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第1部 「社会」は、あなたの財布の外にある。

Question 1
 すべての人が日曜日に休もうとしている。そのための準備として、ふさわしくないのは次のうちどれだろうか?

A 平日のうちに、学校の宿題や課題を終わらせておく
B 平日のうちに、洗濯や掃除などの家事をしておく
C 平日のうちに、バイトや仕事をして使うお金を貯めておく


正解 C  平日のうちに、バイトや仕事をして使うお金を貯めておく

「僕たちの暮らす社会は、一人ひとりが支え合っている」

 資本主義のど真ん中にいた僕がこんな話を始めたら、あなたは眉をひそめて、僕の腹の内を探るかもしれない。きれいごとを並べて、自分をダマそうと何かを企んでいるのではないかと。

 たしかに現代社会では、みんなが支え合っていることを実感できる機会がほとんどない。

「生活を支えているのは、お金だ。自分や家族が稼いだお金で日々を送っている」

 そう思っていると、この問題の正解にたどり着けない。日曜日に休むためには、平日のうちにお金を貯めておけばいいじゃないかと考えてしまう。

 ところが、Cの選択肢はふさわしくない。日曜日に働いている人がいなければ、日曜日にお金を使うことはできないからだ。

 働く人がいなければ、お金は力を失う。

 この日曜日の問題は現実的でないと思われるかもしれない。だけど、「日曜日」を「老後」に置き換えるとこうなる。

 「すべての人が老後に休もうとしている。そのための準備として、ふさわしくないのは次のうちどれだろうか?」

 すべての人が同時に老後を迎えたりはしないが、少子化で働く人が相対的に減っていくのは確かだ。元の問題と同じように、お金を貯めることだけでは根本的な問題解決にならない。それなのに僕たちは、「老後の問題」を「お金の問題」と考えてしまいがちだ。

 お金が生活を支えていると思うと、自分の財布の中のお金にしか興味を持てなくなる。しかし、僕が一日を過ごすために、数万人の人が働いている。たとえ一日中僕が家で過ごしたとしてもだ。

 朝起きて蛇口をひねるだけで水を飲めるのは、水道代を払っているからではない。見えないところで多くの人が働いているからだ。

 水源地を管理する人、水質検査をする人、水道管を修繕する人。水を飲むことができるのは彼らのおかげだ。どんなにお金を払っても、誰も働いてくれない無人島で水を飲むことはできない。一日を過ごすだけで、無数の人々に支えられている。

 同じように、あなたが働くことは誰かを助けることでもある。家の中で家事をすれば家族を助けている。家の外では仕事を通じて見知らぬ誰かの生活を助けている。

 誰の役に立つのか実感しにくい仕事だって、どこかに必ず「お客さん」がいる。あなたがもらっているお金をたどっていけば、必ず誰かにたどり着く。あなたは必ず、誰かを助けている。

 社会は、あなたの財布の外側に広がっている。僕たち一人ひとりは助け合っている社会の一員だ。ところが、自分の財布の中のお金だけを見て暮らしていると、登場人物が自分だけになる。社会の話が、自分と切り離された話になる。だから「お金さえあれば生きていける」と錯覚してしまうのだ。

 老後の生活の不安をなくすためには、お金さえ蓄えておければ大丈夫だと多くの人が信じている。それは、お金だけ握りしめて樹海の中を1人でさまよっているようなものだ。しかしそのままでは、幸せな未来にはたどり着けない。

 僕たちが樹海で迷っているのは、手元にある「経済の羅針盤」が正確ではないからだ。その羅針盤には今、「お金には価値がある」としか書かれていない。

【🧭経済の羅針盤】
◯ お金には価値がある 

僕たちが知っているお金の話は、財布の中の話ばかりだ。

 どうやってお金を稼ぐのか。
 または、どうやってお金を増やすのか。
 そして、どうやってお金を貯めるのか。

 でも、「財布の外」の世界については、あまり考える機会がなかった。 僕たち一人ひとりは別々の樹海を歩いているわけではない。同じ樹海を歩いている。そこで、支え合いながら生きている。正確な羅針盤を手に入れれば、樹海の木々が共に支え合う人々だと気づく。正しい羅針盤を手に入れれば、道に迷うこともない。

 第1部では、財布の外側を眺めながら経済の羅針盤の精度を高めていく。

 まずは、僕たちが信じているお金の価値から見つめ直していこう。

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