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スマホにマイナンバーカードを登録するのが「怖い」という心理に関する一考察

はじめに

iPhoneにマイナンバーカードが登録できるというニュースが出ていました。

この件に関してXを眺めていると、以下のようなポストを見かけました。

詳細は各ポストをご覧いただきたいのですが、主張はおおむね以下の通りです。

「スマホ上のマイナンバーカードデータは暗号化されており、パスコードや指紋・顔認証(iPhoneならばTouch IDやFace ID)で保護され、スマホの紛失時にはリモートで場所を探したりデータを削除したりできるので、物理カードより安全。なのになぜ不安に思ったり、批判したりするのだろう」

筆者は「~物理カードより安全」までは全面的に同意します。上で挙げている人達もそうだと思いますが、自分もスマホが様々な技術で安全にセンシティブな情報を保持できる前提でクレジットカードなどの重要な情報を預けており、スマホに登録したマイナンバーカードが病院の保険証になるようになれば、迷わずスマホに登録すると思います。つまり、筆者は完全に「上で挙げている人達の側の人」です。

ただ、それでも「不安に思ったり、批判したりする」気持ちも、わからないこともなかったりします。そのあたり思うことを書いてみたいと思います。

おサイフとケータイの「守るべき度合い」

少し昔話をします。フューチャーフォン(いわゆるガラケー)にFeliCaチップが内蔵されて、モバイルSuicaやEdyが利用できる、いわゆるおサイフケータイが出始めた時、自分は当初「おサイフとケータイを一緒にしてもいいのかな、少し怖いな」と思ったものです。

その理由は、当時おサイフとケータイは「守るべき度合いが一致しない」ことに由来するのだと思います。当時電話帳とメールくらいしか守るものがなかったケータイに比べて、お金が入っているおサイフはより厳密に守る必要があるという思いです。極端な話「ケータイはなくしてもおサイフはなくすな」と思っていました。

例えば電車に乗っているとき、ケータイを取り出してWebページやメールを見ることはすでに一般的でした。一方、おサイフは支払いの時だけ表に出し、むやみに露出させるべきではないと思っていました(これは今でも思っています)。そのため、おサイフの要素があるケータイを、電車など公共の場で無防備に露出させることに恐ろしさを感じたのです。「おサイフ(ケータイ)を無防備に出していて、落としたり取られたりしたら大変だ」という思いです。

スマホで高くなる「守るべき度合い」

時は進み、ケータイはスマホになり、より多くのことができるようになったとともに、その「守るべき度合い」は高くなっていきます。メッセージアプリやSNSアプリなど、生活の様々な場面で利用するアプリにより、重要な情報がスマホに集まるようになります。このような状況に対して様々な防御策も利用できるようになり、パスコードロックは当たり前、指紋認証や顔認証も登場し、適切に管理すれば自分以外がスマホの情報にアクセスするのは困難になっていきます。スマホをなくしても現在位置を調べたり、最悪の場合でもリモートでスマホの情報を削除して、スマホの中の情報を守れます。

スマホの「守るべき度合い」が相対的に高くなると、センシティブな情報をスマホに格納しても違和感がなくなっていきます。クレジットカードやQRコード決済、銀行や証券といった金融アプリは今や一般的ですし、2要素認証やパスワード管理アプリといった、別の意味でセンシティブな情報も(スマホの認証機能を利用する前提で)今やスマホで利用するのが当たり前ですよね。それは、これらの情報の「守るべき度合い」が、スマホ自身のそれと釣り合っている状態にあることを表します。ただ「守るべき度合い」をどう感じるかは人によるので、クレジットカードなどの「守るべき度合い」がスマホより高いと感じる人は、スマホに登録するのを躊躇するでしょう。まとめると、以下の通りとなります。

  • スマホの「守るべき度合い」と同程度の情報は、スマホに登録しても抵抗がない

  • スマホより「守るべき度合い」が高いと感じる情報を、スマホに入れるのは抵抗がある

マイナンバーカードの「守るべき度合い」

マイナンバーカードについても、上述のセンシティブな情報と同様、「守るべき度合い」をどう感じるかは人により大きく異なります。ここでもう一度Xの投稿を引用しますが、

「マイナカード本体には紛失しない魔法でもかかってるのか?」とありますが、紛失時のリスクの話をする人は、マイナンバーカードの「守るべき度合い」がとても高くて、紛失時のリスクを抑えるため、そもそも家から持ち出さないということなのでしょう。そんな人にとって、マイナンバーカードより「守るべき度合い」が相対的に低いスマホにマイナンバーカードを登録するのは、紛失時のリスクを高める、(その人にとっては)非常に怖い行為といえます。

一方でマイナンバーカードを日常的に持ち歩いている人(マイナ保険証を使っている方はこちらかな?)にとって、紛失のリスクは(同じく日常的に持ち歩く)スマホと同等であり、だったら紛失時の対応ができるスマホに登録したほうが安全という思いになります。この場合、マイナンバーカードとスマホの「守るべき度合い」は同程度であり、スマホに登録することに抵抗は感じないでしょう。

まとめ

本文書では、マイナンバーカードをスマホに登録するのが「怖い」という心理について、「守るべき度合い」というキーワードで説明を試みました。マイナンバーカードのほか、クレジットカードや金融情報など、「守るべき度合い」のとらえ方は人により異なるので、スマホに抵抗なく登録できる人と、登録するのが怖い人がいるのは当たり前のことと考えます。

マイナンバーカードをスマホに登録して使いこなすことができる人と、やはり怖い、抵抗があるという人の相互理解の一助になれば幸いです。

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