朝日新聞のエンジニア職のカジュアル面談を受けた

私は転職の意志の有無に関わらず、2年に一度くらい自分自身のキャリアの見直しをするようにしています。
IT業界は流行りの業種業界についてもテクノロジートレンドについても様変わりが激しい為、自分自身が今までどのようなキャリアを歩んできて今後どのようなキャリアを歩みたいか。そして市場にどのような需要があり自分はどの程度合致しているのかいないのか、そんなことを把握するために見直しを行っています。

具体的には以下。
・履歴書を作り直してみて、自分のキャリアを振り返る
・採用エージェントに登録をしてみて、業界の中での自分の需要を把握する

後者については場合によっては「ひやかし」になってしまうかもしれませんが、実際にこういう活動経由で転職したことも過去に無いわけではないので許してください。
実際やってみると、自分のキャリアを見直すことで、現職の中でも自分のやるべき事や出すべき成果、その期限などが明確になり、気持ちを入れ直すことができるので、個人的には有益な活動だと思っています。

で、先日、エージェント経由で朝日新聞社様からカジュアル面談のお声がけをいただきました。自分とは今まで縁がない業種業界ということもあって、ご厚意に甘えてお話だけでも聞かせていただこうと思い、参加しました。

「あなたを雇うことはないです」

カジュアル面談なので、こちらに採用希望があるわけでもなく、朝日新聞の技術組織について理解を深めるために参加しました。
先方は、人事の方と、技術職の方が参加されました。
ただ、1時間くらいの面談のあと、最終的に「あなたを雇うことはないです」というお言葉を先方の方からいただきました。

面接でも無いのに、採用の合否的な話を聞かされるのは意外でした。多分私の人生の中でも唯一の機会です。
その理由を伺うと、「2年で会社を辞めるような人材は弊社にはいらない」とのことでした。理由としては、会社側は採用にはお金をかけており、たった2年で辞めるようであれば会社としては損害だから、長く働くような人が良い、とのこと。

なるほど、と思いつつ、私は現職は2年ほど勤めており、今もし縁あって朝日新聞に転職することになったら私は現職を2年で辞める事になります。また過去にも在籍2年前後で転職する、という経験もありました。
それがNGというなら、私の今までの職歴は経歴書を見れば一目瞭然なのだから、この面談自体も無駄だし、そもそも声をかけなければよいのに、と思いました。

カジュアル面談で面接を行うことの是非

カジュアル面談と称して、実際には採用面接を行う、ということは比較的見かける話で、私もそのような経験は過去に何度かありました。
カジュアル面談参加側としては、その会社への転職意志が薄い、もしくはまったく無い段階であることも多く、それでも面談に参加する動機としては「その会社について理解を深める事」が主だと思います。

そういう状況で、コンテキストを無視して会社側の都合で人の選別を行うと、面談参加者からは心理的に強い反発を受ける事が多いです。参加者としては「全く好意を持ってない異性に突然一方的に振られた」みたいな状況ですね。
なので、できれば避けた方が良いと思います。

これは不合格的扱いになった時だけでなく、合格扱いになった時にも同じです。私も過去に、自分としてはカジュアル面談で雑談気味に意見交換をしていただけのつもりなのに内定通知をいただいた、ということが何回かあります。
印象論としては、そういうメリハリの無い採用スタイルをとっている会社は概ね組織内のルールやガバナンスに問題を抱えている事が多いように思います。

私も面接担当官としてカジュアル面談を実施することもあるので、逆の立場としてもこの辺は意識しているつもりです。どこまで出来ているかは別として。
個人的には、カジュアル面談については、概ね以下の目的で実施しています。
・会社の知名度の向上。
 より会社を正しく知ってもらう。
・面談参加者とのエンゲージメントの構築。
 "Keep in touch" という言葉をよく使いますが、技術者と接点をもち、定期的に情報交換をできるようにし、今すぐでなくても時期が来たタイミングであらためて会社の事を思い出してもらえるようにする。
・できれば会社のファンになってもらう。
 参加された方と直接的な縁がなかったとしても、会社としての好印象を持っていただければ、その周りの方から縁がつながるのでは、ということを期待。

そのため、面接官側としては会社の情報や事業の目的は話しつつも、基本的には面談参加者の知りたいことや聞きたいことについて全力で答えるようにしており、その時間を長めに使うようにしています。
そして、面接の時のような、相手の値踏み・評価をするような質問や発言はなるべく避けるようにしています。

その他話したこと

とはいえ私は朝日新聞の方を批判するつもりはなく、当日の面談では穏やかで紳士的な対応をいただいたと思っています。

「2年で辞める」というのが実は方便で、実際は私のスキルや経験がまったく先方の基準に足らなかったので先述のような発言になった可能性もあるな、と思っています。その点については素直に反省し自らを省みる必要があると思っています。

ということで、当日どんなお話をしたかを思い出してみました。

技術組織について

ひとつは、技術者組織に求められるミッションやゴールについて。

こちらについては冒頭で説明をいただき、資料を見せていただいたのが一瞬だったので正確なフレーズについては覚えてないですが「技術の力を用いて良質な情報を提供する」といったような内容だったと記憶しています。
その中で、自然言語処理の技術を用いて記事のタイトルや要約の自動生成を行う、という取り組みについても紹介いただきました。

個人的にはとても興味深いと思い、この技術を用いる動機について聞きました。期待する答えは、情報の速報性の向上、記事数の増加、自動的な添削などによる記事のクオリティの向上などにより、人件費を増やす事なく収益を増加させること等。
ただ、回答としては、「この技術を本番で使うことは考えてない」、「記事については記者が書いた信頼性のある記事を重視している」、とのことでした。
だとしたら、なぜ技術組織の売りとしてこのテーマを紹介したのかは、よくわかりませんでした。

「会社の性質上、どうしても記者のヒエラルキーが高く、技術職としてはやりづらい部分もあるのでは」という質問もさせていただきました。
「中途の人間」としてはあまり気にしない、ただ新卒はそういう意識がある人もいる、とのことでした。
その話の中で、「偉そうにしている記者であろうと、「お前の記事全然読まれてないじゃん」と技術者であれば反論できる」というお話があり、この話は技術の力で「記事の良質さ」について定量的に分析している話だなと興味を持ちました。
ということで、組織の中で良質な記事の定量的な定義はあるのか(PVなどの分析だけでなく、同じ記事の滞在率などを含めた多面的で深い分析しているのか)という事を質問させていただいたのですが、そもそもデータ分析の部署も技術組織の中にはなく、それらしき業務を行う人は各事業部に点在しているとのことでした。

こういう質問はもしかしたらあまり聞いてほしくない事だったかもしれず、先方の反感を抱かせてしまったのかな、と今では反省をしています。

求められる職能について

今回のカジュアル面談は、エンジニアリングマネージャについてのオファーだったようです。
個人的にはカジュアル面談では具体的なポジションを前提としたお声がけはあまり経験がありません。一般的には話を聞かせていただくなか自分に合うポジションは何か、をお互いすり合わせる場であると思っています。ただそれは会社によりやり方が色々あると思います。

CTO/VPoE/EM/TL の棲み分けについては最近色々と議論されており、以下のブログのようにRACI図 (Responsible / Accountable / Consult / Informed)で整理して分析している記事もあります。組織によって細かい境界は異なると思いますが、この記事の役割分担は私も納得感があります。

ただ面談の場では、一般的な意味でのEMについての議論はほぼなく、CTO もしくは VPoE についての経験や適正についての議論が主でした。
その議論の中では、自分は正直に「色々と勉強中」と回答しました。

そして、「事業を一から作り上げられるような人材」というお話がありました。個人的にはこのロールはCTO/VPoEなどに求められるものすら超越しているように見えますし、私は当然イチからビジネスを作り上げたような経験はないため「他人のアイデアを形にするために技術を用いたり技術組織をまとめたことはあるが、一からビジネスを考えたことはない」というお話をしました。
もしこの能力や経験があれば、個人的には会社を自分で作ってるかも、とも思います。

このような回答が、先方が求める人材像(EMと称しているが、実態はCTO/VPoE、もしくはそれらを超越するようなビジネス人材)と合致していなかったのだと思います。それは私のスキル不足、能力不足で、素直に反省するしかないと思います。
私の方では採用してほしいと思ってもないのに反省するのも変ですが。

個人的に、このような要求を満たす人材はまわりを見渡してもほとんどいませんし、このようなハイグレードな仕事を年収800万円で従事させるのは辛いなとは感じます。

積極的に話さなかったこと

個人的には朝日新聞社の経営状況については老婆心ながら気にはなっていました。

ただ、直接的に業績について聞くのははばかられたので、今後の組織の目指す方向やビジョン、ゴールなどを伺うことで、婉曲的に会社の置かれている状況は把握しようとはしました。

また、朝日新聞の記事については、釣り記事、釣りタイトルについて、問題になっているのを見かけます。

これがPV目当てなのか、他の理由があってのことなのかについては、さすがに聞くのがはばかられたので特に会話はしていません。
個人的には、「良質な記事」の対極にある「釣り記事」「煽り記事」を作ることにエンジニアが加担しなければいけないとしたら、ちょっと仕事として関わるのは避けたいなとは感じています。

また、先方からの会社紹介の中で「朝日新聞は1995年からインターネットを活用している、DXの最先端を走っている企業」との説明がありました。
なお、開発の内製化については2年前から始めた、とのことです。

そして、朝日新聞の事業としては、新聞以外にイベント開催や不動産業などが事業の軸である、というお話もいただきました。

今後について

とりあえず今回の件については、私の今後の人生の糧にしていこうと思います。

一つは、自分自身が面接官になる時には、面談/面接のメリハリや、TPOについて、より一層配慮し意識をし、他人をなるべく不快にさせないようにすること。

もう一つは、自分が認識している技術用語や様々な用語の解釈が、人と同じでは無い可能性があること。そのことを前提にコミュニケーションをすることが大事、ということ。

いずれにせよ、様々な示唆をいただけた朝日新聞社様には、この場を借りて御礼を申し上げます。


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