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第3回 IPOプロセスにおける計画策定と予実について / プレイドIPOの軌跡

はじめに

こんにちは、初noteです。
株式会社プレイド Financeチームの向江と申します。上場後はCorporate financeに加えてIR体制の構築を担当しています。

小島武藤から襷を引き継ぎ、「プレイドの"非常識"なIPOまでの道のり」第3回は事業計画策定と予実について経験してきたところをお話できればと思います。

IPOというのは会社にとって重要な資本政策の1つであり、「いついつのIPO予定」とか、「審査でこんな指摘を受けた」とか、「Valuationはこれくらいになりそう」、だとか人様に話すべきものではありません。

そういった性質もあってか、よくも悪くもIPOというのは過程がよそには見えず、一時点の評価が話題にされがちかなと思っています。

例に漏れずプレイドのIPOについても初値ユニコーンだね、とか騰落率が云々とか言っていただいたり、それなりにご評価もいただいたかとは思いますが、その過程は山あり谷あり、まったくスマートなものではありませんでした。

その大きな要因の1つが、今回のお題である計画策定と予実にあるかな、と思っています。
プレイドの、そして我々ファイナンスメンバーの成長記だと思って(そして現時点では(ある程度)改善されていると信じて)、読んでいただけると嬉しいです。

この記事は、2020年12月17日に東証マザーズに上場した株式会社プレイドのIPOに携わったチームによる連載記事です。過去の記事は、こちらからご覧いただけます。


ビジョナリーな経営者と事業計画

プレイドにいると、よく”視座”という言葉を耳にします。視座を高くもつとは、物事を思考するときに、俯瞰できているか、本質を見極められているか、レバレッジを意識できているか、とかそんな意味だと捉えています。

このような環境のなかで、そもそも事業計画という存在自体、プレイドには馴染まないのではないか、そう考えていました。
事業計画を意識することでメンバーが動きにくくなることが1番あってはならないことですし、思考や目標がその中に留まってしまうことも避けたい。その思いが私自身の中にも強くありました。

そして実際のところ、上場準備に入る前のプレイドでは、事業計画にもはや立ち位置などありませんでした。当時いたメンバーに聞いてみても「事業計画なんてあったんだ?(知らなかった)」という反応の方が多いのではないかと想像しています。

しかし、上場準備プロセスのなかでは事業計画を策定し、さらにはそれを確実に達成していくことが求められます。

事業計画という存在に不慣れなプレイドの中で、事業計画の策定をするにあたっての最初にして最大の関門は、まさにその”存在意義が整理できていなかったこと”にありました。

そもそも、事業計画を策定するプロセスの中ではたくさんの人とのコミュニケーションがあります。

まず、CEO。ミスタービジョナリー。そもそもあまり数字でものを語りません。
たとえば、2019年秋、全社合宿でプレイドの成長について社内に語った言葉たちは以下のとおりです。

LTSGは「ロングタームサステナブルグロース」という言葉、僕が適当につけました。瞬間的に成長を目指すのは疲弊する。その間に、重要な何かが薄れていく。例えば、ビジネスとエンジニア、デザイナーの全体的なつながりを犠牲にしてしまったり。成長はすべてを癒すというけれど、成長はすべてを隠すというのもあると思う。勝てるのであれば、勝ち筋が見えてきたのであれば、勝ち急ぐことはない。ちゃんと質の伴った勝ち方を追求するのが非常に重要。常に最速最大を狙う必要はない、時に成長率を抑えることもあるかもしれない。どこは一定の成長を続けていて、どこで成長を最大化するか。でも焦らないこと。

長期的なプレイドのスタンスを示すものであり、事業計画の根幹にもなる考え方ですが、率直に言って、この長期的な”思い”をどう具体の”数字”に落とし込んでいくかには非常に悩まされました。

続いてCFO。外資系金融機関出身で、この世に数字しかなくてもBackcastingできるタイプです。VCの方々とのコミュニケーションも担う中で、明確に「Valuationから考えると、来期成長率はこれくらい、売上はこれくらい必要だよね」という目線を持っています。

CPOはというと、「IPOの準備ってもっと制約多いと思っていたけど、意外とやること変わらんね」と。ある意味一番の圧力でした。

ビジネスメンバーのタイプも様々で、どんな素案をあてても、「できる(やるしかないでしょ)」と答えてくれる”しわ寄せ吸収タイプ”もいれば、「足元のリソースを踏まえるとこれくらいが妥当」という”現実タイプ”、「T2D3*達成しよう!」とチームの士気を上げる”モメンタムタイプ”。

*Triple, Triple, Double, Double, Doubleと、5年間で72倍という高い成長率をあらわす指標

そして、審査の前提には”翌期黒字化計画”と”その計画を必達すること”。

上場準備の過程における事業計画の意義は、Valuationの水準を見せることなのか、メンバーのモチベーション維持なのか、はたまた会社としてのモメンタムを示すことなのか、ただ、審査を超えられればよいのか。。。

おそらくどれも誤りではない。ただし、全てを満たす事業計画はできない。
メンバーと話せば話すほど乱高下する数字に正直途方に暮れていました。

迷いの中で策定した事業計画は、当然審査に耐えられるものではありませんでした。
あまり詳細に書くのもしのびないですが、今後のリソースの拡大を前提に、将来さらにKPIと売上の成長が加速し、売上伸びる分費用をたくさん見込んでも翌期黒字化が達成でき、結果的に強めのValuationとなる、というなかなか限外な仕上がりでした。

2018年5月に事業計画を初めて主幹事証券に提出してから、2020年11月に上場承認を受けるまでの間、事業計画の修正回数は実に7回にも及びました(うち、6回は2019年9月期以前です。ご安心ください)。

2種類の事業計画と”ゲームルール”

どのようにこの状況を打開したか。
2020年9月期からは2種類の事業計画を策定しました。社内ではBase計画とTarget計画と呼んでいますが、Base計画は"エモさ"を排除し、Valuationを意識せず、社内外へ必達を約束する存在、Target計画にはこれくらいの成長はみせていきたいという”気持ち”や、施策の効果としてのKPIの改善などを見込む。一方で、開発中のプロダクトにより見込まれる収益など、未確定要素が強いものについては、どちらにも含めないことで蓋然性の高さを一定保持する。

この2種類の事業計画を、”求める意義”により使い分けることで、審査や価格形成の過程を超えてきました。とはいえ、前述の状況から抜け出すのは容易ではなく、ついついValuationを意識したトップラインにしてしまったり、”気持ち”の部分を排除することには時間がかかった印象もあります。

審査の過程で”予実をあわせる”ことは一時点で説明できるものではなく、一定の期間継続して結果を見せ続けることで初めて達成されます。

実際に、プレイドが最後に上場時期を延期した理由も、東証へ事前相談にいった結果、「事業計画を修正してからの実績期間が短い」と判断されたことにありました。コロナ禍でのイベントの中止や商談状況などを勘案して、2020年3月に事業計画を修正してから、実績期間が1四半期しかなかったためです。

1種類の事業計画でも十分に種々の目的を果たせる場合もあるかもしれません。そして、その方が手間はよっぽど少なそうです。しかし、軌道修正に少なくとも1四半期など時間を要する論点だからこそ、初めから整理して臨むことは必要不可欠なものと考えます。


また、”コスト*コントロール”の側面でも思考の転換期がありました。

*原価項目だけではなく、ここではいわゆる販売費及び一般管理費項目等も含む広義のコストを意味しています

一時点までは、コストは計画を立てて投資していくもの、ではなく、各メンバー、チームでどのくらいお金を使いそうかをファイナンスメンバーが予測するもの、でした。

しかし、(一定説明でカバーできる部分もありつつ、)勘定科目レベル、月次レベルでの予算精度が求められる上場審査の過程においては、ファイナンスメンバーだけでここをハンドリングしていくことは非常に難易度が高く、ビジネス・開発メンバーも含む全社でしか乗り越えられなかったプロセスでした。

そこで登場したのが、”ゲームルール”思考です。
”前提が不透明だけど、なんとなく思うように動きづらい”という状態から、”前提(ルール)をきちんと伝えて、その(ゲームの)攻略方法を考える”状態にする。

前提(ルール)はシンプルです。

- 上場審査の過程にいる
- 売上予算を達成する必要がある
- コスト予算を達成する必要がある
- 月次/勘定科目というレベルで精度が高い状態を一定期間維持する
- 適切に投資のアロケーションができる体制を並行して整備していく

上場して、もしくは上場を目指している過程で会社に制約が多くなってつまらなくなった、というのは一般論としてよく耳にしますが、その一番の要因は、個人的には”不透明な動きにくさ”にあるのではないかと思います。

透明性を高めて協力を求めたときの全社メンバーの一体感と発想力は圧巻で、”制約”を制約とは捉えず、一緒にゲームを攻略することを楽しんでくれていた気さえしています。

”上場はゴールじゃない”からこそ、その過程と成長の機会をプロジェクトメンバーに閉じずに過ごすことに大いなる意義がありそうです。


審査で受け身にならないために

最後に少しだけ、審査プロセスの中で気をつけていたこと(気をつけるべきだと途中で気付いたこと)に触れたいと思います。

それは、”受け身にならないこと”です。
そして、その前段階として、事業計画というカテゴリにおいては、会社として重要なKPIをどこに置くか、思考を整理しておくことが非常に重要な点かと思います。

特にSaaSの場合、所謂一般的なメトリクス、というものが数々存在しているなかで、投資家と話すときのためにこれらを把握しておくことは必要不可欠です。

ただし、会社にとっての重要性にはそれぞれ違いがあるはずですし、すべてぴたぴたに予実を合わせることなど、まず不可能だと思います。

たとえば実際に論点になったこととして、MRRは達成しているけれども、件数と単価で入り繰りが生じているような場合。純増MRRは達成しているけれども、アップサイドとダウンサイドで入り繰りが生じているような場合。これらの状況は予算未達なのではないか、と審査部から指摘を受けたことがありました。

答えは、否です。
私たちはすべてのKPIの相関と(プレイドが考える)重要性を図示することで、より優先度が高いKPIを達成している場合であっても、その他の指標では入り繰りが生じうる、と説明し、理解していただくことができました。

審査も人と人とのコミュニケーションの中で行われるものであり、受け身になりすぎたり後手にまわったりすることで、かえって説明の一貫性を欠いてしまうことや、その結果として心証を悪くしたり、意図したとおりに説明が伝わらないことがあります。

初めての証券審査ではこのバランスを崩し、聞かれたものにすべて答えようとした挙句、過去数値の計算式を誤り、そこから資料のダブルチェックなど管理体制にまで波及していく、という悪循環も体験しました。

3社の証券審査、2度の東証審査という1プロジェクトとは思えない数の審査経験を経て自分たち自身も思考が深まっていきましたが、たくさんの数字や指標が並ぶ中で、「自分たちが目標として重視している指標」や「戦略の結果としての数字の変化」、「組織としての健康状態を参照するための指標」をきちんと整理し、”主導権をもって”説明していく姿勢が重要だと考えます。


おわりに

ここまでつらつらとIPOプロセスにおける事業計画と予実について書いてきましたが、実はまだあまり正解は分かっていません。

メンバーを制約するのではなく、逆により動きやすくするためには、また、”勝ち筋”を見極めるためには、どのような方法、スピードで設計し、見直し続けるべきなのか。
いまはまだ、より短期的な存在意義が強いと感じている中で、短期と長期で行き来する思考のきっかけとなるような存在になれるか。まだまだ模索は続きそうです。

しかし、数々の失敗を重ね、それを糧に成長もしてきたと自負しています。
商談管理をホワイトボードに付箋を貼って行なっていた時代から上場準備を開始し、いまでは「この四半期のヨミはもうできたから、マイナスxx日で翌四半期の戦略を考える」といったことができる体制になっていますし、事業計画をその戦略を組み立てる時の手段として活用しようとするまでになっています。
(ちなみに商談管理、ひいてはヨミの精度をあげるため、IPOプロセスの1stと2ndの間ではSalesforceの改修プロジェクトもやりました)

上場会社として業績予想たるものに説明責任を負う立場になったので、その代弁者として、一方で、メンバーにも上場したせいでつまらなくなったなんて言わせないように、そのあたりの葛藤についてはIRの回でまたお話できればと思います。

次回はついにCEO倉橋が登場します!どうぞお楽しみに!


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(書き手プロフィール)
向江瑞穂。1991年2月25日生まれ。新卒で監査法人に入所し、約3年間会計監査や内部統制監査、ショートレビュー、IPO支援業務などに従事。その後約2年間は東日本大震災関連の事業再生業務を行いながら、2017年1月以降はプレイドにアルバイト入社し、月次、年次決算等をサポート。2017年12月に正社員として入社。入社以降1年程は決算業務やファイナンスのほか、労務関連の運用や規程類の整備、稟議制度の構築などを行っていた。2019年7月からは財務・経営企画として事業計画策定やM&A、コーポレート・ファイナンスのほか、営業支援システムであるSalesforceの改修なども担当。


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