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手帳の季節

文房具売場の一番いい場所に手帳が並べられる季節になりました。わたしが初めて買った手帳は、高校生のとき、東急ハンズで見つけたイノベーター社製のものでした。グレーのカバーに「innovator」と縦に入ったロゴが格好良かった。わたしは道具から入るたちで、その最たるものが文房具です。例えば、万年筆はペリカン社製を長年愛用しています。わたしの手は厚くて大きいほうだけれど、軸はやや細くて、ペン先はF、インクはウォータンマンのブルーブラックが好き。黒とロイヤルブルーのインクはモンブラン社製を使っています。これは神保町の金ペン堂のオヤジさんのおすすめでした。インクは他にも南国タヒチの海の色のようなターコイズブルーやグリーンを好んで使います。紙は満寿屋の原稿用紙・B5サイズ・ルビなし・品番No.102。万年筆で書いたときのペン先の滑り具合、裏までいかないインクのにじみ具合がいい。他にも4色ボールペンを好んで使っています。デザインを重視するならラミー社製のものを使いたいところですけれど、書き味はパイロット社製の油性インキのものにせざるを得ません。わたしの好きな青色と緑色の発色も素晴らしい。

デジタルの手帳の話でいえば、社会人4年目の平成が始まってまもなくのころ、社内研修で経営シミュレーション・マネジメントゲームの開発者の西順一郎先生と出会いました。それ以来長年、スケジュールと住所録の管理は手帳でなくパソコンで行なっていました。くわしくいうとスケジュールはGoogle社のクラウドサービス「Googleカレンダー」を、住所録は西先生から教えていただいた「マイツール」というパソコンのソフトウェアを使いました。そのころデジタルをとりいれた理由は、スケジュールも名簿もパソコンの方が手帳より便利で、楽しく感じたからです。新しいおもちゃを手に入れてすっかり夢中になったわたしではありましたが、紙の手帳も使い続けました。マンダラ手帳です。わたしは憧れの人が使っている道具を見ると、それが欲しくなります。

デジタルの手帳の場合、スケジュール管理は基本的に日付や週に準拠したものになりますが、紙の手帳を工夫して使うと、脇道にそれて面白いことをできますので実に面白い。”コンピュータのプログラミング”と”人間の脳”の違いのようです。コンピュータのプログラミングは、あらかじめ読み込まれた条件を上から順に実行していきます。条件に合わなかったら、優先順位に応じてどんどん上から下に命令が実行されて行くだけです。条件にないことは実行されませんし、逆にイレギュラーもありません。

人間の頭は、問題に直面しても、どこかでそれ以外のいろんなコトを考えているのではないかと思います。問題に直面すると、脳の中の上、下、前、後、横、斜めのいろんな方向から脳の中で情報がリンクして行く感じではないだでしょうか。脳には奥行きがあり、人間の脳の問題解決のアルゴリズムはわたしにはわかりませんけど、問題は解決できます。

手帳のフォーマットは自分の脳の中のレイアウトだと思うときがあります。今回『M365』のデザインを決めるとき、効率の良いデジタルに移行してもなお、紙の手帳を使い続けた自分の30年間の思いがあれこれ反映されているのに気づきました。この30年間、多くの出会いと別れがありました。どのようなものであれ、自分のなかで熟成し、いつしか大きな宝物となっています。自分の人生はタイムカードのような数字の記録ではなく、きわめてアナログな記憶なのです。

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