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00-2ブックさんが見付けた本

01安っぽい装丁の本

ブックさん、今夜、仲良くしませんか?
いいですね。僕も、そう思っていました。

ブックさんのデスクに、本があった。
土曜日戦争。マイク・プランバー著。

あなた・・・起きてるの?
ああ・・・気になる本があってね。リサイクル・ショップで見つけたんですよ。
私にも見せて下さい・・・そっちに行く?
僕が、君の所に行きます。そのまま横になっていて下さい。
・・・はい・・・。

この本です。装丁は安っぽいです。でも、一万一千円の値札が付いていました。ほら・・・。この値段でこの本を買う人は居ないでしょう。
でも、あなたは買ったんですね。翻訳物なんですか?
違うと思います。
なんで買ったんですか?
まず、僕はこの本の著者を知っているかもしれません。書き出しは「戦士の朝は、様々だ。コマンダーと戦略分析室のチーフが、何やら話をしながら広場を歩くこともある。」です。土曜日戦争に関わった人でしょう。戦士だったのかも。パラパラとページをめくると、Kさんのことが書いてありました。戦力分析室のチーフだと。市役所仲間の噂話と一致します。
暴露本なんでしょうか?
う~ん、読み進めていくうちにね・・・土曜日戦争は総力戦の後、休戦期間があって再開すると書いてあった。おかしいよね、まだ、戦っている最中なのに。・・・気になってね。未来のことが書いてある。
予言ですか?・・・著者の願望かもしれませんね。
・・・・・・。
ブックさん、もう一回しませんか?
そうして欲しいの?
・・・はい。・・・さっき、終わった後、微睡みの中で思った。・・・性器ってうまくできてる・・・。
そうですね。僕もそう思います。
・・・ブックさんが私の中に入ってきて、私はもっと濡れてきます。動いているうちに、ブックさんはだんだん大きくなって、その時が来る・・・そんな感じです。うまく表現できませんが・・・。
君の中で大きくなることはないと思いますよ・・・。
そうですか?・・・なんかそんな感じがします。
・・・・・・。
・・・私、なんか恥ずかしいことを言いましたか?
いいえ、そんなことはありません。
ブックさん、凄いです。

02朝の決意

ブックさん、トーストとミルクティーでいいですか?
はい。

僕ね、土曜日戦争に志願しようと思っています。
えっ?・・・何故ですか?
土曜日戦争には、若い女性も子供も参戦しています。老人も・・・。僕は、それほどの年でもないし、黙って見ていてはいられません。僕は、この土地のネイティブ・サンです。・・・反対ですか?
私は、ブックさんの決めたことには反対しません・・・でも、積極的に賛成はしません。
そうですか。・・・土曜日戦争のことを話してもいいですか?
はい。
この本を書いた人は母の幼馴染です。・・・配管さんです。
だから、プランバー?
そう思います。ざっと目を通しただけですが、解りにくいところが多々あります。でもね、解ることもあります。
何ですか?
No pain, no gain・・・。バトル・フィールドに来い・・・と言ってるように思える。僕にとって、今がその時です。
・・・・・・。
戦場に行ってみませんか?昨日、松田さんにお願いしました。・・・ああ、市役所の人です。彼、土曜日戦争に詳しくて、コマンダーに頼んでくれました。
志願する資格が無いと判断されたら、失望するのではないですか?
そうですね。僕、昔から引っ込み思案でね、母はやきもきしていたそうです。今も、そうです。・・・資格が無いと判断されたのなら諦めます。そのことで失望したり自信を失ったりすることはありません。もう、そんなに若くはありませんからね。残念な結果を受け入れることができる大人ですよ。
解りました。私も一緒に行って良いですか?
はい。


コマンダー、お願いがあります。
ああ、松田さん、しばらくでした。
僕の知り合いが、土曜日戦争に興味を持っています。会ってくれませんか?
はい。どんな方ですか?
平凡な中年男です。僕は、戦士の条件が解りませんので、見た目の印象を言いました。
まあ、見た目は関係ありませんので・・・。

03土曜日の午後

コマンダー、誰か来るのか?
そうだ、土曜日戦争に影響力のある人から頼まれた。・・・キッド、最近、バンビとはうまくいってるのかい?
はい。今日は学校の行事があって、そっちへ行ってる。あいつ、手強いや・・・。俺、不器用だから・・・。兄貴、ハナと一緒になったしなあ・・・かなわないや。俺、ちっぽけだ。
・・・らしくないね。バンビが居ないから寂しいのかい?
そうかもな・・・。

コマンダー、あたしも見てていい?
ハナか・・・いいよ。スリーピーも来るのかな?
あいつ、気まぐれだからなあ。
新婚生活はどうだい?
まずまずです。
そうですか、何よりです。いいね。
・・・エッチな想像しましたか?
はい。
キッド、お前もか?
俺、他人のセックスに興味はないよ。

ああ、来たようだ・・・ブックさんですか?松田さんから聞いています。
お忙しいところ申し訳ない。妻も一緒です。コマンダー、こちらの方々は?
ハナとキッドです。Aチームで飛んでいます。
凄いですね。・・・私は土曜日戦争に志願したいと思っています。
なぜ、そう思われたのですか?
そう・・・きっかけは1冊の本です。配管さんが書いた。
コラムを書いていますね。除隊前はAチームで飛んでいました。不思議なフライトをする人でした。僕は、トップ三チームの指揮官ですが、彼が入るとどっちが指揮官だか解らなくなる。僕が知らないことを知っているような錯覚に陥る。・・・僕は、実戦を積み重ねて来ました。でも、彼には実戦では知り得ない知識があるように感じた。何度か訊いたんですがね・・・言葉を濁して・・・。
・・・・・・。
まず、実戦を経験してみますか?シミュレーターで飛んでみましょう。楽しいですよ。
はい。妻も一緒で良いですか?
もちろんです。
奥さん、やってみますか?
ええ、主人が良ければ・・・。
いいね。君、大丈夫かい?
はい、ブックさんと一緒なら・・・。私、守ってもらえるような気がします。

では、飛んでみましょう。操作は理解していただけましたか?
はい。お願いします。
(コマンダー、レベル上げすぎだ。無理だよ。)
(キッド、それなりの決意があって来た人だ。ダメなら、それで終わりだ。結論は早く出すべきだ。すぐに解るよ。)
(非情だな。)
(さあ、始まるぞ・・・。)


コマンダー、レベル間違えてないか?
ん?・・・間違いないな。
おかしいな・・・あり得ない。この二人、初めてだよね。・・・ハナ、どう思う?
あたし、一緒に飛んでみる。いいでしょ、コマンダー?
そうだね。本物かどうか確かめて・・・。

ブックさん、もう一回、飛んでみますか?今度は、ハナが一緒に飛びます。
ポジションはどうしますか?
そうですね、センターに奥さん、ブックさんは左翼に。ハナが右翼に入ります。相手も三機です。より実戦に近い。・・・無理にお勧めはしません。
・・・ブックさん、やってみましょう。私たちならできるわ。


コマンダー、ハナが飛んでるって?
ああ、スリーピー、見てくれ・・・。
兄貴、驚くぜ。
そうかい・・・。このおばさん、凄いな。左は旦那かい?
そう、ブックさんだ。
・・・ハナ、ついて行けてないな。何やってんだか・・・。コマンダー、俺、代わろうか?
待てよ、もう少し様子見だ。・・・キッド、準備して。
俺?
そうだ、スリーピーより相性が良さそうだ。残り1分でハナと代われ。
はい。


ハナ、キッドと代われ。
はい。


相変わらず無茶する小僧だ・・・。
「おばさん」を試しているのかも・・・。
そうかな?・・・コマンダー、ブックさんの動きが変わった。ハナ、どう思う?
・・・・・・。
ハナ?
・・・ごめん・・・ショックを受けた・・・。キッド、良くやってるわ。
受け入れようか・・・。君たちはどう思う?
賛成です。・・・でも、二人組だよね。
そうですね。話してみましょう。

ブックさん・・・僕たちはあなた方を歓迎します。
私たちを?
そうです。お二人で志願して下さい。
私一人では・・・?
受け入れかねます。
・・・ブックさん、二人で志願しましょう。
君、土曜日戦争には批判的だったのではないですか?
ブックさんと二人なら、躊躇うことはありません。私も志願します。
・・・J、書類を用意して下さい。
はい。


ブックさん・・・。
なんですか?
私たち、やったわ。ブックさんが言っていた意味が解ったような気がします。私、ブックさんに連れてきてもらった。
どうしたの?
・・・私、充実してる。内部に・・・力を感じています。内なる自分から力が湧いてくる。ねえ、帰ったら仲良くしませんか?
いいですよ・・・。・・・有頂天にならないようにしましょうね。土曜日戦争は、勝ったり負けたりの戦いです。君は負けることに慣れていないような気がします。
・・・ブックさん、心配性ですね。
負けて、打ちひしがれる君をみるのは辛いと思ってね。
・・・その時は、慰めて下さい。・・・私、立ち直ることができるわ。・・・ブックさん、私はブックさんが好きです。いつも、仲良くしてくれるし・・・。一緒に戦いましょう。私が、ブックさんを支えます。
君を支えるのは、僕だと思っていました。・・・僕は、思い違いをしていたようですね。
そうかも知れません。
・・・・・・。

04試練の時


配管さん、総力戦の日程が決まりました。
そうですか・・・。負け戦を見るのは辛いなあ。私もファイトに参加しようかな。
無理しないほう良いのでは?
枯れ木も山の賑わいですよ。
本気ですか?
はい、コマンダーが許可してくれるといいが・・・。
僕から、理を入れますか?
いいえ、コマンダーの判断に任せましょう。彼の判断に従います。


松田さん、私たちは総力戦で負ける。前途ある有望な若者達が何人も離脱する。
戦いとは、そうしたものではないですか?勝者にも敗者にも犠牲が伴い、敗者はより多くの犠牲を払わなければならない。残酷ですね。
・・・私たちには、許してはならないことがあります、優劣、強弱を固定化してはならない。そのための戦いです。
そうですね。同意します。試練の時ですね。今度は、僕たちが試される。頭を垂れる時かもしれません。
・・・・・・。
コマンダーに託しましょう。彼ほど、ふさわしい男は居ません。敗戦後の期間を・・・。コマンダー、スリーピーJ、ハナ、ブックさん夫婦、モスキート、チーフK、キッド、バンビ・・・それと、彼らが信頼する者たちに・・・。
良いですね。


配管さん、そろそろ本題に入りましょう。
そうですね。
土曜日戦争は、配管さんの作り話ですか?
違います。土曜日戦争は用意されていました。私は、そのことに気付いただけですよ。
・・・誰が用意したのですか?
解りません。・・・私が気付いた時には、すでに用意されていました。黎明期と言うのでしょうか・・・こんなゲーム、すぐに終わるという者もいましたよ。まだ、組織も小さくて、戦士の数も少なかった。


松田さん、土曜日戦争は仮想空間での戦いです。なんで、そんなことをする必要があるのか・・・考えたことがありますか?
・・・真剣に考えたことがあるのか、と問われればノーです。ただ、成り行きと言っても良いが、僕に役割が与えられた。幸いにして、僕は役割を果たすことが出来ました。だから、土曜日戦争に関わっています。
私も、同じですよ。私は、ご覧の通りのオールド・タイマーだ。生きてる価値が無い・・・そう思うこともある。・・・土曜日戦争のことを知った時、私の役割があると思った。その理由が何であれ、そこに私の役割があった。私は幸せを感じました。利己的な理由です。


配管さん、鰻、食べましょうか?・・・僕がご馳走します。
良いですね。
ーーーーーーーー
配管さん、ここは、歴史がある店だそうですね。
そのようです。私は、子供の頃に、この坂道を下ったことがあります。その頃は、何も考えなかった。何も知らなかった。・・・無知でしたよ。・・・この道の先には何があるんだろう・・・私は、長く曲がりくねった道が好きでした。まあ、子供の足ですから、そんなに長い道のりではなかったでしょうね。
良いじゃないですか・・・子供は、みんな無垢で無知ですよ。

05松田さん

配管さん、しばらくでした。長いこと、会いませんでしたね。・・・除隊したと聞きました。
ええ、そうなんですが、まだ籍はありますよ。広報係のようなものです。
総力戦の話をしませんか?
いいですね。松田さんは、何か考えがありますか?
・・勝てないでしょうね。
私もそう思います。強いて言うなら、勝ってはいけない戦いでしょうね。・・・勝ってもいけないし、負けてもいけない・・・そんな戦いです。
続けなければならないと?
そうですねえ。
僕も、そう思います。・・・ハナとスリーピーJが結婚したそうですね。
ハハハ、そうですね。中古の戸建てを買ったようですよ。スリーピーは倉庫番を続けています。ハナは専業主婦になりました。パートタイムで土曜日戦争に参加しています。
ひよっこサムはどうですか?
得がたい人材だね。・・・彼も所帯を持つようだね。
そうですか。意外ですね。
孤立に耐えかねたのでしょう。プロの女性だということです。
会ったことがありますか?
いいえ。私は、そういうことには疎い・・・。きっと、いい女なんでしょう。
そうでしょうね・・・。配管さん・・・総力戦に負けた後、土曜日戦争は中断します。戦うことができなくなるからです。多くの戦士を失い、ボロボロになる。再開するには、それなりの期間が必要です。彼らは、大丈夫でしょうかね?
う~ん、コアメンバーが残っていれば大丈夫でしょう。ひよっこサムは、スタッフを揃えている。ハナ、スリーピーJ、キッドとバンビ、いずれクリスタル・バンビも参戦する・・・バンビのお姉ちゃんです。ブルーローズとブックさん夫婦も居るし、戦えると思いますよ。
女性が多いですね。
そうですね。たまたまでしょう。偶然ですかね。・・・松田さん、資金は大丈夫ですか?人材は確保できても、軍資金がなければ戦えない。
休戦中は厳しいでしょう。でも、僕がなんとかします。・・・それに、土曜日戦争が再開すれば、軍資金を調達できます。
できるんですか?
僕は、力を尽くします。継続しなければならない戦いですから。・・・総力戦はどんな展開になりますかね?今、ルールについての交渉をしています。タフなネゴシエーターに頼んでいます。
モスキート・ジョーですか?
そう・・・彼です。・・・配管さん、ビール飲みますか?
・・・しかし・・・。
僕に気遣いは必要ないです。僕は、酒を飲みませんが、他人に飲むなとは言いません。煙草も同じです。自分がやらないから、人にもやるなとは言いません。
寛容ですね。
僕ね、ジョーに出自の調査を依頼したことがあるんです。自分でもできなくはないんでしょうが、どうしてもやる気にならない。さしたる理由もないのに先延ばししてしまうんです。ずっと、そのことが気になっていました。で、ジョーに頼みました。・・・すぐに調査結果が出ました。僕は、松田の両親の養子で、実の父母は不明でした。・・・僕は、どこから来た誰なんでしょうかね?
自己を深掘りしても、何も見つからないでしょう。・・・不毛です。
配管さん、あなたはどうですか?
私は、何処で生まれたのか覚えていません。今となっては、教えてくれる人もいません。・・・物心ついてからは、総鎮守の近くの坂の下に住んでいました。借家です。祖父か曽祖父が相場に手を出して、身代を潰したそうです。まあ、定かではないんですけどね。その程度の認識で良いと思っています。

06土曜日戦争とは何か?


ブックさん・・・。
なんですか?
土曜日戦争は終わります。
どうして?
ブックさんが、見つけた本に書いてありました。読み込めば解ります。
何処を、どう読めば解るの?
教えません・・・。
・・・・・・。
ブックさん、生意気なことを言いました。すみません。
・・・・・・。
私、何度も、繰り返し読みました。著者が死んだ時、土曜日戦争は終わる。でもね、変なのよ・・・。隠された文書があって、それを読み解く者が受け継ぐと・・・。そう読める所があるの。試練は、大きな者からの便りです。私たちは、それを拠り所にして生きてるの。
君、凄いね。
辛く、長い、孤独の中、図書館で学びました・・・。あなたも、そうでしょ?
まあ、そう言えないこともないが・・・。
二重否定ですね。曖昧です。
僕、曖昧なのが好きでね・・・。性に合ってる。繰り返して、進んでいるような、そうでないような。
輪廻ですか?
そう、寄せては返す波のように、寄せて引いて繰り返す。・・・ずっと続く・・・。
性行為みたいですね。
・・・柔軟な発想だね。
・・・・・・。
君も、頬を染めることがあるんだね。
・・・・・・。


ブックさん・・・。
・・・何ですか?
本は面白い。・・・私たちは、土曜日戦争に志願しました。ブックさんが見つけた本は凄いです。盲信はしませんが、識っているだけで優位な立場に立てます。
そうかい?
そう思うわ。
ーーーーーーー
そう言えば、来年度から図書館でパートタイマを募集する・・・。
あなたの図書館でも?
そうだね。
どんな仕事なの?
図書館に来た市民の方々の要望を聞き、読書の提案をする・・・。手続きや利用方法を説明したり・・・。
私にぴったりのお仕事だわ。
僕もそう思います。
応募しても良いですか?
・・・そうですねえ・・・。
ダメなの?
・・・君は、この仕事に最適任です。でも、縁故採用だと思われても困るかなあ・・・。
ブックさん、気にすることはありません。・・・私は私ですから・・・。
・・・・・・。

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