由もよく分かる。。。と、このあたりは『はちどり』『WAVES』見てください、そこのお父さん。
ただ、なんとなく『WAVES』に毛色の似ている映画と「はちどり」の共通点がありそうだなーと思ってたら、頭に浮かんだのがアカデミーの作品賞を獲った『ムーンライト』。バリー・ジェンキンスの映画ですね。引きの青い映像も美しいいのだけど、登場人物のクローズアップが生々しい。
かれの次の作品『ビールストリートの恋人たち』もそうだったのですが、登場人物の長いクローズアップ映像が生々しく、美しかった。
そして、音楽が感情を増幅させる形で美しく流れる。
バリー・ジェンキンスも、『はちどり』の監督キム・ボラも、いまちょうどアラフォー。キム・ボラさんは大学院時代にアメリカに留学していたこともあるそう。そのアタリが、二人の監督の作品に共通のアプローチを与えたりしでるんではないかと思ったります。
ハーモニー・コリン的な映像、音楽の作り方、つまりA24的な映画に影響をうけてる?
と、書いてきたように『はちどり』を見たあとに、「ああー、こういう映画と一緒にみたいなー」と思うときに出てる映画はだいたい最近のA24の作品ばかり。
で、A24は今やアートな映画を配給させたら右にでるものはない会社ですが、最初期にブレイクした作品がハーモニー・コリンの『スプリング・ブレイカーズ』だったことを思い出しました。前に書いたように『はちどり』をみて最初に思い出したのは、ハーモニー・コリンのみずみずしいグロテスクな映像美。その生々しい映像をもっとブラッシュアップさせた感じを『はちどり』からは感じてます。
そして、A24はハーモニー・コリンの配給で評価されていて、その後もそのような映画作家をサポートしている。なので、バリー・ジェンキンスもその流れの中にある作家なのかなと。
もちろん、アリアスターやアレックス・ガーランドなどちょっと毛色の違う作家もサポートしているけど、A24を軸に、ハーモニー・コリン、キム・ボラ、バリー・ジェンキンスがつながって来るんではないかと思ったり。
ただ単に、キム・ボラ、バリー・ジェンキンスの二人が、ハーモニー・コリンの影響を受けてるだけってのもあるかもなーと思ったりします。
あ、中学2年生が主人公という意味では『エイスグレード』もA24だ。
とにかく、こんなふうに、『はちどり』はあの名作とつながってそう、キム・ボラという監督は、あの監督に影響をうけていそう。そういうふうに考えながら見ると楽しい、つまり、語りがいのあるすごい映画だなー、と思ってみました。もちろん、単体で見ても名作ですけど。『WAVES』もA24のいい映画なので、はしごで見ると、だいぶ楽しいです。
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