ITエンジニアの外部への情報発信について

この文章は、私がいくつかの会社での経験を基にITエンジニアの情報発信の方針やルールを決めたり、制度として根付かせてきた際に書いてきた文章のイミテーションです。

会社の置かれている状況、時代などにより考え方は様々で正解はないと思いますし、ここに書いてある内容が妥当なのか時代錯誤なのかわかりませんが、自分の考えを整理するため、備忘録のため、に記録として残しておきます。

motivation

開発現場のエンジニアとして、会社組織としてコントロールされた、適度な社外への情報発信は大事だと考えています。

重要だと思う理由は、究極的には「優秀な人材を社内に呼び込む」つまり採用のために必要な行動だからです。

そのための一手段として、外部への情報発信は有効な手段であり、会社としても適切な形で戦略的に情報発信ができる仕組みを作り上げることが必要と考えます。

なぜ優秀な人の採用が必要かについては以下に記します。

序文〜優秀なエンジニアの採用が必要な理由について

なぜ優秀なエンジニアが必要なのか。

エンジニア不足が広く語られるようになり、単なる労働力の確保の観点でエンジニア採用が語られることも多いですが、多くの事例からも多くの IT 企業、もしくは IT を活用している企業で優秀なエンジニアが事業自体、市場自体を作り上げてしまうケースが散見されます。

だからこそ、各社、スター級のエンジニアの採用に力を入れていますし、社内からスター級のエンジニアを排出したり、彼らを支えて気持ちよく働いてもらうためにも、多くの優秀なエンジニアの採用は重要になります。

例1: Ameba ピグ
https://pigg.ameba.jp/
Ameba ピグは、エンジニアが事業自体を作り出すことができるという例としては最適な気がします。十年ほど前に、今はメルカリのCTOを務められている名村卓さんという優秀なエンジニアがサイバーエージェント在籍時に基礎部分を一人で作り上げたアバターサービスが、Ameba ピグです。 このサービスはリリース直後から多くのユーザーの支持を獲得して爆発的ヒットをし、それによりAmeba 事業本部は単年黒字化、ならびに過去の投資金額の回収を達成することができたと言われています。
(なおAmebaピグは役目を果たしたのか2019年12月にサービス終了予定です。)

例2: SmartNews

Web上に存在する数多のニュース記事、ブログ記事などを一日数千万件クロールし、コンピュータアルゴリズム(機械学習、人工知能)によりランキング付けをすることでニュースの自動編成と配信を実現したサービスが、SmartNewsです。

一般的なニュースサービスは Yahoo News や LINE などに見られるように数百人の編成部隊を抱えることにより実現していますが、SmartNews はその時に話題になっているニュースや重要な話題をコンピュータアルゴリズムにより自動的に高精度でピックアップし、インターネットニュースのサービスをクオリティを落とすことなく提供している。特筆すべきは、このサービスの基礎は SmartNews 社の社長でありエンジニアの浜本階生氏がたったひとりで作り上げたことです。

現在全世界累計でアプリは数千万回ダウンロードされ、この規模においては人手による運用や編集者一切無しで運営されたおそらく人類最初のニュースサービスになり、日本にそれまで存在してなかったニュースアプリ市場を作り出した存在です。SmartNews は未だ非上場ですが市場価値は一千億円を超えると言われています。

ITエンジニアが果たすべき役割

コンピューターアルゴリズムやエンジニアを過剰に崇め高めるつもりはありませんし、エンジニア以外の労働者の価値が下がるわけではないです。 現在的な IT エンジニアが果たすべき役割は、世の中の森羅万象、人々の営みのうち、以下のものになります。

・情報のやりとりの自動化
 我々が認識しているインターネットサービスが果たしている役割。
・認知、判断の自動化
 最近だと流行りのディープラーニングによる画像判定など。

コンピュータアルゴリズムによって、事業や組織の中の様々な処理を自動化するためには、IT エンジニアが必要です。IT エンジニアが生み出したものは基本的には自動的に実行され、定期的なメンテナンスは必要なものの作り上げたものについては人が介在せずに動かせ続けることが出来ます。

そしてその内容は他人に共有することが容易なため、過去の資産や他人の資産(オープンソース・ソフトウェアなど含む)を組み合わせてまた新たな価値を作り上げることできます。そのような理由で、他の業種にくらべて、一人あたりのエンジニアが実現できるアウトプットは大きく「てこ」を効かせる事ができるのが特徴です。

逆に、複数の選択肢から何かを選択することや、過去に事例が一切ないことについて意思決定をすること、新しい概念を生み出すことなどは人間にしかできません。

日々のオペレーションの多くは自動化し、人間はその結果を眺め、問題点を把握したり、新しい価値を創造したり、意思決定を行うことが求められます。人間が価値を創造する作業に集中するためにも、IT エンジニアの存在が必要という言い方も出来ます。

優秀なITエンジニアを雇うために

上記のような価値を認識している会社の間で、とくに優秀なITエンジニアは争奪戦になっています。

給与以外に、会社も数多くの施策や福利厚生を以て、優秀なITエンジニアに対してリーチできるようアピール合戦を行っています。

福利厚生

各社のリンクを貼るのみにここではとどめますが、フリードリンク、フリーランチや、海外カンファレンスの渡航サポートなど、エンジニアがパフォーマンスを発揮し自己研鑽できるような環境を多くの起業が整えています。

社外への認知向上

その豊かな福利厚生も含めて、会社のことを広く多くの人の知ってもらうために、多くの会社が様々な社外へのアピールを行っています。 結局、知ってもらわない限りは興味をもってもらえる事も無いので、継続的なアピールは必要です。

エンジニア視点で語ると、以下のような手法が多く用いられています。

・技術者ブログ
・外部イベントへの登壇
・OSS 活動
・コントリビュート活動の推奨

 ・会社で作成したツール等の OSS 公開等
・各種スポンサー活動
 ・カンファレンス
 ・学会
 ・NPO など社会活動(場所貸し含む)

技術者ブログや外部イベントへの登壇が盛んな会社としては、クックパッドやサイバーエージェント、メルカリなどが挙げられます。

DevRel

https://devrel.jp/about/ 

Developer Relations の略称で、一般的にはサービスを作り出した開発者と外部の一般ユーザーを結びつける広報やコミュニティ活動、そしてそれらを推進する役割の人のことを指す言葉です。

一言で言うと、「会社のこと、サービスのことをもっと知ってもらうための活動」のことになります。

上述のブログ執筆や外部イベント登壇などの活動は志のあるエンジニアがいる組織では自律的に行われることがありますが、エンジニアを取り巻く諸事情により長期継続することが難しいことが多いです。その辺を組織として補うために、組織的に情報発信を推進する役割として、DevRel の大事さが注目されてきています。

リファラル

一般的に、採用エージェントなどから経由の採用よりも、リファラル(社員の紹介)で採用されたほうが、定着率がよく在籍年数が長くなりがちで、仕事満足度が高くかつエンジニアとしても優秀なケースが多いです。 最近ではメルカリがリファラル採用にとにかく力を入れていることで有名です。

リファラル活動を推進するために、会社として以下のようなサポートをすることが多いです。

・リファラル経由で入社したら、紹介してくれた社員に報奨金を提供
 ・聞いたことがある額で、ひとりあたり30万〜100万円程度。
・会社のオフィス見学などのイベント実施
 ・社内でミートアップみたいなイベントを開いて、お酒を飲みながら社員と談笑できるような場を作るなど
 ・社員としてはただで飲み食いできるという福利厚生的なメリットもあり
・外部のエンジニアとの飲み会の金銭補助
など
また、最近の採用関係のツールはリファラルを意識した作りのものも多く、数年前に上場した Wantedly もその一つといえます。

日々のエンジニアリングの水準向上

外向けにだけキラキラした良いことだけを語っていても、実際の社内の仕事のあり方が旧態然していたり効率的でない場合、いくら取り繕っても無駄です。 積極的に対外アピールをしているもののその中身の浅さ故に、逆にエンジニアに見限られてしまう会社も少なくありません(具体的にどこかの会社のことかは述べません)

なので、なんだかんだいっても、我々自身が、エンジニアの価値とは何か、なぜ必要なのか、エンジニアがどのように働いてどのような価値を生み出すことを期待するのか、その期待することにあわせて組織をどのように変えていく必要があるのか、ということに向き合う必要があります。

本論〜外部への情報発信について

ここまでが情報発信がなぜ必要かという背景となる序文です。

以下は、外部への情報発信について、より具体的な項目とその方法について記載していきます。

情報発信をする環境づくりについて

エンジニアの公共性

エンジニアはコミュニティ内で共有されている様々な知見や資産(OSS等)を自らの業務内で活用し利益を享受しているので、自身も共有可能な有益な情報を社外に発信し貢献することはエンジニアとしての義務である、と考えている人も多いです。 IT 業界に長年属して実績を積み重ねている人ほど、こういう考え方になることが多いように思えます。

組織としては、こういう人たちのモチベーションを削がないように、できるだけ公共性に利するエンジニア活動を邪魔せず後押ししてあげるという姿勢も大事だと思います。

組織としての場作り

会社組織の視点からは、適切に情報発信することで採用につながるという期待値があります。

では、日頃忙しい現場のエンジニアに情報発信をお願いするにはどうしたら良いでしょうか? 現行の組織体制やルールを変えないまま、ただ「情報発信を頑張っていきましょう」と声掛けをしても、面倒なことが増えると考えるエンジニアからは忌避されます。

なので、組織として情報発信を推進するためには、エンジニアのモチベーションを喚起する仕組みづくりを考える必要があります。

・情報発信は業務である、と明確に位置づける
・会社に貢献したことに対する報酬を設定する
 ・査定項目に追加する
 ・技術ブログのアクセス数に応じて報奨金を与える
・など

これらが社風になじまない、調整が大変だ、としても、少なくとも情報発信を行おうとするエンジニアの邪魔はしないような制度設計は行った方が良いと思います。

情報発信することは会社の利益になること、と信じる

優秀なエンジニアが社外に情報発信をするとそのエンジニアが他の会社に狙われてしまうから規制をしている、という会社も中にはあります。会社名義で登壇すること、論文を発表することはNGだという大企業も存在します。

私も学会やカンファレンス等に登壇したあとスカウトメールが大量に届いたりヘッドハンティングにあったりした経験はあり、そういう場に出ていくことは他社の採用担当の草刈り場に出ていくことでもあるとは認識をしています。

別の視点で、会社の業務として行ったことを外部で発表することで「会社の実績を個人が独り占めしている」というふうに後ろ指をさされることもあります。個人としても経験がありますし、社内の人に対してそのような陰口を述べている人もたまに見かけます。

しかし会社が情報発信に後ろ向きな姿勢だと、優秀なエンジニアであれば特に、窮屈で非現代的な組織に嫌気がさして、結局は出ていってしまいます。

性悪説にならずに、外部に情報を発信して会社のポジティブなイメージを広めることが、最終的に組織の利益につながる。 と考えた方が、結果的に皆幸せになるように思えます。

具体的な情報発信の手段とルール

手段については、時代の移り変わりもありますし、必ずしも「コレ」といえるようなものは無いかもしれません。

ちょっと前であれば Qiita で記事を書くというのは一つのステータスだったかもしれませんし、もっと旧時代にははてなダイアリーの時代もありました。今はそれこそ note 、という時代かもしれません。

具体的な手段として数年前に整理したものについては、別の note の記事に記すようにします。

制度は作った。果たして運用されるか?

情報発信についてまとめるにあたり、ここまで長文の文章になる必要があるか、と疑問に思われると思いますが、行おうとする内容における背景と目的についてきちんと整理して書く必要があると思い、長文になりました。

表っ面の素案だけまとめた結果、「こう意見があるからとりあえず制度作ってみましょう」という姿勢だと、取りまとめにも時間がかかるでしょうし、本来の目的を見失ったものが出来上がる懸念もありますし、作って終わりになり実質的に機能しない懸念を持っています。本来行うべき目的や、施策の位置づけについても見失ってしまいがちです。

なのでここでは、なぜエンジニアが情報発信をするのか、しなければいけないのか、という事について私論をまとめました。

そして、制度は、作って終わりではなく、それを長期間運用してはじめて価値が明らかになります。その価値の多寡はケースによりますが、少なくとも運用されてない制度には価値がありません。

本当に採用について考えるのであれば、その施策の一つとして情報発信が大事である、と認識をし、中長期的な戦略の一貫として継続することが大事である。ということを多くの人が理解するようになると良いな、と思っています。




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