トピックス アメリカ動向🇺🇸

トピックス アメリカ動向 

⚫️2021.10.29日本経済新聞🗞

【サマリー】
アメリカの景気減速感
個人消費にブレーキ

【思ったこと】
アメリカは世界のリーダー
動向は誰もが注視してる
これからも注視

【記事全文】
米商務省が28日発表した2021年7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報値は景気の減速感がにじむ内容となった。米経済のけん引役である個人消費の回復に急ブレーキがかかり、新型コロナウイルスの影響を受けやすいサービスだけでなく、旺盛だったモノの消費にも陰りが出た。秋以降に消費は勢いを取り戻しつつあるが、供給制約やインフレの長期化が足を引っ張る懸念もあり、米景気の回復力が試される。(1面参照)



米経済はコロナの影響が直撃した20年4~6月期に前期比年率換算で3割を超す大幅なマイナス成長を記録した後、回復してきた。21年7~9月期もプラス成長は維持したが、成長率は回復局面で最も小さくなった。
影響が大きかったのが、米GDPの7割を占める個人消費の急減速だ。ワクチン接種の進展に伴い堅調に推移してきたが、7~9月期は感染力の強いデルタ型の流行が強い逆風になった。
米疾病対策センター(CDC)によると、全米の新型コロナの1日あたりの新規感染者数(7日移動平均)は7月初旬の約1.5万人から8月下旬に16万人超と10倍以上に膨らんだ。多くの米企業が出社再開の時期を延期。人流の停滞が需要を押し下げ、飲食や宿泊などのサービスへの消費は4~6月期比で伸びが鈍化した。
人手や物不足の供給制約が需要を満たせなかった面も大きい。8月末に米南部を襲ったハリケーン「アイダ」による生産活動の停滞も重なり供給網(サプライチェーン)の混乱が景気回復に水を差した。7~9月期の財消費は3四半期ぶりにマイナスに転じた。
新車販売6割減
米新車販売台数は7~9月期に前期比年率で6割も減った。20年7~9月以降は増加が続いてきたが5四半期ぶりにマイナスになった。販売台数に占める在庫の割合も、遡れる1993年以降で最低水準だ。部品不足による新車生産の遅れに加え、中古車も品薄状態で価格が上がり、購入をためらう人が増えている。
半導体などの物不足は企業の設備投資にも影を落とす。GDPベースの設備投資は7~9月期に1.8%増と、コロナ後に続いた2ケタ増ペースから減速した。住宅投資も7.7%減と振るわず、建設資材や労働者の不足が影を落としている。
米経済は足元で再び勢いを増しつつある。全米のコロナの新規感染者数は9月半ばを境に再び減少傾向にある。米調査会社コンファレンス・ボードの10月の消費者信頼感指数は4カ月ぶりに上昇し、市場予測より上振れした。米企業の21年7~9月期決算発表では業績が予想を上回るケースが相次ぎ、米国株相場は最高値圏で推移する。
全米小売業協会(NRF)が27日に公表した年末商戦の見通しは、売上高が20年に比べ1割増えるとの内容だった。過去5年間の平均の伸び率である4.4%増と比べ2倍以上の伸びとなる。
「需要は強いのに、とにかく在庫が少ない」。10月下旬、ニューヨーク市の中心部マンハッタンの欧州系自動車メーカーの販売店の男性店員は足元の状況をこう語った。すぐに納車できる車種は少なく「在庫不足がいつ解消するのか分からず、価格も上がっている」という。
QUICK・ファクトセットの集計では、米国の10~12月期の実質成長率は5.5%と再加速が見込まれる。国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しで米国の21年の成長率を6%と従来予測から引き下げつつ、なおユーロ圏(5%)や日本(2.4%)よりは高いとみる。
物価高続く恐れ
ただ、供給制約がすぐに解消に向かう気配は乏しく、人手不足に伴う賃金の上昇は物価を持続的に押し上げうる。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は高インフレについて「従来の予想より長引く可能性が高く、22年にかけて続くだろう」と指摘する。
国債などの大量購入で市場に大量のマネーを供給してきたFRBは11月に量的緩和の縮小(テーパリング)を決める構えだ。パウエル議長はテーパリングと金融引き締めになる利上げは別物だとして早期利上げに否定的だが、市場は既に来年に複数回の利上げ実施というシナリオを織り込み始めている。
物価の高止まりを放置すれば個人消費や企業収益にマイナスに働く懸念がある一方、インフレ対応で急な利上げに動いても需要を必要以上に抑え込みかねない難しさがある。景気回復の流れを阻害せずに政策を正常化し、民需主導の成長に移行できるかが問われている。

⚫️2021.10.18日本経済新聞🗞

【サマリー】
10月末にG20サミット
アメリカと中国は対立構図となる想定

【思ったこと】
アメリカと中国の対立は激化
中国からすると、貿易はうまくいかない、国内は不良債権ばかりでうまくいかない
となると
苦しい状況が続く
中国依存の時代は終わりはじめてる

【記事全文】

今月末にイタリアで20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれる。昨年の開催からの約1年で、日米欧などの主要7カ国(G7)と中国の安全保障や人権を巡る溝はさらに深まった。一方で両陣営はサプライチェーン(供給網)で深く結びつき、地球温暖化という共通課題も抱える。対立の行方を識者に聞いた。

ふじわら・きいち 専門は国際政治学、比較政治学。99年から現職。「不安定化する世界」(20年)など著書多数
バイデン米政権の外交政策の要は、同盟の再結束と中国への対抗にある。トランプ前政権時に分裂状態にあった米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)は、一致して中国は脅威であるとの認識を示すようになった。これは大きな転換だ。国際協調を重視するバイデン政権が、逆説的ながら米国を中心とする同盟と中国との対立を深める構図にある。
バイデン政権は軍事面で中国に譲る姿勢をみせていない。短期間に2回も開いた日本、米国、オーストラリア、インドによる「Quad(クアッド)」の首脳会議は、中国に対する同盟の強化という意味を持つ。中国側も軍事力を強化している。双方とも全く引かない構えだ。抑止力強化が軍事行動に直結するわけではないが、楽観はできない。
貿易など2国間の経済関係が緊密になるほど、戦争のリスクが低下するという国際関係論の見方がある。ただ、バイデン政権の通商政策はまだ明確にみえていない。関税で中国に圧力をかけた前政権の手法を踏襲するとは思わないが、中国を含めた貿易体制をどのようにつくろうとしているのだろうか。近く再開する米中通商協議や年内のオンライン首脳協議の注目点だ。
気候変動対策は歩み寄れるテーマだが、そこでの協調が米中対立を和らげることは期待し得ない。そもそも気候変動問題については他の課題と結びつけて協議しないことで各国は合意している。
中東や南アジアでの存在感を中国は拡大し続けている。こうした動きを食い止めるのに有効な体制はまだ存在しない。人権重視や民主主義といった米欧の価値観よりも、中国やロシアの立場を支持する国が増えているのは事実だ。難航しているイラン核合意の再建交渉などが試金石となる。
米英豪の新たな安保枠組み「AUKUS(オーカス)」発足で、米国と大陸欧州の間に溝が生じた。米欧同盟における弱さを示したのは事実だろう。もっとも、欧州にとって同盟国と協力しようとする米国は望ましいし、中国・ロシアへの対抗上必要である点に変わりはないだろう。

⚫️2021.10.13日本経済新聞🗞

【サマリー】
アメリカ経済、回復鈍い
デルタ型の影響
自動車目詰まり
働き手も不足

【思ったこと】
飲み薬等期待感もあるが、絶対に油断してはダメ

【記事全文】

米国経済の回復の勢いが鈍っている。夏に感染力の強いデルタ型の新型コロナウイルスが広がり、自動車関連の生産や物流網の目詰まりに加え、働き手の不足も深刻になった。供給が需要を満たせず経済の足を引っ張っている。足元の消費の弱さを指摘する見方もある。供給制約の長期化による高インフレが需要を冷やす悪循環も懸念される。(1面参照)



国際通貨基金(IMF)は10月の世界経済見通しで米国の2021年の成長率を6.0%と予測した。前回7月予測から1ポイントという大幅な下方修正となった。けん引役の米景気の減速を主因に、世界経済全体の成長率見通しも0.1ポイント引き下げた。
米経済は4~6月期まで2四半期続けて前期比年率6%台の高成長を遂げた。バイデン政権が3月に1.9兆ドル(約200兆円)の財政出動を決め、ワクチン普及をテコに経済再開を加速した。需要が急拡大し、米GDPは今年前半に危機前の水準を回復した。
その急回復に夏のコロナ感染の再拡大がブレーキをかけた。「コンクリート価格が数カ月で約2割上がり、資材価格の高騰が落ち着くまでプロジェクトを一時中断する建設業者が出ている」(セントルイス連邦準備銀行)。経済再開の主力の一つの飲食業でも人手不足が深刻で、営業時間を短縮せざるを得ないケースもある。
IMFも米国の下方修正の要因の一つに7~9月期の消費の弱さを挙げた。アトランタ連銀が月次統計を基に逐次改定する「GDPナウ」は8日時点、7~9月期の前期比年率の米実質成長率が1.3%に急減速するとの予測を示す。
米ゴールドマン・サックスは10日、10~12月期の米実質成長率の見通しを従来の5.0%から4.5%に下げ、21年通年は5.7%から5.6%に下方修正した。財政支出の縮小に加え「長期的に続くコロナ感染の影響を織り込むと、個人消費の回復はより遅くなる」と指摘した。
米調査会社コンファレンス・ボードの消費者信頼感指数は9月、6カ月先を見通す期待指数が6.2ポイント低下した。米経済の回復を引っ張る消費者心理の悪化が景気全体に影を落とす。
米経済をふかす財政のアクセルは緩んでいる。民主党政権は子育て支援などに10年で計3.5兆ドルを使う法案の実現をめざすが、財源の多くは増税で賄うため、財政支出の純増は限られる。春に1.9兆ドルを一気に費やしたコロナ対策との落差は大きい。
世界からみれば米経済は強く、消費者物価指数(CPI)は8月まで4カ月連続で前年同月比5%以上の上昇率となった。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は21年の米成長率見通しを5.9%と6月予測から1.1ポイント下げ、逆に供給制約が緩む22年は0.5ポイント上げて3.8%を見込む。回復が後ろにずれるとの見立てはIMFと共通だ。
「消費者の期待値の低下は米国がすでに景気後退に入ったことを示唆している」。米ダートマス大学のブランチフラワー教授らは7日、こう指摘した。先行きの不透明感は増し、楽観論は後退している。
米連邦準備理事会(FRB)は近く量的緩和縮小(テーパリング)を始める。IMFは「前例のない状況下で金融政策の見通しに関する透明で明確な市場との意思疎通がより重要になる」と訴えた。

⚫️2021.10.5

【ワシントン=鳳山太成】バイデン米政権は中国との貿易交渉を再開する。米通商代表部(USTR)のタイ代表が数日内に中国の劉鶴(リュウ・ハァ)副首相と電話で協議する。両国はトランプ米前政権時代に、中国が米国からの輸入を増やすなどとした「第1段階の合意」を結んでおり、米側は順守するよう求める。(関連記事総合2面に)
USTRのタイ氏が4日の演説で、バイデン政権の対中通商政策を初めて明らかにした。中国に第1段階合意を守るよう働きかけるため「あらゆる手段を使う」との方針も打ち出した。交渉期限は設けず、対話を通じて不公正な貿易慣行の是正を迫る。
米産業界の負担軽減に向けて、制裁関税の適用を一部除外する制度を復活させる。関税の除外制度は医療品を除いて2020年末に終わっていた。対象製品は未定としているが、重点政策に沿って判断する。
再生エネルギーなど気候変動やインフラに関わる輸入品の関税を免除する可能性がある。前政権は工作機械など中国以外から輸入しにくい製品を関税の上乗せ対象から外した。
第1段階合意で中国は20~21年に、貿易戦争前の17年と比べ、米国からのモノやサービスの輸入を計2000億ドル(約22兆円)増やすと約束した。米ピーターソン国際経済研究所によると、21年1~8月では目標の62%にとどまる。
タイ氏は貿易交渉で知的財産の侵害など不公正な慣行も直すよう中国に求める。過剰な産業補助金など中国の構造問題を話し合う「第2段階」の交渉は現時点で見送る。
米中は、トランプ前政権時代に、中国が知財を侵害していると認定し、貿易戦争に発展した。米政府は18年7月から中国製品に制裁関税を順次課し、これまで米国は3700億ドル相当の輸入品に25%などの関税を上乗せしている。
中国側も報復関税をかけて対立が先鋭化。両国は通商だけでなく、台湾や南シナ海などの問題を巡っても対立を深めており、交渉は難航する可能性もある。

⚫️2021.9.30日本経済新聞📰

【サマリー】
アメリカ🇺🇸
国債の償還等に懸念
資金繰りがいきづまる

【思ったこと】
アメリカが財政破綻なんてことはないんだろうけど
世界各国でリスクがうごめいている
もはや、このコロナ禍の経済状況が常態化すると思っていていいのではないかと思う

【ワシントン=大越匡洋】米政府の手元資金が枯渇する恐れが迫っている。イエレン財務長官は議会が連邦政府の債務上限を凍結するか、引き上げなければ10月18日以降に資金繰りが行き詰まり、米国債の利払いや償還が滞るデフォルト(債務不履行)に陥ると警告した。与野党の対立だけでなく、与党内の足並みの乱れも、同氏が言う「壊滅的な事態」の回避に影を落とす。
米国は現在、二重のリスクに直面している。まず10月からの新会計年度を財源措置がないまま迎え、政府機関が一時閉鎖となる恐れだ。このままだと10月から国防など一部の重要な職務を除いて政府機能が止まる。
最近では2018年末から19年初めに1カ月を超える政府閉鎖に陥った。行政手続きは停滞し、経済統計の公表も遅れた。米ゴールドマン・サックスは「1週間の政府閉鎖はその四半期の成長率を0.1~0.2ポイント低下させる」とみる。
次に控えるリスクはさらに重い。債務上限問題だ。連邦政府が発行できる国債残高は法律で定められている。上限の凍結が解けた8月以降、政府は手元現金や公務員年金基金の一部投資の停止などのやり繰りでしのいでいる。イエレン氏は28日、政府資金が尽きるXデーは「10月18日以降」とし、史上初のデフォルトに陥る恐れを警告した。
その激震は想像を超える。世界最大の金融商品である米国債がデフォルトとなれば、米国債を担保に金融機関が資金を調達する短期金融市場は凍り付く。米国債の価値が暴落し、金利は上昇する。米国債を大量保有する銀行の財務が傷み、金融システムが揺らぐシナリオが浮かぶ。
デフォルトまで至らずとも、金融市場は動揺しかねない。11年夏、最上位だった米国債格付けが引き下げられ、株価が乱高下するなど世界の金融市場が混乱した。オバマ政権下で債務上限問題の解決が遅れたためだ。
たとえ今回、債務上限問題をなんとか切り抜けたとしても、社会保障費の増加などで政府債務は膨張を続ける。債務上限問題が議会で政争の具となる構図は終わらない。
危機回避は狭き道だ。野党共和党は債務上限問題での協力を拒む。民主党はつなぎ予算案と債務上限の凍結を一体にした法案の成立をめざしたが、27日に頓挫。つなぎ予算案だけを切り離すなど政府閉鎖を回避する対応がまず急務となる。
債務上限の引き上げを巡っては、民主党が単独での成立をめざす「3.5兆ドル法案」の予算決議を修正する手もある。ただ党内で根深い対立が続くなか、新たな修正は調整をさらに複雑にしかねない。身内の路線対立も、危機回避の壁となる。
子育てや教育の支援、気候変動対策の拡充に向け、10年で計3.5兆ドルを投じる関連法案は民主党左派の悲願だ。民主党単独での成立に道を開く財政調整措置という特別な手続きを使って実現をめざす。本来、共和党が反対しても押し切れるはずなのに、党内中道派が財政膨張を懸念して規模の縮小を求め、調整が難航している。
上院は民主と共和が各50議席で勢力を二分し、1人でも造反すれば法案の成立はおぼつかない。逆に民主党左派は3.5兆ドル法案の実現にメドが立たなければ、中道派議員が推進して上院で可決済みのインフラ投資法案に賛成しないと公言している。与野党対立だけでなく、与党内の内紛が政策決定を滞らせる事態が目立つ。

⚫️2021.9.16日本経済新聞📰

【サマリー】
アメリカが原油高の影響を受けにくくなっている
シェールガス革命で、自国で生産できるため
→中東への関与薄くなる
→日本は中東の不安定さの煽りを受けるため、経済的懸念が強まる

【思ったこと】
アメリカの抑止力は強い
関与うすまったら、ほんとに日本に大影響😢
ほんと、懸念事項がたくさんある😢

【記事全文】

米国の貿易が原油高の影響を受けにくくなっている。原材料の輸入コストと輸出価格との関係を示す交易条件(総合2面きょうのことば)は、原油の輸出国に転じて以降、大きく改善。シェール革命で米国内で原油が賄えるようになり、中東からの輸入が減った。米軍は同時テロから20年を経てアフガニスタンから撤退。原油の足かせからも解かれ、中東などイスラム圏への軍事・外交的関与が今後一段と弱まる可能性がある。

「(シェール革命で)米国がエネルギーを獲得するために使っていた資金は国内にとどまり、世界経済の浮き沈みへの耐性が高まる」。エネルギー問題の世界的権威、ダニエル・ヤーギン氏は2013年にこう語った。この見通しはいま現実となりつつある。
構造変化を映すのが交易条件だ。交易条件は輸出物価を輸入物価で割り、1を超えれば輸出が優位となる。国全体で貿易を通じた稼ぎが大きくなりやすいことを示す。
今の原油価格は1バレル約70ドルと1年前から9割上昇した。それでも米国の交易条件は1を超える。同じ70ドル程度だった07年8月は0.96で、原油高はガソリンなどを大量に消費する米国の交易条件悪化に直結した。

交易条件の改善は米国の原油輸入がここ10年で急減したことが大きい。米エネルギー情報局(EIA)によると、一時1バレル100ドルを超えていた11年の石油の輸入量は日量1144万バレル。11年の貿易収支は約5500億ドルの赤字で、石油関連の赤字は3260億ドル程度と6割を占めていた。純輸出に転じた20年の石油関連の収支は140億ドルの黒字に転換した。
地下深くの硬い地層に含まれるシェールオイルを採掘する技術を確立したことで、米国の原油生産量は20年までの10年間で倍増した。00年時点で70%強だった米国のエネルギー自給率は100%を超えた。日本やドイツ、中国など他の経済大国が過去20年でエネルギー自給率を下げたのとは対照的だ。

交易条件の改善は通貨ドルの価値を保つことにもつながる。原油高は経常赤字を膨らませ、ドル安要因ともなってきた。リーマン危機前の3年間で原油相場が2倍以上に高騰した際は、経常赤字が膨らんで米ドルの実効レートは2割ほど低下した。ドル安は輸入物価の上昇につながり、ガソリン高で傷んだ家計の負担が一段と増して景気を冷え込ませた。
半面、現在はドルの実効レートは原油価格が上昇しているにもかかわらず、コロナ禍前とほぼ同じ水準にある。
日本は交易条件が約2年半ぶりの水準に悪化した。自動車や機械などの輸出品は海外勢との価格競争が厳しく、原油上昇のコスト高を製品価格に転嫁しにくい。みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストは「(輸入価格の上昇で)小売業が受ける悪影響も大きい」と指摘する。
米国が原油のくびきから放たれることで、中東情勢も変化する可能性がある。中東への軍事や外交の関与が弱まり、米軍はアフガニスタンから撤退した。
中東で不安定な政情が続けば、エネルギー価格の上昇につながる懸念がある。エネルギー輸入を中東に頼ってきた日本にとっては経済活動の重荷になりかねない。

⚫️2021.9.1NewsPicks📱

「サマリー」
アメリカ景気回復懸念→ダウ下落

「思ったこと」
コロナ影響長い
しかも世界的に
もしかしたらアフターコロナとかなく、現状のままであることを前提に
個人の基盤、経営基盤を見直した方がいいのではないかともおもってしまう😔

「記事全文」

 【ニューヨーク共同】8月31日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続落し、前日比39.11ドル安の3万5360.73ドルで取引を終えた。感染力が強い新型コロナウイルスのデルタ株の流行が続き、米景気回復のペースが減速することを懸念した売りが優勢となった。
 ただ、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的金融緩和策の縮小が早まることへの警戒感は後退しており、下値は限られた。
 ハイテク株主体のナスダック総合指数は反落し、6.65ポイント安の1万5259.24。

210719日経

貧しい家庭に生まれようと、本人の努力と才能次第で親より豊かになれる。自由と資本主義を原動力に米国発展の礎となってきた「アメリカンドリーム」が揺らいでいる。生まれた場所で教育に差が生じ、格差が広がる現実は理想とほど遠い。夢を取り戻そうと苦闘する米国で広がる解決策の一つが地道な「転居支援」だ。

米南部ノースカロライナ州のハナ・リッサー(27)さんは、法律事務所でパラリーガルとして働く。英スコットランドのセントアンドリュース大で2016年に文学の修士号を取得し、今は両親と実家暮らし。学生時代の授業料や生活費のために借りた学生ローンの返済が月2000ドルのしかかる。「本当は家を出たいけど、今の給料では家賃を払えない」
実家、出られぬ若者 人生イベント先送り
学位を取得し、良い職に就き、車と家を買い、旅行したり好きなモノを買ったり――。10代の頃、学校で「努力すればかなえられる人生の理想像」を教わった。「17歳の時に考えていた10年後の姿とは別のところにいる」と感じる。両親は30代で家を買った。リッサーさんにその余裕はない。「親世代のほうが豊かになることがたやすかったのではないかと思う」
米ハーバード大のラジ・チェティ教授らが30歳時点の親と子の収入を比べたところ、1940年生まれは92%で親の収入を超えたが、84年生まれは50%に下がった。「親より豊か」が難しい。リッサーさんの感覚と符合する。
米国勢調査局によると、1940~50年代にかけて毎年、米国人の5人に1人が引っ越した。教育機会、親からの自立、就職……。転居は人生のステップアップと連動した。右肩上がりの時代。若い世代が積極的に家を購入した。

ロシア系移民のグレゴリー・ヴォドラゾフさんは「米国は夢を実現できる国」と信じる(6月、米シアトル郊外)
転居率は90年以降、低下の一途をたどる。2020年には9.3%と調査を始めた1947年以来、最低だ。ブルッキングス研究所のウィリアム・フレイ氏は上がり続ける住宅価格、失業などが「若年層に結婚、子育て、住宅購入など人生の鍵となるイベントを先送りさせている」と指摘する。
主要都市の住宅価格は2000年以降で2.5倍に上昇し20~24歳の転居率は06年の29%から20年は19%に下がった。米ピュー・リサーチ・センターによると、実家暮らしの若者(18~29歳)は20年7月時点で52%と過去120年で最高だ。新型コロナウイルス禍で急増した。
「機会つかむ転居」 子の年収8%増
機会をつかむ引っ越し――。米ワシントン州キング郡とシアトルの住宅局などが18年から始めた転居支援プログラム名だ。家賃補助を受ける低所得層に家探しや申し込みを助言する。800超の世帯が希望する地域に転居した。
治安が良く、教育水準の高い地域へ転居を望んでも家主が断ることもある。例えば家賃滞納歴があったとしても、やむを得ぬ事情があったと説明すれば理解する家主もいる。こうした助言で自信をつけ、障壁を下げる狙いだ。
フォツィア・ハセンさん(34)はプログラムを使い10年近く住んだ比較的低所得層の多い町から、シアトル北東部の閑静な住宅街に賃貸物件を見つけ、夫や息子と移った。「治安がよく、子供を外に遊びに出せる。教育水準も高い」
ラジ・チェティ教授らはプログラムによって良好な地域に移った子供は生涯年収が8.4%上がると推計する。「子の将来を見据えた効果が期待できる」(キング郡の責任者)という。同様の支援策はメリーランド州などでも広がる。
中西部イリノイ州シカゴでは20年6月、学生の一部にインターネット回線の無料提供を始めた。低所得層や有色人種を中心に、シカゴでは5人に1人の学生が自宅で安定したネット環境に接続できない。1年で4万2000世帯、約6万4000人に供給した。
ライトフット市長はネット環境が「質の高い教育、医療、社会サービス、仕事などへのアクセスを左右する」と強調する。プロジェクトに多額の資金を提供するのはヘッジファンド「シタデル」の創業者、ケン・グリフィン氏。同氏は「デジタル分断を解消し若者に成功への道筋を提供する」と語る。
「(富が波及する)トリクルダウン理論は一度も機能したことがない」。バイデン米大統領は4月の議会演説で格差是正を最優先にした政策運営の姿勢を強調した。
是正策としては遠回りにも思える転居支援やネット環境の提供。それでもばらまき型ではなく、貧困の連鎖を抜け出そうと次世代のために一歩を踏み出す人を支えるのが米国流だ。その一歩にたどり着けず、くすぶる人々には諦めも広がる。米国の夢は息を吹き返すのか。夢見ぬ大衆の増加こそが最大の壁となる。

210706時
小売店舗出店再開

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73558830U1A700C2TB0000

190322日経
FRB、景気警戒に転換 利上げ 今年見送り
資産縮小、9月停止
2019年3月22日 2:00 [有料会員限定]






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【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2019年中の利上げを見送り、9月末で資産縮小も停止する方針を示した。海外経済に下振れ懸念がにじみ、米国内も過大債務のリスクが横たわる。FRBは「金融政策の正常化」を前倒しで終結させて、景気への警戒モードに転じるが、市場には早くも利下げ観測が浮かんでいる。(関連記事総合・経済、国際2面に)

20日、記者会見するFRBのパウエル議長(ワシントン)=共同
「資産縮小は5月から減速し、9月には完全停止する」。パウエル議長は20日の記者会見で、米国債などの保有量を減らす「量的引き締め」を終了すると宣言した。FOMCは想定する19年の利上げ回数も、18年12月時点に示した2回から0回へと一気に引き下げた。
FRBは08年の金融危機後、量的緩和で米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を大量に買い入れた。17年秋に保有資産の縮小に転じたが、終了時期は当初想定していた21~22年から大幅に前倒しする。資産量は現在の4兆ドルから3.5兆ドル強まで減るものの、危機前の9千億ドルを大きく上回り、市場に大量の緩和マネーが残ることになる。
そのためFOMC直後の米10年物国債利回りは2.52%まで低下し、政策金利が1%も低かった1年2カ月前の水準に逆戻りした。先物市場の年内の利上げ予想もゼロになり、引き締め局面の完全終結を織り込んだ。
金融政策を危機モードから平時に戻す「正常化路線」はFRBの悲願だった。断念しつつあるのは「海外経済の減速が米景気の逆風になってきた」(パウエル氏)ためだ。中国は18年の実質成長率が28年ぶりの低さとなり、欧州もけん引役のドイツが10~12月期に実質ゼロ成長に落ち込んだ。
米内需も減税効果が徐々に薄れて「個人消費や設備投資のペースが緩やかになった」(パウエル氏)。19年1~3月期の実質成長率は、政府機関の一部閉鎖も重なって、0%台に急低下するとの悲観シナリオが浮かぶ。
警戒モードに転じたFRBからは、利下げも視野に入れた発言もある。ブレイナード理事は7日の講演で「将来、利下げが適切だと判断した際に、資産縮小が続いているのは適切ではない」と断じた。FRBが資産縮小の早期終了に動いたのは、景気悪化時の利下げに対応できるようにするためだ。20日の先物市場では「年内の利下げ」を35%の確率で織り込む。
FRBは15年末の利上げ再開時、政策金利を3.5%まで引き上げる予定だったが、足元で2.25~2.50%にとどまる。利上げ路線が頓挫したのは「債務膨張で米経済が過去になく金利に過敏になっているため」(ダラス連銀)だ。米企業(非金融部門)の債務残高は国内総生産(GDP)比46%と金融危機前より高い。FRBは債務リスクの芽を摘む機を逸し、利上げは逆に過大債務を破裂させる「凶器」にすらなりかねない。
もっとも、基軸通貨ドルを抱えるFRBの引き締め停止は、アジアなど新興国の通貨安や資本流出に歯止めをかける。21日の世界市場は韓国などで株価が上昇。停滞する世界経済を軟着陸に向かわせる可能性がある。
問題は日銀だ。FRBの路線変更がドル高修正につながれば、日本経済に円高圧力がかかりかねない。副作用が目立つ大規模緩和の「出口」

190328日経
米連邦準備理事会(FRB)は3月上旬、カウンターシクリカル資本バッファー(CCyB)をゼロ%に据え置くことを決めたと発表した。この資本バッファーは、経済環境が良好な時に、将来の景気悪化に備えて自己資本の上積みを求める仕組みだ。米景気が今、景気循環のピークにあるにもかかわらず、FRBは据え置きを決めたというわけだ。米銀行のストレステスト(健全性審査)から質的評価部分を除外するという緩和措置も決めた(外国銀行は引き続き対象となる)。さらに、ムニューシン財務長官が議長を務める米金融安定監視評議会(FSOC)は、厳しい規制や監督の対象にする「システム上重要な金融機関(SIFI)」に最後まで残っていた保険会社を指定から外した。いわゆる大きすぎてつぶせない金融機関には厳格な健全性規制などが課されるが、それを免除したのだ。
 

これらの決定が、すぐに金融システムの安定性を脅かすとは限らない。だが金融規制が厳格化すべき時に緩和され、緩和すべき時には厳格化されてしまうということを改めて浮き彫りにした。確かに私たちは歴史から学びはするが、すぐに忘れる。

イラスト James Furguson/Financial Times
銀行への規制は、2007~12年の金融危機を受け厳格化された。資本と流動性規制は強化され、ストレステストの合格要件も厳しくなった。大きすぎてつぶせない問題に終止符を打つべく、大規模かつ多角的な金融機関の秩序ある「解体」も検討されてきた。17年3月までFRBで金融規制を担当したダニエル・タルーロ元理事は、「米大手銀行のリスク資産に対する普通株自己資本の比率は、危機前の約7%から17年末に約13%には上昇した」と述べている。
だからといって安心していいわけではない。銀行は借入比率の高い体質のままだ。銀行は安全だと人々は思っているが、中核的自己資本と資産の平均的な比率は1対17で、損失吸収力はまだ限られている。この点について、金融機関の安全性を強化しようとすれば経済成長が犠牲になるとの見方があるが、スタンフォード大学のアナト・アドマティ教授らが指摘する通り、実に疑わしい主張だ。だが政治的には都合のよい理屈だ。
国際通貨基金(IMF)のジハド・ダゲー氏は、規制サイクルを取り上げた最新の論文で、金融規制の景気循環増幅効果を歴史的に裏付けている。実際、規制が好況時に緩和されるということは繰り返されてきた。規制緩和が景気を過熱させるケースもままある。その後、危機に見舞われて損失を被ると人々は我に返り、規制は強化される。このサイクルは、18世紀初めの英国で起きた南海泡沫(ほうまつ)事件の際にも見られるし、それから3世紀後に起きた一連の金融危機の前後にも見られる。この2つの危機の間に無数の事例が存在することは言うまでもない。
金融規制でなぜこんな傾向が生じるのかについては、経済、イデオロギー、政治、人間心理に起因する4つの理由がある。
経済的要因としては、金融システムが規制に適応して変化していくことが大きい。金融システムの厳重に規制された部分から、あまり厳しく規制されていない部分へとリスクを移す動きが出てくるためだ。これは多くの場合、金融イノベーションを伴う。そのため、規制当局に強い権限と規制を徹底する意志があっても、最先端の革新がその実行を困難にする。グローバルな金融システムは複雑で適応力が高いうえ、虎視眈々(たんたん)と規制を出し抜こうとする人たちに運営されている。規制当局がシャドーバンキング(銀行を介さない金融取引)の発達に追いついていくのは至難の業と言わねばならない。
イデオロギー的要因としては、この複雑なシステムを過度に単純化して扱おうとする傾向が挙げられる。自由市場を信奉するイデオロギーが強くなるほど、規制当局の権威と強制力は市場を妨げるとみなされ、弱体化しがちだ。当然、世論は好景気にはこのイデオロギーを支持し、悪くなるとそっぽを向く。
 

政治的要因も重要だ。その理由の一つは、莫大な資金力を持つ金融界は途方もない影響力を行使できるからだ。米国の政治献金情報を公開しているオープン・シークレッツによると、18年の米中間選挙では金融・保険・不動産の3業界(この3者は互いに密接に結びついている)による政治献金が最も多く、全体の7分の1に達した。これは、経済学者マンサー・オルソンが著書「集合行為論」で指摘した、一部の構成員の利益の増進が全体の利益に優先される典型例といえる。危機の際には世論は銀行を非難し罰しようとするのでそんなことはできないが、そうでない時期はこうした行為がまかり通っている。
好況時には、汚職すれすれどころか、あからさまな不正行為も横行する。政治家は、好景気がもたらす利益の分け前を要求することさえある。結局、規制当局の命運を握るのは政治家だから、誠実で勤勉な規制担当者でも影響を受けずにはおれない。必要とあらば、政治家は規制担当をクビにもできる。経済学者ガルブレイスは好況時に不正が増える現象を説明するのに「ベゼル(bezzle)」という言葉を発明した。「横領する」という意味の"embezzle"に由来する造語で、未発覚の横領を指す(編集注、横領は実行から発覚までに数カ月ときに数年を要するため、その間は心理的に資産が増えたことになる、とガルブレイスは「大暴落1929」で指摘した)。バブル期には未発覚の横領が急増し、その分け前にあずかる行為を邪魔立てする規制当局はひどく憎まれることになる。
政治はさらに、いわゆる「規制のアービトラージ」とも密接に結びついている。世界的な金融機関は、規制の厳しい国から緩い国へ移動して規制を回避できる。国際競争の下では、ある国が緩い規制という餌で金融機関を呼び込もうとすれば、他国も追随することになる。これが頻繁に起きるのは、出し抜かれた国の金融機関や金融センターが政府や規制当局に不満を訴えるからだ。外国に横取りされているという主張に抵抗するのは難しい。
 

最後は、人間の心理に根ざす要因だ。人間には昔の出来事は関係がないと片付けて、「今回は違う」と信じ込み、目の前で起きていることを無視したがる傾向がある。喉元過ぎれば何とやらで、危機発生リスクを極端に過小評価するようになる。かくして人々は、無責任な政策当局が気がかりな兆候を都合よく解釈するのを容認し、好況を謳歌する。時がたつに従い規制強化反対派が勢いを増し、賛成派は後退を余儀なくされ、規制は形骸化していく。危機の損害が甚大だった時ほど厳格な規制が長く維持されるが、いずれそれも終わる。2008年の危機への政策対応によって恐慌に陥ることを阻止できたという事実が、次の危機の再来を早めることになる。民間部門が今のように債務を多く抱えたままだと、危機再来の可能性をますます高めることになる。
トランプ政権の出現は、このサイクルの一部とみなすべきだ。トランプ氏の嫌う厳格な規制や監督の中には確かに不要なものや不利益をもたらすものもあるだろう。だが、総合的にみれば、その影響は明らかだ。規制が徐々に骨抜きにされれば、それは他国へ波及する。過去にもそうだったし、将来にもそうなるだろう。「今回は違う」ということはないのだ。(20日付)

190328日経
ワシントン=鳳山太成、ニューヨーク=高橋そら】北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定の先行きが不透明になってきた。「ねじれ議会」の米国に加え、カナダでも批准作業が行き詰まっている。米政権が続ける鉄鋼・アルミニウム関税への反発が強いほか、政権・与党の支持率が低いためだ。自動車など日本企業は北米投資で難しい判断を迫られそうだ。

「関税をかけられたまま、カナダが新NAFTAの批准を進めるのは筋が通らない」。カナダのフリーランド外相は25日に米ワシントンで記者団に不満を表した。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表と会談し、まずカナダに対する鉄鋼・アルミの追加関税を速やかに解除するよう改めて求めた。
米政権は関税をNAFTA再交渉で譲歩を迫る材料に使ってきた。カナダからみれば妥結から半年が過ぎても輸入制限が続くことに不満が強い。米国は鉄鋼・アルミいずれも輸出の8~9割を占める最大市場で、年32億ドル(約3500億円)相当の損失に上るとの試算もある。米国は代わりに輸入数量枠を求めているがカナダは拒否し、協議は平行線のままだ。
カナダ議会では新協定USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に署名したトルドー政権と与党・自由党が失速している。2月に首相が建設会社の司法手続きに介入した疑惑が発覚し、閣僚2人が辞任した。現地調査機関によると、トルドー氏の支持率は29%。18年12月に比べ10ポイント下がった。交渉結果を批判する野党・保守党の党首が初めてトルドー氏を支持率で上回った。政党別支持率でも与党は劣勢だ。
トルドー政権が関税問題や疑惑対応に追われるうちに政治日程が窮屈になっている。10月に総選挙を控える下院の会期は6月まで。単独過半数を握る与党は批准を強行できるが、ほかの重要法案も抱えており「立法日数が残り少ない」(カー国際貿易多様化相)。
新協定の承認に必要な実施法案はまだ議会に提出されておらず、10月以降の新議会に採決を先送りする可能性もある。選挙で与党が議席を減らせばハードルは一段と上がる。自動車の輸入制限を取り入れるなど管理貿易の側面が強い新協定はもともと「現NAFTAの方がありがたいというのが本音。米国より先には批准しない」(カナダ政府関係者)との声がある。
米議会は批准のメドが立っていない。トランプ大統領は3月26日、ホワイトハウスに与党・共和党の下院議員を呼んで新協定への支持を呼びかけた。だが下院で過半数を握る野党・民主党が労働や環境の分野で協定文の修正を求めている。
メキシコも時間がかかっている。新協定の批准には労働者の権利を強める労働改革法案を成立させることが前提条件だが、産業界が反対している。同国も「鉄鋼・アルミ関税が続く限り批准しない」としてカナダと足並みをそろえている。
自動車関税をゼロにする条件が厳しくなる新協定の発効をにらみ、トヨタ自動車など企業は対応を始めている。ただ、発効時期が見えにくくなり産業界からは「今後の対応が非常に難しい」(USMCAを支持する全米商工会議所幹部)との声が増えている。

190507日経
ワシントン=鳳山太成】トランプ米大統領は5日、2千億ドル分(約22兆円)の中国製品に対する制裁関税を10日に10%から25%に引き上げるとツイッターで表明した。残りの輸入品にも25%の関税を速やかに課すという。

190507ヤフー
6日 ロイター] - 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は6日、米中貿易戦争は「世界全体への悪影響」との認識を示した。

トランプ米大統領が前日、対中貿易関税を引き上げる方針を示したことを受け、米中通商交渉を巡る不透明感が深まり、世界の主要株価は軒並み下落した。

バフェット氏はCNBCとのインタビューで、株価動向は当然の反応とし、「貿易戦争に突入すれば、世界全体に悪影響をもたらす」と語った。その上で、全面的な貿易戦争となる公算は小さいとしつつも、同氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイ<BRKa.N>が「保有するすべての資産への悪影響になり得る」と述べた。実際、保有するBNSF(バーリントン・ノーザン・サンタフェ)鉄道はすでに、貿易摩擦の影響を被っているとした。

同時に、投資家が米中関連のニュースを踏まえ、株を売ることは「ばかげている」と指摘。バークシャーが米中問題を受けて、投資戦略を変更することはないと強調した。

トランプ大統領はこの日、ツイッターへの投稿で、米国は中国との貿易で数十億ドルの損失を被っているとして、中国の貿易慣行を改めて批判した。前日には、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10日から現在の10%から25%に引き上げると表明。また、現在関税を課していない3250億ドル相当の中国製品についても、「近く」25%の関税を発動する考えを示した。

バフェット氏は、難関な貿易交渉を控えて強気な発言をすることは理解できるとしつつも、「正気でない振る舞い」が通じるケースもあるが、効果的とは言えないと指摘。トランプ大統領の脅しは、問題を複雑にし、米中通商交渉を巡るリスクを高めるとの見方を示した。

また、カナダ、メキシコとの貿易関係については「非常に重要」と指摘。3国が多くの利益を共有するとし、「敵ではなく、隣人として扱う必要がある」と述べた。

190508日経
米中貿易戦争への懸念が再燃している。米国は2千億ドル(約22兆円)分の中国製品への関税を10日に現在の10%から25%に引き上げると表明した。家電や家具が含まれ、米消費者に与える打撃は大きい。米中両国の関税の応酬はすでに貿易の減少を招いた。関税をさらに引き上げる「チキンレース」は米中景気を下押しし、企業も抜本的な生産体制の見直しが避けられない。(1面参照)

米政権が制裁拡大を表明したのは2018年9月に発動した「第3弾」。約6千品目に10%の関税を上乗せしてきた。掃除機や冷蔵庫などを含む「機械・電気機器」が全体の46%を占め、家具(15%)など生活に身近な製品も多い。18年7~8月に課した第1~2弾の計500億ドル分は消費財の比率が1%だったが、第3弾では24%に上る。
トランプ政権は消費者の反発を懸念して第3弾の関税をまず10%に抑えたが、すでに輸入減や値上げの影響が出ている。機械・電気機器の輸入は18年11月から前年同月比1割超のマイナスが続く。カー用品店のオライリー・オートモーティブのトム・マクフォール副社長は「業界全体で関税コストの価格転嫁が進んでいる」と明かす。
現行10%の関税のうち、中国の対米輸出が最大なのは電話交換機やルーターだ。今年に入って輸出減が続き、3月は対米輸出額が279万ドルと昨年6月以来の水準まで減少した。
関税を10%から25%に上げると米消費者に悪影響が及ぶ。それでもトランプ政権は中国の補助金撤廃などを優先させる構えをみせる。中国のハイテク産業など中長期の脅威の芽を摘む狙いだ。

25%関税の影響力は先行した「第1弾」「第2弾」と、中国の報復関税の対象品目をみれば明らかだ。米ゼネラル・モーターズ(GM)が中国で生産する多目的スポーツ車(SUV)「エンビジョン」の輸入は月2千台程度と前の年から約2割減った。1台当たり8千ドル(約88万円)とみられる関税コストは自社負担しているようだ。
大豆の世界最大の輸入国である中国では、対米の報復関税で割高になった米国産大豆の需要が落ち込む。中国の貿易統計によると、18年の米国産大豆の輸入量は1664万トンと前年からほぼ半減した。米国の農家は収入減を余儀なくされた。
トランプ大統領は残りの中国製品すべてを対象に25%の関税を上乗せする「第4弾」にも言及した。アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」などにも高関税がかかることになる。
米調査会社トレード・パートナーシップは第3弾の関税引き上げで93万人、第4弾の発動で216万人の米雇用が失われると見込む。トランプ政権の交渉戦術は、戦後最長の拡大が近づく米景気の腰折れリスクと隣り合わせだ。

190515日経
ワシントン=鳳山太成】トランプ米政権が13日発表した中国への制裁関税(総合2面きょうのことば)「第4弾」は生活に身近な消費財を一気に網羅した。影響の大きいのがスマートフォン(スマホ)などのIT製品だ。中国からの輸入比率が高い消費財は代替がきかず、米国の家計を直撃する「もろ刃の剣」となる。日本や台湾の部品メーカーなど影響は広範に及び、関税合戦が世界経済を停滞させかねない。(関連記事総合2、国際面に)

米通商代表部(USTR)は13日、約3000億ドル(約33兆円)分の同国製品に最大25%の関税を課す計画の詳細を公表した。発動は6月末以降になる見通しだ。対象は約3800品目に及ぶ。6月下旬まで産業界の意見を聴取する予定で、最終的に対象品目が絞り込まれる可能性もある。
中国も同日に600億ドル分の米国製品について関税率を最大25%に引き上げると表明するなど、関税合戦が再燃している。
対中関税「第4弾」は昨年7~9月に発動した1~3弾とは次元が違う。際立つのが全体の4割に達する消費財の多さだ。第1弾と第2弾はこの割合が1%と低く、家電や家具を含む第3弾でも24%だった。
「第4弾」は中国からの輸入依存度の高さも目立つ。各品目の輸入全体に占める中国製品の割合はノートパソコンやゲーム機が9割を超え、中国からの輸入額が2018年に最も多くなったスマホでも8割前後に達する。
中国の輸入依存度が低かった第3弾までとは異なり、第4弾は代替がきかない。高い関税が輸入コストの上昇に直結し、短期的に米国の消費者が打撃を受けるおそれがある。日本総合研究所理事の呉軍華氏は「米国では物価が上がり、インフレへの圧力が高まる」と指摘する。
米政権は輸入の代替が容易ではないことを承知で「第4弾」の追加関税を実施する方針を表明した。中国の輸出体制の根幹を揺さぶることで、中国政府に知的財産権の保護などで譲歩を迫る。
中長期ではサプライチェーン(供給網)への影響が避けられない。追加関税が恒常化すれば「世界の工場」の中国の位置づけが揺らぐ。中国生産が国外に移れば、中国経済を支える輸出や個人消費に重荷となる。
台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長は13日「米中貿易戦争は終わりが見えない」と述べ、米国企業の調達先見直しに対応する考えを示した。「iPad」などを製造する仁宝電脳工業(コンパル)は追加関税が発動された場合、ベトナムに一部生産を移す方針だ。
国際通貨基金(IMF)の分析によると、米国の機械・電子機器の輸入元は中国が22%と最も多いが、米国の追加関税の影響が広がるにつれて12%まで下がる可能性がある。中国からメキシコやカナダなどに生産拠点が移り、世界を巻き込んだ供給網の変化を促す。
IMFは関税の応酬によって米中の貿易が長期的に30~70%も落ち込むリスクがあると警鐘を鳴らす。スイス金融大手のUBSは「第4弾」を含む米国の対中関税の影響で、中国の成長率が1.6~2.0ポイント押し下げられるとみている。
トランプ大統領は13日、第4弾を実際に発動するか「まだ決めていない」と述べた。中国との対立が解けずに強硬策に踏み切れば、生産と消費の両面で世界経済の失速が避けられなくなる。

190517日経
ワシントン=鳳山太成、広州=川上尚志】トランプ米政権が15日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への製品供給を事実上禁じる制裁措置に踏み切った。主力のスマートフォン(スマホ)や通信機器の生産が難しくなる可能性がある。ファーウェイの主要取引先は92社に上り、世界で年間670億ドル(約7兆円)前後の部品を購入しているが、供給メーカーの業績にも影響を及ぼしそうだ。
(関連記事総合2、国際・アジア面に)

米商務省は15日、ファーウェイが制裁対象のイランと取引したとして、輸出管理法に基づく「エンティティー・リスト(EL)」に追加すると発表した。米国からの製品や技術の輸出には商務省の許可が必要となるが、申請は原則却下される。
米輸出管理法は外国の取引も規制する「域外適用」が特徴で、市場価格に基づき米国企業の部品やソフトが原則25%超含まれれば、日本など海外製品も禁輸対象となる。特許など公開情報は計算に原則含まない。違反すれば米政府から米企業との取引禁止など行政罰や刑事罰を科される。
さらにトランプ大統領は15日、米国企業によるファーウェイ製品の調達を事実上禁じる大統領令にも署名した。同社の名指しは避けたものの、安全保障上懸念のある企業から通信機器の調達を禁じる内容だ。2つの措置でファーウェイに関わる輸出、輸入のいずれも封じる狙いがある。
米国の制裁措置で、ファーウェイは経営への打撃が避けられない見通しだ。同社が18年末に公表した主要取引先リストには世界の92社が並ぶ。米国は30社超と地域別で最大で、調達額は年間100億ドルに上る。クアルコムやインテル、ブロードコムといった半導体大手のほか、マイクロソフトやオラクルなどソフトウエア大手も含まれる。
特に影響が大きいのが半導体の調達だ。ファーウェイは自前の半導体設計会社である海思半導体(ハイシリコン)を擁し、スマホに使う半導体の約5割を自給できていると説明する。ただ通信分野で多くの特許を持つクアルコムの半導体など代替が難しいものもある。
日本や台湾など米国以外のメーカーに影響が波及する懸念も広がる。16日のアジアの株式市場ではスマホ向けコンデンサーを納入する村田製作所の株価が前日比5%安、グループ会社でスマホを受託生産する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が同2%安となった。
ファーウェイのある社員は「スマホよりも通信会社向け機器への影響が大きい可能性がある」と打ち明ける。同社は次世代通信規格「5G」用の基地局など通信機器を世界で拡販しており、各国での5Gサービスの展開が遅れる可能性もある。
ファーウェイは米国からの圧力の高まりを受けて18年から部品の在庫を積み増しており、すぐにスマホや通信機器の生産が難しくなることはないとみられる。任正非・最高経営責任者(CEO)は1月、仮に米国から制裁を受けても「影響は大きくない」と語った。
欧州やアジアの複数の供給メーカー関係者によると、ファーウェイは代替の利かない米企業の半導体などは6~12カ月分の在庫を確保しているもようだ。ただ実際の影響がどれだけ膨らむか読み切れない部分もあるという。米国の制裁発動を受けて、ファーウェイも対策を再検証する必要に迫られそうだ。

190527日経
米中貿易戦争と世界経済
関税応酬 成長3%割れも
2019年5月27日 2:00 [有料会員限定]






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米国と中国が繰り広げる貿易戦争が世界経済の視界を遮っている。制裁関税の応酬は米中と世界の景気をどの程度揺るがすのか。経済協力開発機構(OECD)で経済分析を率い、現在は米シティグループのグローバル・チーフエコノミストを務めるキャサリン・マン氏に聞いた。

合意の確率55%

――米国が中国からの全輸入品に25%の関税を課す「第4弾」を決めました。
「『今日の貿易戦争か明日の貿易合意か』ということだ。約3千億ドル(約33兆円)分の関税拡大はトランプ米大統領の瀬戸際戦略だ。本当に導入すれば株価は大幅に下落し、米中を合意に追い込む。(第4弾実施の)貿易戦争の確率は45%と以前より高まったが、合意の確率も55%とみる」
「6月末に大阪で米中首脳が会う。ディール(取引)の決定者を自任するトランプ氏は習近平(シー・ジンピン)中国国家主席との顔合わせを必須条件にする。年末までに合意の機会があろう」
――どんな「合意」が想定できるのですか。
「この種の貿易交渉で適切な用語を当てはめるのは難しい。貿易や生産の対中依存度を下げる『離婚』と、対中赤字を減らすため中国が米国産品を買う『深化』のどちらを米国が狙うのか。論理は一貫しておらず、当惑させられる」
金融市場に不安

――世界経済の行方が心配になります。
「2019~20年は3%前後の成長を予測するが、貿易戦争が激化すれば2.7%程度に下がるだろう。実体経済に加えて金融市場の混乱は下押し圧力になる。15~16年の減速期より各国の内需が格段に良いために粘り強いが、それがずっと続くわけではない」
――米景気の展望は。
「19年は2.7%成長を予測する。貿易戦争が続けば2%に下がり、解消すれば3%成長に高まろう。20年は民間投資に(貿易戦争の)影響が及べば、状況はさらに悪化するだろう。米国で消費する家具の7割、衣服の3割は中国から輸入している。貿易戦争の影響は調達先の転換がどの程度迅速に進むかにかかる」
――中国景気は。
「現状の経済指標は予想を下回り、関税拡大は中国により大きな悪影響を及ぼす。同時に中国は民間の資金繰りを支援しており、耐久財や住宅の購入支援策も投入できる。一段の悪化を阻止する手段がある」
――日本と欧州の経済はやや低迷しています。
「欧州景気は外需の逆風を雇用、賃金の改善など内需の粘り強さでカバーしている。ドイツ経済が弱いというのは製造業。サービス業は調子がいい」
「日本では自動車関税、米中摩擦などで事態の好転があったとしても、消費税増税が焦点。我々の同僚は延期の確率を25%とみる。2度の前例もあるからだ」
――OECDで反グローバル主義に直面しました。政策のあり方は。
「財政と金融政策、構造改革は政策として別々ではない。OECDでは『財政による構造改革』と呼んだ。成長促進と2%の物価上昇の達成は金融政策ではできない。長期の恩恵と効果を考えた財政政策の活用が必要だ」
(聞き手はワシントン支局長 菅野幹雄)
 Catherine Mann 2014~17年にOECDチーフエコノミストを務めた。63歳。

1900814ヤフー時事通信
米通商代表部(USTR)は13日、中国からの輸入品ほぼすべてに制裁関税を拡大する「第4弾」を9月1日に発動すると正式発表した。

 現在対象外となっている3000億ドル(約32兆円)相当に10%を上乗せする。米国の消費者への悪影響に配慮し、携帯電話やパソコン(PC)など一部の製品への適用を12月15日まで延期する。

 USTRは声明で、制裁関税の適用を延期する他の製品として、靴類や衣類、特定のおもちゃ、ビデオゲーム機、PCモニターなどを挙げた。さらに、安全保障や保健医療に関わる製品は課税対象から外れると指摘した。

 一方、中国国営新華社通信によると、中国の劉鶴副首相が13日にライトハイザーUSTR代表らと電話協議を行った。中国側は制裁関税の拡大に対して「厳重に抗議した」としており、2週間以内に再度電話協議を行う予定。 

190823日経
中国商務省の高峰報道官は22日の記者会見で、米国が9月1日に約1100億ドル(約12兆円)分の中国製品に10%の追加関税をかける方針を示していることに「米国が新たな関税措置を取れば、中国は断固として対抗措置を取る」と述べた。米国は当初、約3千億ドル分の中国製品に9月から追加関税をかける方針だったが、クリスマス商戦への影響を懸念してスマートフォンやおもちゃなど1500億ドル分の発動を12月に先送りした。

190825
米中貿易戦争、持久戦へ=互いに全輸入品制裁
8/25(日) 7:18

 【ワシントン、北京時事】トランプ米大統領は23日、対中制裁関税を引き上げると発表した。

 中国が米国からの輸入品ほぼすべてに報復関税を拡大すると表明したことに対抗したもので、両国は互いに全輸入品に制裁を科す格好だ。制裁と報復の連鎖は過熱の一途をたどっており、米中貿易戦争は「持久戦」の様相を強めている。

 「米国は中国を必要としていない。いない方がはるかにましだ」。トランプ大統領は23日、ツイッターでまくし立てた。

 米国は中国からの輸入品2500億ドル(約26兆円)分に昨年発動した制裁関税を、10月1日に25%から30%へ引き上げ。さらに、現在は対象外となっている3000億ドル分にまで制裁を広げる「第4弾」の税率も、当初予定の10%から15%とする。

 2020年の再選を狙うトランプ大統領は対中貿易協議の行き詰まりに焦りを強め、強硬策を連発している。中国を、輸出に有利な通貨安に誘導する「為替操作国」に認定。同国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)への制裁も強化した。

 23日には、米国企業に中国事業から撤退するようツイッターで訴えた。大統領の判断で外国での商業活動を規制できる「国際緊急経済権限法」を根拠に、なりふり構わぬ手段に出る姿勢を示した。

 これに対して中国商務省は24日、米国の制裁関税引き上げに「断固反対」を表明した上で、「誤った措置を即座に停止する」ことを要求。全面対決の構えを崩していない。

 中国は10月に建国70周年の重要な節目を控えており、国内からの「弱腰批判」は避けたいところ。貿易摩擦の長期化で、米株価が乱高下するなど景気先行き不安が強まれば、トランプ氏が軟化するともくろむ。

 当面は、9月上旬の米中閣僚級貿易協議が予定通り行われるかが焦点だが、合意に向けた道のりは険しそうだ。 

190828日経
連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長には気の毒というしかない。議長に任命したトランプ米大統領本人が、パウエル氏が米国にとって中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席より厄介な敵なのではないかと思っているのだから。トランプ氏は自国の中央銀行が売国奴に率いられていると示唆し、過激な言動を一層強めている。

以前はパウエル氏のことを、「無知」または「パットができないゴルファー」のような「ひどくビジョンが欠落した」人物と評したこともある。そしてパウエル氏をFRB議長に選んだことを「多分」後悔している。
トランプ氏の大統領再選の見込みをつぶそうとしたことが過激な言動につながったのではないか、と多くの人は思うだろう。しかし、実際には、トランプ氏の最近の罵詈(ばり)雑言の大半は、FRBが7月末に利下げして、大統領の望みをかなえた後に出たものだ。
 

大統領が批判的なツイートをしたのは、23日のパウエル氏の講演後だった。FRBの今後の軌道について、差しさわりのないことを述べたが、米国の経済成長を阻害している貿易戦争の悪影響を和らげるためにFRBがどこまで踏み込むべきかについて、分かりかねると受け止められる発言をしたことがトランプ氏の気に障った。パウエル氏は如才ないため、激化する米中貿易戦争を名指しはしなかったが、トランプ氏は議長が言及していることが貿易戦争であることを察した。
では、この先、事態はどこへ向かうのか。最も順調な時でさえ、大統領が景気後退や成長減速を食い止める力は限られている。ところがトランプ氏は、来年の選挙に向けて好景気を維持するためにできる最も明白な3つのことのうち、2つを排除してしまっている。
1つ目は、中国との貿易戦争を打ち切ることだ。貿易戦争が悪化する可能性により米ドルへの資金逃避に拍車がかかり、7月の0.25%の利下げがもたらしたドル安効果は帳消しにされてしまった。
米国内での投資の先行きは、すでに不確実性に満ちている。大統領は23日、中国から投資を引き揚げるよう米国企業に「命令」した。中国を世界経済から切り離すことへの懸念は今や、昔の話のように思える。トランプ氏は中国との全面的な決別を狙っている。これは投資をさらに促す条件にはならない。
トランプ氏が放棄している2つ目の対策は、国際協調だ。先週末、大統領はフランスで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)に参加した。サミットは、競争的な通貨切り下げと貿易戦争を食い止めるために首脳が行動するという声明を出す理想的な場だった。過去50年間には、首脳宣言が幾度も建設的な影響をもたらしてきた。
国際協調は1980年代の協調介入のように為替市場の方向性を定めたり、金融危機の時のように世界経済を救ったりすることに貢献できる。だが、国境をまたぐ協調は、トランプ氏の眼中にはない。主権国家は単独で行動すべきだという大統領の信念に反するので、選択肢としては使えない。
米国の大統領が使える3つ目の対策は財政刺激策だ。トランプ氏はここ数日、米国の消費者の手元に残るお金を増やす給与税の一時的な減免法案を可決させる考えを口にしていた。だが、そんなことをすれば、民主党は、トランプ氏が受け入れがたい見返りを要求するだろう。例えば、連邦政府として最低賃金を時給15ドルに定めたり、大規模なインフラ整備を計画したりすることだ。
どちらも経済を活性化させるだろう。だが、トランプ氏は民主党と取引することにアレルギーがある(その逆もしかり)。いずれにせよ、大統領は今では、減税は検討しないと話している。
そうなると、大統領に残っている対策は1つしかない。パウエル氏をいじめ倒すことだ。
問題は、FRBはトランプ氏が考えているほど隠し技を持っていないことだ。政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を現状の上限2.25%から2%以下にしても、サマーズ元米財務長官がいうところの「長期停滞」への懸念に直面している現在は、政策効果はさほど見込めないだろう。景気は引き締めは容易でも、刺激は「紐(ひも)を押す」ような行為に等しく難しい。
もっと適切なたとえ方をすると、トランプ氏はマフィアのボスのようにゴルフクラブでFRB議長を無駄に殴打しているのだ。大統領は好きなだけ脅しをかけられるし、パウエル氏を解任できると示唆してもいいし、いずれ解任するかもしれない。だが、大統領はFRBを経済問題の特効薬が入った魔法の箱には変えられない。
 

それ以上に大きな危険は、FRBがすでに、トランプ氏が争いを激化させるのを可能にしていることだ。トランプ氏は中国に脅しをかけるたびに、FRBが自分を救ってくれることを期待する。
トランプ氏は今、1%の利下げを求めている。これはパウエル氏を救いようのない立場に追い込む。金融緩和すれば、成長を損なう貿易戦争をさらに追求する余地をトランプ氏に与える。そして悪化する経済指標に対応しなければ、FRBは職務怠慢を追及される。
パウエル氏にとって、2%のインフレ(物価上昇)と完全雇用という2つの目標の到達は使命だ。この目標達成を困難にしている大統領に対して疑問を投げかけることは許されない。
 

長期的には、組織としてのFRBはおそらく、独立性を失わずにトランプ氏の攻撃を生き延びるだろう。だが、FRB議長が生き延びる公算は次第に小さくなりつつある。テレビで日々トランプ氏に向けてアピールしている無節操な求職者の誰かに代わることは十分あり得る。厳密には、トランプ氏には、22年の任期終了前にFRB議長を解任する権限はない。だが、この大統領は前例を幾度となく破ってきた。
トランプ氏は8月下旬に入り、大統領を「イスラエルの王」になぞらえた支持者の言葉を引用してツイートした。パウエル氏は用心した方がいい。新約聖書に出てくる、古代イスラエルの国主ヘロデが、盆に載った生首をささげられたのを思い出す人は少なくないはずだ。

190901
 【ワシントン時事】米中両国は1日、双方からの輸入品ほぼすべてに制裁・報復関税を広げる「第4弾」を順次発動する。

 コストの割安な中国で生産体制を拡充してきた米国企業はサプライチェーン(供給網)の抜本的な見直しを迫られる。来年の再選を狙うトランプ大統領は「中国からの撤退」と「米国への生産移転」を訴えており、米中経済の分断に拍車が掛かるのは必至だ。

 「経営下手の軟弱な企業が関税のせいにしている。言い訳だ!」-。トランプ氏は8月30日にツイッターで、第4弾の発動見送りを求める米産業界にいら立ちをあらわにした。中国事業に熱心な米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)について「今再び米国への移管を始めるべきではないのか?」と投稿。景気先行き不安の責任を企業経営に転嫁し、米国への生産移転を促した。

 米中貿易戦争の長期化で米国の多国籍企業は供給網の見直しを本格化させており、こうした動きが加速しそうだ。米国は第4弾で、中国から仕入れる米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」に12月15日から制裁関税を課す見込み。対する中国は、米国製輸入車への報復関税を復活させる構えで、米製造業には打撃だ。

 ただ、コストの割高な米国への生産移転はさほど進みそうもない。在中国米商工会議所の調査によると、中国以外への生産移転を検討もしくは既に一部移転したと回答した企業は全体の4割を占め、代替先候補は東南アジアが約25%、メキシコが約10%。再選に向け実績づくりにひた走るトランプ氏は8月23日、大統領権限を使って「米国回帰」を強制的に促す案にまで言及した。予測不能なトランプ氏に振り回され、米国企業は引き続き厳しい経営環境に直面することになる。 

190902日経
トランプ米大統領の奇妙な交渉術の一つは手の内を明かしたがることだ。同氏は先日も欧州連合(EU)について「自動車に課税しさえすれば、彼らは何でも差し出してくるだろう。向こうはこちらにベンツを何百万台も輸出しているのだから」と発言した。この戦略はマキャベリの「君主論」には記されておらず、効果は疑問だ。
選んだ相手が正しいかも疑わしい。トランプ氏は攻撃の狙いを中国に定めながら、欧州とも様々な問題でぶつかっている。同氏はドイツなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費の負担は不十分だと憤り、米国が捕らえた過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員を欧州の出身国で「自由にする」と脅す。デンマーク領グリーンランドの購入にも意欲を示し、デンマークに一蹴された。
大統領に就任した当初、トランプ氏は戦略家かそれとも気分屋かとよく話題になった。戦略とは優先順位をつけることだ。戦略家なら中国との覇権争いを最重要課題に据え、あらゆる手を使ってEUに共同戦線を張るよう求めるはずだ。双方を攻撃するのは戦略というより場当たり的でしかない。
EUは英国を除いても世界の国内総生産(GDP)の約18%を占め、経済的影響力では中国を上回る。国際貿易のルールづくりでも間接的に大きな役割を果たし、ユーラシア大陸全土を結ぶ中国の広大なインフラの建設計画についても、関係者として発言権を持つ。
米国は欧州の力を借りずに中国と張り合うことはできても、それで成功を収めるとは考えづらい。
米欧の絆は両者が共通の敵と見なしたソ連の崩壊で弱まった。それ以降、衝突が続いている。欧州が米IT企業に課税しようとすれば、たとえ「普通の」米大統領でも対抗策をとらざるをえない。とはいえ普通の大統領なら、中国並みの規模を持つ相手と長期対立する道は選ばないだろう。
対EU関係の冷え込みより厄介なのはその原因だ。トランプ氏のEUへの不満が貿易上のものだけなら解決策があるはずだ。しかし概念的な問題が付随している。
トランプ氏とその周辺は、EUを国民国家を汚す存在だとみている。国民国家は主に19世紀に生まれた概念だが、最近のポピュリストは有史以前から広く存在していたかのように捉えている。トランプ政権はEUが米国と同様、自らを絶えず変化し続ける存在だと考えていることを認識している。しかもEUの方がより急進的に変化していることもわかっている。
ポンペオ米国務長官は昨年末、ブリュッセルで演説し「民主主義の自由を保障するうえで国民国家にまさるものはない」と述べた。真偽は別にして、同氏がそう信じているという事実からは近年、米欧の対立が頻繁に起こり、なかなか解決しない理由が読み解ける。米国が抱いているのは物理的な不満だけではないのだ。
西側世界の対中政策の問題点は、米国の中東などへの泥沼の軍事介入や、米共和党が信奉する自由貿易至上主義などと同様、トランプ氏が批判することで明らかになった。だがトランプ政権はその解決策をまだ見いだせていない。
トランプ氏が登場してきた意味は物事を直言する才能にあると思えてくる。ただ課題の対処には戦略が必要だ。後任の大統領が欧州との関係の改善に動けば、それは戦略家といえる。

190903日経
貿易戦争 米中我慢比べ
トランプ氏が不利?
2019年9月3日 2:00 [有料会員限定]






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トランプ米大統領は対中制裁関税の正当性を主張した(1日)=ロイター
トランプ米政権は1日、中国製品への制裁関税「第4弾」を発動した。中国も米農産品などを対象に報復措置をとり、米中の貿易戦争は泥沼化している。米中の我慢比べはどちらが有利なのだろうか。
関税報復合戦からみていこう。米国の中国からの輸入額は年間約5500億ドル。米国は2018年7月に産業機械など340億ドルに追加関税を発動し、第2弾160億ドル、第3弾2000億ドルと範囲を拡大。第4弾1100億ドル分の発動で総額3600億ドルに達した。年末まで猶予したスマホなど1600億ドル分を発動すれば、中国輸入のほぼ全額に追加関税をかけることになる。
一方、中国の米国からの輸入は年間約1500億ドル。中国はその大半に追加関税をかけているので、今後は関税率引き上げで対抗するしかない。輸入額が多い米国のほうが制裁発動余地が大きく我慢比べには有利なようにみえる。
世論が左右

ところが米中両国の政治状況をみると風景は少し変わってくる。合意寸前までいった4月の米中協議決裂後、中国は対米貿易戦争を「持久戦」と位置づける姿勢を明確にした。対米交渉で習近平(シー・ジンピン)国家主席が共産党内から批判を浴びているとの見方もあったが、引退した党長老と習指導部が重要課題を話し合う「北戴河会議」も無事に終わった。
もともと共産党一党独裁体制の中国は、貿易交渉で米国ほど国民世論を気にする必要はないが、習主席の党内基盤が強固になれば、対米交渉には余裕が増す。
一方、民主主義体制の米国のトランプ氏の政治基盤は盤石ではない。再選を目指す来年11月の大統領選まで1年2カ月。トランプ氏にそれほど余裕はない。大統領選のカギを握る米中西部の激戦州の農業関係者からは、中国の米国産農産物への関税への不満が高まり、貿易協議の早期妥結を求める声が高まっている。
トランプ政権が農産物関税下げやトウモロコシ緊急輸入を含む日米貿易協議の取りまとめを急ぐのも国内事情が大きい。
トランプ氏の今の支持率は40%台前半。共和党のコア支持層は押さえるが、浮動票しだいで再選は絶対安全圏とは言えない。再選を
再選を目指す来年11月の大統領選まで1年2カ月。トランプ氏にそれほど余裕はない。大統領選のカギを握る米中西部の激戦州の農業関係者からは、中国の米国産農産物への関税への不満が高まり、貿易協議の早期妥結を求める声が高まっている。
トランプ政権が農産物関税下げやトウモロコシ緊急輸入を含む日米貿易協議の取りまとめを急ぐのも国内事情が大きい。
トランプ氏の今の支持率は40%台前半。共和党のコア支持層は押さえるが、浮動票しだいで再選は絶対安全圏とは言えない。再選を目指す大統領にとって決定的に重要なのは景気情勢だ。戦後、現職の大統領で再選を目指して果たせなかったのは民主党のカーター氏と共和党のブッシュ氏(父)の2人。いずれも景気後退が大きな要因だった。
米国の景気拡大は11年目と戦後最長でいつ息切れしてもおかしくない。4~6月期の輸出は前期比、年率5.8%減少、貿易戦争の影響は経済に影を落とす。
来春がリミット

トランプ氏は景気対策として、目先は米連邦準備理事会(FRB)に圧力をかけ金融緩和で乗り切ろうとしている。減税にも言及するが、民主党が下院多数を占め上下両院がねじれ状態の議会の議決を要する景気対策のハードルは高い。
金融政策に限界が見えた時に、トランプ氏の最大の景気対策は米中貿易戦争の休戦になろう。最終決着は難しくても、追加関税の撤廃ないしは引き下げによる一時休戦は選択肢だ。大統領選を考えれば交渉妥結のリミットは年内、どんなに遅くても来年春だろう。
問題は米国世論だ。米議会では超党派で対中強硬論が広がっており、トランプ氏は安易な妥協はできない。合意を急いで中国に譲歩したとみられれば政治的にはマイナスだ。中国に弱腰を見せずに休戦に持ち込む高度な技術を求められる。
多くの人が米国は大統領選前には収拾に動くとみているが、予測不能なトランプ氏のこと、暴走リスクはある。景気が悪化してもFRBや中国に責任転嫁し、強硬姿勢を貫いたまま大統領選に突き進む賭けだ。
さらに米中関係の不安要因として急浮上しているのが香港問題だ。大規模デモは民主党も含め米政界は人権問題として重大な関心を寄せる。中国が強硬策に出て、1989年の天安門事件の時のように国際的に孤立すれば、協議妥結どころか一段の経済制裁などの事態も招きかねない。
高率関税をかけあったまま米中の対立が先鋭化し身動きがとれなくなる。世界経済にとって最悪のシナリオだ。そうならないように両国の自制と対話を期待したい。
(編集委員 藤井彰夫)

190905日経
ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=中山修志】米製造業の景気不安が強まっている。中国などとの貿易戦争が長引き、8月の景況感指数は3年ぶりに「不況」に転落した。トランプ米政権の関税政策で保護されてきた鉄鋼業なども業績が落ち込む。米個人消費は底堅さを保つが、雇用の先行きには不透明感もある。中西部の激戦州には製造業が集まっており、来年のトランプ大統領の再選シナリオにも影響する可能性がある。


米サプライマネジメント協会(ISM)が3日発表した8月の米製造業景況感指数は、前月から2.1ポイント低下して49.1となった。指数が好不況の境目である50を下回ったのは「チャイナ・ショック」によって金融不安が強まっていた2016年8月以来3年ぶりだ。同指数は米中が制裁関税を掛け合って貿易戦争に突入した18年夏をピークに下がり続け、トランプ政権発足後で初の「不況」ライン割れとなった。
貿易戦争は個別企業の業績を下押ししている。農機大手ディアは5~7月の売上高が前年同期比3%減少し、通期の業績見通しを下方修正した。中国の報復関税で大豆やトウモロコシなど米国産の農畜産品の対中輸出は18年に前年比53%も減少した。農機の買い替え需要が落ち込み、製造業にしわ寄せが及び始めている。
トランプ政権は米国内の鉄鋼業を保護するために、日本製品などに追加関税を課してきたが、鉄鋼大手のUSスチールは7月から15%の減産に入った。市況が回復するまでミシガン州の鉄鋼所で従業員200人を一時解雇する。


ISM製造業景況感指数の個別項目を見ると、先行きの景気動向を敏感に映す「新規受注」は47.2と前月から3.6ポイント低下した。米経済は4~6月期の設備投資が約3年ぶりに前期比マイナスに転落した。米中摩擦の影響で中国やドイツでも設備投資の伸びが鈍化しており、主要国の新規受注は総じて低調だ。
米景気全体を支える雇用の行方も気がかりだ。8月は「雇用」が47.4と前月から4.3ポイントも下がった。業績の低迷に苦しむ製造業に人員削減の波が広がる兆しがある。
一方、米小売売上高は7月まで5カ月連続でプラスになるなど個人消費は堅調だ。ただ製造業を起点にした景況感の悪化が雇用減を通じて、個人消費を下押しするリスクはある。
米中の貿易戦争にも終息の兆しは見えていない。トランプ米大統領は中国からの生産撤退を呼びかけているが、玩具メーカー、ベーシックファンのジェイ・フォアマン最高経営責任者(CEO)は「生産を別の国に移しても関税のリスクは残る。米国では十分な労働力を確保できず、手の打ちようがない」と頭を抱える。
米連邦準備理事会(FRB)は7月末に10年半ぶりの利下げに踏み切ったが、直後にトランプ大統領が中国製品への制裁関税第4弾を発表。企業心理は金融緩和後に一段と悪化した。非製造業の景況感指数も7月は53.7と16年8月以来、2年11カ月ぶりの水準まで低下している。
米国中西部で五大湖周辺の「ラストベルト」と呼ばれる一帯は工場が集積する。ミシガン州などは激戦州として知られ、この地域の白人労働者層の支持固めは20年大統領選での再選に不可欠になっている。
トランプ氏が主導する中国との貿易戦争は長期化が見込まれ、製造業の景況感は低迷が続く公算が大きい。世界経済の減速による輸出懸念も強まっており、トランプ氏の再選シナリオに狂いを生じさせかねない。

190905日経
ワシントン=鳳山太成】米商務省が4日発表した7月の貿易統計(通関ベース、季節調整済み)によると、対中国のモノの貿易赤字は296億4300万ドル(3兆1500億円)で前月比1.7%減った。関税をかけあう貿易戦争の影響がさらに大きくなり、輸入と輸出のいずれも縮小した。米中貿易の停滞は引き続き世界経済の重荷となりそうだ。
対中輸入は1.9%減の390億ドルだった。トランプ政権は5月に家具や家電など年2千億ドル分の中国製品への制裁関税を従来の10%から25%に引き上げており、米国では中国以外からの調達を増やす動きが広がる。
対中輸出も2.7%減の93億ドルと振るわなかった。中国が6月に拡大した米国製品への報復関税の影響が表れたようだ。
輸出入をあわせた対中貿易額は2%落ち込んだ。米国にとって最大の貿易相手国は19年に入って中国から代替調達先のメキシコに代わっている。
7月は、6月末に開いた米中首脳会談で貿易戦争の「休戦」で合意した後だった。その後に対立は再び激化し、トランプ政権は9月に入って制裁関税「第4弾」を発動し、中国も報復した。米中貿易は今後も一段と縮小する公算が大きい。
米国の全体の貿易赤字は725億ドルで2.3%減った。縮小は2カ月連続。コンピューターや半導体など資本財の輸入が17年10月以来の低水準だった。対日赤字は5.7%減の59億ドルだった。サービスを含む全体の赤字(国際収支ベース)は540億ドルで2.7%縮小した。

190906日経
北京=原田逸策】米中両国は5日、閣僚級の貿易協議を10月初めにワシントンで開くことで合意した。当初予定の9月初めから1カ月先送りした。中国は10月1日の建国70周年を控え、トランプ米大統領が暴走し貿易摩擦が高まるリスクを避けたかったとみられる。
中国は10月1日に軍事パレードなど多くの記念行事を予定し、祝賀ムードに水を差しかねないリスクを徹底的に排除している。9月に貿易協議を開いて不調に終われば、トランプ氏がさらに追加関税をかける口実を与えかねない。
電話協議の公表を受けた5日の上海総合指数は一時、2カ月ぶりに3000台を回復し、人民元相場も上昇した。先送りには建国70周年を前に金融市場が混乱するのを避ける狙いもありそうだ。
もっともトランプ政権は協議直前の10月1日、発動済みの第1~3弾の追加関税を25%から30%に上げる方針だ。中国が反発し、閣僚協議がさらに延期される懸念も拭えない。

190906日経
ニューヨーク=大島有美子】中国との貿易戦争が米国の経済を疲弊させつつある。米連邦準備理事会(FRB)は4日公表した地区連銀経済報告(ベージュブック)で米経済が「緩やかに拡大している」と総括したが、各地区の報告からは8月以降の米中の報復関税の応酬により製造業や農業の活動が鈍り始めていることが浮き彫りになった。


今回のベージュブックは7月中旬から8月23日までの全米12地区の経済情勢をまとめたもの。9月17~18日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けた準備資料として重視されている。トランプ米大統領は8月1日、中国からの輸入品ほぼ全てに追加関税を課す「第4弾」の発動を表明。報告書には発表を受けた経済活動の現場の反応が盛り込まれた。
「7月の報告と比べ企業活動全体が衰えている」(アトランタ)。顕著に減速の動きをみせたのが製造業だ。製造業では12地区のうち半数超の7地区で「減速」の表現が盛り込まれたほか、貿易戦争に起因する減速と明示した地区もクリーブランドやカンザスシティーなど4地区に上った。
バージニア州の製造業は「事業環境の悪化の恐れから、新しい設備の購入を先送りした」。企業活動と密接に連動する輸送業も「最近数週間はゆるやかに仕事が減っている」(ニューヨーク州)。4日講演したニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は「企業経営者が投資により慎重になっていると話しており、すでに設備投資の数字にも表れている」と述べた。
8月の米製造業景況感指数は49.1と好不況の境目である50を3年ぶりに割り込んだ。報告でも「世界経済の成長期待が剥落し、先行きはより悲観的」(ダラス)との声が漏れる。9月の追加関税発動や中国による報復関税など8月下旬以降に起きた事象は報告書に盛り込まれておらず、足元の企業活動はより弱まっている可能性がある。

報告書では輸送業でも減速が目立つ(カリフォルニア州の港で並ぶトラックの列)=AP

報告書では製造業、農業、輸送業で減速が目立つ一方、消費や雇用、住宅が底堅さを維持し、景気全体を支える構図だった。ただ「一部は関税による値上げが影響し、8月初旬の販売が落ち込んだ」(ニューヨーク)、「消費者心理は悪化している」(フィラデルフィア)など小売業の現場からは不安の声が寄せられた。制裁関税によるコスト増も重い。「制裁関税の影響で将来の輸入コストが上がる」(クリーブランド)など懸念の声が上がる。
貿易戦争の長期化を見越して、事業戦略を変更する動きも出始めた。ある電気設備会社は「メキシコへの生産移転をやめ米国に自動化投資する」(ボストン)。農業分野でも「牛、豚、鶏肉の畜産農家で(中国を)代替できる市場を探している」(サンフランシスコ)という。
景気減速への懸念から米債券市場では9月の利下げ確率を100%とみているが、利下げ幅の内訳では0.5%とみる確率が4日、1割に高まった。3日時点では4%だった。17~18日に開かれるFOMCにおける利下げ幅の拡大の期待が高まっている。

190906日経
ニューヨーク=高橋そら、関根沙羅】米中貿易戦争の激化で米個人消費に変調の兆しが出ている。足元の消費は堅調だが、1日に発動した1110億ドル(約12兆円)相当の中国製品への制裁関税「第4弾」の影響で、米小売企業が相次ぎ業績予想を下方修正した。


「対中関税が価格に影響しないか心配だ」。ニューヨーク州に店舗を構える米キャンプ用品店の女性店員は不安を隠さない。当面値上げの予定はないが、米中貿易戦争が激化すれば「来年以降は分からない」と漏らす。
足元で消費が腰折れしたわけではない。米小売り最大手ウォルマートの5~7月期の売上高は2%増の1303億ドル、最終損益は36億1000万ドルの黒字に転換した。生鮮食品や飲料の販売が伸びた。米ディスカウント大手ターゲットも「米消費は強いままだ」(ブライアン・コーネル最高経営責任者)とみる。
7月の米小売売上高は前月比0.7%増え、前年同月比でも3.4%増加した。失業率は約50年ぶりの低水準で賃金も伸び、足元で消費者の節約行動は目立っていない。
だが対中製品への15%の追加関税は米小売り大手に大きな打撃だ。米ホームセンター大手ホーム・デポは2020年1月期通期の業績見通しを前期比3.3%の増収から2.3%増に引き下げた。1日に発動された対中関税が年20億ドルのコスト増になると試算した。
米の国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費は米経済の「最後のとりで」だ。バンクオブアメリカ・メリルリンチの米国エコノミストのアレックス・リン氏は、第4弾の関税対象は消費財が全体の5割に達すると指摘。「消費者が先行きに対してより悲観的になれば、商品やサービスへの支出の減少につながる」と警告した。
ミシガン大学がまとめた8月の米消費者態度指数(確報値)は89.8と前月から8.6ポイント低下し、12年12月以来6年8カ月ぶりの下げ幅だった。特に「今後の見通し」が前月比10.6ポイント下がった。調査責任者のリチャード・カーティン氏は「消費者は今後の景気後退を見越して支出を減らす可能性が高い」と指摘する。

190910日経
トランプ米大統領が中国に第1弾の制裁関税を課すと発表してから1年余りが過ぎた。中国は今なお米国の要求に応じておらず、激化する貿易戦争の行方は次第に米経済とトランプ氏にとって重大な意味を持つようになってきた。本稿では、貿易戦争の成り行きが米経済に及ぼす影響とともに、トランプ氏の歴史的評価に与える影響を予想する。

貿易戦争は「米国が先に手を出し、中国が仕返しをする」という形で進行してきた。一見、米国が優勢のようにみえる。米株式相場も比較的堅調で、貿易戦争の展望は米国の投資家の信認を損ねていないようだ。

その一方で貿易戦争は中国の輸出にさほど影響を与えていない(図参照)。少なくとも短期的には中国に対する米国の優位はごく小さい。貿易戦争が長引けば、米国が受ける長期的な影響は深刻化するだろう。中国企業の規模の経済に対抗できる企業は国際的にもほとんどないため、米企業はおそらく中国製品に依存し続け、関税導入前と同水準の輸入量を維持するだろう。
米国の一部の消費者は中国製から他国製に乗り換えるかもしれない。そうなれば中国は好機とばかりに、欧州連合(EU)や東南アジア諸国連合(ASEAN)などとの貿易拡大に乗り出すはずだ。従って中国企業の売り上げは、トランプ氏が当初予想したほど大幅には落ち込まないだろう。
対照的に不利益を被るのは米国の消費者で、いずれ生活費の大幅上昇のリスクに直面するだろう。米国が中国から輸入するのは主に機械類と電気製品だ。これらの製品価格が人為的に引き上げられれば、米企業は調達先を割高でも他の企業に切り替えるか、中国製品に関税を上乗せした高い価格を払うかしかない。いずれにせよ生産コストは上昇して販売価格に転嫁され、家計を圧迫するだろう。
また生産コストが膨らみ企業利益が縮小すれば、投資家はやがて米国株への投資意欲をそがれるだろう。関税率の一段の引き上げや長期の課税据え置きという事態になれば、投資家が愛想を尽かし、大幅な株価下落を招きかねない。そうなれば米企業の成長は妨げられ、米国全体の経済活動が停滞する可能性もある。
トランプ氏の行動志向を分析するには、その性格を考慮する必要がある。何よりも実業家だ。事業経営のように国家経営に臨み、米国の経済力や政治的影響力について長期的な計画を立てるよりも、短期的な利益を得ることに関心がある。この点を踏まえると、貿易戦争でのトランプ氏の対中政策の狙いがみえてくる。
米政府にとって明白な直接的利得は関税収入だ。実際、米政府は2019年には18年を大きく上回る関税収入を得ることが見込まれる。これは明らかにトランプ大統領の勝利とみなされており、近い将来に関税を撤廃する可能性は低い。
現にトランプ氏は第4弾の制裁関税を課すと発表、うち1100億ドル分を9月1日に発動した。中国が米国からの輸入品750億ドル分に報復関税を課すと、トランプ氏は当初10%の予定だった第4弾の関税率を15%にするとともに、第1~3弾の対象についても関税率を従来の25%から30%に引き上げると発表した。
前述した通り、貿易戦争の激化は長期的には米経済をむしばむが、目先の損得にこだわるトランプ氏は長期的な悪影響には相変わらず無関心のようだ。
トランプ氏は強硬路線を突き進んでいるが、中国と妥当な関係を保つためにそれなりの配慮はしている。20年に迫った大統領選挙に向けて支持基盤を確保したいからかもしれない。
中国が米国製品に課した関税はトランプ氏の支持基盤を直撃している。その多くが農業など1次産業に従事する労働者だ。彼らをなだめるために、トランプ氏は貿易交渉のたびに米国産大豆などの農産物の輸入を中国が増やす約束を取り付けてきた。今後も中国を完全に敵に回すのではなく不確実な関係を長引かせ、米経済への悪影響が支持基盤の離反を招かないように立ち回るだろう。20年より前に、貿易戦争が大幅に拡大することはなさそうだ。
とはいえトランプ氏は基本的には中国経済の封じ込めを狙っている。中国の輸出企業が米企業を打ち負かす可能性と中国の技術競争力の向上という2つの脅威を感じているからだ。前者については、関税を課すことで輸入量の抑制と貿易赤字の削減を目指している。
後者については、米企業に華為技術(ファーウェイ)との取引禁止を通知し、同盟国にも追随を求めてきた。米商務省は5月に禁止措置を発表したが、直ちに90日間の猶予を適用し、その期限である8月19日にも猶予をさらに90日間延長した。もし再延長されなければ、ファーウェイ製品の国外売り上げは直ちに打撃を受けることになる。
一方、ファーウェイはこのほど独自の基本ソフト(OS)を発表した。原理的には同社が全ユーザーを乗り換えさせることは可能だが、米グーグルのOS「アンドロイド」には既に数多くのアプリが用意されていることを考えると、ファーウェイが独自OS用のアプリ製作と更新を開発者に期待するのは現実的でない。
しかも今のスマートフォン用OSは多数の個人用パスワードの生成と保存を実行しているから、切り替えも困難だ。ファーウェイに現在搭載されているOSが今後更新できなくなりユーザーがそっぽを向けば、ファーウェイは国外市場の大半でシェアを失うだろう。
「米国を再び偉大な国に」をスローガンに掲げるトランプ氏は、忘れがたい業績を残し、偉大な大統領の一人としてたたえられたいとの願望を隠そうとしない。だがトランプ氏には長期的なビジョンが欠けている。
トランプ氏の政策は減税や強硬路線という点ではレーガン氏の政策に近い。レーガン氏自身も在任中に貿易戦争を戦っている。ただし相手は日本で、使った戦略も大幅に異なる。1985年のプラザ合意により円高・ドル安を誘導し、日本経済に大打撃を与えて米国の輸出競争力を回復した。レーガン氏の貿易戦争で米国が得た利益は、トランプ氏のケースよりも顕著だ。
トランプ氏の貿易戦争では、せいぜい関税収入をいくらか増やしたにすぎず、悪くすれば消費者利益を奪いかねない。そのうえ、移民排斥や無礼な発言など多くの政治的失策も犯しており、トランプ氏が歴史書の中で好意的に描かれるかどうかは大いに疑わしい。
結局トランプ氏の政策は中国の低成長を長引かせるとしても、経済的破綻に追い込むには不十分だ。中国は徐々にサービス経済に移行し、いずれは貿易戦争に耐えられるようになろう。
一方の米国はそうはいくまい。貿易戦争に負けないためには安価な製品を大量に必要とするが、現時点でそれを供給できるのは中国だけだからだ。その中国は米国以外の国との貿易により、制裁関税で減った輸出を埋め合わせられる。トランプ氏はもっと穏当な姿勢で臨む必要があるだろう。
<ポイント>
○米国全体の経済活動が停滞する可能性も
○トランプ氏の狙いは短期的な関税収入か
○中国経済はいずれ貿易戦争への耐性強く

190911日経
株式市場で「米国集中」の動きが鮮明になっている。米国の代表的な株価指数が過去最高値を再びうかがう水準に上昇。米国での売上高比率が高い日本企業にも資金が流入する。米中貿易摩擦が続く中でも、米個人消費の強さを裏付ける景気指標が相次いだことが好感された。米連邦準備理事会(FRB)の利下げ期待も追い風になっている。

10日の東京株式市場では、米国売上比率が高い銘柄の上昇が目立った。米国売上高比率が3割強のセブン&アイ・ホールディングスは5カ月ぶり高値、約2割の住友商事は年初来高値を付けた。両社は8月末比でもそれぞれ6~7%上昇し、日経平均の上昇率(3%)を大きく上回る。北米で5割以上を売り上げるホンダも9月に入り、1割強上昇した。

米国で稼ぐ企業には海外マネーも流入する。海外投資家のファースト・イーグル・インベストメント・マネジメントは5日、米国の業務用製氷機で高いシェアを持つホシザキ株を5%超保有したと明らかにした。
米国株相場も堅調だ。米ダウ工業株30種平均はほぼ1カ月ぶりの高値となり、7月に付けた史上最高値に迫りつつある。米国の主要株価指数であるS&P500種株価指数に連動する上場投資信託(ETF)「SPDR(スパイダー)S&P500」の資金流出入をみると、今月5日以降は資金流入超に転換した。
背景にあるのは、米国の国内総生産(GDP)の7割を支える個人消費で堅調な指標が相次いでいることだ。8月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況感指数は56.4に上昇し、市場予想を上回った。FRBが9日発表した7月の消費者信用残高(速報値、季節調整済み)も1年8カ月ぶりの伸び率で、米消費者が借り入れによる消費に積極的であることを示唆した。
米ウォルマートなどが8月に発表した米小売大手の四半期決算は好調な内容が目立った。米国の代表的な大手一般小売企業約9000店舗の売り上げ動向を指数化した「ジョンソン・レッドブック」の週間販売動向でも伸び率が加速している。
「個人消費が力強い状況が続いているため、当面の米国経済は堅調に推移する」(ブラックロック・ジャパンの番場悠氏)との見方が広がっている。
9月初旬までの米長期金利の低下による影響も大きいようだ。米国では住宅ローンの借り換えが急増している。借り換えに関連してキャッシュに余裕が出た家計が消費を支える効果が期待されている。
FRBの利下げに対する期待も強い。パウエル議長は前週末に「景気拡大を続けるため適切な行動をする」と発言。今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で少なくとも0.25%利下げするとの見方が大勢を占める。利下げを支えに「米国の内需が景気を引っ張る構図が続きそうだ」(大和証券の木野内栄治氏)という。
もっとも、製造業を巡っては減速懸念が根強い。アセットマネジメントOneの小出晃三氏は「米中貿易摩擦が緩和して設備投資が動き出さなければ、米景気が悪化する可能性は高い」と警戒する。
市場では「現在の米株高は悲観の揺り戻しにすぎず、米景気の後退懸念がなくなったと見るのは時期尚早だ」(ピクテ投信投資顧問の松元浩氏)との指摘もある。

190913日経
ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米大統領は11日、2500億ドル(約27兆円)分の中国製品に対する制裁関税の引き上げを10月1日から同15日に延期すると発表した。中国政府も12日、米国産農産品の輸入手続きを再開したと表明した。10月上旬の閣僚級協議を前に歩み寄りを演出した形だが、中国の構造問題を巡る米中の溝は深く、合意への道筋は描けていない。
「中国が10月1日に建国70周年を祝うので『善意の意思表示』だ」。トランプ氏はツイッターに投稿し、「劉鶴(リュウ・ハァ)副首相の要請があった」とも明かした。1日に対中制裁関税「第1~3弾」の追加関税率を25%から30%に上げる予定だった。
トランプ氏が狙うのは農産品での中国の譲歩だ。米農産品の対中輸出は2019年上期に前年同期比2割も減った。20年の大統領選を控え、支持者から「近所で破綻する農家が増えている」(中西部アイオワ州の農家)と不満が強まる。
中国商務省の高峰報道官は12日の記者会見でトランプ氏の発言を歓迎し、「中国企業が米国産農産品の価格の問い合わせを始めた」と明かした。米国が重視する大豆や豚肉も対象だという。国内では豚肉など食品の値上がりに庶民の不満が強く、安価な米国産品の輸入は物価対策にもなる。トランプ氏は12日、ツイッターに「中国は米国の農産品を大量に買うだろう!」と早速書き込んだ。
国家知識産権局の甘紹寧副局長も12日、外国メディアに「国内も国外も同一視して知的財産権を保護する」と法整備に前向きな姿勢を訴えた。中国は10日以降、海外投資家による中国の債券や株式への投資額の制限撤廃や、米国への報復関税からの16品目の除外も発表していた。ある官庁エコノミストは「夏以降の経済悪化もあり、中国の交渉姿勢は協議が決裂した5月ほど強硬ではなくなった」と指摘する。
もっとも米中間には中国の産業補助金など難題が山積する。ホワイトハウス関係者は「関税合戦の一時停止や中国の輸入拡大など『ミニ合意』はあり得るが、大統領選までの解決の見込みは薄い」と話す。

190917日経
ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は17日から2日間の日程で米連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。7月末の会合に続き、0.25%の利下げに踏み切る公算が大きい。製造業の景況感の下振れが最大の理由だが、貿易戦争など政治リスクは先行きが読みにくい。連続利下げには物価や資産価格の上昇を不安視する反対論も一部に残る。

先物市場では8割の確率で、17~18日のFOMCで0.25%の利下げに踏み切ると織り込んでいる。FRBは7月末の会合で10年半ぶりの利下げを決断したばかりだが、パウエル議長も6日の講演で「世界景気は減速が続きそうだ。我々は成長持続へ適切に行動するだろう」と主張し、連続利下げの可能性を示唆している。
米景気は拡大局面が11年目に突入するなど、底堅さを残している。金融緩和が求められるのは、トランプ米政権が仕掛けた中国との貿易戦争で製造業の景況感が弱含んでいるためだ。米サプライマネジメント協会(ISM)が分析する製造業景況感指数は、8月に急落して好不況の境目である50を3年ぶりに下回った。4~6月期は設備投資が3年ぶりに前期比マイナスに転落しており、7月末の利下げも企業心理の改善につながっていない。
堅調だった雇用も徐々に弱含んできた。2019年1~8月の就業者数の伸びは月平均15万8千人にとどまり、2018年の同22万3千人から大きく減速した。とりわけ製造業は19年の伸びが同6千人と、18年の同2万2千人から急ブレーキがかかっている。FRB高官からは「消費に弱さが表れるまで利下げを待つのは遅すぎる」(ダラス連銀のカプラン総裁)と追加緩和論が強まる。
FOMC内には「0.5%の利下げについても、しっかり議論すべきだ」(セントルイス連銀のブラード総裁)と、大幅な追加緩和案も浮上していた。ただ、企業心理を下押ししてきた貿易戦争は先週、米中両国が閣僚級協議を再開すると決め、株価もダウ工業株30種平均で最高値に迫る勢いをみせた。
停滞していた物価にも再びインフレ圧力がにじんできた。8月の消費者物価指数(CPI)は、食品とエネルギーを除いたコアベースで前年同月比2.4%上昇し、約1年ぶりの高い伸び率となった。先物市場は株高と物価上昇を受けて、0.5%の大幅な利下げに踏み切るとの観測は現時点ではゼロになった。

190920日経
ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)が18日、7月末に続き0.25%の利下げに踏み切った。パウエル議長は貿易戦争の影響を不安視して「景気が減速すれば追加利下げが適切だ」とさらなる金融緩和に含みを持たせた。ただ、FRB内には足元の雇用や消費は底堅く、物価も上昇基調にあるとして反対論も強まる。トランプ米大統領や市場からの緩和圧力は根強く、綱渡りの政策運営を迫られる。(関連記事と要旨を国際2面に)
「景気後退まで余力を残そうというのは間違いだ。経済が弱まれば積極的に動く準備がある」
パウエル議長は18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、追加緩和の可能性を示唆。短期金利の急騰を受けて保有資産拡大を検討する構えも見せた。
米景気は拡大局面が戦後最長を更新し、ダウ工業株30種平均も最高値をうかがう。それでも2会合連続で利下げしたのは、貿易戦争による景気減速リスクに「予防的に動く方が適切」(パウエル氏)と判断したためだ。
だが18日のFOMCでは投票メンバー10人のうち、3人が反対票を投じた。2人は「雇用の逼迫が物価を押し上げるだろう」(ボストン連銀のローゼングレン総裁)と、7月に続いて利下げに反対。逆にセントルイス連銀のブラード総裁は利下げ幅を0.5%に拡大すべきだと主張した。
米景気は分水嶺にある。失業率は3%台とおよそ半世紀ぶりの低水準で、個人消費も底堅い。消費者物価指数(食品・エネルギー除く)も2.4%上昇と1年ぶりの高い伸びを記録した。
一方、中国などとの貿易戦争は企業部門を強く下押しし、輸出は4~6月期に前期比年率5.8%も減少。設備投資も3年ぶりにマイナスに転落した。「堅調な内需」と「弱含む外需」の綱引きを、金融緩和でかろうじて支える構図だ。
だが一段の利下げには慎重論も強い。米企業債務の国内総生産(GDP)比は0.7倍を超え、2008年の金融危機時の水準に高まった。ローゼングレン氏は企業債務が過大になるリスクと、本格的な景気後退期に利下げ余地を失う懸念を挙げ「政策金利を据え置く時期だ」と主張する。
FOMCは先行きの金融政策シナリオを公表したが、19年末までの利下げ予測は会合参加者17人のうち7人どまり。5人は据え置き、5人は利上げを見込み、半数以上が追加利下げに反対だ。
利下げシナリオに迷いを残すFRBに対し、トランプ米大統領は「根性なしで先見性がない!」とツイッターで批判した。市場も株価を重視するトランプ氏の主張通りにFRBは動くと見なし、年末までに1~2回の追加利下げを見込む。FRBは追加緩和の可能性を否定すれば株価下落を招き、実体経済を悪化させるジレンマを抱え込む。
基軸通貨ドルを抱えるFRBの利下げは世界景気にも強く影響する。ドル安で資本流出リスクが少なくなる新興国の金融緩和を後押しし、景気を下支えする効果が見込めるためだ。ブラジルやインドネシアの中央銀行は早速利下げに動いた。
一方、各国の中銀が緩和に動くと予測する企業が社債発行を増やすなど債務膨張リスクも拡散しており、急激な方針転換は混乱をもたらしかねない。FRBの迷いは世界の金融市場にも不安定要因になる。

190925日経
ニューヨーク=宮本岳則】米中摩擦が株式投資や新規上場といった資本市場に広がってきた。対中強硬派の議員は米公的年金に中国株投資を見合わせるように要請した。米上場の中国企業には監督強化の流れが強まる。一方の中国は規制緩和で自国に海外マネーを呼び込む戦略に傾く。貿易と先端技術の争いが金融に及べば米中マネーの往来が滞り、経済を下押しする恐れがある。

対中強硬派の代表格、共和党のルビオ上院議員らはこのほど、連邦職員の年金運用を管理する連邦退職貯蓄投資理事会(FRTIB)に対し、中国株投資をやめるよう要請した。2020年から予定する株価指数に連動した新たな運用に、中国人民解放軍の取引先が含まれることを問題視した。ポンペオ国務長官など米政権幹部に書簡の写しを送って対応を促した。
年金側の受け止めは複雑だ。ある州政府年金は「議員への説明を求められることを想定して内部で議論はしたが、結論は出なかった」(運用担当者)と明かす。中国を投資対象から外せば、高い収益機会を逃すとの懸念もつきまとう。
米国上場の中国企業にも逆風が吹く。米議会の超党派グループは6月、米国上場の中国企業の監督強化を求める法案を提出した。中国企業の会計監査を担当する監査法人の調査などが難しく、中国企業の信頼性が十分に担保できないことを懸念する。
米証券取引委員会(SEC)などは昨年末、米上場の中国企業について投資家に注意を呼びかけた。
米国を目指す中国企業は減少傾向にある。米調査会社ディールロジックによると、19年1~6月期に米国市場に上場した中国企業は9社と前年同期から4社減った。中国でオンライン融資を手掛けるサモエード・ホールディングは8月、「好ましくない市場環境」を理由に米国での上場計画を取り下げた。
年金の中国外しや新規上場の規制を主張する対中強硬派は米中経済の「デカップリング(切り離し)」を狙う。関税などにとどまらず、圧力を金融にまで広げて中国企業の資金調達を制限したい考えだ。米国マネーの取り込みが制限されれば、中国企業に痛手になるとの思惑がある。
ただトランプ米政権が資本市場の分野で対中制裁に動くかは不透明だ。米金融機関は活発な新規上場などに収益を依存する。制裁強化は米金融の活力をそぎかねず、現時点で明確な方向性は打ち出していない。

190926日経
ニューヨーク=永沢毅】トランプ米大統領がウクライナに野党・民主党のバイデン前副大統領に関する調査を要求したとされる疑惑は、トランプ氏と民主の全面対決に発展した。民主執行部はこれまでの慎重姿勢を転換し、トランプ氏の弾劾に向けてカジを切った。対立の先鋭化は、2020年大統領選で最有力候補の一人であるバイデン氏に跳ね返るリスクもはらむ。(1面参照)
「大統領職の宣誓や国家安全保障、選挙の清廉さへの裏切りだ」。民主のペロシ下院議長は24日の声明でトランプ氏の行動をこう断じた。
16年の大統領選でトランプ氏がロシアと共謀した疑惑では、民主は弾劾を見送った。国家の分断を懸念して慎重な姿勢を維持してきた民主だが、今回大きく転換した。「現職の大統領」の不正疑惑を追及しなければ、国民の不信の目が自らに向かうとの判断があったからとみられる。
民主が問題視しているのは主に2点ある。1点目はトランプ氏が7月25日のゼレンスキー・ウクライナ大統領との電話協議で、同国への軍事支援を実施する条件として、バイデン氏の息子が役員をしていたウクライナのガス企業に関する調査をするよう繰り返し圧力をかけた疑惑だ。
米憲法は大統領が「反逆罪、収賄罪またはその他の重犯罪や軽罪」を犯せば弾劾訴追されると定める。トランプ氏が再選をめざす20年大統領選でバイデン氏は最も警戒する相手だ。同氏を追い落とすため外交を政治利用したと議会が認定すれば弾劾の要件にあてはまる可能性がある。米連邦法は選挙活動に「価値あるもの」を外国人に求めることを禁じており、民主はこうした法令に違反する疑いがあるとみる。
もう1つは、問題の表面化につながった内部告発の中身を政権側が議会に報告するのを阻んだ点だ。電話協議の内容を問題視した米情報当局者は、8月中旬に監察官に内部告発したとされる。
米連邦法では監察官が告発を「緊急の懸念」などと判断した場合、7日以内に議会に報告する義務があるとされる。しかし、国家情報長官代行は内部告発の報告を拒否し、ペロシ氏は「報告阻止は法令違反だ」と非難した。
強硬策を繰り出した民主に対し、トランプ氏は徹底抗戦の構えをみせる。「大統領への嫌がらせだ!」。24日にはツイッターでこう訴えた。
25日にはゼレンスキー氏との電話協議の内容を公表した。複数の米メディアによると、ホワイトハウスは内部告発の議会報告も認める方向で調整しているという。いずれも潔白を証明する狙いがあるとみられる。
民主にとって悩ましいのは、今回の疑惑にバイデン氏が関わっている点だ。バイデン氏はオバマ前政権の副大統領だった2016年にウクライナの検事総長の解任を要求したことがある。バイデン氏は解任に応じなければウクライナへの10億ドルの債務保証を保留すると圧力をかけたとされる。
検事総長はバイデン氏の息子ハンター氏が役員を務めていたガス企業の捜査を統括する立場にあった。ハンター氏はこの企業から月5万ドル(約550万円)の報酬を受け取っていたという。民主がウクライナ疑惑への追及を強めれば、バイデン氏にも矛先が向かうのは避けられない。
「問題があるのはバイデンとその息子だ」。トランプ氏はかねてウクライナ問題の調査を訴えていた。20年大統領選の民主候補の指名争いで首位のバイデン氏が失速すれば、2位のウォーレン、3位のサンダース両上院議員には追い風になる。
弾劾には世論の支持や共和の協力が欠かせない。だが共和はトランプ氏擁護の意見が多く、現時点で世論の支持も見通せない。疑惑捜査の進展しだいでは政局優先との批判を浴びる恐れもある。

190926日経
日米の新たな貿易協定は安倍総理とトランプ大統領が25日、ニューヨークで共同声明に署名し最終合意しました。

 農産品の関税はTPPの水準まで引き下げ、自動車の関税撤廃は事実上、先送りされるなど日本が大幅に譲歩した形です。

 「この協定は両国の消費者、生産者、そして勤労者、全ての国民に利益をもたらす。両国にとって、ウィンウィンの合意となりました」(安倍首相)

 「この協定は、アメリカの農家や牧場主にとって大きな勝利だ。そして、私にとってとても重要なことだ」(トランプ大統領)

 協定ではアメリカが求めていた農産品の関税について、牛肉はいまの38.5%から段階的に9%まで引き下げるほか、豚肉も価格の安い肉にかけている1キロあたり最大482円の関税を最終的に50円まで引き下げます。

 コメについてはいまの関税は維持し、アメリカから関税無しで輸入する枠も設定しませんでした。また、ワインについては最終的に関税をゼロにします。

 一方で、日本が求めていた自動車と自動車部品の関税撤廃については、付属文書に「更なる交渉による関税撤廃」と明記したものの、撤廃の時期は盛り込まれず事実上の先送りとなりました。

 また、アメリカが検討している日本車への追加関税については、共同声明に「協定の誠実な履行がなされている間、協定および共同声明の精神に反する行動は取らない」と明記し、茂木外務大臣は会見で「追加関税を課さないという趣旨であることを確認した」と強調しました。

 日本車への追加関税の回避はなんとか確保できたものの、協定全体を見ればアメリカに押し込まれた形で、日米双方が「ウィンウィン」と言うには厳しい内容となりました。(26日04:51)

190930日経
米中の貿易戦争が激しくなってきた。米国が次々に輸入関税を上げれば、中国も報復する。影響は欧州や日本にも及び、世界経済が停滞しはじめている。どうして、ここまで悪化したのか。歴史をふり返ると、深層が見えてくる。
「中国が米国の富を盗むのは許せない」。トランプ米大統領は、中国が不公正なやり方で貿易黒字をかせいでいると主張。制裁関税など厳しい輸入制限策を打ち出してきた。
自国第一主義をかかげる大統領は、保護貿易を進める。高い関税をかけ輸入をおさえ、国内産業を保護。自由貿易を制限し貿易赤字の改善もめざす。だが、相手が対抗すれば、貿易戦争になる。自由貿易を引っぱってきたはずの国が、なぜ保護主義に走るのか。
底流にあるのが、覇権をめぐる争いだ。世界経済、国際政治に圧倒的な影響力をもつのが覇権国。この力を長く米国がにぎってきたが、経済面での後退がめだちだしている。
『経済覇権のゆくえ 米中伯仲時代と日本の針路』(飯田敬輔著)が、転機は2008年の世界的な経済危機だったと指摘する。世界の政治、経済秩序がゆらぐ中、大国となった中国が貿易、金融など多くの分野で、米国に挑みはじめた。
挑戦に応じ、トランプ政権は貿易戦争を始めたらしい。米国際政治学者グレアム・アリソンは『米中戦争前夜』(藤原朝子訳)で、台頭する国と覇権国の争いは、実際の戦争に発展しかねないと警告する。
台頭国の要求と追われる国の不安が衝突を招く。過去500年の新旧対立を分析すると、「数十年以内に米中戦争が起きる可能性は非常に高い」ため、回避策をさぐれという。
保護貿易の根にあるのはいわゆる「重商主義」だ。貿易でかせいで、国の富を増やす。国内産業を育て、輸入を減らす。貿易を支配するためには、戦争も辞さない。国内をまとめる効果もあるが、外国との争いを招きがちだ。米国はそうした考えに回帰したようだ。
重商主義は、17世紀ごろから海外交易で覇権を競う欧州各国の支柱だった。18世紀以降、自由貿易が広がるにつれ、下火になるが、工業化や大不況など世界経済が大きく動くたびに、よみがえる。
『近代ヨーロッパの覇権』(福井憲彦著)が描く時代は現代に通じる。17~18世紀、英国がオランダ、フランスを戦争で破り覇権をにぎる。19世紀半ばには、高関税などの制限をやめ、重商主義から自由貿易に転換。各国も加わり、世界の貿易は順調に拡大する。
だが、1870年代半ばからの世界同時不況で、様子が変わる。新興工業国のドイツ、米国が保護主義に転換。関税の引き上げ合戦など、覇権争いが始まる。19世紀末までに、英以外の主要大国はすべて、保護関税の導入に踏みきった。
独仏、独ロが関税をめぐって対立する。とくに英独は互いに不信をつのらせ、険悪な状態となる。英歴史家のジェームズ・ジョルが『第一次世界大戦の起原』(池田清訳)で述べている。「英・独双方の側に、不公平競争や差別待遇に対する不満が尾を引いていた」
英国は、独製品が市場を不当に奪っていると不満を鳴らす。ドイツも英国が独製品を締め出し、「太陽の当たる場所」を与えないと怒る。非難の応酬は、世界大戦の前触れでもあった。
第1次大戦が終わり、覇権が米国に移っても、重商主義の流れは止まらない。世界全体に高関税の動きが広がり、協定国とだけ貿易するブロック化が進む。
1929年からの世界恐慌が拍車をかける。30年代には、米国が関税を59%まで上げる法律を作るなど保護主義が極限に達する。世界中が猛反発し、欧州では米製品の不買運動が始まる。貿易戦争がやがて第2次大戦につながっていく。
米歴史研究家のウィリアム・バーンスタインは、米国はこの経験から保護貿易が報復を招き、戦争の引き金になると学んだ、と指摘する(『交易の世界史』鬼澤忍訳)。その反省もあって、戦後、自由貿易体制を支えたという。
だが、90年代ごろから、米国の衰え、新興国の台頭で、保護主義が幅をきかせだす。自由貿易のかなめの世界貿易機関(WTO)も頼れなくなってきた。30年代のように、北米、アジア、欧州などで貿易のグループ化が進んでいる。
どうすれば、流れを変えられるか。覇権争いにやっきになっている超大国だけではない。自由貿易の申し子である日本も、何ができるのか、問われている。
【さらにオススメの3冊】
(1)『グローバル経済を学ぶ』(野口旭)…なぜ完全な自由貿易は、すぐに実現しないか。
(2)『デフレ不況をいかに克服するか ケインズ1930年代評論集』(松川周二編訳)…自由か保護か、大学者も揺れた。
(3)『大不況下の世界 1929-1939』(キンドルバーガー、石崎昭彦、木村一朗訳)…覇権不在が保護主義を広げる。
コラム「読む!ヒント」は随時掲載します。

191003日経
ワシントン=河浪武史、ニューヨーク=中山修志】米製造業の景況感が一段と後退している。9月の景況感指数は10年ぶりの低水準に悪化し、2カ月連続で好不況の境目となる「50」を下回った。中国との貿易戦争で輸出向けの受注が下振れし、生産活動に陰りが出ている。製造業の雇用の拡大ペースも鈍ってきた。世界で「一人勝ち」だった米経済。この先は個人消費の耐久力が一つの焦点となる。

全米自動車労組は長期ストに突入し、1日1万台の生産が止まっている (テネシー州のGM工場)=ロイター

米サプライマネジメント協会(ISM)が1日発表した9月の米製造業景況感指数は47.8となり、金融危機の直後だった2009年6月以来、10年3カ月ぶりの低い水準に落ち込んだ。市場予測は50.1だったが、前月から1.3ポイント下落した。好不況の境目である50を2カ月連続で下回り、製造業の景況感に限っていえば「不況」を示唆する水準が続いた。
ISM製造業指数は米景気の先行指標として知られ、米連邦準備理事会(FRB)も政策判断で重視する。項目別で落ち込みが目立つのは、外需の先行きを占う「新規輸出受注」だ。指数は前月より2.3ポイント低下して41.0となった。6月時点では50.5と「好況」の水準をギリギリで保っていたが、3カ月で10ポイント近く下落した。


輸出の低迷は貿易戦争の影響が大きい。関税合戦が中国や欧州の景気減速を引き起こし、米国の輸出は4月以降、4カ月連続で前年実績を割り込んでいる。建機大手キャタピラーは4~6月期にアジア市場での建機の売上高が前年同期から2割減少した。中国メーカーとの低価格競争にも見舞われ、6四半期ぶりの最終減益となった。
米中両国は10月10日に2カ月半ぶりに閣僚級協議を開き、貿易戦争の打開策を探る。現時点でトランプ米政権は15日に2500億ドル(約27兆円)分の中国製品への追加関税をさらに5%上乗せして30%に引き上げる予定だ。貿易戦争が終結するメドは立っていない。
ルイジアナ州の鉄鋼メーカー、バイユースチールは9月末に連邦破産法11条の適用を申請した。製鉄所を閉鎖して400人を解雇する。地元紙によると、鉄鋼需要の冷え込みに加え、トランプ政権の鉄鋼関税で鉄スクラップの輸入相場が上昇し、採算が悪化していた。
化学大手のケマーズは中国の報復関税の影響で化学原料の輸出が減少している。9月にウェストバージニア州の工場で25%に当たる60人を一時解雇した。
米製造業は国内総生産(GDP)全体の1割を占めるにすぎず、非製造業は底堅さを保つ。失業率は3.7%と半世紀ぶりの低い水準で、8月の小売売上高は前年同月比4%増えるなど、個人消費も全体でみれば底堅く推移している。
その頼みの内需にも陰りがみえる。17年末に成立したトランプ政権の大型減税は効果が早くも一巡しつつあり、米新車販売は前年割れが避けられない見通しだ。
大規模ストライキが自動車産業に追い打ちをかける。全米自動車労組(UAW)はゼネラル・モーターズ(GM)が閉鎖した工場の再開と賃上げを求め、長期ストに突入した。米自動車生産の2割に当たる1日1万台の生産が止まり、数万社の部品メーカーが生産調整を余儀なくされている。
ミシガン州をはじめ、自動車や鉄鋼など製造業が集積する米中西部は大統領選の激戦州だ。製造業の景況悪化が20年の選挙に及ぼす影響は無視できない。トランプ大統領は1日、景況感指数の発表後、すぐさま「FRBのドル高容認は米製造業に悪影響だ。政策金利は高すぎる。ひどいものだ!」などとツイッターで表明して金融緩和の圧力を強めてみせた。
FRBは7月末、9月中旬と2会合連続で利下げを決断したばかりだ。製造業の景況悪化が止まらないのは貿易戦争の逆風が強まっているためだが、トランプ氏は矛先をFRBに向ける。市場でも1日、10月末の次回会合で利下げを織り込む割合が4割から6割に急伸した。FRBに対する政権と市場の包囲網が再び狭まってきた。
FRB内には年内の追加利下げに慎重論が残る。焦点は製造業の景況悪化が雇用情勢にどう響くかだ。実際、19年に入って製造業の就業者数の増加幅は月平均6千人にとどまり、18年の同2万2千人から急速に鈍っている。
雇用不安が台頭すれば、堅調な個人消費を腰折れさせかねない。FRB内の早期利下げ論が再び強まる可能性もある。

191003日経
世界貿易機関(WTO)は2日、米欧の大手航空機メーカーへの補助金を巡る通商紛争で、米国による年間最大74億9600万ドル(約8千億円)分の欧州連合(EU)からの物品やサービスに対する報復関税を認める仲裁決定を出した。EUから米への報復関税についても仲裁手続きに入っており、約15年に及ぶ航空機紛争は巨額の報復合戦に発展する可能性がある。米中貿易摩擦に続く、世界経済の新たな不安要因になりかねない。

 通商関係者によると、WTOによる仲裁としては過去最高額。米側が要求した報復関税対象は年間100億ドル以上だったが、今回の仲裁決定で減額された。

191008日経
ワシントン=河浪武史、広州=川上尚志】トランプ米政権は7日、監視カメラ世界首位の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など中国の28団体・企業に輸出禁止措置を課すと発表した。米国は中国が新疆ウイグル自治区で少数民族を弾圧していると批判し、貿易交渉の再開を目前に人権問題でも圧力をかけた。技術力を急速に高めている中国の新興ハイテク企業をけん制する思惑も見え隠れする。


米商務省が9日付で輸出規制の対象である「エンティティー・リスト(EL)」に加えるのは監視カメラ2位の浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、画像認識技術の商湯科技(センスタイム)、曠視科技(メグビー)など計8企業と、ウイグル自治区政府の公安部門など20機関だ。
中国には監視カメラが2億台以上あるとされ、当局は顔認識技術を連動させて特定人物を捜せるシステムを複数運用している。ハイクビジョンやダーファが監視カメラを製造し、センスタイムやメグビーは人工知能(AI)で精度を高めた顔認識技術を提供している。すでに人間の目よりも高い精度で人の顔を判別することが可能だ。

ハイクビジョンは監視カメラで世界首位を誇る=ロイター

米政府は「中国共産党は100万人以上のウイグル族を含むイスラム教徒を強制収容施設に投獄している」(ペンス副大統領)など、少数民族の人権侵害に技術が使われていると非難する。
ELに追加された企業は米企業との取引が原則禁じられ、米国由来のソフトウエアや半導体などの調達が制限される。ただ、ELに掲載済みの中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に比べ、影響は限定的との見方も少なくない。
ハイクビジョンはファーウェイの傘下企業が自前開発する半導体を使っているとされ、すぐに調達できなくなる可能性は小さい。中国メディアによるとハイクビジョン幹部は8日、SNS(交流サイト)に「各方面で対応策を実施し、製品やサービスの提供を続けられる」と投稿した。
メグビーは8日、禁輸措置について「事業への影響は最小限」との声明を発表した。センスタイムも「取引先などの利益を最大限守る自信がある」と大きな打撃にならないとの見方を示した。
日本企業に余波が及ぶ可能性もある。ホンダは自動運転技術の開発でセンスタイムと提携している。今回の禁輸措置で直接影響を受けなくても、将来の米国市場への製品展開などに支障が出る懸念も否定できない。
米当局がこのタイミングで事実上の禁輸措置に踏み込んだのは、10日からワシントンで再開する閣僚級貿易協議を前に、習近平(シー・ジンピン)指導部に圧力をかける狙いがあるからだ。
協議に臨む中国の劉鶴(リュウ・ハァ)副首相は「中国は補助金など構造改革を巡る提案はしない」と、米政権が求める産業政策の抜本見直しに否定的な発言をしたと報じられた。一方、自身の弾劾調査などで苦境に立つトランプ米大統領は中国との貿易戦争の打開を強く求めている。
今回の禁輸措置には「くせ球」も仕込まれた。メグビーにはバイデン前副大統領の次男、ハンター氏の関連投資会社が出資する。20年大統領選での再選を最優先するトランプ氏は民主党予備選でトップを走るバイデン氏を警戒し、「中国はバイデン氏の問題を調査すべきだ」と公に求めていた。制裁発動がバイデン親子と中国の関係に飛び火する可能性もある。
ただ、米国が経済制裁の新たなカードとして切った「人権」問題は中国が決して交渉で妥協できないテーマだ。中国外務省の耿爽副報道局長は8日の記者会見で「米国は中国の内政に干渉し、利益を損ねようとしている」と反発した。米中の対立が貿易から人権にまで拡散すれば、関税合戦の出口もさらに見えにくくなるリスクがある。

191028日経

エルサレム=飛田雅則】トランプ米大統領が27日、過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者、バグダディ容疑者が米軍の軍事作戦で死亡したと明らかにした。米国の「対テロ戦争」の転機となる。トランプ氏は自身の成果として、公約であるシリアからの米軍撤収を一段と進める可能性もある。ただ、シリアではIS以外にも複数の武装組織が活動しており、シリアの安定はなお見通せない。(1面参照)


27日の記者会見で、トランプ氏はシリア北西部のイドリブで実行した作戦について「特殊部隊が犬で洞窟の奥まで追い詰め、(バグダディ容疑者は)犬のようにおびえ、最後は自爆した」と述べた。現地でDNAを採取し、本人と確認したという。同容疑者の3人の子供も死亡した。


米大統領が自ら軍事作戦について、ここまで詳細で刺激的な表現で語るのは極めて異例だ。
トランプ氏は2020年の大統領選で再選を目指すが、ウクライナを巡る疑惑で弾劾調査が始まり、外交面では北朝鮮との非核化交渉は膠着状況に陥っている。シリアからの米軍撤収はトランプ氏の主要な公約の一つだが、撤収を進め、シリアの混乱を深めたとの批判も米内外で出ている。バグダディ容疑者排除を自身の功績として最大限にアピールする狙いがある。
死亡したバグダディ容疑者は14年、シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配し「国家樹立」を宣言した。面積は15年時点で日本の国土より一回り小さい約30万平方キロメートルに広がった。シリア北部ラッカを「首都」と定め、イスラム法に基づく統治を始めた。
サウジアラビア王室をはじめとする現在のアラブ諸国の権威主義体制を「本来のイスラムから離れた堕落だ」と批判したISの主張はインターネットを通じ世界に発信された。経済格差に不満を持ち、疎外感を抱えるアラブ諸国や欧州などの若者らが3万人以上、戦闘員としてシリアやイラクに渡った。

バグダディ容疑者とされる人物の映像=AP

その後は米軍が支援するクルド人主体のシリア民主軍(SDF)などの攻撃を受け、勢力圏は徐々に狭まっていた。17年10月にラッカを放棄しており、指導者を失ったことでISにとっては壊滅的な打撃となる。
しかし、ISの掃討だけでシリアが安定するわけではない。IS以外にも複数の軍事組織が活動しており、その時々の利害関係に応じ、合従連衡を繰り返している。中東では経済格差や権威主義的な政治体制への不満など、過激派の思想が浸透しやすい素地がある。武力だけでこうした過激派組織を根絶するのは難しく、ISに代わり、ほかの過激派組織が台頭する懸念もある。
トランプ氏は今回の軍事作戦でロシアやトルコ、クルド人勢力などの協力があったと明らかにした。シリアは米国や欧州、ロシアなど各国の思惑が絡み合い、利害は一致しているわけではない。過激派の台頭を防ぐため、和平に向けた協力体制を構築する必要がある。

191101日経

米連邦準備理事会(FRB)が7月と9月に続く3会合連続の利下げに踏み切った。パウエル議長はこれで利下げを休止し、ひとまず様子見の姿勢に転じる考えをにじませている。
米トランプ政権は景気の下支えをFRBに頼り切ってきた。いたずらに金融緩和の圧力をかけるのではなく、最大の懸念材料である米国と中国の貿易戦争を一刻も早く終わらせるべきだ。
7~9月期の米実質成長率は前期比年率で1.9%となり、4~6月期の2.0%に並ぶ水準を維持した。個人消費や雇用はなお堅調で、戦後最長の景気拡大局面が途切れたわけではない。
しかし、長引く貿易戦争が設備投資や輸出の足を引っ張り、下振れのリスクを排除できないのは確かだろう。景気悪化の芽を未然に摘むため、FRBが追加利下げに動いたのもやむを得まい。
問題はこれからだ。FRBは貿易戦争の痛みを和らげることはできても、根治することはできない。米国と中国がお互いの輸入品に課した高関税を放置したまま、利下げだけで米経済を底上げするのはおのずと限界がある。
トランプ政権の圧力に屈してむやみに利下げに動けば、FRBの信用に傷がつくだけでなく、バブルを膨らませる結果にもなりかねない。ここはいったん立ち止まり、米経済の動向を慎重に見極めた方がいいのではないか。
急ぎたいのは、貿易戦争の打開である。米中両国は貿易交渉の部分的な合意に達し、11月中旬までに詳細を詰める見通しだ。これを包括的な合意につなげ、双方の高関税を確実に撤回してほしい。
国際通貨基金(IMF)は世界の2019年の実質成長率見通しを3.0%に下方修正するとともに、9割の国・地域で景気が減速しているとの判断を示した。その主因も米中の貿易戦争である。
米中の高関税政策に翻弄され、金融緩和を迫られている中央銀行はFRBだけではない。貿易戦争の終結は世界にとっても急務だ。

191101日経

米連邦準備理事会(FRB)は30日、3会合連続の利下げに踏み切った。市場が注目したのはむしろ、当面は利下げを休止すると示唆したFRBの方針だ。個人消費の底堅さなどを理由に「予防的な緩和」を打ち止めにしたい意向だが、FRBにも確信はない。景気減速を織り込んで長短金利差の縮小が続いており、市場では追加利下げの圧力が再燃するリスクがくすぶる。(会見要旨国際1面に)
「金融政策は時間差で効くので、効果はゆっくりと雇用や物価上昇にあらわれるだろう」
パウエル議長は30日の記者会見で、7~9月期の住宅投資が7四半期ぶりにプラス圏に戻ったことを挙げて、3回の利下げの効果を強調した。これまでの金融緩和を支えに物価上昇率がいずれ目標の2%に達するとの楽観的な見通しを示した。
「予防利下げ」の根拠になってきた米中貿易戦争は部分合意への機運が高まる。英国の欧州連合(EU)離脱も来年1月まで延期され、「合意なき離脱の可能性が小さくなった」(パウエル氏)。
30日公表の声明文では、これまで利下げを示唆するために使っていた「経済成長を持続するために適切に行動するだろう」との文言を削除した。FRBは利下げ打ち止めの環境が整ったと判断した。
30日のダウ工業株30種平均は上昇し、7月に付けた史上最高値に迫った。利下げは織り込み済みで、投資家は「現時点で利上げは考えていない」と引き締めへの転換を否定するパウエル発言を買いのサインと受け止めた。


「家計債務は健全な状態だが、企業債務は歴史的な高水準に積み上がっている。引き続き金融システムを注視していく」
利下げ休止に傾くのは、金融市場のゆがみの蓄積を懸念するためでもある。長引く低金利環境で、米企業の債務残高は15兆ドル超と過去最高に膨らんだ。30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2人の地区連銀総裁が3会合連続で反対票を投じたが、理由の一つは「企業や家計の過大債務を助長する」(ボストン連銀のローゼングレン総裁)ことだった。
市場でもリスク資産が危うい活況を呈す。米低格付け社債に緩和マネーが流れ込み、利回りは5.5%と過去最低の水準に低下(価格は上昇)した。新興国の国債や株式にも再び資金が流れ込む。
国際通貨基金(IMF)のトビアス・エイドリアン氏は「金融緩和で投資家はより多くのリスクを負うようになり、金融システムがもろくなっている」と警鐘を鳴らす。緩和マネーを世界に配してきたFRBは、利下げ休止を打ち出すことで企業債務を膨張させないためのかじ取りに動く。
「経済見通しには不確実性が残る。再点検が必要な出来事が起きれば対応する」
利下げ休止を示唆したFRBだが、市場は額面通りに受け止めていない。30日の債券市場では米10年物国債利回りが前日比0.07%低い1.77%とこの日の最低水準で終えた。
1.6%程度の3カ月物国債の金利と比べて、10年物国債の利回りはほとんど差がない。3月や8月には10年債利回りの方が低くなる「逆イールド」が発生し、景気後退に陥る予兆として警戒感が広がった。
足元では逆イールドは解消されているが、上昇の鈍い長期金利は景気減速への懸念が根強いことを示す。
トランプ米大統領は執拗に金融緩和を求め、FRBも「政治からの独立」を標榜しつつも結果的に利下げへと動いてきた。今後も景気の下振れ懸念が浮上するなら、トランプ氏の圧力と相まってFRBの利下げ観測が再び台頭する可能性がある。

191121日経

上院が18日、香港人権・民主主義法案を全会一致で可決したことで、トランプ大統領が法案成立に必要な署名に応じるかが次の焦点となる。貿易交渉を優先するトランプ氏は人権問題で中国への非難を手控えてきたが、香港情勢の深刻化でそうした手法は限界を迎えている。米中攻防に「人権カード」が加わり、両国の対立関係はさらに複雑になりつつある。

法案は中国政府が香港の一国二制度を守っているかを米政府が毎年検証し、違反があれば制裁措置を科す内容だ。下院は10月、似たような法案を全会一致で可決している。上下両院は互いの法案をすり合わせ、一本化してホワイトハウスに提出、署名を迫る運びだ。トランプ氏は署名して成立させるか、拒否して葬り去るか、決断しなければならない。
ふつうに考えれば、全議員が賛成した法案を、大統領が葬るのは政治的に難しい。だが、ワシントンでは、トランプ氏がすんなりと署名に応じるかどうかわからない、との観測が流れている。
トランプ氏は2020年秋の大統領選をにらみ、中国と年内にも第1弾の貿易合意を交わし、米農産物の爆買いを中国に認めさせたいと考えている。このため、香港問題やウイグル族弾圧といった中国の人権侵害について、あからさまに批判するのを避けてきた。
大統領の意向を受けてか、米高官の発言も歯切れが悪い。ポンペオ国務長官は今週、香港情勢に「深刻な懸念」を表明したものの、当局とデモ隊の双方に自制を求めるトーンにとどめた。
「米政府内で、最大の中国の『擁護者』はトランプ大統領だ。彼は中国のことが好きなわけではないが、中国との通商ディールを最優先している」。内情を知るトランプ政権の前当局者は、こう明かす。トランプ氏は側近が中国を批判することは止めていないが、貿易交渉を壊しかねないほど激しい言動は控えるよう促しているという。
さらに米CNNによると、トランプ氏は6月、習近平(シー・ジンピン)国家主席との電話で、米中貿易交渉が進展しているかぎり、香港問題には黙り続ける、と約束したとされる。
だが警察とデモ隊の衝突が激化する香港情勢は、そうした態度を許さなくなりつつある。米上下両院が香港人権・民主主義法案を可決したのは、人権軽視とも言えるトランプ氏の姿勢をただす狙いもある。共和党の上院トップ、マコネル院内総務は18日、「米大統領には香港について明確に語ってほしい。米国は勇気ある市民とともにある、と」と語った。
一方、中国は国家主権にかかわる問題では一歩も譲らない構えだ。中国外務省の報道官は「中国への内政干渉であり、強い非難と断固たる反対を表明する」との談話を発表し、大統領が署名すれば報復措置も辞さない考えを強調した。
米中の攻防は互いの農産物や工業製品を狙い撃ちにした追加関税合戦から中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)製品の排除などハイテク覇権へと戦線を広げてきた。米中の価値観が根本的に食い違う人権問題にまで拡大すれば、両国の対立関係は一段と先行きが見通せなくなる。

191129日経

ワシントン=河浪武史、香港=木原雄士】トランプ米大統領は27日、香港での人権尊重や民主主義確立を支援する「香港人権・民主主義法」に署名し、同法が成立した。中国は「内政干渉」と反発し、報復措置をとる構えを見せる。米中の対立は貿易やハイテク分野から人権問題に拡大して複雑さを増している。部分合意へ大詰めを迎えていた貿易交渉にも暗雲が垂れこめてきた。

(関連記事総合2、国際1面に)
同法は香港に高度の自治を保障した「一国二制度」(総合2面きょうのことば)が機能しているかの検証を米政府に義務付けるのが柱。香港の言論・集会の自由や司法の独立の状況を踏まえ、優遇の是非を議会に毎年報告させる。米国は一国二制度を前提に、1997年に香港が中国に返還された後も中国本土と異なる地域として、関税やビザ発給を優遇してきた。香港の自治が後退していると判断すれば、関係者に制裁を科したり、特別扱いをやめたりできる。
資産凍結可能に

効果があるとみられているのが、香港の自由や自治を侵した中国・香港政府の責任者を特定し、米国内の資産凍結や米国への入国禁止など制裁を科す条項だ。米国に資産や家族を持つ中国・香港政府高官は少なくないためだ。
香港区議会議員選挙では2014年の「雨傘運動」を率いた民主活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏が審査担当者の名簿を米国に送付。立候補を禁止した担当者は制裁対象になるとの観測から、黄氏以外の民主派候補の出馬が認められた経緯がある。同法の成立は香港のデモ参加者を後押しするのは確実で、抗議活動がさらに激しくなる可能性がある。
一方、輸出管理やビザの特別扱いをやめると、香港に拠点を置く米企業などのビジネスにも影響が及び、国際金融センターとしての香港の地位も揺らぎかねない。「制裁発動などのハードルは極めて高く、香港支援のシンボルの意味合いが強い」(米ホワイトハウス関係者)との声もある。
中国政府は猛反発している。中国外務省の耿爽副報道局長は28日の記者会見で「米中関係や両国の重要分野に影響しないよう、同法を実施しないよう強く求める」と述べ、貿易交渉にも響きかねないと示唆した。
米中貿易交渉は「最後の苦しみの段階」(トランプ氏)にある。関係者によると、米国は中国に農産物や液化天然ガス(LNG)の輸入に数値目標の設定を要求しているのに対し、中国は米国が課す制裁関税の大幅撤回を求め、厳しい条件闘争が続いているという。
習氏の訪米案

米政府は12月15日、スマートフォンなど1600億ドル(約17兆円)相当の中国製品に15%の追加関税を課す制裁関税「第4弾」を発動する予定だ。国内景気の減速が続く中国は貿易戦争をひとまず止めたいのが本音だが、国家主権に関わる問題での譲歩は難しい。
チリで中止となったアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を20年1月に米国で開催し、習近平(シー・ジンピン)国家主席が訪米する案も浮上する。貿易交渉は合意と決裂を両にらみするぎりぎりの局面にさしかかる。

191129日経

28日の東京市場では日経平均株価が5日ぶりに反落した。米国での「香港人権・民主主義法」の成立が、米中の貿易交渉の後退につながらないか警戒感が広がった。世界の株価は10月の貿易協議再開をきっかけに上昇してきた。交渉がもつれれば、反動安に見舞われかねないとの懸念がある。
早朝の大阪取引所では日経平均先物が2万3590円まで上昇し、市場関係者は日経平均の年初来高値更新を予想していたが、トランプ米大統領の署名で楽観ムードが一変した。終値は前日比28円安の2万3409円。中国株や香港株、台湾株などアジアの主要株はそろって下げた。
貿易交渉について楽観と不安が交錯している。大統領選を控える米国と自国経済に懸念を抱える中国の双方が合意にこぎ着けたいとの見方から、投資家はまだ本格的な売りには傾いていない。
一方、米国が予定する携帯電話などへの対中関税の拡大は12月15日に迫る。「仮に中国が強硬な報復措置をとってくれば、米中交渉がさらに難しくなり、合意がずれ込む可能性がある」(ピクテ投信投資顧問の松元浩常務執行役員)と神経質にならざるを得なくなっている。

191202日経

米中の貿易戦争が続き、世界貿易機関(WTO)も機能不全に陥っている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐々木伸彦理事長に貿易戦争の行方と世界への影響について聞いた。

――世界貿易の現状をどうみますか。
「WTOの2019年の貿易量見通しは前年比1.2%増と4月時点の2.6%増から大幅に下方修正になった。ジェトロが実施したアジアに展開する日系企業約6000社への調査でも米中貿易戦争などによる不確実性から投資や事業拡大意欲が冷えこんでいる」
――先行きは。
「米中の関税問題はどこかで何らかの決着がつくが、より深層の部分、技術などをめぐる覇権争いは残る。企業の先行きへの不安はしばらく続くだろう」
二者択一できず

――ハイテク分野で米中のデカップリング(分断)は起きますか。
「中国がここまで大きく技術的にもレベルが上がった以上、世界貿易の形は変わらざるを得ない。ただ、米ソ二極時代とは違い、グローバル化とデジタル技術の進歩で米中の相互依存が高まっており、完全な分断はできるだろうか。安全保障に限った部分的な分離になるのではないか」
――日本の立場は。
「非常に難しい。安全保障は米国と同盟を結んでいるので、外為法などで技術が核兵器に転用されたりしないよう規制・管理する必要がある。それ以外のところでは、日本企業は中国を大きな市場としてとらえ、つながりを深めなければいけない。米中の二者択一ということはできない」
――日米貿易協定をどうみますか。
「自動車・自動車部品にいつ追加関税をかけられるかわからないという不安は解消された。米国の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱後は米国とは自由貿易協定がない状態だった。少なくとも産業界に安心感を与える協定になった」
WTO再構築課題

――10日にWTOの上級委員2人の任期が切れ、機能不全に陥ります。
「ゆゆしき問題だ。ドーハ・ラウンドの迷走以来、WTOはルールを決める立法機能は低下したが司法機能はしっかりしているといわれてきた。その機能すら損なわれつつある。米中も納得する形でWTOを再構築できるのか。日本も積極的な役割を果たすべきだ」
――TPP11の発効からもうすぐ1年です。
「日本はカナダ、ニュージーランドと初めてFTAを結んだことになり、多くの企業が活用している。日本の自動車部品メーカーも、ベトナム、メキシコと生産拠点と三国間で部品の融通を関税ゼロでできるようになった。一番の意義は米離脱後に日本が中心になって交渉をまとめたことだ。従来は受け身だった日本が指導力を発揮した」
――東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉はインドの反発で難航しています。
「インド抜きのRCEPは意味が半減する。サプライチェーンはアジア全域に広がっており、インドを分断すべきではない。粘り強く説得すべきだ。日本にとっては中韓と初めてFTAの関係を結ぶことになるRCEPの意義は大きい」

191206日経

ニューヨーク=大島有美子】米国で家計向けの住宅ローンが大きく伸びている。ローン残高は過去最高に達し、金利低下を追い風に住宅購入意欲が高まり、景気拡大の一因となっている。残高は2008年のリーマン・ショック時を超え、借り手の健全性も当時を大きく上回る。ただ短期的には金利が下げ止まり、勢いが失速する懸念はある。学費や自動車を加えた家計全体の債務も増加傾向で、中期的には景気の足かせとなるリスクも残る。


米ニューヨーク連銀の家計債務統計によると、19年7~9月期の住宅ローン残高は前年同期比3%増の9兆4400億ドル(1000兆円強)だった。住宅バブルの破綻を契機にリーマン・ショックが起きた08年7~9月期の9兆2900億ドルを上回り、過去最高を更新している。
米景気の緩やかな拡大に加えて低金利が、長く住宅購入をためらってきたミレニアルと呼ばれる世代を中心に住宅の購入意欲を支えている。
「低金利のおかげで、買い手が市場に戻ってきた」。インターネット不動産仲介大手のレッドフィンのダリル・フェアウェザー氏は意気軒高だ。同社が追跡調査する全米87の都市のうち、6割にあたる50都市で7~9月期の住宅販売が前年同期より増加した。

住宅販売は堅調に推移している(7月、米カリフォルニア州)=ロイター

連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)によると足元の30年固定金利は3.6%台。9月には一時約3年ぶりに3.4%台まで下がり、住宅ローンの新規申請や借り換えに拍車がかかった。米抵当銀行協会(MBA)によると、新規購入向けのローン申請件数はここ2カ月、前年同月比10%前後のペースで伸びてきた。
住宅市場の回復は景気の下支え要因にもなる。7~9月期の米国内総生産(GDP)で住宅投資は実質の前期比年率で5.1%増と7四半期ぶりにプラスに転じた。
10月の新築一戸建て住宅販売件数は前月比0.7%減ったが、前年同月比でみると3割強の伸び率を示した。件数は9月には07年7月以来、約12年ぶりの高い水準を記録しており、市場には「新築販売は強い」(モルガン・スタンレー)との見方が多い。
米住宅市場の大半を占める中古住宅も、10月の販売件数は前年同月比4.6%増えた。家具などの売り上げ増を通じ、個人消費の押し上げ要因にもなる。
家計の住宅債務がリーマン前を超えたが、懸念する声は小さい。当時と比べて借り手の「質」が改善しているためだ。
ローン組成額を借り手の信用力を示す「信用スコア」別にみると、信用力の低い「サブプライム」と呼ぶ層が占める割合は19年7~9月期で8%と、リーマン前の07年前半(26%)の3分の1にとどまる。信用力の高い層は77%とリーマン前の52%を大きく上回る。
先行きには不安ものぞく。目先は、金利低下の一巡で景気の下支え効果が息切れする懸念だ。米連邦準備理事会(FRB)は10月の利下げを決めたが、当面は政策金利を維持する姿勢を示した。「住宅ローン金利はすでに底を打ちつつあり、金利低下の効果は一巡した」(SMBC日興証券)との指摘もある。
長い目でみれば、高水準の債務が家計の経済活動を抑圧するリスクも残る。住宅関連以外も含めた総債務は17年の段階でリーマン前のピークを超えて増加が続いている。
大学などの学費高騰を受けて学生ローンは残高増が続き、7~9月期は史上初めて1兆5000億ドルに達した。自動車ローンもリーマン前よりも6割多い水準になり、延滞も高水準となっている。新車販売では、低所得者層を中心に借金増が消費活動を冷え込ませる兆しがすでに出ている。
今後、金利が一段と低下し、住宅ローンを押し上げ続けるケースにも注意が必要だ。金融機関の融資競争のなか、信用力の低いローンがじわじわと膨らむ懸念がある。
今はリスク管理や販売の規制が強化されており、高格付けをうたった貸し倒れリスクの高い商品は出回りにくい。それでも、かつての住宅バブルの元凶とされたサブプライムローンに似たものを含む「非適格ローン」は残高はまだ非常に低水準ながらも勢いよく伸び始めた。「低金利に苦しむ投資家が関連の証券化商品を積極的に購入している」(投資銀行ストラテジスト)ためだ。

191213日経

ワシントン=鳳山太成】トランプ米大統領は12日、中国との貿易交渉を巡り「中国との大きな合意が非常に近づいている」とツイッターで述べた。中国からの輸入品ほぼすべてに対象を広げる制裁関税「第4弾」の発動予定日が迫るなか、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)は同日、トランプ政権が発動を見送ることなどを中国に提案したと報じた。
トランプ氏は「中国が(合意を)求めており、我々も同じだ!」と述べた。トランプ政権は農産品や為替など議題を絞った「第1段階」の合意を探るため、中国と協議を重ねている。合意が見込めない場合、15日にスマートフォンなど1600億ドル(約17兆円)分の中国製品に15%の関税を上乗せする予定だ。
WSJによるとトランプ政権は15日の第4弾発動中止とともに、計3600億ドル(約39兆円)分の発動済み追加関税のうち最大50%を削減することを中国に提案した。中国が米農産品の輸入拡大を確約するのが条件で、約束が守られなければ再び関税をかけるという。
12日午前の米株式市場では米中協議の進展期待からダウ工業株30種平均の上げ幅が一時、前日比300ドルを超えた。

190114日経

中東で緊迫化した米国とイランの対立を巡り、双方で大きな軍事紛争につながりかねない「暴走リスク」が顕在化している。米国ではトランプ大統領が正当化できる根拠もなくイラン司令官の殺害に踏み切った疑いが浮上。イランでも革命防衛隊が他の政府機関との十分な連携がないまま民間機を誤って撃墜したことも明らかになった。双方で浮き彫りになった統治機能の不全は、世界経済にとって大きなリスクになる。
【ワシントン=中村亮】米軍によるイラン司令官殺害の根拠が揺らいでいる。エスパー米国防長官は12日、トランプ大統領が殺害を正当化する根拠にあげたソレイマニ司令官による4つの米大使館攻撃計画の存在について「決定的な情報はみていない」と否定した。トランプ政権は殺害を自衛措置と位置づけるが、イランの脅威を示す明確な証拠を明示せず、与党・共和党内にも政権の判断を批判する声があがる。
ポンペオ国務長官も9日、司令官による攻撃計画に関して「正確な時期や場所は分からない」と明らかにしていた。トランプ政権は当初から殺害の理由を「差し迫った脅威がある」と説明してきた。だが高官の説明は殺害の正当性に疑念を生じさせている。

野党・民主党は政権の判断を厳しく追及する。ペロシ下院議長は殺害に関し「イランとの対立に拍車をかけて米兵や外交官を危険にさらした」と非難。イランに対するトランプ氏の軍事行動を制限する決議案を下院本会議で可決させた。与党・共和党のマイク・リー上院議員も政権による殺害の経緯の説明に関し「私の経験した軍事分野の説明では最悪のものだ」と痛烈に批判した。
説得力に乏しい司令官殺害の根拠はイラク駐留米軍の行方にも影響する。米軍駐留の根拠の一つとなる米国とイラクが結んだ「戦略的枠組み合意」はイラクの領土・領空・領海を他国攻撃のために利用することを禁じている。米軍はイランのソレイマニ氏をイラクで殺害した。自衛措置との米国の主張が揺らげばイラク国内で合意違反との批判が強まるのは確実だ。

200117日経

【北京=原田逸策、ワシントン=鳳山太成】米中両政府が15日署名した第1段階の合意文書は、米国による中国への要求項目がずらりと並んだ。トランプ政権は「真の構造改革だ」と成果を誇示するが、技術移転の強要禁止など実効性に課題を残した項目もある。中国の習近平(シー・ジンピン)政権は、金融サービスの開放や輸入拡大をのむことで米国の攻勢をかわす戦略が透ける。(1面参照)

今回の合意文書は知的財産保護に18ページも割き、米中双方が重視していることを映した。内容も営業秘密、特許、地理的表示、商標など多岐にわたる。中国は合意発効から30日以内に、知財保護の強化に向けた行動計画をまとめることも約束した。
具体的には、模造品や偽造品の取り締まりを強める。知財侵害を刑事犯罪ととらえて、より厳しく罰する。医薬品の知財保護、電子商取引(EC)による知財侵害の救済など米国が特に重視する分野も盛り込んだ。中国社会科学院の倪月菊研究員は「合意は米国企業だけでなく、中国企業のイノベーションも守るものだ」と評価する。
もっとも施行ずみの外商投資法や不正競争防止法に盛った方針が並ぶなど、全体としては新味に欠ける。米企業などでつくる米中貿易全国委員会は会員向けリポートで「(海外の有名商標を先回りして中国で登録する)悪質な商標への対策は具体策に乏しい。著作権保護への取り組みも甘い」と指摘した。
技術移転については、中国に進出した米企業の合弁相手である中国企業側が移転要求することを禁じた。行政当局による要求だけを禁じていた従来の方針より踏み込んだ。ただ技術移転はあいまいな形で求められることが多い。移転禁止にどう実効性を持たせ、米企業の懸念を取り除くかの道筋は見えないままだ。

200131日経

世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、ドイツ銀行が構えたサロンの窓には、このフレーズがネオン装飾で描かれていた。
筆者は独金融機関ならそう考えるかもしれないとまず思った。だが、すぐ今の米経済は「今までにないブームの中にある」とするトランプ米大統領の考えを支持する米経済界と、そうはみていない多数の一流の投資家や投資機関を含む多くの人に分かれていることに思いが及んだ。
米経済は過去最長の景気拡大期にあり、大方の予想より好調なのは確かだ。だがこれを「好景気」というのは幻想だ。

イラスト Matt Kenyon/Financial Times

米労働統計局によると、2019年7~9月期の米実質国内総生産(GDP)の伸び率は、前期比年率換算で2.1%にすぎず、オバマ大統領2期目の同平均伸び率2.4%を下回った。トランプ氏が大規模減税を実施し、それにより平時としては過去最悪の1兆ドル(約109兆円)という財政赤字を招いたにもかかわらず、その費用対効果はあまりに精彩を欠く。
一方、米商務省経済分析局によると、設備投資は19年に減少し始めた。無理もない。米連邦準備理事会(FRB)が、米国が債務不履行に陥るのを阻止すべく、米債務のマネタイゼーションを進めているようにみえる事実は、多くの投資家にとっては非常に大きな懸念だ。
これが、今、株式市場に強気に資金が流れ込む一方で、同時に債券や金といった安全資産にも資金が集中するという奇妙な二分化の様相を呈している主たる理由だ。
ある投資家は先日筆者に、米国の財政赤字と政治リスク、そして研究開発とインフラへの投資不足が続けば、投資家は米国市場から間違いなく去ることになると語った。だが、その投資家も自身の投資プログラムが離脱指示を出すまでは、投資を続けるしかないだろう。米シティグループの元最高経営責任者(CEO)のチャック・プリンス氏の言葉を借りれば「(ダンスの)曲が奏でられている間は立ち上がって踊り続けなければならない」ということだ。
トランプ氏の政権チーム内でも米経済への見解は割れている。トランプ氏は21日、ダボス会議でFRBの「利上げペースは早すぎたが、利下げペースは遅すぎた」と語った。他国で導入されているマイナス金利政策についてもこうコメントした。「お金を借りればお金をもらえる。私にはすぐなじめるやり方だ。素晴らしい」
一方、トランプ氏の経済顧問である米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は、マイナス金利や債券購入といった積極的な金融政策は「効果がない」とみる。同氏は、減税や規制緩和による刺激策が米経済の成長につながると考えている。だが、減税は株式市場のテコ入れにはなったが、それで浮いた資金の大半は企業による自社株買いに消えた。これは労働生産性の向上がもたらす急成長とは違う。規制緩和が、米経済にほぼプラスにはならないとする研究調査結果もあまたある。
残念なことに、筆者がダボス会議で取材した企業経営者の大半は米経済は「今までにないブームの中にある」とする見方を支持していた。この信じがたいことを信じてしまう背景には米中の緊張が多少和らいだことがあるようだ。
米経済界は、米上院が16日に「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の実施法案を可決したことを歓迎した。トランプ氏は今週にも同協定に署名する(編集注、29日に署名した)。また米中が15日、貿易協議の「第1段階合意」に署名したことで、両国の敵対関係に小休止が訪れたことも経済界は歓迎している。
だが、そんなに素晴らしい状況だろうか。トランプ氏が豪語するのとは裏腹に、米国の貿易赤字に目立った改善はない。米商務省経済分析局によると、米国の財・サービス全体の貿易赤字額は、16年の5030億ドルから18年には6280億ドルに拡大し、19年は9月末までの3四半期で既に4730億ドルに達している。
リベラル派の米経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏は、ダボス会議に参加するにあたり、様々な事実やデータをまとめたパンフレットを作成したが、この貿易赤字額の拡大も彼が指摘した事実の一つだった。同氏の妻で米コロンビア大学でも教えるアーニャ・シフリン氏は、ダボス会議でのトランプ氏の演説中に、このパンフレットを配布した(そのためシフリン氏は、セキュリティー担当者により会場から連れ出されたが、ダボス会議のスタッフたちは後に彼女の行動を称賛していた)。
経済界の人々がトランプ氏支持に回った背景には当然、左派が推進する経済政策への恐れもある。こうした前例は過去にもあっただけに、そのことを考えると深い憂慮を感じずにはいられない。
米国の政治学者で歴史学者でもあるロバート・パクストン氏は著書「ファシズムの解剖学」の中で、欧州の多くの国で過激な思想を持つ政治家が台頭し、国を動かすまでの権力を握るに至った背景には、経済界が過激な政治思想に対する脅威よりも、富の再分配のされ方が変わる方をより恐れたことが少なからずあったと指摘している。
同様に、今後も経済成長をもたらしてくれるはずだという理由だけで、米国が大事にしてきた根源的な価値を犠牲にすることもいとわないトランプ氏の再選を望む人々が米経済界にあまりにも多いのではないかというのが、筆者の個人的な懸念だ。だがさらなる成長は必ずしも約束されているわけではない。
リベラル派で投資家でもあり慈善家でもあるジョージ・ソロス氏は、ハンガリー系ユダヤ人として自らもファシズムを経験している。同氏はダボス会議の講演で、トランプ氏をロシアのプーチン大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とともに「独裁者を目指しているか、既に独裁者である人々」と同類だとした。同氏は「過熱した経済は長続きしない」としたうえで、既に過熱した経済をさらにあおるような政策を大統領選挙に近いタイミングで実施したら彼の再選は確実になっていただろうとも指摘した。
しかし、「トランプ氏にとって問題は大統領選まで10カ月もあることだ。次々に常識が覆されるこの時代に、10カ月は途方もない長さなのだから」と景気の継続に否定的な見方を示した。(27日付)

200203日経

4年にいちどの米大統領選が3日、アイオワ州党員集会を皮切りに始まる。米国第一を掲げるトランプ大統領が再選されるかどうかは、これからの世界の行方にとって極めて重要だが、見どころは勝ち負けだけではない。
格差の拡大による社会の分断、ポピュリズム(大衆迎合主義)の広がりなどは、世界共通の課題である。11月の本選挙までの9カ月間、米国民はこうした難問にどう向き合うのか。私たちもどうすれば世界を安定させられるのかを一緒に考える機会にしたい。
大統領選の前半は、トランプ氏への挑戦者を決める野党・民主党の予備選である。成長を重視する中道派と、所得や資産の再分配を訴える左派の溝が深まっており、党の団結を維持できるのかどうかが危ぶまれる。企業活動への過度の介入につながれば、景気を下押しするおそれがある。
共和党は現職のトランプ氏を推すことで固まっている。危惧されるのは、これまで以上に人気取りの政策に走ることだ。中国との貿易交渉は小康状態を迎えたが、支持率の動向によっては再び大ごとにするかもしれない。
オクトーバー・サプライズという言葉がある。現職大統領が支持率を上げようと、投票日直前にあえて国際紛争を引き起こすことを指す。トランプ政権はそうした暴挙を本当にやりかねない。意図的でないとしても、威圧的な外交姿勢を続けていれば、戦争につながる可能性は十分ある。
日本に関連する分野でいえば、在日米軍へのいわゆる思いやり予算の規模を定めた特別協定が来年3月に満了する。16年度からの5カ年の日本の支出総額は1兆円近いが、米政府は一挙に4倍にするよう求めてきている。
日米同盟の維持に必要な負担はすべきだが、トランプ氏の選挙目当ての手柄づくりに手を貸すのは外交のあり方としておかしい。毅然と交渉してほしい。
4年前の大統領選では、ネットなどで流されたフェイクニュースが選挙戦の動向に影響した。ロシアの関与も取り沙汰され、米政治への信頼を損なった。
社会全体のIT(情報技術)化が加速するなか、今回は一段と不明朗な選挙になるかもしれない。あやしげな情報をうのみにして選挙戦を論じ、結果として日本のかじ取りを損なうことのないようにしたい。.

200206日経


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【ワシントン=永沢毅】11月の米大統領選に向けた野党・民主党の候補者選びの初戦、中西部アイオワ州党員集会は穏健派の前インディアナ州サウスベンド市長、ピート・ブティジェッジ氏(38)が途中段階の集計で首位に立った。僅差で左派のバーニー・サンダース上院議員(78)が追う構図だ。穏健派のジョー・バイデン前副大統領(77)は4位と苦戦し、本命不在の混戦を予見する波乱の幕開けとなった。(関連記事国際面に)

「知名度も資金もなく選挙戦を始めたが、驚くべき勝利なのは否定しがたい」。ブティジェッジ氏は4日、次戦の舞台となる東部ニューハンプシャー州で支持者を前に事実上の勝利宣言をした。開票率71%で順位は入れ替わる可能性もあるが、世論調査の平均支持率で5位にとどまる同氏の大健闘は全米を驚かせた。
躍進の一因は、初戦のアイオワに集中する選挙戦略が奏功したためだ。現時点で得票率上位の4人でみると、ブティジェッジ氏のアイオワでの滞在日数とイベントの開催数はともにトップ。州での広告費も1030万ドル(約11億円)と首位のサンダース氏(1080万ドル)とほぼ肩を並べる。
左派候補が唱える国民皆保険の導入に懐疑的な姿勢を示すなど、現実的な政策を志向する立場はバイデン氏と重なる。米紙ワシントン・ポストによる党員集会への「入り口調査」では穏健派からの支持を両氏は25%ずつで分け合った。ブティジェッジ氏は同性婚のパートナーを持つが、保守的な有権者が多い郡部でも支持を集めた。

バイデン氏は息子が絡む「ウクライナ疑惑」も微妙に影響している可能性がある。党員集会でブティジェッジ氏を支持したパブ・イベット氏は「バイデン氏は高齢だし、疑惑を抱えるので大統領選が泥仕合になる」と指摘した。
一方、大学無償化や大規模な企業増税などリベラル色の強い政策が売りのサンダース氏が支持を集めるのは、格差拡大に不満を持つ若者を中心に社会の変化を求める声が強まっている現状を映し出している。入り口調査では17~29歳の有権者の半数近い48%がサンダース氏を選んだ。格差是正を重視する有権者でもサンダース氏を選んだ割合が31%と最多で、同じ左派のエリザベス・ウォーレン上院議員(70)が26%で続く。
ただ、左派候補が本選でトランプ大統領に勝てるかを疑問視する向きも多い。16年大統領選でトランプ氏を支持した激戦州ミシガン州などの中西部の白人労働者層は、リベラルな政策を敬遠する傾向が強いためだ。ジョージ・ワシントン大のフランク・セスノ氏は「(サンダース氏では)トランプ氏に勝利することが極めて難しく、16年にあった党の分断が再びおきかねない」とみる。
次戦ニューハンプシャーではサンダース氏が優位に立つが、バイデン氏は2月末の南部サウスカロライナ州予備選で戦いを有利に進める。黒人票が多い地域で、黒人のオバマ前大統領を支えた実績が評価されているためだ。
党を二分する穏健派、左派の双方で主導権争いは激しさを増している。「打倒トランプ」を目指す選挙戦は本命不在のまま長期化する可能性が出てきた。

200214日経

学生ローンが米国の中高年の重荷になっている。2019年末の残高は1兆5080億ドル(約165兆円)と過去最高を更新し、残高全体に占める40歳以上の比率は42%と過半に迫る。1人あたりの借金は平均約3万ドルで、就職しても返しきれないまま年を重ね、破産や離婚が相次ぐ。医療保険制度と並んで米国の大きな社会問題となっており、11月の大統領選で野党・民主党の左派候補は債務免除を訴える。

「学生ローンを帳消しにする」。左派のバーニー・サンダース上院議員は5日、民主党の指名争いの初戦アイオワ州党員集会で強調した。
民主候補は目玉政策として、学生ローンへの支援策を打ち出す。左派のエリザベス・ウォーレン上院議員は債務減免を主張し、中道派の前インディアナ州サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ氏もローン残高に上限を設ける考えを示す。
ニューヨーク連邦準備銀行によると、米学生ローンの残高は19年に前年比3.5%増えた。10年前の2倍強と右肩上がりだ。多くは連邦政府からの借り入れで、自動車ローン(1.33兆ドル)やクレジットカードローン(0.93兆ドル)を上回る。
ローンを抱える層は30~50代の比率が増えている。5年前と比べ、30代が28%増の4891億ドル、40代が54%増の3202億ドル、50代は55%増の2108億ドル。1981~96年生まれのミレニアル世代の一部は大学卒業と金融危機が重なり、高い給与を得られる職に就けず返済が円滑に進んでいない。一方、10~20代は2%増の3762億ドルと横ばいだった。
1人あたりのローン残高は3万ドル程度で、連邦政府の学生ローンは卒業後の金利が7%程度。90日以上延滞した比率は11%と、カードローンや自動車ローンを大きく上回る。利子が積もり、年数をかけても借金残高がなかなか減らない構図だ。
米カレッジボードがまとめた19年度の私大学費(授業料と諸費用の合計)は年3万6880ドルと20年前より55%上昇。著名大では年5万ドルを上回ることもざらだ。生活費も含めると卒業までに20万ドル以上、大学院に進みさらに膨らむことも多い。
米国では大卒の学位がないと就職の門が狭まるため、低所得家庭はローンに頼らざるを得ない。だが、膨大なローンを抱え大学を中退する例も相次ぐ。一方で教育費を惜しまない高所得層は、子供が進学しやすく所得も高くなる傾向にある。格差の固定化につながっているとの指摘もある。
学生ローンが大統領選の争点になっているのは、有権者の世代交代も背景にある。ミレニアル世代が最大の人口層だったベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)を今年逆転し、選挙への影響力を強めている。
一方、トランプ米大統領は学生ローンの免除とは距離を置く。「大きな政府」を嫌う保守派支持層に配慮し、教育への歳出も抑える考えだ。教育や医療政策では保守とリベラルで距離が大きい。

200302日経

米国とアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが和平合意に署名した。18年に及ぶ長い戦いの終結につながることを期待したい。米国は合意を国連に報告し、支持を求める考えだ。真の平和を生み出すには、国際社会が一体となってアフガンの安定に取り組むことが重要になる。日本も積極的に一翼を担うべきだ。
米軍がアフガンに攻め込んだのは2001年のことだ。政権を当時握っていたタリバンが、同時テロを引き起こした国際テロ組織アルカイダを支援していると断定。テロ掃討のためにはタリバン制圧が必要だと主張した。首都カブールを追われたタリバンは山岳地帯などでゲリラ戦を続けた。
今回の合意は、(1)1万2000人規模の駐留米軍は21年春をめどに撤収する(2)タリバンはテロ組織を支援しないことを約束し、現アフガン政府と対話を始める――などが柱だ。
トランプ米大統領が合意を急いだのは、秋の大統領選をにらんだ政治遺産づくりとされる。新しいアフガンの統治体制の見通しがないまま、米軍が足抜けするのは無責任との批判はあるだろう。
ただ、米軍統治が限界に達していたのは事実であり、あとはアフガン諸勢力による解決に委ねるのもひとつの考え方である。米国の力による支配が反米感情を生み、テロの温床となる。そこで米国がますます強権姿勢で臨む。そうした悪循環が続く限り、世界の安定は永遠に訪れない。
アフガンの国内情勢はなお不安定だ。昨年あった大統領選の結果は先月、ようやく発表され、現職のガニ大統領が再選を果たした。しかし、次点のアブドラ行政長官(首相)は「不正」を理由に受け入れを拒み、独自の政府をつくると公言する。政府対タリバンの構図が、三つどもえの対立になりかねない状況だ。
米政府はガニ大統領の2期目の就任式を延期するよう求め、大統領も応じた。当面の混乱を回避したが、抜本的な解決には遠い。米軍の縮小・撤退が進めば、大統領と行政長官の間の調停役もいなくなる。1989年のソ連軍の撤退後のような混迷が懸念される。
復興支援国会議のホストを一度ならず務めた日本は、手をこまぬいていてはならない。昨年12月に銃撃を受けて亡くなった中村哲さんの平和への思いを受け継いでいきたい。

200304日経

ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は3日、臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、政策金利を0.5%引き下げた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気下振れリスクに対応する狙いだ。主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁も同日の緊急電話会議で「あらゆる適切な政策手段を用いる」とする共同声明を採択した。世界の金融市場の安定に向けて、G7が財政・金融政策を総動員する姿勢で足並みをそろえた。
(関連記事総合1、総合2、政治、経済、国際アジア、企業1面、社会2面に)


FRBは短期金利の誘導目標であるフェデラルファンド(FF)金利を年1.50~1.75%から年1.00~1.25%に引き下げた。同日発表した声明文では「景気見通しへの影響を注視し、経済を支えるために適切に行動する」と主張。景気悪化リスクが拭えなければ、追加利下げする可能性もにじませた。
FRBは17~18日にFOMCを予定していたが、株価の急落を受けて利下げを前倒しで決定した。臨時会合を開いて利下げするのは金融危機直後だった2008年10月以来、11年半ぶりだ。
声明文では「米経済は力強い。ただ、新型コロナで経済活動にリスクが持ち上がった」と強い警戒感を表明。利下げ幅も通常の0.25%ではなく0.5%に引き上げ、景気不安へ迅速に対応する意思を表した。FRBは19年中にも米中貿易戦争を警戒して、3回の利下げに踏み切っていた。
FRBの決定に先立ち、G7財務相・中銀総裁は緊急電話会議を開いた。採択した共同声明は新型コロナの感染拡大が市場や経済に与える影響を「注視する」としたうえで、「タイムリーかつ効果的な手段でさらに協調する用意がある」と強調した。
麻生太郎財務・金融相は会議終了後、記者団に対し「世界経済の成長と金融市場の安定のため、G7各国と対応していきたい」と語った。
G7が政策協調を打ち出したのは、新型コロナの世界的な感染拡大と株価下落が企業や消費者の心理を悪化させかねないためだ。米ゴールドマン・サックスは1~3月期の世界経済がマイナス成長に転落すると予測する。政策が後手に回れば、世界的に景気後退に陥るリスクもある。
共同声明を受けて、FRB以外の中銀も協調的な金融緩和の検討を本格化する見通しだ。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は2日、「的確な措置を取る用意がある」と表明。英イングランド銀行(中銀)のカーニー総裁も3日、「英景気と金融システムを支えるために必要なあらゆる措置を取るつもりだ」と語った。
日銀も上場投資信託(ETF)や国債の機動的な買い入れを進める。黒田東彦総裁は2日、「潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努める」との談話を発表。3日には市場に5千億円を供給するオペ(公開市場操作)を前日に続き実施した。マイナス金利の深掘りや年6兆円のETFの買い入れ規模の増額など追加緩和の是非も議論する。
新型コロナの感染拡大で米ダウ工業株30種平均が大幅に下落するなど、世界の金融市場に動揺が広がっていた。G7議長国の米国のムニューシン財務長官は市場安定に向けて各国と水面下で調整に入っていた。

200310日経

ニューヨーク=宮本岳則】9日の米国株式市場でダウ工業株30種平均は急落して始まり、前週末比の下げ幅は一時2000ドルを超えた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で景気や企業業績の減速懸念が高まり、原油価格の急落が売りに拍車をかけた。S&P500種株価指数は取引時間中に下落率が7%を超え、すべての株式の売買を一時中断する措置(サーキットブレーカー)が発動された。


アジアと欧州の株安を引き継いだ米国市場は朝方から売りが殺到し、ダウ平均は一時2万3000ドル台に下落するなどほぼ全面安の展開となった。S&P500指数が前週末比で7%安まで下げると、取引が15分間停止された。米国東部時間正午(日本時間10日午前1時)時点のダウ平均は2万4500ドル付近で推移する。
サーキットブレーカー制度は、2010年に米国株が瞬間的に1000ドル近く下げた「フラッシュクラッシュ」を防げなかったことをきっかけに改正され、13年に新ルールが適用された。現制度下で発動されたのは今回が初めてだ。
前週末に石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国のロシアなどとの減産協議が決裂した。供給過剰への警戒感から米原油先物相場が急落した。株式市場でも石油メジャーのシェブロンやエクソンモービルが一時10%超下落した。安全資産とされる米国債に資金が集中し、米長期金利は過去最低水準で推移するなど、投資家はリスク回避姿勢を強めている。
ニューヨーク連邦準備銀行は9日、短期金融市場への資金供給を増額すると発表した。国債などを担保に金融機関が短期預金を融通し合う「レポ取引」の翌日物への資金供給をこれまでの1000億ドルから1500億ドルに拡大する。株価暴落で金融システムへの懸念も高まっており、資金供給を強化して流動性不安を抑える狙いがある。

200324日経

壊滅的な被害を及ぼすパンデミック(世界的な大流行)は、世界の2つの経済大国が立場の違いを棚上げにして協調する好機にも思える。ところが、米国と中国の関係は1989年の「天安門事件」で中国政府が軍を投入し民主化運動を弾圧した時と同様に、最悪の状態へと近づきつつある。両国は危機のさなかに激しい中傷合戦を繰り広げている。

トランプ米政権と中国の習政権は新型コロナウイルスを巡り対立を深めている=ロイター
中国政府の一部の高官は、米軍が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を中国に持ち込んだとする陰謀説を吹聴している。一方、トランプ米大統領は、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼ぶ。トランプ氏がウイルスの発生源を強調したがるのは、中国からの入国制限が、大統領が迅速に打ち出した数少ない新型コロナ対策の一つだったからだろう。
だがもっと皮肉なことに、トランプ氏の発言は、メディアでまたしても本筋から外れた議論をかき立てている。すなわち批判派が指摘するように人種主義的な発言なのか、それとも事実を口に出すことで米国を守ろうとしているのかというものだ。トランプ氏にとっては、なぜ何週間も新型コロナを軽視していたのかを検証されるよりもはるかに好都合だ。
 

米中の対立は18日に激化した。中国政府は国内に駐在していた米ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の米国人記者ほぼ全員を国外退去にすると発表した。対象者は十数人で、毛沢東が1949年に中国を建国して以来、最大規模の欧米人記者の大量追放となった。

=ロイター
対立がエスカレートしたのは速かった。米国の疾病管理の専門家チームは1月上旬、新型コロナの初期の感染状況を評価するために武漢入りを要請したが、中国はこれを無視した。トランプ氏が1月末に、米国人以外の中国からの入国を禁止すると、中国は猛反発した。中国ではここにきて感染拡大の勢いが少なくとも一時的には弱まっているため、当局は米国の手際の悪さと対照的に自らの断固たる対応を自賛し、一党支配体制の勝利だとの考えを示している。
2つの超大国の関係は、10年足らず前のオバマ米大統領と中国の胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席の時代よりもはるかに悪化している。当時も相互不信は強かったが、両首脳は気候変動や世界金融危機など一部の極めて重要な問題では協調した。
だが、トランプ氏と中国の現在の指導者、習近平(シー・ジンピン)国家主席の下では、こうした緊張緩和は一切ない。トランプ氏は政権を対中強硬派で固め、オバマ氏と習氏が締結した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱を表明し、貿易戦争を仕掛け、米国にいる中国人スパイを摘発し、世界の同盟国に対して次世代通信規格「5G」網から中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を排除するよう働きかけている。一方、習氏は外交政策では強硬姿勢を強め、国内では弾圧を強化してきた。
 

新型コロナウイルスが中国の国境を越えて拡大し始めた1月に、米中は少なくとも貿易戦争の一時休戦にこぎつけていた。だが、他の多くの分野では緊張が続いている。記者を巡る応酬はまるで冷戦時代の戦略だ。
トランプ政権は2月18日、中国の5つの報道機関を中国政府の「外国の宣伝組織」に認定した。中国は翌日、表向きには中国を「真のアジアの病人」と呼んだ記事の見出しに対する処罰だとして、WSJの記者3人の国外追放を発表した。米国は3月2日、国営の新華社、中国国営テレビ系の外国語放送CGTN、英字紙チャイナ・デーリー配信会社、ラジオ局の中国国際放送、党機関紙・人民日報の関連会社の5社の中国人記者の上限を100人に定めた。つまり、60人を事実上の国外退去処分にした。
中国の対応の方がジャーナリズムにはるかに大きな影響を及ぼすだろう。中国国内の外国メディアから最も優秀な特派員の多くが失われるからだ。この対応はさらに、中国の介入に対する反発から、ここ数カ月抗議デモが頻発している香港の多くの市民を不安にしそうだ。中国は処分の対象になった記者の香港駐在も禁止した。
これは外国人記者が中国本土から締め出されても、なお香港に駐在できるとしていた中国の統治下でのこれまでの慣習を破るものだ。中央政府は事実上、外国人記者の管理については中国のルールの方が香港のはるかに自由な制度よりも優先されることを明確にした。
中国当局はここ数年、多くの西側諸国と対立してきたが、米国に対しては慎重な姿勢を維持してきた。そうした時代は終わりを告げるのかもしれない。中国の激しい報復は、最高指導部が米国に露骨に敵意を示すリスクをいとわなくなりつつあることを示している。
 

新型コロナウイルスの発生源を巡る中国の中傷的な情報発信は、こうした変化の証しだ。中国のネットやメディアでは数週間前から、新型コロナは米中央情報局(CIA)か米軍が開発した米国の生物兵器で、昨年10月に湖北省武漢市で世界各国の軍人のスポーツ大会「ミリタリーワールドゲームズ」が開催された際にまき散らされたとする現実離れした説が流布していた。
中国外務省の趙立堅副報道局長は12日、今や40万人以上のフォロワーがいるツイッターで「感染症を武漢市に持ち込んだのは米軍かもしれない」と主張した。「(事実を)明白にせよ! データを公表せよ! 米国は我々に説明する義務がある!」と同氏は訴えた。他の中国人外交官もうわさの拡散に加担した。他方で米政府高官の中には、新型コロナは武漢の研究所で発生したという根拠のない意見を持ち出した者もいた。
トランプ氏が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び続けるのは中国が陰謀説を唱えているのが一因だとして、ある記者による人種差別だとの指摘を同氏ははねつけた。だが、トランプ氏の言葉は政権スタッフの間などでの人種差別を助長する恐れがある。ある中国生まれの米国人テレビ記者は17日、ホワイトハウスの高官が自分に面と向かって、新型コロナを「カン・フル(カンフーをもじったもの)」と言い放ったことをツイッターで明かした。
今のところ、両国の非難の応酬は大人げないものに思えるかもしれない。だが新型コロナウイルスの感染がさらに拡大すれば、責任転嫁も一段と激しくなるだろう。死者の数が今よりもはるかに増えれば、中国と米国との責任の押しつけ合いは、すでに恐ろしいほど険悪な両国関係に深刻な影響を及ぼすことになる。

200324日経

米連邦準備理事会(FRB)は23日に臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、再び追加の金融緩和を決断した。短期金融市場ではゼロ金利で資金供給する新たな措置も発動。高止まりしたドル金利の引き下げに緊急対応を連発する。企業の資金繰りを支えるため、社債を資産購入の枠組みに加える案もあり、すみやかに追加策の検討に入る。(1面参照)
FRBは23日、量的緩和による米国債などの買い入れ量を無制限に切り替えた。15日に量的緩和を再開したが、FRBの総資産(18日時点)は1週間で3500億ドル(約39兆円)も増えて、計4兆6600億ドルと過去最大になっている。金融機関が安全資産の米国債を売ってまでドルをかき集める動きが強まっており、資金供給を大幅に積み増す。
FRBは23日、短期金融市場にゼロ金利で資金供給する新たな措置も発表した。金融機関が国債などを担保に短期資金をやりとりする「レポ市場」が対象だ。同市場に資金供給する際の金利は、政策金利(0~0.25%)と連動するフェデラルファンド(FF)金利を基準としてきたが、FF金利は乱高下して政策金利を上回るケースもある。レポ市場では翌日物に限ってゼロ金利で資金を供給し、金融機関が安定調達できるようにする。
23日には資産担保証券(ABS)の買い入れも決めた。ABSは消費者ローンや自動車ローン、学生ローンなどを担保とした証券で、FRBが買い入れれば間接的に家計の資金繰りを支援できる。ABSは中小企業の設備などを担保としたローンも組み込まれており、手元資金が不足する中小の支援にもつながる。
ただ、米経済は4~6月期に2桁のマイナス成長に落ち込むとの観測が強まっており、FRBは追加策の検討にも着手する。FRBの関連法はリスク性資産の株式や債券の買い入れを禁じているが、法改正して社債を購入する案が浮上している。大手企業の資金繰りも逼迫して社債金利は上昇が目立っており、資金支援が求められている。

200526日経

欧米で新型コロナウイルスの感染拡大を機に不動産の需要が急減し、拡大を続けてきた住宅ローン市場が頭打ちとなる懸念が出てきた。主要都市のロックダウン(封鎖)は解除されつつあるが、不動産の需要がすぐに「コロナ前」に回復する可能性は極めて低い。ローンの焦げ付きなどの問題が広がれば、欧米の銀行は新たな危機に直面することになる。


欧州で特に状況が厳しいのが、コロナ禍が深刻で雇用不安が広がる南欧だ。「不動産市況の拡大シナリオは今後数カ月で急変する」。イタリア中銀は4月の金融安定報告で異例の警告を出した。
予兆はある。南欧の不振で3月のユーロ圏全体の住宅ローン残高はすでに前月比でマイナスに転じた。欧州中央銀行(ECB)の調査では、多くの銀行がさらに4~6月期のローン契約減少を見込む。
欧州勢の中で一見、好調なのはドイツだ。ドイツ連邦銀行によると、3月の新規住宅ローンは前月比2割増。だが、ドイツ銀行の不動産担当シニアエコノミスト、ヨッヘン・メーベルト氏は「ロックダウンを見越した駆け込み需要が膨らんだだけ」と断言する。商談中の人が慌ててサインしただけだから数カ月以内に「大きな反動減」に見舞われるという。
好景気と低金利でドイツの住宅価格は過去10年で1.5倍に膨らんだ。右肩上がりを信じてますます買い手が増え価格を押し上げる――。そんな「不動産神話」が崩れようとしている。市民の生活スタイルの変化も負担になる。在宅勤務の浸透は、需要が集中していた大都市離れにつながる可能性もある。
危ういのは政府による支援に大きな期待ができないこと。「ECBは財政ファイナンスに近づき、財政赤字に転落したドイツに余力はない」(独連邦議会の金融市場委員会の座長としてユーロ危機で奔走した自由民主党のトンカー議員)。伊ルイス大のマルチェロ・メッソーリ教授も警鐘を鳴らす。「イタリアの借金が2021年半ばに国内総生産(GDP)比で160%に達し、債務危機が再燃しかねない」。伊国債を大量に持つ欧州銀には大きなリスクだ。
10年超という過去最長の景気拡大を謳歌してきた米銀の間でも、不動産市場の変調に対する警戒感が高まっている。米銀は借り手の信用力の悪化を懸念し、足元で住宅ローンの融資審査の厳格化に動いている。
米バンク・オブ・アメリカはローン申請に必要な信用力の条件で、個人の日々のクレジットカード利用などから算出される評点を従来の660から720に引き上げた。JPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴでも同様に引き上げたり、頭金の支払いの増額を求めたりする動きがみられる。
外出制限などが響き、米国の中古住宅販売件数は4月に前年同月比で17.2%減と急減した。11年9月以来、約8年半ぶりの低水準だ。4月の住宅着工件数は前月比3割減で、件数は15年2月以来の低水準となった。住宅ローン残高は3月までは過去最低の金利を背景に増加傾向を維持してきたが、4月以降は欧州と同様に減少に転じる可能性がある。
欧米の金融機関は現在、コロナ禍に伴う倒産ラッシュと金融緩和に伴う利ざやの縮小に苦しんでいる。本来なら低リスクの住宅ローンで稼ぎたいところだが、もはや大きな伸びは見込めず、焦げ付きを警戒する必要まで出てきた。コロナ禍による複合危機は不動産市況の異変と絡み、ビジネスモデルの転換を銀行に迫る

200717日経

ワシントン=鳳山太成、ニューヨーク=中山修志】米政府は8月、華為技術(ファーウェイ)など中国企業5社の製品を使う企業が米政府と取引することを禁じる法律を施行する。対象の日本企業は800社を超え、該当する中国製品の排除が必要となる。米中対立の激化で、世界のハイテク市場の分断が加速する。中国製品への依存を強めていた日本企業の調達戦略も修正を迫られる。


7月14日付の官報で「国防権限法(総合2面きょうのことば)」を8月13日から実施するための暫定規則を掲載した。
対象5社は通信機器のファーウェイと中興通訊(ZTE)、監視カメラの杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、無線通信機大手の海能達通信(ハイテラ)。米政府は8月以降、これらの製品やサービスを使う企業とは、契約を新たに結んだり更新したりしない。中国政府に機密情報が流れるのを警戒するためだ。
企業は「米政府か中国企業か」の二者択一を迫られる。米連邦政府と取引する企業が自ら該当する中国企業の製品を使っていないことを明示する必要があり、米中対立への対応コストが高まる。米政府は企業が新たな法律に完全に対応するまでに計800億ドル(約8兆6千億円)超のコストがかかると算定している。
米政府と取引する企業は該当企業の製品やサービスを使っていないと証明書を出す必要がある。虚偽を報告した場合は民事・刑事罰もあり得る。
米政府によると、2019会計年度(18年10月~19年9月)の調達額は約5800億ドル(約62兆円)。暫定規則によると、当面は政府と直接契約する法人が対象だ。
日本企業への影響は大きい。米政府によると、19会計年度の日本企業向け取引額は約15億ドル(約1600億円)。案件数も約1万1000件に及ぶ。米政府との取引企業は800社を超える。対象は政府と直接契約する米国法人や在日米軍と取引する日本企業だ。
例えば、対象企業の製品を海外で一部使用しているNTTは8月の法律施行までに他社製品に変更し、今後も使う予定はないという。NTTデータの子会社が米政府とシステム関連で取引があるためで、同社は「契約に支障がないようにしたい」としている。
ソフトバンクは現行の4Gの通信ネットワークの一部で、ファーウェイやZTEなど中国企業の通信機器を導入しており、他国の製品への切り替えを進めている。すでに販売中のZTEの次世代通信規格「5G」対応スマホについては「現時点で取り扱いを変更する予定はない」という。
ゼネコンの鹿島はファーウェイ製品を一部で使っているという。製品の更新中で年末には規制対象外の製品への切り替えが進むとしている。米政府は速やかな対応を求めているが、受注に影響はないようだ。
今回発表した規則では中国製品の「使用」の定義があいまいだ。運用段階で解釈が分かれて企業には余計な法令順守コストが生じかねない。使用禁止の対象範囲が1年後にはグループ企業などにも広がる可能性がある。
長島・大野・常松法律事務所の大久保涼弁護士は「5社の製品の不使用をどの程度まで調査しなければならないかが明確でなく、日本企業として引き続き状況の注視が必要」と話す。

200717日経

レストラン)=ロイター
【ワシントン=河浪武史】新型コロナウイルスの再拡大で、米景気の「V字回復」が一段と遠のいている。飲食需要は再び前年比7割減と落ち込み、製造部門も同1割減と持ち直しは緩やかだ。景気は底ばいの懸念が浮上しており、トランプ政権は追加の経済対策の本格検討に入る。

米連邦準備理事会(FRB)が15日発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)は「景気は底打ちしたものの、新型コロナの拡大前を大きく下回る水準だ」と懸念をにじませた。セントルイス連銀が「回復ペースは6月中旬以降に減速した」と言明するなど、景気の長期停滞を強く不安視した。
最大の重荷は新型コロナの感染の再拡大だ。フロリダ州では14日、1日当たりの死者数が130人を超えて過去最大になった。同州やテキサス州など米南部では、飲食店の客足が6月中旬に前年比4割減まで回復したものの、経済再開の一部停止で7月は6~7割減と再び悪化。全米でみても客足は7割減と低迷が続く。
製造業も低水準

航空需要も「前年同期比85%減」(ボストン連銀)と戻らない。デルタ航空は「7月に入って需要の回復が鈍っている」(エド・バスティアン最高経営責任者=CEO)とし、1日1000便を計画していた8月の増便数を同500便に半減すると14日に表明した。
15日発表した6月の鉱工業生産指数は、前月比5.4%上昇して60年ぶりの上げ幅となった。ただ、前年同月と比べれば10.8%も低い水準にとどまる。地区連銀報告で「半数超の製造業者が設備投資計画を下方修正した」(クリーブランド連銀)と指摘するなど、製造業も長期停滞を警戒し始めている。
米経済は4~6月期に戦後最悪の景気後退となり、年率換算で40%前後のマイナス成長になったと分析される。経済再開で7~9月期は「V字回復をなし遂げる」(トランプ大統領)との期待があったが、そのシナリオは遅れが目立つ。
米ゴールドマン・サックスは7~9月期の成長率見通しを、年率換算でプラス33%から同25%へと下方修正した。4~6月期に最終赤字に転落した米銀大手、ウェルズ・ファーゴのチャールズ・シャーフCEOは「景気低迷の長さと深さは、1~3月期の決算発表時の見方よりも大幅に悪化している」と指摘する。
雇用回復緩やか

労働市場もV字回復が難しくなってきた。米労働省が16日発表した週間の失業給付統計によると、11日までの1週間の新規申請数は130万件と、前週(131万件)から微減にとどまった。失業保険の給付総数も4日までの週で1733万人と雇用回復は緩やかだ。ダラス連銀の調査では、テキサス州の400社の19%は「将来も雇用はコロナ危機前の水準には戻らない」と回答したという。
景気の長期停滞リスクが強まり、米政権と連邦議会は追加の経済対策を検討する。焦点は失業給付の積み増しだ。3月に発動した景気対策では失業給付を週600ドル上積みしたが、7月末で期限が切れる。個人消費がさらに落ち込む懸念があり、米議会は特例の部分延長を月内に決める方向で調整する。トランプ政権には家計に再び現金を給付する案もある。
ただ、米国は11月の大統領選が迫って、与野党の意見対立が強まりつつある。政策支援が途切れて「財政の崖」が発生すれば、景気は「W字型」の二番底に落ち込む懸念もある。

200727日経
ワシントン=河浪武史】米政権の新型コロナウイルス対策が期限を迎える「財政の崖」が迫っている。現状で2500万人に月600億ドル(約6兆円)を支給する失業給付の特例は7月末で終わる。米議会は追加経済対策に給付延長を盛り込むものの、大幅に減額する方向だ。個人消費の下振れは避けられず、景気も財政も綱渡りが続く。

失業給付特例が終わると景気は再び失速する可能性もある(4月、米アーカンソー州で申請に並ぶ人々)=ロイター

「失業給付は失職者の生命線だが、完全な形で残すことはない」。トランプ大統領は失業給付の特例縮小を明言する。米政権は3月に決めた2.2兆ドルの経済対策で、失業給付を週600ドル加算する特例を発動し、その期限が7月末で切れる。
失業給付の受給者は、飲食店の従業員ら一般の被保険者が1700万人。だが、民間調査機関「センチュリー・ファンデーション」によると、特例で受給する個人事業者らも合わせると現在2500万人が支給対象だ。
コロナ危機前の失業給付は平均で週370ドル程度だった。それが週600ドルの上乗せで、今では同1000ドル近い。2500万人分の特例分を合算すると支給額は月600億ドルにのぼる。5月の米個人消費は9945億ドルだが、その6%分に相当する巨大な「特例収入」があることになる。


米国内総生産(GDP)は4~6月期に前期比10%減、年率に換算すれば40%前後の大幅なマイナス成長に陥ったと試算される。失業給付の大盤振る舞いは7~9月期以降の「V字回復」に備えるためだった。実際、経済効果は大きかった。
4月の個人所得は、家計への現金給付もあって、コロナ危機にもかかわらず前月比で10.5%増えた。5月の個人消費も同8.2%増と持ち直した。全米破産協会の調査では、1~6月の生活者の破産申請は28万件と、前年同期比で24%も少なく済んでいる。
誤算はコロナ危機が短期で終わらなかったことだ。1日あたりの新規感染者は7月に入って7万人を超えて過去最大を更新した。カリフォルニア州やテキサス州では、経済活動の再開を一部停止。失業保険の新規申請件数も直近の週は141万件と、16週ぶりに悪化に転じた。失業給付の特例を打ち切れば景気は再び失速する懸念がある。


与党・共和党は27日にも追加の新型コロナ対策法案を公表する。失業給付の増額特例も延長するが「失職前の給与水準の70%を上限とする」(ムニューシン財務長官)。減額するのは、特例加算によって失業者の多くが以前の給与水準を上回る失業給付を得ているためだ。シカゴ大の調査では、コロナ危機前の週給の中央値は688ドルで、失業者の68%が給与よりも多い給付を受けている。
弱者保護を訴える野党・民主党は、週600ドルのまま特例を延長するよう求めるが、共和党は「給与以上の失業給付があれば、だれも職場には戻らない」(クドロー国家経済会議委員長)と強硬だ。給与の70%が失業給付の上限となれば、特例分は平均100~200ドル程度まで大幅に減る可能性がある。
共和党には、財政赤字への懸念も強い。追加対策の規模は1兆ドルを超え、これまでのコロナ対策と合わせて財政出動は4兆ドルを上回る。財政赤字は前年比5倍の5兆ドルに膨らみ、GDP比でみれば25%と第2次世界大戦時並みの水準になる。失業率は20年末時点でも10%前後と改善が進まないとの予測もあり、財政余力には限界がある。

200828日経


[ワシントン 27日 ロイター] - 米商務省が27日発表した第2・四半期の実質国内総生産(GDP)改定値(季節調整済み)は年率換算で前期比31.7%減と、統計の記録を開始した1947年以来73年ぶりの大幅な落ち込みとなった。新型コロナウイルスに伴う混乱が響いた。速報値は32.9%減だった。
米経済は今年2月に景気後退(リセッション)入りした。
所得面から経済活動を把握する国内総所得(GDI)は第2・四半期に33.1%減少した。第1・四半期は2.5%減だった。経済活動を測る上でより良い手法とされるGDPとGDIの平均は32.4%減。第1・四半期は3.7%減だった。
同日発表された米S&P総合500種採用企業の利益に相当する、在庫評価・資本減耗調整を除く税引き後利益は第2・四半期に11.7%減少。第1・四半期は13.1%減だった。
オックスフォード・エコノミクス(ニューヨーク)のシニア米国エコノミスト、リディア・ブスール氏は「新型ウイルス感染拡大への対応策が見当たらず、景気回復も脆弱な中、経済の減速を回避するには財政刺激策が必要になっている」と述べた。
第2・四半期は金融機関の利益が395億ドル増加。金融機関以外の企業の利益は1701億ドル減少した。

201026日経
⚫️米中の覇権争いが増し
⚫️新冷戦と呼ぶ
貿易、金融、技術、軍事――。米国と中国はあらゆる分野で覇権を競い、対立している。中国が一党独裁の強権体制に一段と傾くにつれ、米国とソ連の冷戦になぞらえて「新冷戦」と呼ぶことが増えた。では世界がこのまま民主主義と自由という価値観を巡って二分されるのかといえば、冷戦時と異なる点も多い。
トランプ米政権が中国共産党を「全体主義」(ポンペオ国務長官)と非難し、米中対立は価値観闘争の色彩も帯びる。ただ米国の資本主義とソ連の共産主義のイデオロギー対立が世界を分断した冷戦と違い、世界1、2位の経済大国である米中の相互依存は深い。
戦後世界を東西に分断した冷戦時代、米ソ間の経済交流はほぼなかった。2019年の米国の貿易額のうち中国向けは13%を占める。中国は共産党の一党支配でありながら経済は実質的に資本主義だ。01年に世界貿易機関(WTO)に加盟し、グローバル化の恩恵を受けて経済発展した。米中の経済関係や国際供給網は深く複雑に結びつく。
米中対立を「冷戦」と呼ぶことに疑問の声もある。それでも超大国・米国に迫り、米主導の国際秩序に挑む中国という構図が「新冷戦」のイメージとなっている。12年に発足した習近平(シー・ジンピン)指導部は広域経済圏構想「一帯一路」や「中国製造2025」といった長期戦略を打ち出し、米国の中国への警戒感を一気に高めた。
中国による高度な市民監視システムの輸出も「世界に自由で民主的な社会が根付くことを望んできた米国外交の基本と衝突した」(佐橋亮東大准教授)。米国は通信網など重要分野から中国企業を締め出そうと動く。
多くの専門家は、中国には米国に代わって世界の覇権国になる意図も能力も今のところないとみる。米国からみれば自国の利益を中国に日々削り取られているのが現状だ。相互不信が高まり、偶発的な軍事衝突が起きる恐れもくすぶる。
中国は一党支配体制を守るために欧米中心の自由や民主主義という価値観とは一線を画し、香港などで統制を強めている。一方の米国は大統領選を控えて国内各地で暴力衝突が起き、国際社会を主導する力は衰えた。
冷戦研究の第一人者である米エール大のオッド・アルネ・ウェスタッド教授は覇権を争う2国が長く併存した例に古代ギリシャのアテネとスパルタ、16世紀のイングランドとスペインなどを挙げ、米ソ冷戦以外は最終的に全面戦争に至ったという。米中の争覇は21世紀の世界だけでなく、自由と民主主義の未来にも大きな影響をおよぼす。

210224日経

ワシントン=鳳山太成、台北=中村裕】バイデン米政権は半導体や電池など重要部材のサプライチェーン(供給網)づくりで同盟国(総合・経済面きょうのことば)や地域と連携する。関連の動きを加速させる大統領令に月内にも署名する。日本などアジア各国・地域との協力を念頭に、安定して調達できる体制を整備する。対立する中国に依存する供給網からの脱却を目指す。(関連記事総合・経済面に)

バイデン大統領は供給網の国家戦略をつくるよう命じる大統領令に署名する。日本経済新聞が入手した原案によると、半導体のほか、電気自動車(EV)用の電池、レアアース(希土類)、医療品を中心に、供給網の強化策づくりに乗り出す。
大統領令は「同盟国との協力が強靱(きょうじん)な供給網につながる」と指摘。敵対国の制裁や災害など有事に影響を受けにくい体制を築くよう命じる見通しだ。半導体は友好関係にある台湾をはじめ、日本や韓国と連携するとみられる。レアアースでは有力企業を持つオーストラリアなど、アジア各国・地域との協力を視野に入れる。
具体的には、重要製品の供給網に関する情報を同盟国と共有する。生産品目で互いに補完するほか、非常時に速やかに融通し合える仕組みを検討する。余剰能力や備蓄品の確保も協議する。中国との取引を減らすよう要請する可能性もある。
年明けから表面化した半導体不足は米自動車メーカーなどを直撃し、供給網の見直しは、その意味でも急務だ。ボストン・コンサルティング・グループによると、工場立地別の2020年の生産能力シェアは米国が12%。世界最大の22%を占める台湾に増産を求めたが、フル稼働中だ。短期的には打つ手が乏しい。

中国の半導体の生産能力は30年に24%と世界最大になる可能性がある。供給網で中国に依存すれば、貿易規制を通じて圧力をかけられる恐れがある。中国は過去、尖閣諸島を巡り対立した日本へのレアアース輸出を規制したことがある。
実際、米国はレアアースの約80%を中国から輸入している。医療品も最大9割を対中輸入に頼っており、予断は許さない。
特に半導体の有力メーカーは世界でも限られ、米国と歩調を合わせるかは企業の判断による。米国と足並みをそろえるには各国政府の協力も不可欠だ。新たな供給網構築は今後、多くの時間を要する可能性も高い。

210517日経

米国や中国がけん引役となり世界経済が回復局面に入りつつある。国ごとに改善スピードで差が出る一方、同じ国でも所得や雇用形態などで回復の恩恵は大きく異なる。二極化を示すK字経済(総合・経済面きょうのことば)を放置したままだと、格差の固定化や市場の波乱など新型コロナウイルス収束後の経済リスクが増す恐れがある。
米国景気が予想を上回るペースで回復している。21年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率換算で6.4%増えた。成長率は前期の4.3%からさらに高まった。年末にGDPがコロナ前を1%超上回る規模まで一気に拡大するとの見方も出てきた。

目を凝らせばいびつな「偏り」も浮かぶ。
高級品消費が旺盛だ。3月の宝石販売は前年同月比約2倍に拡大した。仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの米国における1~3月期売上高は時計・宝飾品が好調で比較可能な前年同期比で23%増となった。金融資産を多く持つ富裕層は株高で消費意欲を高めた。
一方、3月に米で家賃を滞納している人々は約1000万世帯と借り手の約2割に上った。3月までの推計滞納額は約9兆8000億円とコロナ前の数十倍。年収2万5000ドル以下の低所得層の延滞率は27%と7万5000ドル以上(9%)と比べ3倍だ。家や部屋の借り手である黒人の33%が滞納者となるなど人種間格差も目立つ。
コロナで富の集中が加速している。英オックスフォード・エコノミクスによれば、20年3月~21年1月で、米国内の所得上位20%は貯蓄を約2兆ドル増やす一方、下位20%の貯蓄は1800億ドル超減少した。富裕層は高級品の買い物に向かうが、持たざる層は困窮する。
低所得者の底上げを掲げる米バイデン政権はインフラ投資なども加えた総額600兆円超の経済対策を打ち出した。しかし、経済回復に伴い需要が急拡大する中での対策で、インフレ警戒感が高まる。4月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比4.2%上昇と約12年ぶりの伸び率となり、金融緩和が修正されるとの思惑から世界の主要株は下落した。

翻って日本。米国などに比べ足取りは重いものの、製造業主導で景気は持ち直している。
日銀が4月に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断指数(DI)の大企業製造業でプラス5となった。前回20年12月調査から15ポイントの大幅改善でコロナ前の水準を回復。外需が伸びる産業機械や自動車などがけん引役だ。
しかし、経済を支える雇用に不安を抱える。
非正規社員の比率が高い飲食やサービス業で客足が戻らず、雇用調整が進む。3月の労働力調査ではパートやアルバイトなどの非正規雇用の就業者数は2054万人と13カ月連続で前年を下回った。非正規は3分の2が女性で平均給与は正社員の3分の1だ。コロナ前の人手不足で見えにくかった正規と非正規の雇用のひずみが鮮明だ。
労働移動も緩慢だ。20年の転職者数は前年比32万人減の約319万人と10年ぶりに前年実績を割り込んだ。飲食やサービスなどの不振業種からの転職を希望する人は多い。ソニーグループなど中途採用を拡大する企業はあるものの、雇用吸収余力のあるデジタル・IT業界はスキルや資格が必要だ。

カギを握るのは「リスキリング(学び直し)」だ。デジタル化の加速に伴う学歴や職種による就業機会の格差を防ぐには、働き手のスキル向上が欠かせない。
北欧デンマークは政府が企業や労組と協力して職業訓練学校を運営する。GDPに対する職業訓練への公的支出額の比率は主要国で突出し、失業率や所得の不平等さを示すジニ係数は低い。
フィンランドも成人が職業訓練に参加する比率は5割と世界でもトップクラス。デジタル先進国でもあり、生涯教育の内容も産業構造の転換に合わせて更新されている。
新型コロナ感染拡大が長期化する中、全体で見れば持ち直しが鮮明な世界経済。ひずみを抱え、裾野の広がりに欠ければ持続力は限られる。

3.5.18日経


世界の主要な国・地域の1~3月期の国内総生産(GDP、総合2面きょうのことば)速報値が出そろった。中国や米国の景気回復が加速した一方、日本や欧州の遅れが鮮明になった。新型コロナウイルス対策の巧拙を映しており、4~6月期には中国に加えて米国のGDPもコロナ禍前の水準を上回る見通しだ。春以降にワクチン接種が進んだ欧州も4~6月期以降の回復期待が強まっており、日本が取り残されるリスクがある。(関連記事総合2面に)
内閣府が18日発表した日本の1~3月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は3四半期ぶりのマイナス成長となり、前期比年率で5.1%減だった。1月8日に始まった首都圏4都県の2度目の緊急事態宣言を受けた外出自粛や飲食店での時短営業などで、個人消費は前期比1.4%減少した。設備投資も1.4%減と落ち込み、2四半期ぶりに減少した。輸出の伸びも前の期から鈍化した。
主要国・地域ごとの1~3月期の経済成長率を比べると、コロナ対策が明暗を分けた。米国は前期比年率6.4%増と3四半期連続で増えた。ワクチン接種が普及し、バイデン政権の経済対策による現金給付も始まったことで、個人消費が10.7%増と大きく伸びた。今後も財政出動の押し上げ効果などから景気回復は続く見通しだ。

中国は前期比0.6%増。内閣府によると年率換算では2.4%増となった。プラスとなるのは4四半期連続だ。新型コロナのまん延を食い止めつつ、企業活動が堅調に推移している。
一方でユーロ圏は前期比年率2.5%減と2四半期連続のマイナスになった。変異ウイルスの拡大で各国が都市封鎖(ロックダウン)し、経済活動が低迷した。落ち込み幅は日本よりも小幅だった。遅れていたワクチン接種も春以降ドイツなどで進んでおり、4~6月期以降は回復に向かうとの期待が大きい。
英国は5.9%減と3四半期ぶりのマイナス。20年12月から行動規制を強化し、個人消費が落ち込んだのが主因だ。ただ16日時点で人口の半数超が少なくとも1回の接種を終えるなど順調に進む。3月からは段階的にロックダウンも緩和しており、4~6月期は持ち直す公算が大きい。
日本経済新聞社が民間エコノミスト10人に見通しを聞いたところ、4~6月期は米中に加えて欧州とも日本の成長率の格差が鮮明になる。予測平均値について米国は前期比年率9.7%増となり、1~3月期(6.4%増)から加速する。ワクチン接種が順調に進む上、バイデン政権による巨額財政出動も景気のけん引役となる。ユーロ圏も7.0%増と3四半期ぶりにプラス成長に復帰し大きく伸びる。
遅れていたワクチン接種が各国で進み、行動制限が徐々に解除される。一方で日本は1.7%増にとどまる。個人消費の低迷が要因で、日本の出遅れ感は鮮明だ。
見通し平均をもとに4~6月期の各国の実質GDPをコロナ禍前の2019年10~12月期を100として比べると、中国が108、次いで米国が101となり、いずれもコロナ禍前の水準を超す。日本は98、ユーロ圏は96で、コロナ禍前にはまだ届かない。
210604NewsPicks
FRB、米景気「やや速く拡大」 観光や外食復活 | 共同通信

210610日経

日本工作機械工業会(日工会)が9日に発表した5月の工作機械受注額(速報値)は、前年同月の2.4倍の1233億円だった。7カ月連続で前年実績を上回る一方、前月比では0.5%減とほぼ横ばいだった。新型コロナウイルスの感染拡大で前年同月の受注が低水準だった反動に加え、中国や米国の景気回復を追い風に生産設備への需要が増えた。
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米新築住宅販売、7月は4カ月ぶり増加 価格高騰で減速基調変わらず

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