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あと1秒だけ、もう1秒だけ

約2ヶ月間のことを書こうと思います。
苦しくて、楽しくて、切なかった思い出です。

|バラバラなあさがおの種たち

私が働く学童では、ドッジボールに力を入れている。児童数も100人を超えるため、3チームに分かれて三つ巴のドッジボール大会を年に3、4回おこなっている。しかし、ある問題が起きていた。

Aチーム、Bチーム、Cチームの各チームにいわば担任だったり監督だったりする先生がいる。それぞれにチームのカラーが出ていて面白い。Aチームは別棟で過ごしている子どもたちのチーム。主任が監督ということもあり選りすぐりな曲者たちがこのチームに分けられている。そして今1番強いチームだ。Bチーム。男女共に仲が良く、応援グッズや持ち物が可愛くてノリがあるチーム。そしてCチーム。ここは以前から問題が多発して解散したり、メンバーの入れ代えも多いチーム。ドッジボールも大差で負けてしまう。監督の先生はもっと問題がある。コミュニケーション、子どもへの指導や関わりが上手にできない。ここ2、3年は、Cチームへの異動はもはや罰ゲームとなっているような状況が続いていた。

私は今年の4月から学童支援員(臨時指導員)としてこの学童で働くことになった。以前から長期休みなどで手伝っていたりしていたこともあって子ども、指導員とは顔見知りだった。この先、このままCチームはどうなってしまうのか。そこにいる子どもたちはどうなるのか。心配してしまう。そんな中、「しばらくCチームの監督をやってほしい」と話があった。今まで監督をしていた先生は、一旦ドッジボールから離れることになった。限界がきたのだろう。

遊びのドッジボールをみていたことはあるが、大会に向けて本格的な練習を一緒にしていくことは今回初めてだった。Cチーム底上げプロジェクトが6月、始動した_________。

Cチームは、そもそもドッジボールに対して気持ちが後ろ向きであった。キャプテンとなるE君はほぼ休み。しかし複雑で厳しく育てられる家庭環境が故に、性格上、来ても遠慮をしてしまう。ほかのチームは6年生がキャプテンとなり毎日練習する中、うちは主に4年生がまとめていた。学童の利用システム上、毎日来れる子はそもそも少ない。しかしドッジボールをやりたいから!ドッジボールが好きだから!と、迎えを遅くしてもらう子もいる中でうちは17:00時点で残るのが2,3人。練習の参加率は明らかに悪かった。

|水をあげ、土を整え、花を咲かす

私にできることは何か。それは、練習を楽しいと思ってもらうこと。それが「勝ち」に繋がること。

Cチームの子どもたちとはじまった6月は、まずコミュニケーションからはじめた。毎日チーム全員に「おかえり!」+‪αの会話をする。練習試合をする時は誰よりも大きい声で、たくさん声をかける。とにかくみんなとたくさん話をすることからはじめた。すると、子どもたちとの距離が今までよりぐっと近づいて、練習の参加率が上がった。メニューを変えて、時には自分がボールを投げたりした。

普段からもよく話はするが、チームに入ってからさらに話すようになったA君。彼はほぼ毎日遅くまでいて、キャプテン、副キャプテン不在がほぼ常時なこのチームをまとめてくれる4年生。誰よりも声を出し、一生懸命引っ張ってくれる。底抜けに明るくて時々お調子者なムードメーカーだった。チームについて話したり、あれこれを決めていくにあたり、まず話をする相手が、A君となっていった。彼も、帰ってくるとすぐに、「今日は○○ちゃんは休みで、××くんは16:30に帰るよ」と頼んでいなくても出欠確認の報告を毎日欠かさずしてくれた。それほど、必死なのだ。私が入ったことは、子どもたちにとって希望になってくれているのだろうか。そんなことを考えさせられる。私も子どもの気持ちに応えるべく、本気で向き合う。怒ることは苦手だけど、心が動くまで言葉をぶつける。チーム内のポジションを整えたり、コンプリートノートと称して、ドッジボールのコツや練習の様子をファイルに綴った。動画や写真もたくさん撮った。みんなのことをちゃんと見ているよ。と、伝えたかった。

3年生のK君は、チームの厄介者扱いされていた。余計な言動、反発的な態度、落ち着きのない様子ばかりがピックアップされて、以前の監督の先生にいつも追いかけ回されていた。確かに問題児かもしれないが、良い面だってたくさんある子だと私は思った。年下の子を面倒見たり、意外と話を聞いていたり、言っていることが正しかったりする時もある。しかしその面はスルーされてきたがために、いつもみんなから怒られてしまうのだ。もちろん、A君もK君の扱いに困っていた。しかし、K君は問題があるかもしれないが、その分良い面もたくさんある。と、子どもたちに伝え続けた。怒る時は爆弾のように怒り飛ばすが、その分いい所を見つけてみんなの前で褒めた。するとK君は、休みとなっていた日に、「ドッジボールをやりたいから」と、休みとしていた日にも学童に帰ってくるようになった。お母さんからも、ぜひお願いしたい。と。とても嬉しかった。それをチームのみんなの前で話すと、照れくさそうに「家にいてもやることないし」と、顔を隠してブツブツ言い出すのだ。そしてみんなもK君の良さを認めはじめ、チームが少しずつまとまってきた。

練習試合では、全滅が常だったCチーム。しかし練習を変え、子どもたちのモチベーションも上がり、勝てる日が少しずつ増えてきた。ワントップのようなプレイが目立ったのを、ひとりひとりに明確な役割を与え、外野の投げる順番を決め、ポジショニングや戦法の色々なアイデアを試した。相手を分析させて自分ができることを考えさせた。すると、試合中に突然ボールをキャッチできるようになったり、思いがけずアタックができるようになったりしていった。面白いくらい確実に、実力もチーム力も上がっていた。

|一致団結

各チームに、それぞれコンセプトがある。Aチームは「正々堂々」監督の性格そのものとも言える。Bチームは「One for all All for one」仲の良さはここからきているのだろう。そしてCチーム。みんなに、「今までのコンセプトってなんだったの?」と純粋な疑問として聞いたことがある。なんと、答えは「分からない」だった。あるのにはある。しかし分からなかったのだ。そこで、私は「一致団結」を提案した。すると副キャプテンS君から、「今1番できていないことだと思う」と言葉が返ってきた。はい、私の勝ち。頭が良く、模範的な存在のS君はよく分かっていた。彼の言葉にみんなも納得している。「1番できていないのなら、これにしよう。合言葉にしていこう」子どもたちは、少し間を置いて、覚悟を決めたように真っ直ぐな瞳で「そうだね!」「それがいいね!」と口々に発していた。

ある日、チームのご意見番A君はいつものように出欠確認の報告をしに来た。すると、「Cチームの練習計画を考えてきました!読んどいて!」と興奮気味にくしゃくしゃになっていた1枚の紙を渡してきた。試合のフォーメーション、メンバーそれぞれの得意なところ、1番最後には、「一致団結で、かとう!がんばろう!」と書かれていた。(一致団結は、ママに書いてもらったと彼は語っている)

うちのチームには、敏腕マネージャーがいる。4年生のYちゃん。膝を怪我してしまい、大会まではマネージャーとして練習に参加してもらうようお願いした。それも、以前の監督乗った先生は蚊帳の外状態。普段からしっかり者だから私の右腕として、試合の記録やメンバーの様子を見張ることも頼めた。きっと、YちゃんはA君のことが好きなのだろう。そんなことも垣間見えたりして微笑ましかった。試合前日には、メンバーひとりひとりに応援メッセージを書いてくれた。そしてビーズで作ったストラップをプレゼントしてくれたのだ。

キャプテンのE君。大人しく頭の良い彼の闇は深い。深淵に触れることはできない。あのE君が!?と言われる問題を起こしてしまったり道を外れかけていた。しかし練習が変わってからは悪行を辞め、少しずつ穏やかになった。大好きなおばあちゃんの入院、手術が重なり、家事都合で大会は出られなくなってしまった。それでも、練習したいからお迎えを少し遅くしてもらったり努力はしていたのだ。キャプテンなのになかなか練習に参加できない引け目。これまでの問題行動も彼にとっては引け目に感じているのだろう。はじめはチームに溶け込めなかったが、今は尊敬されるキャプテンとなっている。

チームのために、アクションを起こす。
ごく自然なことだと思っていたことがこんなにも嬉しくなるとは思わなかった。今までなかったものが、生まれはじめていたのだ。

そんな中、突然私とCチームに告げられた別れ。
Cチームをみるのは7月の大会までになった。
大会の1週間前の出来事だった。

|あと1秒だけ、もう1秒だけ

チームをもってはじめて迎える大会当日。
私は緊張しすぎるあまりに化粧をし忘れ、財布を家に忘れる始末。子どもに話したら緊張ほぐれるかな。学校から帰ってきて、私の顔を見て少し笑顔になってくれた。「先生、僕たち頑張るね」そう言葉をかけてくれた。

試合が始まる前、円陣組もうと提案した。他のチームに比べてやり慣れていない円陣に戸惑いながらも、明るく力強く声を合わせることができ、笑顔でコートに走っていった。




試合は、ボロ負けだった。
1回も勝つことはできなかった。

既に勝敗が決まってしまった試合でも、コートに残ろうと必死にボール避けて、キャッチして、みんなで声を出して戦いぬいた。

笑っても泣いても今日が最後。
それは子どもたちだって分かっていた。

本当に色々あって、想いも溢れて涙が止まらなかった。この日、はじめてA君が涙を見せた。ずるいと思った。きっと今までも泣きたい場面なんて、いくらでもあったのに。

体育館から帰ってきて渡した手紙でも泣いていた。
S君、Yちゃんも泣いていた。そして私も泣いてしまった。

この日を忘れたくはない。

この文章の中にはない、でも鮮明に覚えている一瞬一瞬の出来事にでさえいくつもの感情が詰まっていた。

この仕事を辞める訳ではないし、Cチームの子たちと二度と会えなくなる訳ではない。ただ、一緒に練習して、感情を共有することはもうほとんどなくなる。次の日からは、元の監督の先生がチームをみていくことになる。

主任から伝えられた、任期満了の言葉。
「あなたがCチームに入ってから子どもの笑顔が増えた。明るくなった。そしてチームとして強くなっていった。他のチームの子どもたちからも声が出ている。この短い期間でよくここまでまとめた。もう役割としては充分。これから夏休みを迎えるにあたってあなたの負担や、ドッジボール以外での動きを考えると大会までとしたい」

心の整理もつかぬまま終われないと、大会の日にもう1度主任に、「夏休みも、みたい」と話すも叶わず。

しかし、さようならではない。
これからはフリーで動くことになるからこそ、また違った形で関わることができる。

子どもを見守る、指導する形に正解はない。
でも、気持ちを100%ぶつけて本気で向き合ってこそ、子どもの心は動くものだと思う。この2ヶ月間、私はそのことを子どもたちから気づかされたのだ。

監督の引き継ぎで、私は気づいたら1時間近くも語り倒してしまったらしい。でもそれくらいに、今後任せるのには不安があった。今はもう、引き継ぎが終わり練習が再開している。子どもの顔は、曇り顔に戻ってしまいそうだ。そこで、異例だがS君、A君、Yちゃん3人にも引き継ぎをした。「今後練習を引っ張る存在になるのは君たち。この2ヶ月間やってきたことを忘れないで。自分たちで良いチームにできる。相談には乗る。君たちならできる」と。

________初夏の夕方、あのオレンジ色の空の下で笑って泣いた日々を糧にしてこれからを過ごしていくのだろう。

少し苦いオレンジのよう
後に残る切なさ
あと1秒だけ、もう1秒だけ
なんて惜しみながらゆくよ

限られた時間がいつか
ふいに恋しくなっても
立ち止まらないで
振り返らないで
君は進んでいけばいいんだよ

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