知らない世界1(彼の、聞き慣れた声、わたしを呼ぶ声)
「もう…なんですか」
一人の男が寂しそうにそう言った
重い、重い空気の中で発せられた一言
「えぇ…ごめんなさい」
男から少し距離を離した女性が俯きながら言った
表情は見えないが、あまり良い顔をしているとは言いがたかった
風が女性のスカートをふんわり持ち上げた
「まっ……」
***
2時すぎ、学校でよく聞く授業終了のチャイムとともに学生が次々と帰る支度をしていた
「あー、やっと終わった」
固定された動きから開放され伸び伸びと身体を伸ばすこの青年は竹本優(タケモトユウ)
今年高3になったばかりだ
そんな彼には、少し不思議な血が流れていた
お寺や神社などの仕事をしていた一族ではなかったのだが、幽霊や妖怪と言った少し異質なモノが見えやすいという特徴だった
その血が少々濃く流れているせいか、よく幽霊を見る
幸い物凄く濃いわけでもないため妖怪と言ったレベルの高いものは見えなかった
それでも、毎日追い払ったり付きまとわれないようにしなければならなかった
そして今日
その血のせいかおかげか、俺はとある幽霊に話しかけられた
普段なら見えないような低いレベルに分類される幽霊のはずのそれ…もとい人は長い間この学校付近に滞在したため優にも見えるくらいの力をもっていたのだ
「ゆーうー、終わった?ねぇ、終わったの?」
黒いレース、左胸に白い花の飾りがついているワンピースをひらひらと舞わせながら俺の周りをふわふわ浮く彼女
年齢は俺と同じくらいか上(詳細は不明なのだ)で、腰まである長い黒髪のぱっつん
可愛いというより、美人のが似合う人だった
「はいはい、今終わりましたよ」
学校で話しかけないでくださいねー、などとあしらいつつ帰宅の仕度を続ける
彼女、もとい沙夜さんは俺を急かす
なぜか幽霊といった部類のはずなのに触れる…俺限定でなんだが
準備完了、かばんを持って屋上へ
滅多に登らない階段は埃が舞って少し煙い状態だった
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