1on1不要論

最近流行のマネジメント手法として「1on1(ミーティング)」があり、特にIT業界では多くの現場で導入されていると思います。
最近、などと書きましたが、個人的にはそんな感覚はありません。昔から広く行われている習慣という印象で、特に新味はありません。いつくらいから普及し始めたのかよく覚えていないですが、私の肌感だと10年前くらいから一般的に実施され始めた印象があります。

さて、私は、以下の記事でも書いたとおりリーダー職としても長く働いており、1on1を実施する機会はオーガナイザーとしても参加者としてもそれなりに多いです。

リーダー職の一人として、私の基本的なスタンスとしては「1on1は不要」と思っています。正確に表現すると、チームマネジメントにおける 1st プライオリティではない、という感じです。

1on1に対するヘイト、不要論については、何も僕だけが声高に言っているわけでもなく、Google でも検索しようとすると1on1 やめてほしいが上位にサジェストされるくらいには多くの人が不満を感じているようです。

とはいっても私も日常的に今でも1on1は実施しています。1on1でチームマネジメントの課題のすべてが解決するとは夢にも思ってないですが、一つのツールとして活用しています。
この記事では、私が普段どんな1on1を実施しているかを記述し、その上で世間的な1on1の内容や、その意義についての考察・思いみたいなものを記載していきたいと思います。

私が教わってきた1on1の手法

私は、以前在籍していた会社でのマネージャー研修で1on1についてのレクチャーも受けたことがあり、ここから書く内容はそのレクチャーをベースにしています。

普段の業務の進捗確認・相談は扱わない。絶対

これはかなり強く言われました。
理由としては、以下のデメリットがあるからです。

・「1on1の場で話せばいい」と相談や課題の共有が先送りになりがち
・話した内容が決定事項がチームや組織に共有されないことが多く、意思決定プロセスが不明瞭になりがち
・上司-部下の力関係の中での話になるので、一方的なタスクの押し付けや、進捗の悪い部下を詰問するような会になりがち
・1on1で一番大事とされている「傾聴」に時間を割くことが難しくなりがち

業務についての話は、1on1ではなくチームのミーティングでチーム内で相談・議論した方が良い結果をもたらすことが多いです。
また、業務上の課題は、1on1やチームミーティングを待たずに随時共有をする場作りが大事で、こういう情報の共有を1on1頼りにすることは基本的に組織が停滞するためNG、と教わって生きてきました。

この内容は基本的に腑に落ちる内容で、私もできる限り遵守しています。

「1on1実践マップ」をもとにしたテーマ設定

この本はとても有名な本なので読んだ事がある人は多いと思います。業務について取り扱わない、とした場合、何をテーマにして話すのが良いか、書籍の中でまとめられています。

1.プライベート相互理解
2.心身の健康チェック
3.モチベーションアップ
4.業務・組織課題の改善
5.目標設定・評価
6.能力開発・キャリア支援
7.戦略・方針の伝達

これらの項目について、総論として言えるのは「個人に向き合うこと」です。プライベートの話もそうですし、今後のキャリについての話もそうです。
1on1における主語は、オーガナイズをする上司ではなく、常に参加してくれるメンバーを主語にするすべきで、参加者が現在悩んでいる事や課題に感じていることについて、公私の別なくヒアリングをする、傾聴する、というのが大事、ということになるのかなと思います。

傾聴・質問・認知

「傾聴」は、相手の意見をそのままの形で聞くこと。自分の主観で判断せず、相手がどう考えているかを慮って相手の立場で聞く。
「質問」は、議論を深めたり課題を明らかにするために質問をする。相手に選択肢を与えたり視点を変えてもらい、より広く深く「気づき」を与えるために行う。
「認知」は、相手がどういう人間かをありのままの姿で理解し、自分がどう理解したか、その内容を相手に伝える

コーチングの手法の中でよく語られる内容ですが、この3つの項目を重視して行うのが1on1の場だ、という風に教わりました。


自分がどこまでできているか、かなり心もとないですが、私がチームの中で1on1を実施する際はこれらの項目を意識しながら行うようにしています。

その上で、「1on1辛い」と思うことを書いていきます。

現場での1on1の課題

コーチングのスキルが備わっている人がいない

やれコーチング経験学習だ、1on1を実施する際のモチベーション、お題目としては語られることが多いですが、肝心のオーガナイザーの人がこの辺に習熟していない人が多い印象です。私は「この人コーチングスキルがあるな〜」「上手だな〜」と思う人と1on1を実施した経験は皆無です。
よくある1on1は、コーチングの「コ」の字も出すのがおこがましいレベルで、一方的に上司がしゃべり続けたり、もしくはこちらが話した内容に対して何のフィードバックも無しで話が進んだりします。

これは他人を批判するだけでなく、オーガーナイザーとして見た時の私自身に対しても同じ課題を感じています。正直コーチングスキルについてはお寒い状況で、傾聴のスキルなど磨かなければいけないものが多いです。

逆に言うと、普通にリーダー職になった程度では身につかないハイレベルなコミュニケーションスキルが無いと成立しないミーティングスタイルを、全社的に導入する、というのは、いかにハードルが高いかもわかります。

概ね業務の話しかしない

組織内のメンバーとのコミュニケーションを1on1にだけ頼っている組織にありがちですが、私の肌感覚では、1on1で話す内容は、9割以上が「業務の進捗・相談」です。
これは僕の視点では1on1で話すべき内容ではないです。理由は上述。
業務上の話は、組織内やチーム内の定例ミーティングなど、適切に業務上の進捗報告や相談を行える場を用意し、そちらで実施すべきです。

組織内での円滑な情報共有を行うための会議体が存在せず、業務の連絡手段が1on1に依存している、という会社は、基本的にはチームビルディングに失敗しています。
逆にいうと、チームビルディングが上手でない人が上に立つと、1on1を過剰に推奨する、ということも多そうです。全体最適とは言えないですが最低限の上司〜メンバー間でのコミュニケーションパスは確保できるからです。

しかし1on1で業務の話をすると、密室での意思決定が行われてその内容が共有されないことが多くなり、実際のところ業務遂行上の情報共有に支障をきたします。
業務の話が自分の知らないところで勝手に話が決まってしまうことに対して不満や不安を感じるメンバーも少なからずいるでしょう。これは「心理的安全性」の喪失にもつながります。実際そういう苦情を聞いたことが何度かあります。
1on1は「心理的安全性の確保のため」に実施する、というお題目を信じて行っている人も多いですが、実際は心理的安全性を失う事に繋がっているとしたら皮肉ですね。

実施コストが高すぎる

1on1は、言葉とおりに1対1で実施をしないといけないので、組織の人数やチームメンバーが増えると比例して実施回数・実施時間が増えます。
これは算数の話なのであえて書いても詮無い感じですが、1回30分だとして、4人メンバーがいるチームだったら 30x4 = 2時間ですみますが、8名だとしたら4時間、80名いるチームだったら40時間消費することになり毎週回すことができなくなります。

個々人に向き合ってコーチングを行う、という、1on1が本来理想としているような姿を実践するためには、たとえそれだけの時間を割いたとしても実施すべき、という側面はあると思います。
ただし、大半の1on1では「業務」の話しかしないので、そんな事やるなら最初からチーム定例みたいな場を設定してそこで話した方が効率的で所要時間が少なくてすみそうです。1対1では気づかなかった問題点や課題についても複数メンバーを交えたほうが迅速に共有し議論もでき、結果的に1on1よりも良い結論が出ることも多いです。
先の段落で「1on1に業務連絡を依存している会社はチームビルディングに失敗している」と書きましたが、その所以です。

個人的に「本末転倒だな」と思う人として、各チームの定例は「忙しい」と参加をしないけれど、1on1は高頻度で実施をしている、そんな人がいます。エンジニア組織のリーダーとしては、計算量とかそういう概念を理解しているのだろうか?O(n)とか知ってるのかな?と少し不安になります。

課題を聞く気がない

1on1というのは、ある意味「密室」で行われます。
最大限、性善説で運営されていた場合、他の人が居る所では心理的に言えないようは不安や不満を吸い出し、それを組織的に、もしくはその人との関係性の中で解消していく、ということは期待できます。

しかし、常に性善説で語っても良いものでしょうか?悪意を以て「もみ消す」ということが、1対1の場で起こらないでしょうか?
力の強い人が、自分の都合の良いように物事を捻じ曲げてしまわないと、どうやって保証できるでしょうか?

一度、組織的に大きな課題であり、メンバーにヒアリングしたところ非常に多くの人が不満を感じてるという内容があったので、皆の意見を集約してCTOとの1on1に持っていった事があります。
その内容について面倒臭いと思われたのか、他の理由があったかは定かではないですが、「忙しい」「お前の意見なんか聞いてられない」「俺はCTOだから俺の判断が正しい」等々の反応が返ってきた事があります。
上記のようなことを居合抜きのように「バサッ」と言われただけならまだしも、1時間くらいミーティングの時間を取られ、延々と、滔々と、僕の意見・反論等を一切聞き入れる余地を与えることなく、一方的に話されました。

ちなみに私の対処としては、そのうちの一部の課題については別の経営幹部的な人に直接話を持っていくという策を実施しました。その場で上記1on1で言われた事をそのままオウム返しのように復唱して共有したのですが、CTOからは「そんな事いっさい言ってない」と真顔で反論されました。人間なんて所詮こんなもんです。

上記のような事を経験した人は私だけではないかもしれず、そう考えると1on1で組織の課題が解決する、とナイーブに捉えるのはさすがに安易すぎるな、と個人的には感じます。「密室」で物事を行う危険性は、もっと真面目に認識された方が良いと思います。
ここまでのケースは多くないとしても、課題を共有しても梨の礫で、一切フィードバックもリアクションもない、ということは非常に多い印象です。人の意見を聞くつもりが無いなら、1on1を実施する意味は無いと思います。

これは自分自身がオーガーナイザーとなった時も同様な課題はあるので、1on1を開くからには、共有された課題についてはできるだけ迅速にフィードバックを行い、改善アクションを取るようにはしています。
これらのアクションを行わないと「この人には何を言っても無駄だ」「意味がない」という雰囲気が醸造されてしまい、1on1を行う理由の根幹が失われるからです。

共有した内容が捏造される、もしくは一定の意図でリライトされる

上記の内容の派生系です。
共有した内容が無視されるくらいならまだ可愛いもので、壁に独り言を言っている程度の虚無感で済むのですが、伝えた内容が捻じ曲がって伝わり、自分の本意とはかけ離れた、もしくは真逆の内容が伝わっていくこともあったりします。

1on1の議事録をオーガナイザー(上司)が口述筆記のように記載していくスタイルで実施しているケースで頻発していました。
話を聞きながら書いているという理由もあるとは思いますが、それにしても、私が話していた論旨と真逆の事が書かれていたり、ポジティブなことを9割話していたのに言葉尻で冗談めいて出たネガティブな発言だけがメモに残されたり、という事が頻発していました。
「口述筆記は大変だろうから、事前にアジェンダとその内容について書いておこうかな」と、1on1を実施する前にアジェンダを記載をした事があったのですが、なぜかその事に対してものすごい「怒られ」が発生し、あぁ、これは意図的なんだなと観念しました。

それ以降は、その人との1on1では絶対に本音を話さず、すでに議論しつくされている内容をただ踏襲したり、重要でないどうでも良い話しかしないようにしています。
この件も、「密室」でのミーティングの危険性を表していると思います。

こういう1on1のスタイルの人が、表向きは「課題の早期発見」「信頼関係の構築」を掲げてしまうのですから、人間とはなんと複雑な生き物なのだろう、と感じてしまいます。

まとめにかえて

1on1は、理想的な形で実施できるなら良いけど、実際の現場ではそのように運用されていない。その課題感があり、このような記事を書きました。
どのようなツールでも使い方によっては非常に効果を発揮するケースもあるけど、使い方を間違えると凶器にもなります。1on1は、とてもその側面が強いツールだな、と個人的には感じています。
記事本編にも書きましたが、業務の話しかしないなら1on1は不要だと思っています。

個人的な感触ですが、現場の課題解決に興味の無いリーダーほど、「1on1」「技術的負債」をお題目に掲げて、「俺仕事してるよ」アピールをしている人が多い印象があります。
これらの単語を出すと、実際の実績や実情は別にして周囲に「仕事やってる感」をアピールでき、都合が良いのでしょうね。

もちろん、1on1というメソッドについて、正しく運用できればとても強力なツールである、とは私も強く感じており、この記事は真面目に取り組んでいる人を揶揄する目的で書いた記事ではありません。その事は蛇足的に付記させていただきます。


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