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 闇は自販機の横に蹲っていて、水溜まりの反射を覗き込んでは驚愕する。臆病な闇はそのたびみっともない悲鳴をあげて、四足の獣たちを怯えさせ、街の夜空が濃さを増す。
 闇に首輪をつけることはできるか。自由研究のテーマはそれにした。懐中電灯を持って駐車場の隅に追い立てた。闇は悲鳴をあげたが、手を伸ばしても抵抗しなかった。闇は存外に柔らかな毛並みをしていた。夏の夜はあらゆる輪郭の溶剤になって、シンナーの匂いがした。ダンボールに詰めた闇は、朝になると死んでいた。死ぬときは音も立てない。
 先生はレポートを机に置いた。先生も昔、田舎で闇を捕まえようとしたことがあるという。闇は、毛を逆立てて先生の手を噛んだあと夕方の車道へ走っていった。ヘッドライトに竦みながらそれは、路肩の手招くような夏の蔦の暗がりの下へ転び出ていったという。「窮鼠猫を噛むと言うからな」先生は未だ消えず残っている闇の歯型を見せてくれた。丸く小さな歯型だった。

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