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【感想】スパイは楽園に戯れる(五條瑛)

「鉱物シリーズ」の3冊目と言うべきか、スピンオフと言うべきか。小説推理に連載された「パーフェクト・クオーツ」を改題・加筆修正したものとのこと。
私は小説推理版を読み逃しているのですが、どうやら相当変わっているようです。いつか小説推理版もぜひ読んでみたい。

本作の登場人物は、幼少期に見ず知らずの男から聞いた「国のために役に立つ人間になれ」との言葉を胸に国会議員になった涌井直哉。スパイ防止法案で注目を集める涌井の依頼で、その出自を調べる中華文化思想研究所の仲上。
そして、北朝鮮指導者の息子“ヨハン”の亡命話を追う葉山。
同時進行するふたつの話がやがてひとつに繋がっていきます。
涌井の出した結論は、読者にとっては唐突で、純粋すぎるけれども確かにそれしかなかったのかも…。本当に知ってよかったのか、知らない方がよかったのか。
自分の基盤が崩されたとき、人は何を思うのでしょう。考えさせられます。

本作の単行本の帯の文句は、
「情報は黄金だ。収集家は蒐集家であり、分析者は芸術家だ。小さな言葉の破片を拾い集めて、何もない砂漠に“真実の城”を築くことができる」
という作中の一節なのですが、本文ではさらに、
「~“真実の城”を築くことができるHUMINTは、魔法使いの杖と同じだよ」
と続きます。
これは隆さんの恩師の言葉で、「魔法使いの杖」と言われると一気にロマンチックな雰囲気に。
鉱物シリーズの情報屋さんたちは、過激なロマンチスト揃いなので、「魔法使いの杖」という表現、私はすごく好きです。

また、本作では仲上と因縁のある“火蛇”も登場してきます。
せっかくですので、よろしければ仲上と“火蛇”のスピンオフ「君の夢はもう見ない」も入手いただき、一緒にお楽しみください。
こちらは隆さんよりもシックな、大人の男の物語です。

最後に、勝手に本作の隆さんのおススメ暴言集を。

あいつを安心させるなんて、死んでもしたくないけど、無能だと思われるのはもっと厭だ
機嫌の悪いエディは悪魔だが、機嫌のいいエディは魔王だ
――先生、どうして僕の周りには、変な奴しかいないんでしょうか
(それに対して、「そりゃ、君が変だからだよ」とはっきり言ってしまう田所先生が好きです笑)