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恋の行方Ⅷ


(父と昼食を食べた翌週の土曜日、バトルフィールドに向かう櫂。JR駅前でジョシュアが乗って来る。)
おはよ、櫂。
おはようございます。
先週、悪かったな。飲みすぎて、やっと部屋に帰った。日曜日、目覚めたら昼過ぎだった。いや、午後3時過ぎだったよ。
(この男、妙に口数が多いこともあるが、根は不満だらけで不機嫌な男だ。気難しい人だ。)
ジョシュア、今日も午前中から行くの?
うん、下級戦士のバトルからも学ぶべき事がある。そのことに気付いた。・・・なあ、今日、俺のとこに泊まれよ。
考えておくわ。
前向きにな。
はい。
(言いなりになっているわけではないのだが、なぜか言うことを聞いてしまう。)
昼飯、一緒に食おうぜ。
良いわ。


櫂、昼食はどうしますか?
ジョシュアと約束しています。
良いね。君たちは、お似合いのカップルだ。
ビリー、人はどうすれば幸せになれますか?・・・あなたのように。
僕は、幸せなだけの男ではありません。まあ、ジュンコさんと一緒になれたからかなあ。
ジュンコさん?
僕の妻は職場の先輩でした。歳も一個上でね。僕は彼女に、夢中になった。・・・櫂、僕を見縊らないで下さいね。
上官に対して、そのようなことはしません。
幸せなだけの人なんて、居ませんよ。
はい。


(食堂のテーブルに着くジョシュアと櫂。)
ジョシュア、今日、あなたの所に泊まるわ。
おお・・・。夕飯はどうするかな。
あなたに任せます。
うん、駅の近くの居酒屋にするか。
はい。
櫂、どうかしたのか?
どうかって?
いつになく、従順だ。
従順じゃ、いけない?
いや、少し戸惑ってるだけだ。俺、従順なだけの女って好きじゃねえから。
私のこと、嫌いだってこと?
そうじゃねえよ。俺、おまえのことが好きだ。


(Cランクでのフライトを終えたジョシュア。ポジションはセンターで3ラウンド飛んだ。辛勝だった。櫂の業務終了時間、午後5時までには、だいぶ時間がある。トレーニング・ルームに向かう。中年の男がバイクに乗っている。アンクル・ジョージだ。)
珍しいですね。
ああ、ジョシュアか。バトルは、終わったんだろ?
はい。なんとか勝ちました。
櫂を待っているのか?
ええ・・・。
退屈しのぎにマッチするか?
えっ?
少し、遊ぼうじゃないか。
いや、俺、現役だし。
引退した子守役じゃ不足か?
そのようなことは・・・。
なら、良いよな。
はい。
(簡単に勝てるマッチだと思った。だが、実際に対峙してみると、的確に動作を組み立ててくる。一本ずつ取り合ったところで終わった。)
失礼しました。
いやあ、面白いマッチだった。子供相手じゃ本気は出せないからな。さすが現役だよ、手を抜いてくれたようだね。
いえ、2本目は必死でした。
老兵相手に、2本連続で取られるわけにはいかないよなあ。
ハハハ、その通りです。
子供達を見ているとな、すぐに結果を求めたがるんだ。一呼吸置けばいいのに突込んで行く。それで勝てれば良いが、たいていは足元をすくわれる。難しいもんだねえ。
エコーはどうですか?
特Aのお嬢ちゃんか。健気だねえ。細っこい体で、なんであんなに頑張れるのかと思うよ。今でもFランクかEランクでも行けるだろう。でも、もうしばらく俺の所に置いておくよ。早枯れすることもあるからな。
はい。
男友達が居るそうだね。
デビッドです。
デビッド?・・・ああ、そうか。マディーから2本取って、キッド相手に善戦したボーイだ。
良くご存知ですね。
ジャイアント・キラーだった。だが、実戦ではどうだ?下のランクで勝ったり負けたり、鳴かず飛ばずってとこだろう。土曜日戦争は、ランクはどうであれ、タフなバトルの連続なんだよ。



(建物の出口付近、自販機横のベンチで櫂を待つジョシュア。何人かが声をかけて帰って行く。)
お待ちどうさま、退屈しなかった?
ああ、櫂・・・帰ろうや。俺たちの所へ。
はい。
(バス停まで歩く二人。)
日暮れが遅くなったわね。得したような気分になる。
そうか?
人は、人類は太陽を追って移動したという説があります。
なら、極東の日本は、最終目的地だね。
えっ?・・・そうかも知れません。
厳しい旅路だったろうなあ、陸路も海路も。
・・・・・・。
ハード・トラベリングだ。


(JR駅前でバスを降り、近くで夕食を買い、ジョシュアの部屋に向かう二人。居酒屋での夕食は、予定変更だ。)
櫂、先週はどうしてた?
土曜日は、お父さんと晩酌。日曜日は、お父さんに昼食を奢りました。
父の日か・・・。
そうですね。日曜日の午後に、実家に行っていたお母さんが帰ってきて、少し話をしました。母と娘の関係って、ビタースイート?
男であれ、女であれ、親子の関係ってそんなもんだろ・・・。生きてるうちに和解できれば、超ラッキーだ。
・・・・・・。(俯いて、黙り込む櫂。その横顔を見て、ドキッとするジョシュア。)


櫂、今日はアンクル・ジョージとマッチをしたよ。
退役された方と遊んだの?
強引に誘われたんだ。一対一で引き分けた。一本先に取られてな、二本目は必死だったよ。
決着をつけようとは思わなかったの?
彼が、望まなかった。三本目をやれば、俺が勝ったよ。
本当に?
ああ、本当だ。・・・ワイン、飲むか?
はい。彼が、あなたを気遣ったんじゃないの?
そう言えなくもない。同意した俺も、彼を気遣ったのかもな。
そうですね。
まあ、決着をつければ良いってもんじゃない。ジュニアリーグの教官相手じゃなおさらだ。



ジョシュア、そろそろ寝ようよ。
そうか?
うん、酔い潰れる前に眠ろう。
そうだな。
シャワー、浴びる?飲酒しての入浴は危険だそうですから。
そうなのか?
はい。危険は避けなければなりません。
だったら、このまま眠ろうかな。
それでも良いけど、背中を流してあげますよ。
じゃあ、そうしよう。
バスルームまで歩けますか?
大丈夫だ、そんなに酔ってはいないよ。
だと良いけどね。さあ、行きましょ。
(脱衣所の二人。)
自分で服を脱げますか?
バカにするな。
ジョシュア、自分でパンツを脱ごうとしないで。
なんで?
足の指に引っかかって転倒することがあります。立ってて。私が脱がせてあげます。
いやあ、すまんね。
(「こいつ、遠慮なしだな。ただ突っ立てるし。」ジョシュアのパンツを足首まで下げる。)
さあ、行って。そこに座ってね。
(浴室に入り、椅子に座るジョシュア。シャワーの温度を確認し、頭から湯を浴びる。すぐに裸の櫂が浴室に入り、ジョシュアの背中を流し始める。)
ねえ、ジョシュア・・・。
(シャワーを頭から浴びているジョシュアには聞きづらいようだ。手を伸ばし、シャワーを止める櫂の乳房がジョシュアの背中に触れる。)
ねえ、ジョシュア。
なんだい?
親子は、和解しませんか?
ああ、そのことか。一般論を言っただけさ。俺のことでも、おまえのことでもない。
じゃあ、誰のことなの?
俺たちの不幸を背負ってくれている誰かだよ。
そんな人達が居るの?
うん、俺はそう思う・・・。さあ、代わろうか。俺が、おまえの背中を流そう。
はい。
(狭い浴室で体を入れ替える二人。櫂のアンダーヘアに目がいく。櫂の背中を流しながら、ジョシュアが話しかける。)
櫂、コミュニティには、そのコミュニティが持つ困難さを引き受ける者が、一定数必要だ。唯物的であれ精神的であれ、必要なんだよ。
はい。
先陣を切る者、殿を引き受ける者、俺どっちかなあ・・・。
解りません。
だよなあ、俺自身も解んねえんだから。
いつか、解りますよ。
うん、そうだと良いなあ・・・。

    令和5年6月25日

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